第3部 Black Beret (ブラックベレー)
ここまで読んで頂けた方、ありがとうございます・・
今回の舞台は海外・・
人魚 天使 悪魔 妖精・・ 様々な新キャラに加え謎のガイア・・
さらに紫のヘケート 崇も再登場です・・
悠子 留奈 守の運命は・・
悠子の新しい能力も開花します・・
よろしくお願い致します・・・
第1章 Black-Eve (ブラック・イブ)
第1節 To Gaia (ガイアヘ)
真っ暗な闇の中を高速で後方へ流れていく無数の誘導灯のオレンジ色の光・・
ここは先ごろ開通したばかりの日本とアメリカを結ぶ太平洋の地下海底トンネル・・そこを走る・・いや飛ぶと言った方が良い、翼のない飛行機のようなジオプレーンが一路 東を目指していた・・
一人ファーストクラスの座席に座る悠子・・数日前の事を思い出していた。
あれから4年、徐々に留奈の身体は埋め込まれた機械への拒絶反応が進み衰弱していっていた。
その日、悠子と留奈は北海道にいた、二人の旅行の為だけといっていい、日産の新車フェアリーナイト1600GT-Sダブルガルウィング・・後ろに屋根の一部ごと開くメインドアと中央に雨天様の横に開くサブドアミラーがわりのバックモニター・・ポップアップライト・・申し訳程度の後部座席・・
一般的ではないが二人がゆったり座れれば十分だった・・
留奈が動ける内に色々な所に連れて行ってあげたかった・・
しかし旅行中発作に襲われた留奈を助けたのは意外にもあの元MIS日本支部の科学者セス・ローゼンバーグ。
壊滅したと思われていたMISはわずかに残った根っこから又、芽を吹き出し何時の間にかガイア帝国という巨木に成長していた。
今の留奈を助けるにはセス・・いやガイア帝国の科学力に頼るしかなかった・・
ゾーン539と言われる青函トンネルの秘密の引込み線からジオプレーンに搭乗・・
太平洋の海底トンネルを進む・・そろそろ東京湾地下・・ここから左折し東へ向かう。
「ダイアナは一足先にガイアに到着した頃でしょう・・東京湾アクアラインの川崎人工島=風の塔地下の中央ステーションは止まらず通過します・・外が見えたら東京湾の珊瑚礁をお見せできたのに」
「こんな物まで造っていたの?」付き添うネビルに悠子は聞いた。
ジオプレーンの事は公だがこんな秘密の乗り口は知らなかった。
「いえこれは日本政府が秘密裏に造っていた物です」
「何のために?」
「表向きは災害や有事の際の国民の脱出ルート・・しかしトップシークレットになっているところを見ると皇室の速やかな避難の為でしょうね・・乗車ステーションもこの東京湾地下の中央ステーションの他 お姫様の乗った青函トンネルの東北ステーション・・瀬戸大橋中央のパーキング与島地下の西部ステーションからも乗れます、皇族が日本の何処にいても乗れるように・・そしてこのような特別便で脱出するのでしょう」
「どうしてそれが分かったの」
「我々の情報収集解析力を見くびらないで頂きたい、それとその設備を自由に使える力もね」
後方へ飛ぶオレンジの光を見つめる悠子・・
暗い太平洋地下トンネルを弾丸特急ジオプレーンは一路アメリカはニューヨークへ向かっていた・・・
第2節 12Generals&12VIP (12将軍と12人衆)
ニューヨーク、マンハッタンにそびえる摩天楼・・その中でも群を抜く1002メートル・・202階の白いツインタワービル・・これがガイア総本部である白亜の双璧・・西塔のクレオパトラと東塔の楊貴妃。
ガイアの組織は中心頭脳とも言える8人の主要メンバーが8人委員会・・
マーキュリー データネットワーク局長
ビーナス 文化管理局長
テラ 委員長
マーズ 作戦指令
ジュピター 帝国皇帝(天帝)
サターン 先代皇帝(地帝)
ユーナラス 初代皇帝(初代天帝)
ネプチューン 副皇帝(海皇)
の元・・
8方面軍事司令官の8人
サクラデヴァナム・インドラ 東部方面軍指令
アグニ 南東部方面指令
ヤーマ 南部方面指令
ラクササ 南西方面指令
ヴァルナ 西部方面指令
ヴァーユ 北西部方面指令
ヴァイシュラヴァナ 北部方面指令
シヴァ 北東部方面指令
と・・
天地局長
ブラフマー 宇宙開発局長
プリティヴィー 地下資源開発局長
そして・・
日月局長
スーリャ・アディティア 太陽エネルギー開発局長
チャンドラ・ソーマ 月監査局長
・・の12将軍がクレオパトラの地下20~25階に拠点を置く・・
また政治面を受け持つ12人の大臣と長官及びVIPの12人衆・・
ジュピター 帝国皇帝(天帝・・8人委員会兼任)
ジュノー 皇帝秘書
ケレス 食料管理局長
ネプチューン 副皇帝(海皇・・8人委員会兼任)
ミネルバ 作戦参謀
アポロ・ソル・ヌース 太陽エネルギー開発局長代理
ダイアナ・ルナ・ノーム ブラックベレー将校
ビーナス 文化管理局長(8人委員会兼任)
マーキュリー データネットワーク局長(8人委員会兼任)
バルカン 工業局長
マーズ 作戦指令(8人委員会兼任)
ベスタ 兵器管理局長
が・・
楊貴妃の地下20~25階に拠点を置く・・
・・から成り・・悠子はVIPである12人衆の1人に指名されたが辞退、12人衆の地位を留奈に譲り、留奈の身辺警護と保障を約束させた。
そして悠子は少佐として第24独立部隊に配備された・・直属の月宮監査局長はチャンドラ・ソーマ・・元MIS日本支部長である。
「どうしてこんな短期間に」
「潜在意識 サブリミナルですね」
悠子の疑問にアンヌが言う。
テレビ、ラジオ、映画、パソコンの画面、そして高度200キロ以上の地球周回軌道の幅800m・・長さ1800mの看板・・(地表からは月位に見える)から通常の視覚では感知されない映像を繰り返し挟み・・
静かにガイアの侵略が行われていた。
装備としてのマリー~ガイア軍制式時計No.160・・・マリー・アントワネットD~が悠子に配備。
18世紀のフランス王妃、マリー・アントワネット(あるいは彼女への贈り物に宮廷人)が1783年に天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲに当事知られるあらゆる機能を搭載した金時計を依頼・・
自動巻き、時・分・秒の時刻表示、時・15分・分を打ち鳴らすミリッツリピーター、日付け・曜日・月を表示する永久カレンダー、エクエーション(均時差表示)、パワーリザーブ表示、バイメタル温度計、独立作動センサー秒針(クロノグラフの原型)ジャンピングアワー等を装備した時計は1789年のフランス革命で中断するも1827年に完成する・・
しかしアントワネットは既にフランス革命で処刑されブレゲ自身も4年前に亡くなっていたという・・
それをヒントに
温度 湿度 気圧 高度 深度 方位 距離 体温 脈拍 血圧 月日の出入り時間 月齢 太陽系の惑星配置 等のハイテクを詰め込んだ金色のデジタル時計
それがマリーアントワネットD
「製作者や持ち主が亡くなるなんて余り好い気はしないですね」アンナが言う・・
(結構、人の気持ちが分かってきたかな?)
女性にしては大きめの時計を見つめながら思う悠子。
それに影響を受けたのかガイア帝国では建物・乗り物・装備等に歴史上の女性名を付けるのが慣例化していた・・歴史のないガイアの、ないものねだりかも知れない・・・
第3節 8Races (八部衆)
「どうしてあなたが」
悠子が守が八部衆の一人、竜崎準尉としてガイア軍にいる事を知ったのは2日後の事。
八部衆は・・
天童辰巳 軍事開発局護衛隊長
竜崎守 VIP護衛隊長
ヤクサ 北部方面隊第4部隊長(派遣中ヴァイシュラヴァナの直属)
ガンダルヴァ サクラデヴァナム護衛員(SP)
アスラ 帝都護衛部隊長
ガルーダ 帝都護衛航空隊長
キンナラ サクラデヴァナム護衛員(SP)
マホラガ サクラデヴァナム護衛員(SP)
である・・
(留奈のため?)
