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第2部 黄金の魔城

いよいよ月宮殿のお姫様・・西村悠子・・始動です・・

物語中のN線は現代では否定されてますがわざと使いました・・やっぱりあった・・新しいのがあった・・この世界では否定されてない・・のどれかだとお思い下さい・・・

 第1章 Luna

  第1節 海辺にて

(海へ来たのは3年ぶりだ、あたしは泳げなかったし砂浜は車輪に絡みつきあたしの動きを封じてしまう、でもこの高台にあるパーキングは十分過ぎる硬度で、あたしと車椅子を支えてくれていた)


 心の声が此処まで鮮明にキャッチ出来るのは珍しい、余程心が開かれていたのだろう。稍青味掛かった黒髪にブルーの瞳、身長144センチと15歳にしては小柄なボブヘアーの車椅子の少女・・遂に見付けた西村悠子・・


 彼女は自分の後方100メートル位の所にゴルフボール大のCCDカメラの付いたグレーの球体が浮遊しているのに気付いていない・・此れが私の目・・私はヘケート・・紫のヘケート・・取り敢えずは彼女を観察するのが私の役目・・


 ・・来た・・身長1メートル98センチの葉巻を銜えたブラウンの髪と顎鬚、グレーの瞳のアメリカ人・・彼こそセス・・MIS(エムアイエス)日本支部の誇る3人の科学者の長・・セス・ローゼンバーグだ・・


 逃げようとする悠子だがフェンスにぶつかり1メートルも動けない、何を話しているのか集音マイクを使わずとも容易に想像出来る。

彼は彼女にフェイントとプレッシャーを掛けつつ宣戦布告している・・


「悠子さん」11、2才の人形のような身体つきの少女が走ってくる、赤いコート姿ではないが、あれは赤い蜃気楼の1人アンナ・・

其処へ自動車がやってくる。

 下り立ったのは悠子の幼なじみ竜崎守・・

突然の降雨。

竜崎は悠子を抱え上げ車に乗せる。


 悠子とアンナが、竜崎の車に乗って立ち去った後、セスは離れたところで待っていたもう一人のアメリカ人と接触し会話を交わしている。彼が2人目の科学者レナード・ボーン・・

セスはレナードにリアンナ計画の中止とアルテミス計画を告げた。


 悠子が都筑留奈の行方が分からなくなった事を知るのにそう時間はかからないだろう。


  第2節 MIS日本支部

 留奈の行方不明に対して悠子たちは必死の捜索を開始!

一週間かかったがアンナが留奈の足跡(そくせき)から拉致された事を突き止め・・

アンヌの分析で留奈の監禁されている建物とそこの所有者も判明する・・


 そこはMIS日本支部・・

MISとはMoon Inspection Secret=月監査機密機関・・アメリカに本部があり今回の事は日本支部の仕業・・

支部長のチャンドラ・コーマ以下

3人の科学者セス・ローゼンバーグ

レナード・ボーン

ネビル・スマイト

さらに数十人の構成員・・

アンナ複製計画=リアンナ計画を推進していたが計画変更がなされた様子。


 おそらく先頃完成した月面基地「シン」が月の秘密に気付いたのだろう

「遂にこの時が」と健二。

「だからってどうして留奈がっ」悠子が叫ぶ。


  第3節 目覚めの時

「悠子!」悠子がアンヌと駅員の助けで発車間近の電車に乗りかけた時、駆けつけたリカが叫ぶ。

「ごめん行かせて」懇願する悠子に胸のペンダントを引き千切り投げるリカ!

