第四話 「分隊という枠」
任務内容が、少しずつ変わり始めていた。
「今回は、遠風が前に出ろ」
分隊長はそう言って、地図を指でなぞる。
敵影の出没地点。
分隊の進路から、わずかに外れた場所だった。
「確認だけでいい。深追いするな」
「了解」
遠風は短く答える。
疑問はない。
ただ、役割が明確になっただけだ。
分隊は走る。
いつものように、速く。
遠風は、走らない。
だが距離は、開かない。
一人で森に入る。
音を立てず、影を選び、位置を取る。
弓を構え、待つ。
敵は三。
こちらに気づいていない。
遠風は撃たない。
撃てば倒せる。
だが、それで終わる任務ではない。
敵の動き、間隔、装備。
全部を見る。
十分だ。
遠風は、静かに戻る。
走らず、歩いて。
合流は問題なかった。
報告も正確だった。
「助かった」
分隊長は言う。
その声に、安堵が混じる。
「お前が前に出ると、全体が見やすい」
遠風は何も言わない。
それから、同じような任務が増えた。
遠風が前に出る。
確認する。
戻る。
分隊は、遠風を基準に動くようになる。
だが、違和感もあった。
接触戦になると、
遠風の位置は、いつも少し外にある。
「合流、遅い」
そう言われることもある。
「走ればいい」
冗談めかした声。
遠風は、首を振る。
「走る必要がないので」
その言葉は、場を静かにした。
ある日、敵とぶつかった。
想定外の数だった。
「引くぞ!」
分隊長が叫ぶ。
全員が走る。
遠風は、最後に下がる。
弓で牽制し、距離を作る。
一人、敵が詰めてくる。
遠風は槍に替える。
短い衝突。
敵は止まる。
分隊は、すでに距離を取っていた。
「戻れ!」
声が飛ぶ。
遠風は戻る。
走らない。
だが、追いつく。
退却は成功した。
誰も欠けていない。
「……助かった」
分隊長は、もう一度そう言った。
だが、そのあとに続いた言葉は、少し違った。
「お前がいなければ、今の撤退は成立しなかった」
褒め言葉だった。
だが同時に、線を引く言葉でもあった。
分隊の中で、
遠風だけが後ろを一人で支えていた。
その夜、配置が変わった。
遠風は、常に外縁。
前にも、後ろにも出られる位置。
「そこが、一番合ってる」
分隊長はそう言った。
遠風は、頷いた。
分隊という枠は、
まだ壊れてはいない。
だが、
遠風の居場所は、
その縁に移りつつあった。




