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第三話 「速すぎる一人」

小規模な接触だった。

敵は五。こちらは分隊八。

数だけ見れば、問題はない。

「包む」

分隊長の短い指示。

左右に分かれ、距離を詰める。

風走り隊らしい、速い動きだった。

遠風は、右に出た。

走らない。

だが遅れてはいない。

敵の動きは散漫だった。

訓練不足か、疲労か。

判断が一拍遅い。

――先に終わる。

遠風はそう読んだ。

弓を構え、撃つ。

一人、倒れる。

すぐに次を――とはしない。

敵が動揺する。

指示が飛ぶ。

遅い。

「前へ!」

味方が走る。

一気に距離が縮まる。

遠風は足を止めた。

弓を下げる。

撃つ理由が、もうない。

敵の一人が、判断を誤った。

逃げるべき距離で、踏み込んだ。

遠風は槍を取る。

走らない。

ただ、迎える。

短い交差。

突きは深くない。

だが相手は崩れ、戦線が割れた。

「押せ!」

分隊長の声。

流れは、完全にこちらだった。

終わる。

そう思った瞬間だった。

「そっち、出すな!」

叫びが飛ぶ。

だが、もう遅い。

遠風の位置は、前に出すぎていた。

敵の背後に回り込める場所。

だが同時に、分隊の視界から外れる場所でもあった。

一瞬の空白。

連携が切れる。

遠風は戻らない。

走らない。

戻る必要がないと、判断していた。

敵は逃げ始める。

追撃に移る味方。

その中で、遠風だけが足を止めていた。

「……何してる」

戦闘後、分隊長が聞いた。

「追わなかっただけです」

「行けたはずだ」

「行く意味がなかった」

分隊長は、遠風を見る。

責める視線ではない。

だが、戸惑いがあった。

「お前、判断が早すぎる」

遠風は否定しなかった。

「分隊は、揃って動く」

「はい」

「一人だけ先を見るな」

遠風は、少し考えた。

「先じゃありません」

「何だ?」

「終わりです」

その言葉に、誰もすぐ返せなかった。

結果は完勝だった。

怪我人もいない。

判断は、すべて正しい。

それでも分隊の中で、

遠風だけが、少し違う場所に立っていた。

速いのではない。

突出しているわけでもない。

判断が、合わない。

分隊が“これから”を見ている時、

遠風だけが“もう終わる”を見ている。

それは、

集団の中では危うい。

だが――

一人なら。

遠風は弓を整え、槍を確かめる。

今日も走らなかった。

それで、戦いは終わった。

その事実だけが、

静かに残っていた。

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