窓から手を伸ばし受け取る悠子・・「母さん・・」直後、電車が動きだす。

アンナが悠子に寄り添う・・赤いコートは実体化していないも赤いセーターとズボン姿はは結構目立っていた・・


「リカさん・・」リカの近くにアンヌが実体化して言った。

「悠子の足は」呟くリカ。

「えっ」

「悠子の足が悪いのはわたしの病的な遺伝子のせい?」

「そんな事は・・」

「じゃあ、あの能力を小さな身体で支え切れない?・・それとも心理的なもの?・・あの事件が・・あの5歳の時の・・」


 電車の中で金色の通信機(ペンダント)を見つめる悠子もまた、5歳の頃の事を考えていた・・

目立つ事を避ける為かアンナが車椅子を折り畳み席を外す・・

 その頃の悠子は元気に走りまわる女の子だったが・・

 物心のついた時には何となく母、リカの不思議な能力に気付いていた・・

リカがその胸のペンダントで天空から光を呼べることを・・

その事が特殊な事とは分からずに・・

 ある日悠子は母のペンダントをこっそり持ち出し空き地に来ていた。

「えい」

「やっ」

ペンダントを握り締め掛け声を掛けるも何も起こらない・・

ペンダントを見つめ呟く・・

「んっ?・・おかしいなあ・・」

「んーー」ペンダントをあれこれいじる。


しかし何も起こらない・・

遂には「ねえ・・悠子のお願い聞いて」とお願いなどして・・

その時!

ピカッ・・何かが光り地面が弾けた。

「何?」

ペンダントを強く握り締める悠子・・

恐る恐るペンダントを掲げ、声を出す・・

「やっ」

また光り地面が弾ける。

今度は土管を指差し・・

「それっ」

積んであった土管が全て真っ二つに!

「なーんだ簡単じゃん」得意げな悠子・・

と・・

そこへ犬が近づいてくる

「ヘヘッ」ちょっとした悪戯心だった・・

犬に石を投げた・・吠える犬!

一瞬びびる悠子・・しかし・・

「何よあたしは強いのよ」強気で言う。

近づく犬

後ずさりする悠子・・

「来ないで」

しかし犬はなおも近づく・・

吠える犬・・

精一杯の声を出す悠子・・

「お前なんか・・お前なんか!・・死んじゃえ!!」その途端、光が犬の下半身を直撃!

一瞬にして下半身が消滅した犬は虚ろな目でそれでも前足だけで2、3歩と悠子に近づく・・

血は一滴も出ていない・・ただ存在しないだけ・・

さらに近づく犬・・

声にならない悲鳴をあげる悠子・・

もはや悠子には犬のうつろな目しか映っていなかった・・

尚も近づく犬・・

悠子の意識が途切れた直後・・犬は悠子の手前数メートルの所で動かなくなっていた・・


 駆けつけたリカと健二、それにアンナたちが見たものは・・

真っ二つに折れ散らばっている数本の土管・・

ペンダントを握ったまま倒れている悠子と下半身の無い犬・・


 それから悠子は丸二日、高熱を出して寝込み・・

 ようやく目が醒めた時には・・


(あれからだろうか・・あたしが歩けなくなったのは・・)

ぼんやり思い返す悠子だった・・

そして、あの外人の言葉も・・「青い魔女は小さな黄金の機械を使い天空から大いなる力を持つ光を呼ぶ」・・



  第4節 出会い

「どうしたんです?」

「えっ?」

突然の声掛けに顔を上げる悠子。

浅黒い顔の高校生ぐらいの少年が立っている。

「切れたんですか?」

「あっ・・はい・・」

「貸して」

「え?」

「鎖が切れてるだけですよ・・直したげます」

「どうも・・」

ペンダントを渡す悠子・・

チェーンを繋ぎ留める少年・・

「はい」ペンダント手渡す少年。

「ありがとう」受け取る悠子。

「どういたしまして」

「これ腕時計にもなるんですよ」別にどうでもいい事なのについ話す。

本体下部から鎖通しを引き出しチェーンの端を通しさらに手首にチェーンを三回巻く・・そしてもう一方の端と繋ぎ・・

「ねっ」

「へぇ~」


「お~い崇っ」

向こうで友達らしい少年たちが呼んでる。


「行かなくっちゃ・・じゃ」

別れ際、悠子の頭に手をやり撫でる少年。

(あっ)

友人の方へ去る少年・・

「如何しました」戻ってきたアンナが聞く。

「んうん何でも・・ない」クスッと笑う悠子・・

「たかし・・さんか」

しかし直ぐに表情は暗くなる。


 小一時間後・・MIS日本支部内・・

 留奈が目覚めた時、見た事も無い部屋のベッドに寝ている自分に気付いた。

(ここは?)

『お目覚めかミス.ダイアナ・ノーム・・いや・・こちらでは都筑留奈か』がっちりした体格の外国人が話しかけてくる。

(英語!)

