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序章 懲罰房から出た後にラブになったからって、ドMじゃありませんお嬢様。

「ふざけるな!理不尽だ!公爵家の娘が!あんなので懲罰房送りなんて!」


 公爵家のお嬢様の理不尽に僕は反論、抵抗したが、お嬢様に指示されたガタイの良い使用人には手も足も出ずカーペットの上を引きずられた。


「今なんて!?お黙りなさい!ここに入って反省なさい。早くぶち込んで!」


 その声は、叫び怒りかん高く響いた。

 そしてお嬢様の声とともに僕は小さな部屋に放り込まれる。


 家柄に恵まれただけで世間知らずの、自分勝手で理不尽の!


「このクソ…がっ…!?」


ガンッ!!


 放られた勢いが想像より強くストップがかからず頭が壁にぶつかった。

 視界が少しずつブレる。声、思考と飛び、その後ぐらりと暗くなった。



★☆★☆★☆★☆★☆



 ドアを開けて「ただいま〜」。返事が返ってこない部屋の中に入っていく。

 手を洗って荷物を下ろして時計を見ると深夜の1時だった。

 お風呂のスイッチを押し、湯を入れ台所へ向かう。簡単なご飯を作って食べて、これから二桁時間するつもりでゲーム機をつける。

 そうこうするとお風呂が沸いて入って、通知に来ていたクレカの明細を見て、「課金額が42万!?」

 ツルッと足が滑った気がしてそれで…。



 目が覚めるとそんな記憶を思い出した。


 そしてそんな今、自分が居るのは前世の汚い四畳半の部屋から一変…とは言えない。

 それでも目に映るのは綺麗な柔らかいカーペット、綺麗な部屋の装飾、机にはご飯。そんな四畳半の部屋である。


 記憶を戻すと1日前。(★☆の後で1日経っています。)ミスを叱られこの部屋、懲罰房に入れられての現在。


 僕を入れた人物はイザベラ・ド・ノワールお嬢様、9歳。公爵家の1人娘だ。

 物理的に入れたのは使用人ではあるが…。

 当家の一人娘として今日まで甘々と甘やかされて育ったお嬢様。もちろんのこと、高慢な我儘となり絶対王政を築いた。


 そして入れられた原因は、そんなお嬢様のご意向を従者である僕が汲み取れなかったことだ。

 1日前の朝食中の一言。「今日のお食事、お野菜ばかりで楽しくありませんわ。」

 そう言って差し出されたお皿を台所へ戻そうとしたらさらに一言。「なぜお捨てにならないの?」

 そうしてここに入れられた。


 マリー・アントワネットもビックリだ。


 前世の知識?そんな物引っ張り出さなくても分かる。未来の悪役令嬢である。


 だが部屋はわりかし快適で3食飯付き。

 所詮は未来での悪役令嬢。段階的には我儘理不尽お嬢様の域は出ず、冷血人間にはなれていない。


 なのでこの懲罰房もすぐに出られることだろう。

 と言うことで一度冷静に前世の記憶諸々を整理することにした。



 まずは異世界転生と言う認識で良いのだろう。

 実態は今世の人格に前世の記憶が入ってきたというだけなので正確には違うのだろうが。


 前世の自分は少し複雑で大変な家庭で育った。

 学生時代は小中高大と自由には過ごし、社会人になってからは深夜に仕事から帰って、その後ゲームをやれるだけ。そしてまた仕事へ出る。

 身体的にも精神的にも、生活的にもギリギリなラインを過ごしていた。

 彼女は一生いなかった。


 そんなギリギリの生活の中での唯一の娯楽、ゲームにはかなり思い入れは強かった。

 死ぬ前にやっていたのは男ながらも乙女ゲーム。

 ストーリーは王道の中世ヨーロッパ、魔法学園での恋愛。

 平民のヒロインが4人の攻略対象の誰かのルートを選んで進めるありきたりの物だ。ヒロインのライバルを倒して終わり。

 乙女ゲームにしては珍しい小悪魔展開があったことくらいが変わり種だろう。

 後は悪役として殺される令嬢のキャラデザが凝っていたくらいだ。


 進めぐわい的には、少し境遇が似た悪役キャラのためにかなり課金をしたりして…。

 もう少しでクリアできそうという期待を持っていた事まで覚えている。


 そして今世。

