5.
ファンが窓の外を見ながら、そう声を出す。
グルドフたちは、あの場から引き上げると自分たちが宿舎にしている所に戻ってきた。頑丈な建物の中なので、嵐で吹き飛ばされることはない。
「全く……。この嵐さえなければ一気に片が付いたものを……」
グルドフがウイスキーの入ったグラスを手にしながら、忌々しそうにそう呟く。
「そういえば、お聞きしたいことがあるのですが……」
ファンがそう口を開く。
ファンの聞きたいこととは、さっきの戦で兵士たちが口にしていた言葉の事だった。確かにグルドフからそう兵士たちに伝えるように言われて伝えたのだが、ファンはその事を疑問に感じていた。
「……確かグルドフ宰相殿は、クルタ国の事をよく思ってなかったように思いましたので、なぜあのようなことを兵士たちに伝えたのかが気になりまして……」
ファンが疑問に思っている事をそう口にする。
グルドフは最初からクルタ国の事はよく思っていなかった。むしろ、交友関係を築いていると言っても、表向きは仲良くしているだけで、グルドフがその関係を利用して、何かを起こそうとしている事を薄々感じていたファンから見て、その事が引っ掛かったという。
「……私はクルタ国を安心させていつかその国を乗っ取るつもりでいたからな」
グルドフが黒い笑みを浮かべながらそう言葉を綴る。
「だが……」
グルドフが急に黒い笑みから歪んだ顔になり、飲んでいたウイスキーのグラスを床に叩きつける。
「奴等がクルタ国を負かしたことでクルタ国は世界で『国』として認められなくなり、私たちとの友好関係も無しになった……。分かるか?クルタ国は負けたことで国として機能することを禁止され、報いとしてもっと大きな国がクルタ国の奴等を引き取った……。つまり、私がクルタ国を乗っ取るという計画が水の泡になったのだよ……」
グルドフが、忌々しい顔をしながら恨みのこもった声でそう言葉を綴る。
「……ですが、それと兵士たちに言わせている言葉はどのような関係が?」
ファンが疑問に感じることを口にする。
先程のグルドフの言葉だけでは、兵士達がラグアンチ国の人々になぜそのような言葉をぶつけるように指示しているかが分からない。
「……分からないか?これはラグアンチ国に完全勝利するための戦略だ」
グルドフが不気味な笑みを称えながらそう言葉を綴る。
「戦略?」
その言葉の意味がよく分からなくて、ファンは不思議そうな顔をする。
「つまり、その戦略はラグアンチ国のやつらに『自分たちのせいだ』という自虐史観を持たせ、戦いのときにその感情で戦意喪失させるのさ……」
「成程……」
グルドフが黒い笑みを称えながら綴る言葉に、ファンが感心したようにそう口を開く。
グルドフのその戦略で、ラグアンチ国の方は動きにぶれが出ていたという報告は聞いているので、この作戦が間違ってはいないという確信がグルドフの中にはある。
「……ファン、兵士たちにその作戦は続けろと伝えておけ」
「御意」
グルドフの言葉にファンはそう声を発すると、一礼してその部屋を出て行く。
「この嵐が過ぎたら一気に片を付けてやる……」
グルドフ窓から吹き荒れる嵐を見て、黒い笑みを浮かべながら、小さくそう呟いた。