『ここは?・・あなたは?』

『さすがに10歳までアメリカにいただけあって英語には堪能だな』

『どうして?』

その時、部屋のスピーカーから声が・・

『支部長、指令室までお戻り下さい』

『分かった・・では・・』部屋を出て行く支部長。


『どうした?』指令室に入るなり尋ねる支部長チャンドラ。

『来ましたアンの端末機(ターミナルパペット)とお姫様です』とネビル。

『永久に動き続けるEMA(エマ)モーターが動力源か・・怪しい気な機械だったがそれを改良完成させただけでもアンの功績は偉大だ・・』セスが続ける。

『アルテミス スタンバイ』レナードがマイクに告げる。


 モニターに映る赤い蜃気楼を左右にした車椅子の悠子・・

『玉座のプリンセス・・』ぼそっとチャンドラが呟く。

『えっ?』とセスが聞く。

『いや・・なんでもない・・・見せてもらうぞ月宮殿のお姫様ルナパーク・プリンセスの力』


 第2章 Artemis

  第1節 対決

 警報が鳴り響く・・

 4th gate open ・・4th gate open・・ All right,ARTEMIS Let's go



「アルテミス?・・左右に展開して」

「悠子さんは?」

「大丈夫」


『人形使いの腕もなかなかのものだ・・アンナとアンヌをそのまま離せ2体一緒だと相乗(シナジー)効果で戦力は倍増する』指令席のところまで歩いていくチャンドラ。

そして椅子にドカッと座り、呟いた・・

『月宮殿のお姫様か・・だが・・月宮殿(がっくうでん)の主、月天子(がってんし)は男だと言う事を分からせてやる』


 悠子たちに近づいて来る、スレンダーな人影・・ギリシャ風の黄色いラインの衣装に鎧・・頭には黄色いヘアバンド・・・

「あなたがアルテミス・・」呆然とする悠子。

その顔は

「そんな・・留奈・・」

「私はAnn system Reconstruction computer TacticalEtype byMIS・・略称ARTEMIS(アルテミス)」顔はもちろん声も留奈と同じハスキーな声・・

「MIS製のアン式改造コンピューター戦術的E型」とアンナ。

「E型・・予測型ね」アンヌも続ける。

「・・と言う事は留奈はアン式コンピューターの身体スキャンの副作用で母さんのように」

悠子の悲鳴が響き渡った・・・


  第2節 月宮殿

『月宮殿・・まさか旧ソ連の天文学者ミカイル・ヴァシンとアレクサンダー・シュシェルバコフが1970年に発表した説がほぼ正しかったとは・・探査衛星からの映像を・・』係員に指示するチャンドラ。

パネルに月が映し出される。

『月・・実は巨大惑星型宇宙船か・・・詳細を!』

モニターがCGに切り替わる、それを見ながらセスが『表面の岩盤壁が平均約5Km・・その下に金属壁が約32Km・・さらにガスの充満した空間が約43Km・・その下と言うか中心に約3300Kmの球体・・これが本体・・」と説明。

 チャンドラが『最新観測データを』と指示。

 モニターが再び月に変わりアップになる。

『ブリアルダスクレーター付近の山脈に直径8Kmの巨大な歯車・・同じぐらいの大きさの発電機のようなものを観測』とレナード。

『ティコクレーター内に人工的な覆いの有る八角形の部分を認めます・・その上にやはり巨大なPAFの文字・・』ネビルが続ける。

『まさか異星人がアルファベットを使うとは・・』とチャンドラ。

『それに近く見えると言うだけでしょうが・・』困ったようにネビルが言う。

『いや・・冗談だ』とチャンドラ。

『内部からは高エネルギーを感知・・』気を取り直しネビルが続ける。

『ティコクレーター・・月面南部の85Kmの巨大クレーターか・・』セスが呟く。


  第3節 留奈救出

 その頃アンヌがMIS支部基地内に侵入。

(プラグ)を壁のコンセントに差し込む。

電気ケーブルを介してMISメインコンピューターに侵入・・

「あっちか」消えるアンヌ。


「留奈さん」

留奈の囚われている部屋に実体化するアンヌ!