と思う悠子
それ以上入隊の理由は聞かず。
「三人もSPを従えるサクラデヴァナムって?」別の事を聞く。
「俺たちの上にいる四天王を配下にもつ12将の長だ」
四天王は
ドリタラーシュトラ 東部方面軍指令補
ヴィルバクシャ 西部方面軍指令補
ヴィルーダカ 南部方面軍指令補
ヴァイシュラヴァナ 北部方面指令
「指令が居るの?部下に?」
「それだけ12将の中でもサクラデヴァナムは別格という事だ」悠子の問いに守が答える。
組織図を見つめる守。
(アスラも最初サクラデヴァナアムに敵対していたが今は服従している・・ヤクサも今は北部方面から派遣中でヴァイシュラヴァナの直属だしサクラデヴァナムへのラインが続く・・他の東西南にも補佐として配下を配置し磐石に見えるが・・
ガルーダはブラフマーと通じサクラデヴァナムと対峙している、切り崩すならここだが俺とも対峙してるし・・)
「ん?」悠子が覗きこむ。
「なんでもない」組織図を丸めながら守が言う。
第4節 Russia Invasion (ロシア侵攻)
それから1ヶ月後・・悠子の姿はガイア軍の軍艦ジャンヌ・ダルクの船上にあった・・黒いセーラー様の制服に黒のベレー帽。
目的地はロシア・・
12月の後半の事であった・・
途中の海域で悠子は海面を跳ねる生物を目撃・・
「何か?」甲板でレンゲ・ハイバラ補佐官が悠子に聞く。
16歳ながら士官ハイスクールの秀才の日系アメリカ人だ、日本語も堪能で助かる。
「いえなんでも・・」
「ロシア到着は24日23時20分頃の予定です」
留奈はインド リカは中国 イギリスにはアニー フランスにはアンナとアンヌ・・
みんなバラバラだった。
「雪だ」悠子が空を見上げる。
「ロシアが近いです」
「あたしの町ではイブに雪なんかめったに降らなかった・・」
「少佐・・そろそろ船内に」
「・・・」
「少佐?」
「・・・」
「西村少佐?」
「あ・・ああ・・あたしね・・分かりました」
杖をつきながら船内に戻りつつ後ろを振り向く悠子。
(まさか・・本当にいたなんて・・人魚が・・・)
23時22分13秒ロシア到着
27分58秒に降り立つ
(たいした情報力ではある)
既に月からの遠隔操作で20世紀最悪と最良の発明と言われる核と電気は使用不能にしていたが(命に関わる病院等は別)なんの抵抗もないのがガイアの下準備の力を示していた。
雪が降りしきる中、悠子 レンゲ・・以下十数人の精鋭部隊が上陸・・
後日イブの部隊の「死の聖火隊」と怖れられた、ガイア帝国第24独立部隊の第一作戦の始まりだった・・
第2部 Biack-Emperor (ブラック・エンペラー)
第1節 Triumphant Return (凱旋)
半年後イブの部隊帰国・・ロシアは北シベリア低地のタイムィール湖からタイムィール半島を失い沈黙した。
他のみんなもそれぞれの成果を残し帰国。
一週間後お姫様と貴族の功戦授与式が行われた。
悠子にはセンテナリー・・273カラットの世界有数の巨大ダイヤモンド・・
留奈にはイザベラ・エメラルド・・964カラットの原石・・
リカにはパール・オブ・アジア・・縦7.6cm 横5cm 厚さ2.8cm 重さ約114gの巨大真珠・・
が授与された。
それを見ながらチャンドラが側の女性に話しかける。
『それぞれの誕生石の授与か・・しかしセンテナリーは金額がつけられんが410億は下らないと言われてる・・イザベラ・エメラルドは3億4千万・・パール・オブ・アジアが4億・・か・・能力の違いとはいえ金額がお姫様はダントツだ・・』
『下世話な話はおよしなさい』と女性。
『ふむ・・お姫様の誕生石はダイヤモンドだが・・誕生花は斑入りチューリップ・・美しい瞳・・か・・17世紀には斑入りのものだけが価値があると思われていたが・・知ってたか・・その当時の斑入りの殆どはウイルスに感染した病気のチューリップだったってことをな・・ヴェスタ』
ヴェスタ・・12人衆の一人・・いや元と言うべきか・・が聞き返す。
『今のチューリップは違うんでしょう』
『まあな・・・だが、どうして甥のバッカス医療局長に12人衆を譲った?・・あんな酒乱には勤まらんよ・・』
『戦乱の時期は終わり・・私の時代じゃないわ・・』髪をかきあげるヴェスタ。
他にも8部衆の天童は大般若長光と言う日本国宝の太刀を授与されていた。
「ねえ守は?」
式典後悠子は守に聞いた。
「ないよ」
「どうして?」
「何もしなったからな」
「うそ」
しかし守はそれ以上話さなかった。
それから
天童少尉は中尉へ
竜崎準尉は少尉
西村悠子少佐は大佐に・・それに伴い制服もセーラータイプからコートタイプに変わった。
ガイア大佐のバリアブルコート(女性用)
戦闘時は戦闘服になる変形コート。
中央から左胸かけてのファスナー・・
右肩から左胸にチェーンが2本・・
左胸ポケットのファスナーは閉じてるが通信機を収納・・
臍の辺りに赤い縦に飾り紐・・
白いベルト・・
スカートにも裾から左右2本腰(上)に向けてファスナーが閉じている・・
七分袖の上腕に金具・・
ブーツは膝下まで、前面にファスナー・・
全体的に黒いコートに金のチェーンと銀のファスナー&留め具
赤い飾り紐、白いベルトがアクセントとなっている・・
西村リカ大尉は少佐
ダイアナ・ルナ・ノーム(都筑留奈)中尉も少佐へ昇進した(特に留奈は病を押しての功績と12人衆のバランスで特進)
クレオパトラの地下20階・・チャンドラ・コーマの部屋、ここで悠子は辞令を受け取り正式な報告書を提出していた。『報告は以上です』
『なかなかネオエスペラント語が板についてきたな・・悪魔のキャンドルサービス・・死の聖火隊か・・プロパガンダとしては十分だな・・しかしタイムィール半島を消しさったのは・・』
『いけませんか?』
『いや・・別に・・ロシアの地震兵器を相手にしたんだ・・いいだろう・・だが告知から一週間猶予を与えたのは何故だ?』
『何故といわれましても』
『避難の時間稼ぎか?・・・だとしたら甘いな・・』
『・・・』
『まあいい・・これで君も有名人だな、最近なんと呼ばれているか知ってるか?』
『いえ』表情を変えず機械的に返答する悠子。
『魔宮の皇女・・』
『魔宮?』
『月の事はトップシークレットだが、みんな薄々感付いている・・大きな力の存在に・・それが魔宮と言う言葉になったんだろう・・』
白亜の通路を杖をつきながら歩く悠子。
ここはクレオパトラと楊貴妃を継ぐ、50階と100階にある空中通路(50階通路は通称スカイウェイ・・100階通路はスペースウェイといわれている・・)の上方、100階の第2空中通路・・
悠子は自室のある楊貴妃の200階に向かう為クレオパトラの地下20階から地上100階までエレベーターで、そしてこの第2空中通路で楊貴妃へ・・後は楊貴妃のエレベーターで200階までの移動となる。
「月宮殿のお姫様・・魔宮の皇女・・か・・」
立ち止まり壁にもたれる・・
ゆっくり杖をあげる・・
「あたしはそんなんじゃないしそんなんになりたくもなかったよっ!」
杖で壁を叩く!
