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第38話 謁見

「午後の紅茶をご用意いたしました」

「ふむ」


 テーブルの上には、純白のレースのテーブルクロスが敷かれ、その上には金色の縁取りが施された最高級のティーカップとソーサーが並んでいる。

 ティーポットからは、最高級の芳醇な香りが漂ってくる。

 そのアンバーゴールドの液体は、カップの中で優雅に揺らめいている。

 

 テーブルの中央には、3段のケーキスタンドが鎮座している。

 一段目には、きめ細かいスコーンが並び、その隣にはクロテッドクリームとイチゴジャムが添えられている。

 二段目には、繊細なフィンガーサンドイッチが美しく盛り付けられ、キュウリ、スモークサーモン、卵サラダなどのバラエティ豊かな味が楽しめる。

 最上段には、色鮮やかなマカロンやプチケーキが宝石のように輝いている。

 

 ゆっくりと紅茶を口に運び、その味わいを堪能する。


「…………悪くない。これなら、我が国の城で出される紅茶と比べても引けを取らぬな」

「陛下から賛辞のお言葉、誠に恐縮でございます。紅茶からお菓子、ティーセットすべてにおいて最高級品を取り揃えております」

「だろうな。すべての品質において満足しておる。ほめてつかわすぞ」

「勿体ないお言葉」


 給仕は深くおじぎする。

 

 久しぶりの国外への旅行だった。

 自国以外ではどうしても融通が利かずに不愉快な思いをすることもあったが、旅先の歓待について今のところは満足している。

 やはり、旅行先の吟味は大切ということなのだろう。


「陛下、そろそろ時間でございます」

「おお、もうそんな時間か。これはもう下げてよいぞ」

「御意にて」


 ティーセットとほとんど手をつけていないケーキスタンドがテキパキと下げられていく。

 部屋を出て、先導者について目的の場所に向かう。

 自分が道を歩くだけで、兵士に使用人、それに文官などの官吏たちはひれ伏す。

 なかなか教育が行き届いている。こういう所も気に入った所だった。

 

 目的の場所につくと、約束相手はまだついていなかった。


「なんだ、待たされるのか……」

「大変申し訳ございません。今、向かっておりますので今しばらくお待ちいただければ……」


 片膝をつき、首を深く垂れて兵士が述べる。

 煌びやかな鎧を身に着けた兵士で、それだけでかなりの地位にいるものであることは想像できた。


 5分ほどが経過した。


「おい! ほんとに今、向かっておるんだろうなぁ! 一体何分待たせば気が済むのだ?」

「大変申し訳ございません、今しばらくお待ちを……」


 兵士は床に頭を擦り付けんがばかりに平伏して言う。


「陛下、ヴァレンティン王国でこのような所業をしたものは牢屋送りですな」


 王国から連れてきた右腕のガレスが述べる。

 

「ふん、わしは慈悲深いから少々のことでは処刑をせぬからな。で、この責任はお主がとるのか?」


 兵士は顔を真っ青をにして、冷や汗を流している。

 そこに、一人の男が颯爽と現れた。


「すまん、すまん。すっかり約束を忘れていてな」

「ヴァレンティン王との約束ですぞ! 一体……」


 ガレスが憤慨気味に言葉を発しかけたが、すぐに制する。

 

「止めんか!」


 そして、すぐさま片膝をついて平伏する。


「いやはや、いかんの最近忘れっぽくなってな。それでソフィア殿は息災か?」

「ありがとうございます、元気にしております。皇帝陛下におかれましても、お元気そうでなによりでございます。彼女は今回の訪問には少しそぐわない為、連れてきておりません」

「王妃に聞かせたくない話があるということか? さて、早速だが、今回の訪問の目的を聞かせてもらえるか? ああ、面を上げてもよいぞ」

「御意にて」


 垂れていた首を上げる。

 目の前には王座にライツ帝国の第14代皇帝が鎮座していた。

 世界の厳然たる支配者の帝国は、帝国以外のすべての国を合わせても、それよりも5倍以上の軍事力を要している。

 そのオーラは圧倒的だった。


「エスペリア王国がまた異世界召喚を行い、あろうことか我が国との戦争の準備を進めているとの情報を得まして」

「……ふむ」

「あのくそ馬鹿、あっ失礼。あのエスペリア王は3年前に交わした和平条約を破棄して、我が国に侵攻しようとしております!」


 エスペリア王の名前を出すと頭が沸騰しそうになる。

 奴とは子供の頃から仲が悪く因縁があり、こじれてこじれて3年前にも衝突の末、帝国の仲裁でやっと和平になった経緯があった。


「戦争になったら勝てぬのか?」

「現状の戦力は五分ですが、また異世界召喚が行われたとしたら……分が悪いと言わざるを得ません」


 そもそもエスペリア王国よりも軍事力としてはヴァレンティン王国の方が勝っていたのだ。

 それを3年前の異世界召喚人が紛争に投入されると部分的な争いでは惨敗して、戦力は五分にまで削られている。


「是非とも皇帝陛下のお力添えをいただきたく」

「ふむ……」


 皇帝は片手を口に添えて何やら考えている。


 もし戦いになれば今度は全面戦争になる。

 そうなってもし負けたとしたら…………想像するだけでも恐ろしい。

 おそらくエスペリア王は自分を生け捕りにしろと厳命するだろう。

 その後にありとあらゆる苦痛と恥辱を与えるはずだ。

 自分もまたそうしようと考えているから、容易に想像ができた。

 こうした不安により、最近ちゃんと寝れていない。

 だから下げたくない頭をわざわざこんな遠くまで下げにきたのだ。


「正直言って、国同士の紛争や戦いは余はどうでもよくてな……」

「そんな皇帝陛下、ご再考を!」

「まあ、慌てるな。まだ余が話してる途中だ」


 実際、帝国は紛争や戦争に余り介入しない。

 当事国から和平の仲裁を頼まれると重い腰を上げるといった所で、いずれも勝った方に有利な形で事後処理は進められていた。

 

「紛争や戦争はどうでもいいが、余はエスペリア王に禁忌の異世界召喚は二度とやらぬように警告をしておる。今回、奴はその警告を破ったということだ。これは皇帝として正さなければならん」

「それでは……」


 期待と希望が広がる。

 帝国を味方にできれば勝ったも同然だった。


「エスペリア王国に我がまさかりを飛ばす。それがうまくいけば王国は解体。万が一、うまくいかなければ……」

「……うまくいかなければ?」


 ごくりと唾を飲む。


「お前らで頑張れ」

「……派兵はしていただけないので?」

「そこまですることか?」

「我が国の存亡の危機でございます!」

「悪いが、余のとっては小事だ」

「…………」


 絶句する。国の一つや二つどうでもいいというのか?


「この話はこれで終わりだ。他に何かあるか?」


 有無を言わせぬ言い方だった。

 逆らうわけにはいかない。


「…………ございません」


 意気消沈しながら答える。

 今、皇帝が言っていたまさかりを飛ばすというのも怪しいものだ。

 もしかしたら、自分はすでに見捨てられているのかもしれない。


「それでは下がってよいぞ」

「御意にて……」


 一礼後、玉座の間を後にした。


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