 クロード・ヴァレ、御年10歳。

 お嬢様の専属従者としてノワール家に来てから約2年。

 我儘お嬢様の専属従者として来ただけに自分の能力は高め。それだけにお嬢様からの評価が下降を続けているわけだ…。


 気絶する前壁にぶつけた頭にはコブが出来ているようで触ると痛い。

 しかし包帯等で手当てしてある所にお嬢様の優しさを感じる。


「クロは反省したかしら?」


 状況を整理しながら食事をとっている所でお嬢様の声とともに扉がガチャリと開く。


 口に物を入れた僕と無駄に派手な扇を広げ高飛車に部屋を見回したお嬢様の目が合った。


「ク、クロ!あなた、失礼よ!主人の前で食事をとるなんて!」


 理不尽である。

 前世の記憶を取り戻してなお思う、流石の理不尽自己中っぷりであると。


 しかし開いた扉から射す光的には時間は使用人達の昼食時間の後。我儘お嬢様ではあるが、客観して考えてみると人に気は回っている淑女のようだ。


「お仕置きよ!」


 そう叫び僕を叩こうと扇をたたんだ事でお嬢様の顔の全体像が見える。


 第一に抱く印象は美少女。しかし睨んでいる今、受ける印象は恐怖だ。

 角度によっては黒くも見える長い茶色の髪。

 翠の中に赤という珍しいアースアイのつり目からは鋭くきつめな印象を受け、笑顔は素直に可愛いというよりはニンマリガオで寒気を感じる。


 要は将来の悪役令嬢としては100点の顔になりそうな風貌になっている。


「翠に赤のアースアイ…悪役令嬢…今更ながらイザベラ・ド・ノワール…」


「あーすなに?それに悪役令嬢…?いったい何を言って…」


 僕の呟き、それと目線を感じたのか、お嬢様は首を傾げた後に扇を広げ顔を隠した。


「まさかあの乙女ゲーの…?」


「し、使用人!クロをさっさとここから出しなさい!」


 ゴツい使用人に手を引かれても動かない僕にお嬢様はたじろぎ叫んだ。


「で、出ろー。」


「うわっ!?」


 使用人は声と共に腕に力を入れ、急に力が入れられた僕はこの部屋に投げられたとき同様にぶっ飛び頭を軽くぶつけた。少し血が出ている気がする。


 方向はお嬢様がたじろぎ下がった前へである。


「ク、クロ…?」


 お嬢様が小さく震えた声を出した。

 怒りではない。少しの恐怖、ほんの少しの心配が混じっている。


 もしこの世界があの乙女ゲーなら。

 もしこの子が、僕が42万突っ込んだあの悪役令嬢なら。


 頭に浮かんでくるのは、前世のクレカ明細。

『課金額:42万』

 通知を見てツルッと足を滑らせた瞬間が、やけにリアルに蘇る。


 …いやいや、つまりだ。

 僕はいま、その“42万の推し”を目の前にしてるってことじゃないか!?

 ならばここでビビって下がるとかない。前世の僕が涙目で払った課金を無駄にするわけにはいかない!


「お嬢様、今までの非礼をお許しください」


 僕は立ち上がり、お嬢様の手を取ってその甲にそっと口づけ。


「このクロード、大変深く反省いたしました。寛大で美しく、そして尊きお嬢様にお仕えできること――この身にとっての至上の喜びでございます!」


 九十度のお辞儀。完璧だ。


「ぎゃあああああーー!!」


 お嬢様は顔を真っ赤にして絶叫した。


「クロが壊れたぁぁ!!叱ったばかりなのに!なぜ!?なぜそんな変態みたいなことをぉぉぉ!!」


 派手なドレスを翻し、バタバタと廊下を走って行く。


「ち、違いますお嬢様!変態じゃなくて推し活です!推し活なんですって!」


 思わず叫んだが、返事はない。お嬢様の叫び声が廊下に響く。

 ついでに使用人に握られる腕が痛い。


 静寂。残された僕。


 推しに全力でドン引きされる。

 これが、推し活における最悪のバッドエンドか。


 だが、胸の奥ではほんの少しだけ、こうも思っていた。


「…推しに罵られるのも、悪くない。」



 うん、我ながら救いようがない。

この話のエピソードタイトルは変えるかもしれせん

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