悠子の碧い瞳に一瞬、翠の炎が揺らめく・・そこに乱れ髪が数本はらりとかかった・・
しばらく目を閉じそして開く・・
もう翠の炎は消えていた・・
「私は#☆に・・レ・・ンゲ・・○▲※には・・気をつけろ×◎が・・・」
突然ノイズ交じりの声が・・
「誰?」
振り向くも誰もいない
「・・・・・」
立ち尽くす悠子。
第2節 Case of Yuko (悠子の場合)
7月7日・・日本では七夕・・悠子の運命を変える日は警報ブザーから始まった。
『何事?』
『侵入者です』悠子の問いに警備員が言う
『ガイア本部に?』
連行される浅黒い青年
(まさか・・)
崇だった・・15歳の時に出会った少年・・
『どうするの?』係員に聞く。
『ガイア本部に無断侵入した者は極刑です』
『そんな』
『身内以外は許可なく入れません』
『彼は・・たかしさんはあたしの知り合いで・・』
『知り合いでは駄目です』
『じゃあ婚約者って事で』
『婚約者は身内に入りません』
『じゃあ結婚します・・今結婚します』
悠子の個室・・崇と二人きり・・まず謝った。
「勝手な事してごめんなさい、落ち着いたら離婚するから、でもどうして?」
「君の噂を聞いてたまらず」
「どうして?」
「・・初めて会った時思ったんだ君と結婚するって」
「そんな馬鹿な・・って言うより失望したでしょ?」
「いや・・僕は君と・・」
「・・あたしなんかでいいの?」
「うん」
「あたしってさあ・・あたしって・・本当に悪女だよ・・自分のエゴのためにたくさんの人の幸せ・・んうん生活さえも奪っていく・・そしてきっとこれからも・・」
「友達のためなんだろ?」
「そこまで調べて・・どうなれかも分かっててここまで?」
「うん」
結構密着していたことに気付く悠子。
「なんだか照れるね・・ねえ」
「うん?」
「一つ聞かせて兄弟は多い?」
「兄と妹の3人兄弟だ」
「兄弟が多いっていいね・・あたし独りっ子だから憧れちゃう」
「いいのか?守さんとは・・」
「守は幼馴染じみで留奈の恋人・・で留奈は親友」
「僕は」
「あなたは・・あなたはきっと世界中があたしの敵になっても、味方でいてくれる・・気がする」
「いるよ・・ずっと・・」
見つめり崇
「母は無条件であたしの味方で・・あたしが何をしても許してくれた、逆に父は厳しくて自分の事は自分でしろと、でも足が不自由だし出来ない事も一杯あって助けてもらってるから、自分に出来る事が有ればしなさいって」
「だから友達の為に・・」
「・・と言うか、あたしのせいだから・・」
アンナに会う崇。
「君はあの時の・・どうしてあの時のままなんだ」
「貴方の驚く様な事はまだ一杯有ります、それと悠子さん結構人気が有ったんですよ・・背が低いし車椅子でした、上を見上げる女性の顔って魅力的らしいですね、それにあの眼の色、勘違いじゃありませんね」
「彼女の方こそ僕の事をどう思ってるんだろう」
「それなら大丈夫、彼女の理想の相手は、自分の事を好きになってくれる人だから」
崇が部屋に帰ってくる。
「んっ?」眼鏡をずらして崇を見る悠子。
澄んだ碧い眼に・・ドキッっとする崇。
「どうしてイブの部隊って言うの?」照れ隠しに別の話しをする。
「さあ・・クリスマスイブにロシア侵攻したからとか、女性だけの部隊だからって言うのも聞いたけどはっきりとは知らない・・いつの間にか呼ばれてた」
「・・何か壊れてない?」
「えっ?」
「最初に会った時はペンダント・・次に会った時は車椅子・・何時も何か壊れてたから」
「・・心が・・心が壊れそうだよ・・んうん・・もう壊れてるかも知れない・・」
頭に手
(あっ)
「大丈夫・・僕が直してあげる・・なんだって直してあげる」
(そうだ・・あたし・・この手で頭を撫でてもらうのが好きだったんだ)
「甘えて・・良いのかな・・・」
第3節 Hecate-Project (ヘカテプロジェクト)
アンナがガイアに関する情報をいくつか調べてきた。
組織図にない謎の人物の影
そしてヘカテプロジェクトという謎の言葉。
数日後リカが日本に帰国。
空港に見送る悠子。
「母さんの分も留奈の分もあたしが頑張るから」
「ごめんね悠子わたしがあなたを」
「あたしはもう一人前よ結婚もしたし」
「本当に望んだ結婚なの会ったばかりの人と」
「会うのは三回目だよ」
「そんなに変わらないじゃない」
「こういうのは時間じゃないよ」
「あなたさえ良ければ」
「あたしはいいの」
リカを見送り器質した悠子にアンナが聞く。
「どうでした」
「無事に・・あっと・・定期報告の時間だ」
「チャンドラ局長?」
「・・下種な男よ・・」
悠子はチャンドラの話しが嫌いだった・・どうでもいい話を長々と・・。
『軍服も黒を希望したのは君だそうだが今度は黒人と結婚か・・黒が好きなのかね』
『・・・』
『元々私はブラックベレーと言う名は好かん・・あちこちの部隊にごろごろしてる・・ロシア内務省のOMONとかフランスの第1海兵落下傘部隊とか・・』
『・・・』
『最近は黒虎と言う呼び名も聞くが、どれか一つに決めたらどうかね・・自分で』
『・・・』
『大事な時に腹ぼてにならんようにな・・まあ、落ち着いたら黒い子を産むんだね』
黙って立ち去る悠子
(あなたは何も分かってない・・あたしが黒を選んだのは・・・黒は何にも染まらない・・から・・)
前もチャンドラ局長にあった帰りだった
ふとあのノイズ交じりの声を思い出す・・
「・・レ・・ンゲ・・○▲※には・・気をつけろ×◎が・・・」
(レンゲ・ハイバラには気をつけろ?・・まさかね・・)
首を振る悠子。
その頃世界各地に異変が続出していた・・
アメリカはカリフォルニア州に天使が現れ・・
南米アマゾンには妖精が・・
日本の屋久島に悪魔が出現したのだ。
「悠子さん、たいして驚きませんね」報告の様子を見ていたアンナが言う。
(人魚がいるんだから・・・)と言う言葉は飲み込んだ・・自信がなかったし今回の事と関係あるかどうかも分からなかったから・・
特命を受け悠子は天使の調査、赤い蜃気楼は妖精を追いアマゾンへ、アニーは悪魔探索に屋久島に赴く。
しかし屋久島のアニーからの連絡で悪魔は直ぐに飛び去り以後不明との事。
アンナたちは妖精を発見出来ず・・
「天使は左翼が折れてます、あの樹上までが精一杯のはず』
その頃、悠子は天使をカリフォルニア州保護区のレッドウッドに追い詰めていた。
「高い・・」呟く悠子。
「ハイペリオン・・公式には世界一の高さの木です・・ヒマラヤのカイラス山にこの数年で急成長した巨木・・通称 世界樹が有ると噂になっていますが入山許可の下りない信仰の山カイラスでは比べることも出来ない・・」アンナが言う。
蜃気楼はアマゾンからあっという間に帰ってきた・・ガイアの通信衛星を経由して今や赤い蜃気楼は世界中何処でも実体化可能だった。
「ほんとにそんな木が有るならますます信仰が増し近寄る事も不可能に成って来てます・・」とアンヌも。
「あっ!」悠子が声をあげる・・公式には世界一・・その115.5mの高さから天使が飛び降りた!