「あなたは?」

「アンヌっ、悠子さんの知り合いです」


  第4節 脱出

 支部外では悠子とアルテミスの対峙が続いていた・・

アルテミスを睨む悠子・・左手首の腕時計になった金色の通信機(ペンダント)を右手で握りしめ・・

「あたしは・・あたしは・・あたしは・・あの時から封じていたこの力を・・」一瞬あの犬の顔が浮かんだが・・・

無理にかき消す・・・


『あれは?』ネビルが叫ぶ。

『どうした?』とセス。

『お姫様の眼が・・アップします』ネビルの言葉にモニターを見た一同は・・

悠子のブルーの眼にグリーンの炎の揺らめき・・それがやがて拡大し眼がエメラルドグリーンに変わる・・

『血流の関係か?おもしろい・・』呟くセス・・


地上十数メートルで三次元空間に実体化したムーンレーザーが雨あられと降り注ぎ・・全く動けないアルテミス。


『月の主砲・・ムーンサンダーも使えると見るべきだな・・問題はいつか・・だ・・』とチャンドラ。

『発射時に自分たちが巻き込まれない事を考えれば悠子が離れた時が危ないですね』セスが言う。

『ダイアナがこちらの手にあって良かったです』ネビルが言った時

『ダイアナが連れ去られました』とスピーカーから声が。

『何っ!』とレナード。

『赤い蜃気楼を映せ』叫ぶセス。

モニターアップしながら『右側はいます』と係員。

『左側は見失いました・・いや、いました!』と別の係員。

『右側、見失いました』先ほどの係員。

『二人同時には・・いないぞ・・瞬間移動に騙された』とセス。


『ダイアナを連れて蜃気楼は瞬間移動出来ない!支部から出すなっ!』マイクに怒鳴るレナード。


 留奈を庇いながら廊下を走り追っ手にショックガンを連射するアンヌ。

 追っ手の銃弾が留奈の左腕を掠める・・


 その時天井にムーンレーザー!

崩れる天井・・穴が空く・・

「掴まって」

留奈を抱えジャンプするアンヌ!


「悠子さんアンヌが留奈さんを奪回しました」とアンナが伝える。


「・・アンナ・・退去します・・」悠子が言う。

「はい」悠子に近づくアンナ。


「消えろ!」アルテミスを睨む悠子。


 悠子の周囲の空間が歪み・・砲丸大の歪みが数十個、アルテミスめがけ飛ぶ、身体の一部が消え去りそれが次々と・・アルテミスが消滅するのに1秒もかからなかった・・


『オキシジェンスピア・・圧縮した酸素を槍のように打ち出したか』とレナード。


『アルテミスのCPUにショックが逆流・・作動不能』ネビルが続ける。

『修理を急げ』技師に指示するセス。

しかしチャンドラは不敵な笑みを浮かべ呟く

『月宮殿の貴族(ブルーブラッド)は我々にもありだ・・アルテミスの修理、改良を・・セレネ計画スタンバイ』


 第3章 Serene

  第1節 サイボーグ

 留奈の傷から青い血・・

 予想された事とはいえみんなのショックは大きかった。

 ここは三条家の嘱託医である本多医院。


 成長してからの身体スキャンだった為、記憶喪失は免れた留奈だったが、さらにサイボーグ化されていた。

「どうして?」と悠子。

「アルテミスもサイボーグ端末です、その為の実験だったんじゃ」アンナが答える。

「そんな事で・・ひどい」叫ぶ悠子。

 悲しみに沈む留奈とその母、弥生・・


 そこへ少年と少女が飛び込んでくる。

「これ大河(たいが)山河(さんが)!」

続いて銀河が入ってくる・・

「名取大河っ8歳でぇ~す・・」

「同じく山河で~す、6歳で~す」

「ごめんなさいね・・本当に」

二人を止めながら謝る銀河。

「・・」留奈の表情が強張る。

「留奈?」悠子が声をかけた時。

点滴を引きちぎり立ち上がる留奈。

「留奈!」

「・・留奈・・違う!わたしはセレネ」

悠子に殴りかかる留奈。

車椅子をバックさせる悠子だか留奈のスピードの方が早い・・

・・が寸前で倒れる留奈。

その向こうにアンヌがショックガンを構え立っていた。


「触るぞ!」守も駆けつけ悠子を押しのけ留奈のベッドサイドに。

「こんなことって・・」

守身長177cm

留奈は178cm

守も決して低くはないが留奈も高かった・・

しかしそんな事は二人には関係ない・・だが・・改造された留奈の身体は・・


  第2節 貴族(ブルーブラッド)

