第23話 守護騎士
「………………」
フェリシアは耳まで赤くして無言で立ち上がる。
「………………」
俺も文句の一つでも言ってやろうとするが、恥ずかしさで言葉が出てこない。
「えっと、お嬢様のことが可愛いくて仕方ないでよかったですか? お嬢様、こんなに性格の可愛い娘は中々いないとのことですよ」
「いやん」
「やめろーーー!!」
いつの間にかノラの真っ黒の瞳は通常の白目のある瞳へと戻っていた。
「あれ? 目が戻ってる……」
「ああ、さっきのは魔眼でございます。私は戦闘中は魔眼を使うので。とまあ、そんなことはどうでもいいのですが」
ノラはニヤリと嫌な笑みを浮かべて続ける。
「お嬢様は顔だって可愛いし、スタイルもいい。こんないい女、今すぐにでも抱いて俺のものにしたい! でしたっけ?」
「いやーーん!」
「違ぁーーーう! 今すぐ抱いて俺のものにしたいなんて一言も言ってなーい!!」
何事かと何人かの使用人は窓からこちらを伺っていた。
うゔぅ……普通に恥ずかしい。
「それではお嬢様、挙式はいつになさいますか?」
「えっとー、それはユウくんと相談してー」
「誰がユウくんだよ!」
冗談が言えるくらいには回復したのか、フェリシアの頬の赤みはかなり引いていた。
「……婆やと日課の稽古をしてたのよ。もう、勘違いして乱入してくるから起きるに起きられなかったじゃない。婆やも悪ノリはじめるし」
「私はユウ様がお嬢様にふさわしい男子か見極めただけでございます」
ノラはしれった顔で言う。
彼女からは一本どころか、二本も三本も取られてる。
「随分と強いんですね」
「ユウ様ほどではございません。お嬢様のユウ様に対する評価。正直この目でその実力を確かめるまではかなり疑っていましたが、驚きました。一体どこでそこまでの腕を身につけたのですか?」
「いやぁ、ははは。まあいろいろありまして……」
俺は笑ってごまかす。
「婆やは強かったでしょう、ユウ」
「ああ、強かった」
「ふふーん、婆やは私の師匠なんだよ。幼少の頃から稽古つけてもらってたんだから。それにね――」
俺はノラの剣の紋章に再度目をやる。
やはり、その紋章にはどこか見覚えがあった。
「婆やはなんと、帝国の守護騎士だったのよ!」
「そ、そう……」
なんだろう守護騎士って?
俺の薄い反応にフェリシアは不満そうな顔をする。
「何よ、その反応は! 守護騎士に任命されたのは帝国の長い歴史でも3人だけなのよ! 婆やは言わば帝国の生きた誉れなの!!」
「まあまあ、お嬢様、そんなことは…………本当でございますね。もっと言ってくださませ! もっと褒めてくださいませ!」
「いや、謙遜しろよ」
そこで俺は荷台に立てかけられていた剣を思い出した。
「ああ、思い出した。その剣、旅先の爺さんが持ってたやつと同じ紋章だ。確か……エドワードとかいう……」
「えっ、あのおじいさんそんな剣持ってたっけ? じゃあ、あのおじいさんが婆やの……」
「まだくたばってなかったのでございますね。あの死にぞこないは」
「もう、そんな言い方しないの。元旦那さんでしょ」
「籍を入れていただけでございます」
「なるほどね……」
俺は一人納得する。
実は、あのエドワードという爺さんもレベルは100を超えていたのだ。
一体何者かと思っていたが、ノラと元夫婦というのは頷ける話だった。
理由は佇まいや、どこかとぼけた所。それにその強さが似通っているからだった。
「ああー、朝練したらお腹空いちゃった。朝食にしましょう。私は汗かいたから軽く湯浴みしてからいくわね」
フェリシアは先に邸宅に戻っていく。
彼女の邸宅へ戻る足取りは、どこか弾んでいるようにも感じられた。
「ユウ様」
「え、はい」
そこでノラは俺に近づき耳打ちする。
「当家、覗きはセーフでございます」
「嘘つけ」
ノラは微笑んだ後、真面目な顔に変わる。
「どうぞ、お嬢様をよろしくお願いいたします」
ノラは深々と頭を下げる。
「ちょっ、頭を上げてください。俺はそんな大層な人間じゃないですし、こっちがお世話になってしまってるのに……」
「お嬢様はいい男を引っ掛けてきました」
そういうとノラも俺を置いてスタスタと邸宅へと向かう。
「へっ?」
俺はそう素っ頓狂な声で呟くと、広い庭に一人とり残されていた。