折れた翼を精一杯広げ・・
ゆっくり舞い降りる・・
しかし上空十数mの所で完全に左翼が折れ悠子に向かって落ちてくる・・
それでも必死に羽ばたき、たいした衝撃もなく悠子に抱きつく。
『あなたに翼をあげる』囁く天使・・
数枚の羽が悠子に降り注ぐ・・
そして天使はガイア研究班により連れ去られた。
(どうしてガイアは天使や悪魔にそこまで固執するのか・・そして、どうして天使は?)考える悠子。
本部に戻った悠子に休む間もなく、崇の従兄伯父イオルト=ジョン・ユイダックの大統領就任パーティ参加の参加が待っていた。
アメリカ初の純粋な黒人大統領である・・
「大統領!あなたの伯父さまが!」
「従兄伯父・・母の従兄だジョンの弟が来日し日本人と結婚して生まれたのが母だ」
日本初の女性総理、実相江梨緒も出席していた。
そして初めて会う崇の兄妹・・
紹介のアナウンスが流れる。
『タダシ・マイク・イシカワ』・・崇の兄・・優しそうな人だ。
『タカシ・クレア・N-イシカワ』・・(えっ)と思う悠子。
『アキミ・レイラ・イシカワ』・・左目の泣きぼくろが可愛い崇の妹・・
「あなたクレアって言うの?」小声で聞く悠子。
「・・女みたいで昔から嫌だったんだ」
その時
『ユーコ・I-ニシムラ』のアナウンス。
ざわめく室内。
あちこちから悠子に刺さるように声が聞こえる。
『魔宮の皇女だ』
『どうしてガイアの大佐がいるんだ』
戸惑う悠子
その時頭に手が・・
「落ち着いて」小声で言う崇。
その時、みんなを制するように手をあげる大統領イオルト=ジョン。
『私自身いささか影が薄くなってはおりますが決してアメリカはガイアと敵対してはおりません、また今回は私の親族として出席してもらったのです』
まばらながら拍手がおこる・・
小さく頭を下げる悠子。
夕暮れの白亜の双璧・・向かい会うクレオパトラと楊貴妃の外側は10階まで外付けの螺旋非常階段があり背骨の棘突起のようなシルエットを映し出していた・・ボーンベースと言う通称も納得がいく。
「今はここがあたしの居場所・・」崇に寄り添い悠子の姿が楊貴妃内へ消えて行った・・
「あいつにだけは勝てない天才だ」
「えっ?」帰室後、守の話かけに悠子が返す。
「八部衆は天童辰巳と俺、竜崎守・・そして・・ヤクサ・・ガンダルヴァ・・アスラ・・ガルーダ・・キンナラ・・マホラガ・・の八人なんだが・・」
「別名天竜八部って言うのよね・・天竜って天童さんの天と守の竜崎の竜からだよね?」
「いや天童辰己の天と辰=竜と言う人もいるつまり天童のワンマン隊だと・・」
「そんな・・」
「それより少しヘカテプロジェクトの事が分かった・・プロジェクトのテーマは延命不死・・留奈に生かせるかもだ・・まだ詳しい事は不明だが」
この頃ガイア医療団の努力にも関わらず留奈の体内の機械への拒絶反応は進み・・すでに留奈は寝たきりだった。
「あきらめない・・なんとしても留奈を・・」守の言葉は悠子の願いでもあった。
第4節 Marie Antoinette-Digital (マリー・アントワネットD)
しかしガイアの命令は留奈の側にいることを許さず・・新たに悪魔と妖精の探索命令が下った。
悪魔の行方をアンナ、アンヌとアニーの三人で捜索・・屋久島へ・・
悠子はレンゲと共に天使発見の業績を買われアマゾンへ向かう・・
緑の魔境アマゾン・・
(この広大な密林でどうすれば・・)
「簡単に見つかれば苦労はないって・・あたしの足じゃ普通の人よりも密林に入れないし」
「居た!」
「うそっ」
あっさりレンゲ補佐官が妖精を見つける。
ここはアマゾン川中流の町マナウスの町外れ・・
あっさり緑の髪にカゲロウのような羽を持つ妖精にであった・・
(意外と大きい)思う悠子
妖精は小さいとイメージしていた悠子・・それより大きく1メートル弱であった・・
悠子、レンゲ、以下数名の探索員が各自ランドセルタイプのパーソナルジェット(ワレンチナ・テレシコワ)で追う。
作戦コードはチャイカ(かもめ)・・
「宇宙まで行ける訳じゃなし」呟く悠子。
数ヶ所に別れ悠子はレンゲと探索。
少しずつレンゲが遅れてるのに気付かない悠子・・
ガイアの命令以上に何か心に引っかかり必死に追いかけた・・
「駄目だ・・そろそろ燃料が・・もう帰らないと限界・・レンゲちゃん・・レンゲちゃん?」
周りにはだれも居ない・・四方八方緑の密林が眼下に・・
黒い川(ネグロ川)と褐色の川(ソリモンエス川)・・そしてその流れが合流するが(アマゾン河合流点)水は混ざりあわず二筋の流れが下流へと続く、ソリモンエスの奇観が見える。
(はぐれた?)悠子の血の気が引いた・・
あのノイズ交じりの声を思い出す。
「・・レ・・ンゲ・・○▲※には・・気をつけろ×◎が・・・」
「まさか!」
「レンゲ・ハイバラには気をつけろ!」
「レンゲ・ハイバラには気をつけろ!」
「レンゲ・ハイバラには気をつけろ!」
頭の中で声がこだまする・・
ジェットの燃料も尽きうまく半重力フィールドも使えず密林内に着陸。
(いまいち月の機能は制御できない・・アマゾン流域・・ポロロッカと言う逆流も月のせいらしいね・・)
ふと知ってるアマゾンの知識が頭に浮かぶ。
足を引きずりながらゆっくり移動・・
黄土色の川に出た・・対岸まで3Km程(アマゾン川の支流なんだろうか・・それとも別の・・)
濁った川から何かが急に顔をだす・・
「きゃっ」
『お久しぶり』人魚が言った。
『覚えてたんだ』悠子が自分での驚くほど落ち着いて言う。
『良いわね足があって』
『ろくに歩けないんだよ』
『足があるだけでエリートだよ』
(身体がだるい)
『土砂で濁ったこの川は苦手よ・・また会いましょう』
『ちょっと・・町へはどうやって』
もう人魚の姿はなかった・・
それからも密林をさ迷う悠子・・
蚊や蟻がまとわりつく・・次第に疲労が・・妖精捜索どころではない・・
(熱が下がらない)
(41.6℃)
マリーの体温計測値を見る。
その時数名の武装集団が銃を乱射・・顔面を銃弾がかすめ右手も撃たれる。
バリアーが効いてない・・もしかして熱のせいであたしと感知できないんじゃ・・
左目・・潰れたかも知れない・・
(ごめんね崇さん・・あなたのお嫁さんすごい顔になっちゃった)
立とうとするが熱と怪我でふらふら・・
悠子の意識が遠のく・・
その頃現地ではレンゲを中心に・・
ガイア本部でもデータ収集と共に守中心に悠子の捜索が続いていた・・
その時『マリーのノットライフシグナルです』係官が言う。
『故障じゃないのか!』効く守。
『ありえません』
『悠子・・いや西村大佐は・・死んだと・・』
『はい・・そう思われます・・』
『他に可能性はないのか!』
