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お気に入り小説5

婚約を解消した伯爵令嬢。約束を破られるたびに、心がひび割れて砕けてしまいました。

作者: ユミヨシ

「ごめん、待ったかい?」

そう言って、走り寄って来るのは婚約者のフリード・ユフテス伯爵令息。


エリーナはにこやかに、

「大丈夫よ。本を読んでいたので」


エリーナ・ファルド伯爵令嬢。

フリードとエリーナは婚約者同士だ。


金の髪に青い瞳のフリードはそれはもう美しかった。

エリーナは茶の髪に緑の瞳のそこらへんにいるような普通の容姿の令嬢だ。


両家の親同士が、知り合いで、家格も同等で結んだ婚約。

共に17歳。

フリードは容姿が優れており、王立学園でも評判の美男だ。


だから婚約者になった時、とても嬉しかった。


でも、フリードは馬鹿にしているのか?エリーナを待たせることが多いのだ。

例えば休日に街のカフェでお茶をしようと互いに約束をする。


カフェの個室を貸し切ってくれるのはいいのだが、フリードは時間通りに来ないのだ。

大抵、一時間、酷い時には二時間待たされる。

遅れてきたフリードは、


「ごめん。すっかり寝過ごしてしまった」


とか、


「すまない。忘れていてやっと思い出した」


とか言い訳を並べて、何かとエリーナを待たせる。


貴族が通う王立学園でも、


「王都の屋敷に馬車で迎えにいくから一緒に学園に通おう」


だなんて約束をしても、約束を忘れてしまい、迎えの馬車が来なかった。

結局、その日は遅れて登校することになった。


エリーナは今日のカフェの待ち合わせも、彼は遅れてくるだろうと思っていたから、本を読んで待っていた。


待っている時間を有意義に使いたい。

待たせる方は何も思ってはいないのだろうけれども、待っている方は辛いものだ。


だから本を読んで、時間を有効に使いたい。

エリーナはそう思って本を読んで待つことにした。


17歳のエリーナとフリードは正式なデビュタントはまだだが、夜会への出席は認められている。若い学生が、夜会の雰囲気を味わう為に出席することを王宮は許しているのだ。


フリードはエリーナに、王立学園で会った時に、


「エスコートをしてあげるから、共に夜会に行こう」


「まぁ嬉しいわ」


「当日は迎えに行くから、君のドレス姿が楽しみだよ」


嬉しかった。夜会は学生達の憧れだ。

何日も前から指折り数えてその日を楽しみにした。


フリードと踊れる夜会。ダンスの授業を学園で受けているから、ダンスは二人とも踊れる。


大人の世界の雰囲気を味わえるのだわ。


ドレスは何色にしようかしら。

私は美しくはないけれども、思い切りオシャレをするの。


フリードに恥をかかせたくないもの。


あっという間に当日が来た。


思いっきりオシャレをしてグリーンの光沢のあるドレスにそれに合わせたキラキラした透き通った宝石の首飾りをつけて。


選びに選んだドレスと首飾り。


大人びた化粧をメイドにしてもらい、鏡を見て胸が高鳴る。


茶の髪を豪華に巻いてオシャレをして。




迎えの時間が来ても…彼は来ない。


楽しみに待っていたのに。


彼は来なかった。


来なかったのだ。


父であるファルド伯爵は、


「本当にフリードは迎えに来ると約束したのかね?」


エリーナは頷いて、


「彼は迎えに来てくれるって約束して下さいましたわ」


「しかし、来ないではないか?これでは夜会の時間に間に合わないぞ。まぁ多少遅れてもいいとは思うが」


彼は結局、来なかった。

エリーナは一人で行っても、仕方が無いので、そのままドレスを脱いで泣いた。


楽しみにしていたのに。フリードとダンスを踊る夜会。

正式なデビュタントはまだだけど、大人の仲間入りを果たしたようなそんな気がして。


素敵なフリードと、鮮やかにダンスを踊る大人びた自分を想像して、前の日から眠れなくて。


凄く楽しみにしていたのに、彼は来なかった。


翌日、王立学園で彼を問い詰めた。


「どうして来なかったの?」


「悪い。寝過ごした。すっかり忘れていて‥‥‥そうだったね。夜会に行く約束の日だった」


こんな酷い人と結婚して大丈夫なのだろうか?


家に戻って父と母に相談した。


「私はユフテス伯爵夫人になります。でも、フリードは約束をしても、遅れてきたり、守らなかったり。彼があんな調子だったら、私は夫として心配で。どうか婚約を解消して貰えませんか?」