『セレネ?』書類を持って来た係員の言葉にチャンドラが答える。

『我々が単に実験だけでダイアナを改造したと思うか・・切り札と言っても良い・・なにしろ我がMISの誇る三人の科学者Seth Rosenbergセス・ローゼンバーグ・Leonard Vaughnレナード・ボーン・Nevil Smightネビル・スマイトの頭文字=SeLeNeから命名したぐらいだ・・それよりアルテミスの動きがぎこちない・・これでは予測型で相手の動きを読んでもアルテミス自体の動きが追いつかない・・赤い蜃気楼と比べると明白・・どうしてだ・・四半世紀前のコンピュ-ターとは信じられん、それを解決せねば』

『アルテミスもただ戦ってただけではありません・・集めた情報を解析中です』とネビル。

『青い血の貴族(ブルーブラッド)サイボーグ戦士セレネ始動だ』チャンドラが指示する。


  第3節 始動・・

 留奈は個人の一医院では対処しきれず本多医師の知人の病院に運びこまれた。

「院長は信頼できる人だ」リカの子供の頃からの嘱託医である本多医師も既に初老にさしかかっていた。


 車で一時間ばかりの大きな町の病院・・

 遅れて車椅子でついて行く悠子。

 ふと玄関横の石碑に目がいく。


木々は枝を広げています

やさしい影をつくっています

ここへ立ち寄る人々は しずかなこころになるのです

しずかなこころの人だけが

この木の下へ入れます

                   竹中郁


「これは?」

「詩人 竹中郁さんから当院に贈られた言葉です」と出迎えた看護師が言う。


「母さん」

「彼女の苦しみ・・わたしだけが分かる」病室の前でリカが・・

意を決し入室するリカ・・


たまらず病室の玄関まで出る悠子。


 病室内では留奈と弥生に話しをするリカ・・

その途中、留奈に発作が!

「いかんネオ・セレネースとネオ・アキネトン筋注」ナースコールで駆けつけた院長が看護師に指示。

「セ・・セ・・セレネ」呟く留奈。

「まさか!」とリカ。


『キーワードを聞いたか・・予定より早いがまあいい、暴れろセレネ・・悠子はお前ちに手出しできない』

留奈の内耳に埋め込まれたマイクの音をスピーカーから聞きながらチャンドラが言う。


 病院廊下をゆっくり進む留奈・・いやセレネ。

 アンナが患者の避難。

 アンヌが応戦するがセレネの歩みは止まらない。

 遂には病院外へ・・玄関の悠子の脇をすり抜ける、慌てて追いかける悠子。


  第4節 再会

「悠子が留奈さんを追って」アンヌが言う。

 悠子を探すアンナたち。

「艶の有る黒髪のボブ、眼はスカイブルー、」

「自操式ユニバーサルタイプのアルミフレームの車椅子、フレームはピンクでシートがエンジ、左スカートガードにY24のステッカー」

道行く人々に尋ねるアンナたち。


「留奈」必死に車椅子を漕ぎ留奈を追いかける悠子。

「しぶとい!もうすぐ嫌でも相手してやる」車椅子を破壊し立ち去るセレネ。


『今とどめをさせば良いんでは?』尋ねる係員。

『既に月宮殿は彼女をトレースしている』とセス。

『今は月の制御が効いている・・しかしお姫様に命の危険が迫れば制御が効かず地球が消滅・・彼女だけがバリアーに包まれ宇宙空間に残る事もあり得る』ネビルが続ける。

『間もなくアルテミスの修理も完了する、サイボーグ端末アルテミスとサイボーグ戦士セレネのダブル攻撃を悠子にかける』とレナード。


 去るセレネ・・

 這って追いかけようとするも既に留奈の姿はなかった・・泣くしかない悠子・・


 と・・急に頭に手が・・

(あっ)