『大佐のマリー・アントワネットDはコードナンバーを打ち込まないと外れません、そして大佐の脈拍を感知しなくなるとノットライフシグナルが発信されます、それが近くの基地局を中継してこの本部に届きます、コードナンバーを打ち込んで外した場合ノットライフシグナルは発信されませんから・・最低でも左手は切り落とされたとか・・失っていると思われます・・しかし信号をたどれば位置が特定可能です』
「そんな」
その頃留奈も意識不明の重篤に陥っていた。
第3章 Biack-Mission (ブラックミッション)
第1節 Penetrator Stratos (ペネトレーターストラトス)
捜索隊が腐乱死体をマナウスの南方約10Kmソリモンエス川の中州で発見・・
「中州といっても長さ12Km幅4Kmは有ります」現地から連絡・・
現地ではレンゲも錯乱。
『わたしのテレシコワの調子さえ悪くならなければ・・』
続けて連絡が入る。
『遺体は身長145cm前後・・黒いガイア将校の軍服を着用・・見つかった靴のサイズ21.cm・・指輪も発見サイズ1号・・内側に文字From T To Y・・下着は白』
通信を聞いた守
「崇さん」
「・・・」涙を流す崇
通信は続く『ハイバラ補佐官到着しました、確認を・・補佐官』
泣き叫ぶレンゲの声・・駄目押しのようなものだった・・アンヌを派遣し調べるまでもなく・・
(絶望か・・しかし信じられない)守の思いは崇はじめ、みんなが思っていた。
現地では『大佐・・大佐は何にも染まらない黒をまとってましたが心は純真でありたいと白のランジェリーを』泣き叫ぶレンゲ補佐官。
悲しみに沈む崇たち・・
・・しかしその頃密かに謎の車が開発されていた
『これは』聞く守。
『大佐の要請で開発中です』開発員が言う。
『しかし悠子・・いや西村大佐は』
『我々は大佐の生存を信じています』
それは黒い装甲車
運転席は電動車椅子が変形して競りだし式スロープで乗り込み車軸が変形固定される更に助手席はサブハンドルが内蔵・・
さらに科学班の人々が続ける。
『もう一つ光る成層圏プロジェクトが進行中です・・』
『以前から地球と月の科学力の融合を試みてましたが、これが一つの答えです』
『月に打ち込まれた3本の槍型探査機ペネトレーターの一つを月のコンピューターを駆使し改造中・・
黒虎の牙となりえます』
その頃ガイアで、ある噂が広がっていた・・8人委員会委員長テラが衰えを見せ始めた天帝ジュピターに代わりアポロ太陽エネルギー開発局長代理を次期皇帝にと考えていると言う・・
しかしジュピターは2代目天帝であり3代目皇帝である・・
初代皇帝・・天帝ユーナラス・・
先代皇帝・・地帝サターン・・そして
現皇帝・・2代目天帝ジュピター・・
交代のサイクルが早すぎる・・
またヘカテプロジェクトの続報も入ってくる。
「不死身 不死 長寿を研究してるらしいです」とアンナ。
「例えばクマムシ・・アメーバ・・アイスランドガイ・・ベニクラゲ・・樹木等」アンヌも続ける。
「金が手に入ると地位・・そして次は永遠の命を欲するものだ・・命か・・悠子の命は・・」守が吐き出す様に言う。
「天使や悪魔はその実験体みたいです」とアンナ。
それからしばらくして事態は動いた。
悠子の遺体発見の下流約10Km・・ソリモンエスの奇観の終わろうという地点で河面に漂う不思議な繭が見つかる・・大きさ約1.6m・・その中に優しく包まれた女性発見。
『アジア人です』現地から。
『映像を』守が言う。
『今は無理です』ガイアの係官が言う。
そこへ新たな通信が・・
『髪はブラックかなり艶があります・・光の当たる角度で青っぽくも緑っぽくも・・場合によって紫や赤にも見える・・膝までのロングヘアー・・』
「長さが違う・・」守が呟く。
『身長145.5cm、体重41kg B72cm W60cm H78cm 足のサイズ21cm・・眼の色は・・』
『眼の色は?』守が尋ねる。
『眼の色はブルー・・』
捜索ルームにどよめきが走る。
(もしかして・・)
『指輪のサイズは?薬指の』聞く守。
『指輪はしてませんが、細い指ですね・・円周で41cm弱、直径で13cmって所ですか・・少尉の国では1号って所ですかね』
「足が21cm・・指輪のサイズが1号・・共に一千人に一人の割合です・・」とアンナ。
(髪の長さは違うがここまで一致するのはもしかして・・)
みんなに希望の光が・・
第2節 Revival (復活)
通信は続く・・
『本人の意識回復、西村-I悠子だと言ってます』
沸き上がる歓声。
数日後、女性が特別機アメリア・イヤハートで帰国。
長い髪だが・・
「悠子だ間違いない」
崇も守も確認した。
病室・・ベッドに座る悠子。
崇にあらためて指輪を薬指にはめてもらう・・
守からはマリー・アントワネットDが・・
「気がついたら繭の中にいた」ゆっくりしゃべる悠子。
「大怪我してからの記憶がない」
「月による一種のクローン技術かも知れません」アンヌが言う。
「大佐・・良かった!・・」
泣きながら抱きつくレンゲ・・
「・・レ・・ンゲ・・○▲※には・・気をつけろ×◎が・・・」
(そんなはず・・ない・・)
悠子はあの声を否定した・・
その頃天童にチャンドラの呼び出しがあった。
『この計画で・・出来るか』
『もちろんですが・・よろしいので?部下を裏切るのでは?』
『あのお方の命令だ・・逆らえん・・ただし空と海が混ざる時は気をつけろ・・・そして空が海に変わる時全ては消滅する・・』
『空と海が混ざる?』天童が聞き返す。
『ただの空と海じゃない・・・君の国の・・そう・・日本晴れの空と南の珊瑚礁の海だ』
『局長はご覧になった事があるのですか?』
『ニ度な・・』煙草をもみ消すチャンドラ。
『一度目は大きな痛手を被り・・二度目には全てを失った・・・』
天童が退室した後チャンドラは呟くように言った。
『ガイア・・何故あなたは、せっかく手中に納めた虎を敵にまわすのか・・・まっ・・しかし・・このごたごたで、もしかして私にいい目が転がって来るかも知れん』
第3節 8person Committee (8人委員会)
「西塔クレオパトラと東塔楊貴妃は地下25階まで・・それからはフロアが一つになった区域が更に地下へ・・それがヘレネ・・軍事、政治共用エリア・・ここにヘカテプロジェクトの中心がある・・気になるのはヒトゲノムプロジェクト・・これが大きな意味をもつかも」病室で守が新たな調査結果を言う。
「ヒトのDNAを解析してる・・特に悠子さんを・・」アンヌも続ける。
そのころ第一空中通路で天童が崇に声をかけていた。
「石川特佐・・」
「あなたは」
「天童中尉です」
(大佐と結婚しただけで特別扱いか!)