父ファルド伯爵は、


「ユフテス伯爵とは知り合いだが、とても良い人だ。しかし、あんな息子が酷いとは知らなかった。解った。話し合って婚約を解消しよう」


母のファルド伯爵夫人も大いに頷いて、


「時間や約束を守れない人は、結婚しても上手くいかないわ。早く婚約を解消しましょう」




そう言って、両親は婚約解消に動いてくれた。

そして婚約は解消された。


翌日、フリードはエリーナに話しかけてきた。


「君とは上手くやっていたつもりだったんだけどな。私の事、好きだよね?」


エリーナは慌てて、相手から離れ、


「すみませんが、もう婚約を解消致しましたので。失礼致します」


「嘘だろ。こんな美しい私との婚約を解消するだなんて。あんなにも仲良くやってきたじゃないか?」


時間に遅れたり、約束を忘れなかったりしなければ、彼はいい人なのだ。

話も面白いし、とても紳士的で。

エスコートもスマートにこなして、とても美しくて素敵な人で。


後悔はないの?後悔はないわ。


エリーナはフリードと婚約解消して、後悔はないと自分に言い聞かせた。



数年後、エリーナはアフェリーナ・アルトレス公爵令嬢の侍女をしていた。

ファルド伯爵家の派閥のトップの令嬢で。


エリーナはアフェリーナに認められて、侍女をすることにしたのだ。

働き甲斐のある職場。そこに勤めて数年経つ。


偶然、アフェリーナの付き添いで、夜会に出かけた時に廊下でフリードに会った。

彼は今大変な立場にいる。

ユフテス伯爵に任された大事な事業の会合に遅刻して行ってしまい、信用を無くしたとか、色々とろくな噂を聞かないのだ。

色々な家の令嬢達と婚約の話も出たが、いつの間にか婚約する前にその話は消えたりしていまだに独り身だった。


エリーナは侍女服を着て、アフェリーナに付き添っていた。

エリーナを見た途端、フリードは近寄って来て、


「久しぶりだな。エリーナ。アルトレス公爵家の侍女をしているとか?」


「はい。侍女として働いております」


その時、アフェリーナが不快そうに扇を手にしながら、


「わたくしに挨拶をしないだなんて、失礼ではなくて?」


慌ててフリードは挨拶をする。


「これはアルトレス公爵令嬢。良い夜ですね」


「わたくしは極めて不快だわ」


フリードはエリーナに近寄って、


「いまだに独り身なんだろう?侍女をしているのだから。私と婚約を再び結んでもいいんだぞ。君は私の事を愛しているはずだ。あれだけ楽しかった日々を過ごしたじゃないか?助けて欲しい。色々と私は信用されていないみたいなんだ」


エリーナはフリードの顔をちらりと見て、


「私は仕事中なので、お話しすることはありません」


アフェリーナがエリーナに、


「この男と話す事を許すわ。言いたい事を言いなさい」


「それでは。私はもう結婚しております。アフェリーナ様の紹介で、アルトレス公爵家の執事の方と」


「え?執事の男と?それより私と結婚した方が良かったのでは?伯爵夫人だぞ。あんなに楽しかった日々を過ごした仲じゃないか」



「楽しかったですって?私はまったくもって楽しくなかったわ。カフェには一時間、二時間遅れてくる。夜会の約束は忘れる。貴方、どこかおかしいのではなくて?仕事の信用を失った?当然だわ」


「眠かったのだから少しくらい遅れたってよいだろう。約束だって忘れることだってある。君は父上のような事を言うのだな」


「貴方は相手の事を全く考えていないのですね。私がどれだけ傷ついたか。貴方みたいな人と結婚しなくてよかった。私は心から安堵しているわ」


その時、声をかけられた。


「お嬢様。忘れ物を届けに参りました」


アフェリーナは声をかけられた男に向かって振り向いて、


「有難う。サイラス。助かるわ」


サイラスは黒髪碧眼の美男だ。

アルトレス公爵家の執事をしている。そして、エリーナの夫だ。


サイラスはフリードに、


「うちの妻に何か?」


フリードは慌てて、


「いえ、何も、失礼するよ」


その場を去って行った。


愛しいサイラス。

彼の真面目な仕事ぶりに、エリーナは惚れたのだ。

彼の歳は28歳。エリーナは現在22歳。彼は何よりもエリーナを大切にしてくれた。

婚約した時、休みを合わせたデートだって、時間より少し早く来て待っていてくれる。

彼は約束した事をきちっと守ってくれた。


夜会だって、アフェリーナの許可を貰い、二人で出かけた時。

きちっとエスコートしてくれて、グリーンのドレスとキラキラした首飾りを褒めてくれた。


ダンスを二人で踊った。

何て幸せな。

何て素晴らしい。


エリーナの弟が、他家に婿に行くことになってしまい、エリーナとサイラスは来年には、ファルド伯爵家に行き、いずれはファルド伯爵位を継ぐ予定である。


サイラスの事が好き。

今までのフリードが酷かっただけに、サイラスのきちっとしたところが、なんて安心できるのでしょう。


フリードは他人の事をまるで思いやれない。

そんな人と結婚したって、将来、不幸でしかないだろう。


その日から、しばらくして、大きな失敗をしそうになって、フリードはユフテス伯爵から、廃籍されて、家を追い出された。


このような息子を家に置いておいたら、取り返しのつかない失敗をして伯爵家は終わるだろう。


ユフテス伯爵夫人にとっては可愛い息子だ。

どこかで働けるように、面倒を見ようと思っていたのだが、

フリードが途方にくれて外を歩いていた所、

ムキムキな男達に声をかけられた。


「行くところがないそこの君、素敵な職場があるぞ」

「そうそう、働き甲斐がある職場だ」

「我らと一緒に行こう」


フリードが聞いてみる。

「そこってどのような?」


「行ってみれば解る」

「そうそう、悪いようにはしない」

「さぁ行こう行こう」


彼は連れて行かれた。


ユフテス伯爵夫人が行先を調べた所、

屑の美男をさらって正義の教育をする変…辺境騎士団に連れて行かれたと。


その話を父ファルド伯爵からエリーナは聞いた。


だがもう、彼がどうなろうと関係ない。

彼との付き合いはストレスしかなかった。


愛していたかって?愛してなんかいなかったわ。

愛する心を持つ前に、一つ一つ、時間に遅れるたびに、約束を破られるたびに、心がひび割れて砕けてしまったの。


砕けてしまった心を再び愛でつないでくれたのは、今の夫、サイラス。

サイラスはエリーナに、


「ファルド伯爵家に行くのが楽しみだ。エリーナと共に素敵な家庭を築いていこう」


「有難う。サイラスがいたから、私の心は救われたわ」


彼の事を抱き締めた。

その温もりを感じて心から幸せに思うエリーナであった。


エリーナはサイラスとの間に、子を三人儲けた。

子供達に常々、

「約束を破る大人になってはいけないわ」

と言い聞かせていたと言われている。






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