近づく天童。
「それとLと呼ばれている騎士が守るガイアがいる・・」守がそんな事態は知らず悠子に説明を続けていた。
「天帝の上がいるの?」
その時電話が。
「悠子さん」電話をとったアンヌが言う。
「えっ崇さんを預かった」放心状態の悠子。
(崇さんを失う・・)
周りの声も聞こえない。
(どうして・・来月は結婚記念日なんだよ・・一年たってないじゃない・・)
第4節 Abvss of Gaia (ガイアの深淵)
ベッドから降りようとして転ぶ悠子。
(足が・・動かない)
「こんな時に」困惑する悠子。
「どうして!どうして自分の身体なのに思い通りにならないの!お願い今だけで良い!動いて!」
自分の足を泣きながら叩く悠子。
「悠子」守が声を掛ける。
「今出来る事をするしかない」ようやく落ち着く悠子。
2日後・・ブラックミッション開発室
『ご指示の通り完成しましたブラックミッションです・・コードネームはアン・サリバン・・奇跡を起こしてください』
『奇跡?』開発員の言葉に聞く悠子。
『我々の想いは大佐と同じです、我々にできる事をしました、大佐も・・』
『大佐の国では奇跡の人はヘレン・ケラーと思われているようですが、本当はサリバン女史の事を指しているのです』別の開発員も続ける。
『ありがとう、皆さんの気持受け取りました、あたしだけじゃない・・みんなの力で奇跡を起こしましょう』
バリアブルコート変形・・軍服モードから戦闘服モードに・・
左胸からのファスナーを少し下げ襟を開く。
その為、右肩から左胸のチェーンは右肩から右胸に移動(軍服の飾緒のように)
左胸ポケットのファスナーを開き通信機を勲章のように下げる・・
縦についていた飾り紐の下を外し右横腹に(横に)つけなおす・・
ベルトをゆるめ斜めに留める・・
スカートの左右ファスナーを広げマチ部分を広げる・・
袖を折り上げ内側の紐が外側にくるまで折るとそれを上腕の金具で留める・・
ブーツのファスナーを少しさげ上部を折り返す
耳をだしイヤリングをつける(留奈からのプレゼント)・・
メガネにチェーンをつける・・
ブラックベレーを被る・・
「戦闘開始よ!」
皮肉にも大佐として初めての戦闘がガイアビル内とは・・
「クレオパトラと楊貴妃それぞれの地下25階にある軍と政治の中心フロア最下層・・更にその下には共通区域のヘレネが地下40階まで・・8人委員会の拠点です・・27、28階が指揮ブロック・・以下各委員のプライベートルーム及び兵器の格納庫・・シェルター・・不明の箇所も多いです」アンナが調査結果を報告。
「ここまでが地下約180~230メートル更に・・」
「何もないんじゃ?」
「ヘレネの粗中央に一つだけエレベーターが更に下に延びてます・・此処がガイアの深淵・・」
第4章 Biack-Angel (ブラックエンジェル)
第1節 Daihannyanagamitsu (大般若長光)
クレオパトラの地下18階・・貨物用直通エレベーターでアン・サリバンごと移動・・
アン・サリバンの映像投影型光学迷彩(車内)により車内からも、ほぼ死角なしで周囲が見渡せるが今のところ人影は無い・・しかし直通エレベーターはここまで・・
軍専用エレベーターに移動・・
軍の本拠地は眼下に・・
(なにを仕掛けてくる?) しかしなんの妨害もなく通過・・
地下26階・・共通区域ヘレネの最上部・・といっても地下180m・・この下が8人委員会の指揮ブロック・・
しかしここでまたエレベーターが途切れる・・
「こっちです」アンヌの誘導にゆっくりアン・サリバンを進める悠子。
そこに四天王が立ちふさがる。
ドリタラーシュトラ
ヴィルバクシャ
ヴィルーダカ
ヴァイシュラヴァナ
四人が一同に会するなどめったにないこと・・
「守お願い」
電動車椅子で降りる悠子。
「どのみちアン・サリバンでこれ以上は無理」
車椅子を進める。
助手席のサブハンドルを出し守が叫ぶ『四天王俺が相手だ』
アンから催涙弾ランチャーがせりだす・・
ヘレネの両端を直結する通路・・通称100m通路・・そのほぼ 中央で天童が待ち受ける。
「どちらに逃げても50mはある・・逃げ場はない・・大般若長光の錆びにしてくれる」刀長73.63cmの太刀を抜く天童。
「大般若長光は鎌倉時代の刀工、長光の作で国宝の太刀です・・足利義輝から重臣 三好長慶・・やがて織田信長・・さらに徳川家康・・奥平信昌・・松平忠明・・愛刀家、伊東巳代冶伯爵から東京国立博物館・・そしてついに俺の手に入った・・大佐を斬るのにもってこいだと思いませんかどうです?」
「何があろうと!中央突破だ」
(奇しくも今日は6月8日・・テスラン・ド・ポールが成層圏を発見した日・・)
「Eye for eye,tooth for tooth,hand for hand,foot for foot,burning for burning,wound for wound,stripe for stripe,and fang for fang.」呟く悠子。
「なにっ」建物のゆれに天童が叫ぶ。
はるかなる上空、成層圏スポラディックD層よりペネトレーターストラトスが飛来。
楊貴妃の6階からエレベーターの穴を通り地下へ向かう。
100m通路へ到着・・悠子の右手にやってくる。
槍部が約1.5m・・後方の反重力機関部が約50cm・・計2m程の大きな槍・・
「天の牙と虎の牙か」
守が駆けつける・・
「四天王は足止めした・・アン・サリバンは走行不能になったけどな」
「さすがだな竜崎・・俺はおまえを認めてる、誰が何と言おうと天竜の竜はおまえだ・・しかし竜虎揃おうとも天の配剤の前では無力だ」
長光を構える天童「行くよおちびさん」
「あたしが140cmだからってなめるな!あなただって140cmの時はあったはず」
ペネトレーターを構える悠子。
「過去のことだ、既に超えている」
そこへ割って入る守!
「崇くんを拐ったのはお前か」殴りかかる守、避ける天童。
(竜崎少尉があんなに怒るなんて・・龍の逆鱗に触れたか?・・)
一旦引く天童。
部下が駆け寄る
『大丈夫ですか』
『負けた事が無いのが大佐の弱点・・凄過ぎる能力もな・・戦車に乗ってて竹やりで向かう者に本気になれるか?・・・その隙をつく!』長光の柄を持ち深呼吸。
『行くぞ』
車椅子の悠子に向かい大般若長光一閃!
飛ぶ悠子のベレー帽・・返す刀が悠子の髪と左頬を切る、チェーンでぶら下がる眼鏡。
さらに返す刀がチェーンを断つ・・落ちる眼鏡・・
「せっかく1ヶ月もかけて伸ばした髪なのに・・」
ほとんど自動的に動くペネトレーターが大般若を遮る。
「冗談ですか?」
再び刀をふる天童。
下がる車椅子。
「もちろん」
「余裕ですね」
刀を構える。
「余裕なんて・・ない」ペネトレーターを構え直す悠子。
対峙する二人。
「本気・・出してないでしょう、あなたの居合いで車椅子のあたしに届かない訳がない」
「あなたを本気にさせない為ですよ」答える天童。
ペネトレーターを投げる悠子。
それを避け悠子に接近する天童。
ふりおろす長光!
戻ってきたペネトレーターが割って入る!
眼と眼が合う!
「中尉・・あたしはあなたが嫌いよ」
「残念ですね、大佐殿・・私はあなたの事、好きですよ」
引いた刀を舐める。
「強い者が好きだ・・倒したくなる!」
刀を構え直す天童・・
その時彼は見た・・
悠子のスカイブルーの眼にエメラルドグリーンの揺らめきが・・・それが次第に大きくなり全てが翠に変わる・・同時に凄まじい殺気が襲う。
瞬間、天童はチャンドラ局長の言葉を理解した。
日本晴れ=スカイブルー
珊瑚礁の海=エメラルドグリーン
悠子の眼の色がそうだったのだ
(全てが消滅?・・・)飛び退く天童
バランスを崩しながらペネトレーターからビームを発射する悠子。
(何が起こる?)
避ける天童。
車椅子から転がり落ちる悠子。
第2節 Gravity-Wing (G-ウイング)
落下する悠子の背に黒い鷲のような翼が現れる・・
これが天使に託された翼・・G-ウィング・・が覚醒した まだ試作形と言えるものだが・・
浮かび上がる悠子・・
天童の部下たちも浮かび上がり天井に激突!
極局地的な重力コントロール
黒い翼は光すら脱出出来ないブラックホール・・いや完全な黒体かも知れない・・
(虎に翼か・・・無敵だな)フっと笑う天童。
重力のある地球上で逃れられない共通の恐怖・・それは落下だと言う・・上に向かって落とす・・・この逃れられない恐怖・・
ブラック・エンジェル 降臨・・
絶対の恐怖を産む・・黒衣をまとった黒い翼の天使・・降り立つ・・・
(しかし建物内では上に落ちるのはまだましだ・・それより・・
来た!)
横に重力が・・100m通路がそのまま50mの奈落に・・
必死に近くの手すりやドアノブに捕まる天童や部下
しかしさらに
(息が出来ない)
酸素がG-ウィングに吸い込まれる
(陸で溺れる?)
秒刻みで死が迫る
「死へのカウントダウンを刻め!」叫ぶ悠子を中心に爆心のような光が広がる
悠子が暴走
「止めろ悠子!」守が叫ぶ。
頭に浮かぶ、崇の手・・頭を撫でてくれる・・
「美しい瞳である為には、他人の美点を探しなさい。オードリー・ヘップバーンの・・」
ようやく落ち着く
(息が出来る)
天童がほっと
横に引っ張られる力も落下のスピードも緩く
「消滅は免れたようだ・・大佐の優しさか・・その優しさに賭けて見るのもいいかも知れない・・」床に座り込み一息ついて
「行けっ・・黒い虎よ・・白い獅子が待っている・・」
「白い獅子?」
「ガイアの別称だ・・会った事はないが・・大佐あなたは優しくそして強い」
「本当に強い人は優しいんですよ・・」とアンナ
「触るぞ」
悠子を車椅子に乗せる守。
「いちいち言わなくってもいいって」
「崇君に悪いだろ」
「はい?」
「行け・・四天王もそろそろ来るだろうが後は俺たちが・・」
「・・んっ・・」
アンナが車椅子を押し次のエレベーターへ、
「手動にもなるタイプでよかったですね・・」押しながらアンナが言う。
次のエレベーター前に到着
「応急ですが・・ナートテープとカット絆処置しておきました」
アンナが救急パックの蓋を閉めながら言う。
切れた眼鏡チェーンを外し眼鏡をかける悠子
「ありがと」
「痛みます?」
「んうん・・」
不揃いの長い髪をサバイバルナイフで切る
まだ散切りだが・・
「帰ったら綺麗に調髪しますから」
「んっ・・」
エレベーターで地下40階に到着
次はガイアの深淵への最後のエレベーター・・
妨害は
「大将・・」エレベーター前にサクラデヴァナム大将が。
『・・誤解があるようだが・・私の配下の四天王は八部衆の上司ではない・・また私自身、支配欲もない・・私は軍人だ・・それだけだ・・』
近づいてくるサクラデヴァナム。
『まあ四天王には君たちの決意を確認してもらったが』
『通っていいの?』
『よしなに・・』さらに語りかける。
『私の妻は八部衆のアスラの娘なのだよ・・』
『帝都護衛部隊長の?』
『私の信じたガイアが間違った方向へ向かうなら正さねばならない・・行きたまえ』
サクラデヴァナムの横を通過・・
立っているだけのサクラデヴァナムだが凄い威圧感を感じる
そしてエレベーター入り口が目の前に・・
「これが」
ガイアの深淵への入口・・
振り向きサクラデヴァナムが言う『これは覚えておけ「深淵を覗く者は深淵からも覗かれている・・」と言う事を』
『・・はい』
エレベーターに乗り込む二人・・これで一杯の小さな空間
「何時も私が車椅子を押してましたね、今回も行ける所まで御供します」アンナが言う
静かに・・だが確実に降りて行くエレベーター
「今、地下350メートルという処でしょうか、目的地は地下1423メートル・・エリーザベト・・ロングマルチラジオの私達・・通信衛星経由で地球上何処でも実体化可能でしたが此処は・・そろそろ限界です」
「アンナ」
「悠子さんなら大丈夫ですよ悠子さんは・・」
途中で消える・・電波が途切れた・・
さらに何処までも降りていくエレベーター
車椅子に悠子一人・・
(あたしなら大丈夫・・本当?・・今にも挫けそうだよ・・
その前にこのエレベーターが途中で止まらないと誰が言える・・んうん止めない様に上でみんなが頑張ってくれてるのはわかるけど・・)
父の姿が浮かぶ「お前は身体が不自由だ、だからといって甘えるな、自分の事は自分でする、それでも助けてもらう事が多い、だから嫌な事でも自分に出来る事は率先してやりなさい」
続いて母が浮かぶ「わたしの事はどんなにけなしても良いし、どんなに愚痴を言っても良い、だから他の人には優しくあって」
さらにアンナ「大丈夫ですよ」
アンヌ「私達が付いてます」
アニー「何時でも来ますよ」
守「俺が守ってやる」
留奈「一生友達でいて・・」
レンゲ「た・い・さっ!」
開発スタッフ『奇跡をおこしましょう』
色々な人々の顔が浮かぶ、
そして崇・・「美しい瞳である為には他人の美点を探しなさい・・オードリー・ヘップバーンの言葉だよ」
(駄目だあたし・・今凄く敵対する人を憎んでる・・)
深呼吸・・
「崇さん知ってた、あたしあなたの腕枕だとぐっすり眠れたんだよ・・おかげで最近寝不足だよ・・そしてあなたに頭を撫でてもらうのがとても好きだった・・
「止まった」
(ここがエリーザベト・・・)
扉が開く。
「地下1423メートル・・・」誰に言うでもなく呟く悠子。
第3節 takashi Terra-Tellus-Gaia Ⅳ and L (崇、テラ・テルス・ガイアⅣ世、そしてL)
細い通路の先に部屋が・・
その謎の部屋へ向かう。
そこへ立ちはだかる騎士!
『あなたがL』
掴みかかるL!
壊れる眼鏡!
「☆○◎◇△□」
聞き取れない電子音!
ついで・・
「あなたの黒髪が大好き・・あたしなんて赤茶けた髪だし・・」
目を見張る悠子。
「留奈?」
留奈は身体の殆んどをロボット化する事で拒絶反応を防いでいたのだ・・しかし拒絶反応は残された脳にまで・・
ギクシャクした動きの全身機械のL
激しく顔をふる悠子
「死別したより悲しい再会があるなんて」
再びLの意識が遠退き
記憶も意識もなく、悠子に攻撃してくるL
「あなたはもう留奈じゃない」
ムーンレーザー一閃。
Lの右足が壊れメカから火花が
「留奈・・ごめん・・ごめんね・・もういいから・・もういいから・・ゆっくり休んで・・守もごめん・・でも・・あたし・・これ以上留奈を苦しめることは出来ない・・」首筋にレーザー
倒れるL
手足を震わせるL・・やがて作動停止するL
「ごめんね・・ごめんね・・留奈・・全部あたしが悪いんだね・・ごめん・・留奈・・」
・・・永遠とも感じられる静寂が・・・
「・・・あたし・・行かなきゃ・・待ってる人がいるから・・きっと戻ってくるから・・ね・・留奈・・行かせてね・・・」
車椅子を進める悠子・・
ついに謎の部屋に入る。
(ここにガイアが)
部屋の奥・・薄暗い部屋の隅に上に続く長い階段・・その最上に・・
『さすが亜空間レーザー・・ここまで届くとは・・』階段の上の玉座にガイア・・その顔は・・
悠子そっくりだが年齢は10歳前後・・銀髪で透き通るような肌・・
悠子より薄い病的な蒼い眼。
『あなたが白い獅子・・ガイア?』・・
『わたしはテラ・テルス・ガイアⅣ世・・』
『テラ?・・まさか8人委員会の委員長』
『彼女は私の傀儡に過ぎない・・お姫様・・そんなにこのオスが欲しいのか?まるで普通のホモ・サピエンスのメスじゃないか』
玉座の横に崇・・ぐったりしている・・
「悠子・・」搾り出すように言う・・
『あたしは普通の女だ!それ以上でも、それ以下でもない!』
『その巨大な力が・・その小さな身体が・・その碧い瞳が・・その満足に歩けない足が・・普通だと言うのか!』
段差で車椅子から転落、這いながら前進する悠子・・
『普通だ・・あたしは・・いや他の誰だって・・人にない能力があったり・・身体が大きかろうが小さかろうが・・眼や肌の色が違ったって・・ましてや障害があろうと無かろうと、みんな普通なんだ、人と違っていて当たり前・・それがそれぞれの個性だ!』
『私は違うぞ!私は神の領域によって誕生した!』
ゆっくり玉座から階段を降りるガイア。
『情報化社会とは恐ろしいものだ・・自分達が作ったはずの私にコンピューターをハッキングされただけで皆、私の部下に成り下がっている』
銀髪、透き通るような肌、薄い蒼い眼
悠子の眼が翠に・・
『分かりやすい小娘だ、いや亭主持ちだったな小娘は失礼か』ガイアの目が緋色に・・
『たかがヒトという種類のサルの分際で・・たかがサルにこの私が』
悠子を目前に倒れるガイア。
『ガイア』
『興奮しすぎた・・私の脳の血管はもう耐えられない・・』
『ガイア・・』這っていく悠子
『気に病む事は無い・・私の神経は既に壊死が始まっていたのだ・・』ガイアの手を握る悠子。
『ヒトは動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳網・サル目・真亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種に属する生物の1種・・すなわちサルの一種である・・・だがそのサルの一種に創られた私はいったい・・・』
ガイアの眼が薄い蒼に・・
悠子の眼も碧に・・・
『血の成せる業か・・一度会いたかった・・私が動けるうちに・・』
『ガイア・・』
『あなたはいいわ』悠子を見つめるガイア。
『私にはこの空間だけが全てだった・・私の肌は日の光・・紫外線に耐えられない・・肌だけじゃない髪も・・僅かに眼に色素があるだけ・・それも先程の通り興奮すると僅かな色素すら血流が凌駕してしまう・・・でも一度でいい・・この狭い薄暗い人工の光しかない世界から出たかった・・でも無理・・日の光の元では私の肌は火傷を負い眼を開けることすら出来ないだろう・・』
『少し・・分かるよ・・あたしだって人より光が眩しい・・』
『でも暗闇では人より見え易いだろう・・』少し微笑むガイア。
『・・そうね・・』
ゆっくり眼を閉じるガイア・・・その手が垂れ下がる・・
『ガイア?・・』悠子の腕のガイアは既に呼吸をしていなかった。
『ガイアは悠子のデータを取った時の血液から作られた4体のクローン・・Ⅳ世はその内の最後の1体』
突然の声!
『誰?』
『Ⅰ世Ⅱ世はすぐ死亡』何処からか声が続く・・
『Ⅲ世は脱走 その時高圧電流の柵や警備員に撃たれ手足を無くすも「わたしは蛇になる、手がなくても、足がなくても、猿より上手く木にのぼり魚より上手く泳いで誰に嫌われても、しぶとく生き延び最後には喉笛に喰らいつく!」・・と言い残し消えた・・』
『どこ?』
ゴルフボール大のグレーの金属球が前方に浮遊している。
『あなたは?』
「紫のヘケート」
「日本語!」
瞬間、破裂し壊れる金属球・・
(あれは・・・)
ガイアの亡骸を見る。
それは10年前の自分の顔・・
『さよならガイア・・あたしの姉妹・・いえあたし自身』
「傷残っちゃうね」
玉座を降りて来た崇が言う。
「んっ・・どうせたいした顔じゃないから」
「僕なんかのために・・・」
「あたしが来たかったの・・」
廊下のLの残骸を見る。
「辛いことも有ったけど・・来て良かった」
「僕の為にも身体は大事にしてほしいんだ」
「・・・ん・・」頭に手が・・
「疲れちゃった・・もう動けないや・・一つお願いがあるの・・・」
「うん?」
「あなたも疲れてて悪いけど・・連れてって・・・上へ・・日の当る所へ・・みんなの所へ・・・」
「・・わかった」
「ご免・・少し休ませて・・・」崇の腕の中で目を閉じる悠子・・
「悠子?」
寝息を立てている。
悠子を抱き上げる崇。
「・・みんなの所に帰ろう・・上へ・・光の差す処へ・・・」
ゆっくりエレベーターへ歩き出す、後ろを振り返る・・・ガイアの亡骸が・・そして前方にはLの残骸・・
「後で迎えに来ます、しばらく待っていて下さい」
Lの横を通り過ぎる・・カツコツ・・崇の足音だけが狭く長い廊下に響いていた・・・
第4節 To Japan (日本へ)
約1ヶ月後・・ゆったりゆれる船内の椅子に座る悠子・・頬にはガーゼ、髪はきちんと元のボブヘアー。
(同じ度の眼鏡なのに、見えにくい・・また眼が悪くなったかな~)
眼鏡を外し眺める。
「崇君はもう日本に着いた頃だな」守が近づいて来て言う。
「そうね・・」
「留奈がああなったのは俺のせいだ」
「んっ?」
「俺が凱旋時の贈呈の代わりに留奈を助けてと頼んだから」
「守・・・留奈は幸せな事ってあったのかな」中空を見つめる悠子。
「足の具合はどうだ?」
「・・だいぶいい・・」
悠子は不思議なほど落着いている自分に少し驚いていた・・あんな事があったのに・・留奈を失ったのに・・耐えられないと思ったのに・・
お腹は空くし・・夜は眠くなる・・悲しいけれど、号泣はしない・・
感情が鈍麻している?・・心に空いた穴が大きすぎて理解出来てないのかな・・とも思う・・
もし全てを理解したらその時は・・どうなるのか?・・
しかし・・また別の事を考えてしまう・・
(ガイアから完全に離れたアメリカは・・その日、7月4日はアメリカにとって2度目の独立記念日となった・・そして後3日であたしと崇さんの最初の・・・)
船窓から海を見つめる悠子。
そこへアンナが統一国家誕生のニュースを持って来た。
「初代元首はヘンケルス・チギュン・ポゥです、御存知ですか?」
「知らない」(あたしの知らない所で世界は動いてたって事ね・・)
あれだけ大きく成った、ガイアを秘密裏に潰すのは無理、内部からの破壊・・しかもガイアの指揮系統が残っていて、尚且つ新体制が出きれば・・
(アンナ達の計画通りか・・これじゃあ人形使いじゃなく人形使われだな・・)
「悠子さんが元首になっても良かったですね・・御希望ならそう言う方向で進めましたのに」
「いらない・・あたしは、そんなんになりたくないよ」
「じゃあ何になりたいんです?」
「・・そうね・・・・そうだ、あたしお母さんになりたい、出きればあたしのお母さんの様に優しいお母さん・・・無理?」
「悠子さんは優しいですよ・・でも」
「ん?」
「・・いえ」(ハイブリッド理論は留奈さんだけに当てはまる物では有りません・・赤い血と青い血の混血・・また動物にも異なる種類間に生まれた雑種は優れていると言う雑種強生と言う言葉が有りますがそうして生まれたF1には子供が生まれない事もあるんですよレオポンやラマのように・・其れより悠子さんの心には時限爆弾がセットされたのかも知れない・・其のタイマーがゼロになるのは明日か・・一年後か・・其れとも十年・・百年先か?・・)
そんなアンナの思いは悠子に届かず・・
再び船窓を見つめる悠子。
(後3日で七夕・・つまり、あたしと崇さんの初めての結婚記念日・・・
そしてまた・・あの日がやってくる7月20日・・日本では制定当初の海の日と同じ・・あの日が・・・)
窓から外を見る悠子・・
光の降り注ぐ広大な太平洋上を医療兼輸送運搬船フローレンス・ナイチンゲールは一路、日本を目指していた。
ありがとうございました、読んで頂けた方に感謝致します・・
次回、第4部 月の地平線・・
舞台は再び日本へ(外国へも行きますが)・・
いよいよ大詰め、ガイアⅢ世や謎の敵・・
さらに宇宙から飛来する謎の物体&地球にも異変が・・
紫のヘケートやヘカテプロジェクト・・の謎も・・
次のお話も読んで頂ければ嬉しいです、よろしくお願い致します・・・