「大丈夫?」

「あなたは」

浅黒い顔の少年

「たかしさん?」

「車椅子・・壊れたの?・・」

「・・・」

「いつも何か壊れてるね」

崇に泣きつく悠子。


しばらく後、悠子を背負って歩く崇の姿があった。

「ハーフじゃなかったんだ」と崇。

「がっかりした」背中から悠子が言う。

「別に・・僕はクォーターだ母がアメリカ黒人とのハーフだどう?」

「別に・・関係ないけど・・」

「・・どうして泣いてたの?」

「許せない人たちがいる・・怒りを抑えきれない・・母さんは何時も人に優しくと言うけど、そんなの無理」

「・・美しい唇である為には・・」

「えっ?」

「『美しい唇である為には、美しい言葉を使いなさい。美しい瞳である為には、他人の美点を探しなさい。』ローマの休日とかで有名な女優オードリー・ヘップバーンの言葉だよ」

「何それ、古ーい」すこし笑う悠子


 スーパーの車椅子を借りる崇。

 そこへアンナたちが合流・・

 崇と別れる悠子。


 第4章 Diana

  第1節 再び支部へ

(留奈が行くのはあそこしかない)

MIS日本支部ヘ乗り込む悠子とアンナ、アンヌ。


 入り口をレーザーで破壊!

正面から突入。

しかし内部は既に無人だった。


「どうして・・どうして!」

車椅子のアームレストを叩く悠子。

脆くなっていたのか、床が崩れ地階に車椅子ごと落下。

「悠子さん」とアンナ。

 瓦礫に横たわる悠子の青みがかった黒髪に青や緑、紫などの干渉色が浮かび・・髪の根元からゆっくり波打って逆立ち・・一瞬髪の毛全体が玉虫色のように見えたかと思うと・・体がゆっくり浮上していった・・・


 その頃アルテミス本体は大型トレーラーで移動していた。

トレーラー内にはチャンドラと三人の科学者。

ついで数台の車に分乗した係員が夜の町を疾走する。


『アルテミス改良修理完了』

『よし!アルテミスを支部に実体化させろ』ネビルの報告にチャンドラが指示をだす。


  第2節 ハイブリッド理論

『アルテミス、お姫様と接触』とネビル。

 アルテミスの(サイトセンサー)を通しモニターを見るチャンドラたち。

『ユーコ確認・・浮いてます』とレナード。

『反重力フィールドか?』セスが言う。


身構えるアルテミス


悠子とアルテミスの間に割って入るアンナたち。

『旧式の分際で!』とネビル。

『よし・・アルテミスの動きはスムーズだ』とレナード。

『で・・どうだったんだ』チャンドラが尋ねる。

『真空管です』とレナード。

『真空管?』聞き返すチャンドラ『あの前世紀の遺物か』

『オーディオでも真空管を使うと音が滑らかになります・・あなどれませんよ』とセス。

『セレネも支部に到着』レナード言葉に一同モニターを見る。


 アルテミスがアンナに掴み掛かり電撃攻撃!続いてアンヌに・・

アンナとアンヌ消滅!

さらに悠子に向かうアルテミスと背後からセレネが挟み撃ち。

『ユーコはセレネには攻撃できない、その隙にアルテミスで』


 しかし立て続けにレーザー発射する悠子が優勢・・

青い血(ブルーブラッド)は所詮貴族(ブルーブラッド)、王族・・お姫様(プリンセス)には勝てないのか、いやそれを補うのがサイボーグ体としてのセレネとハイブリッド理論だ』


何とか再実体化したアンナたちだがショックが残っているのかふらつく。

『アルテミスに新装備を!』とネビル。

アルテミスに銀色の鎧が実体化・・

鎧はレーザーを反射しながら悠子に突進!

反射レーザーの危険を感じ悠子が一瞬レーザーを止める、その隙に悠子に密着するアルテミス!セレネも背後から迫る。

 その時アンヌが、「アルテミスの本体発見」と言う。

 そこはMIS支部から隣町に行く山間の約5Kmの一本道・・街灯もほとんど無く通称「猫の谷」と言われている地域・・

一本道にもかかわらず、いくら夜間でも数台の車の往来はある・・しかしこの日は何故かチャンドラたち一行意外の車はなく人もいない・・

何故かみんな回り道をして猫の谷を避けていた。

『結界か』とセス。

『急げ』とチャンドラ。


 月面南部の直径85Kmの大型クレーターであるティコ内部の八角形のゲートが開き・・

無数のタキオン粒子のきらめきがゲート後ろにある砲口・・いや・・もはや異世界へ通ずるような直径50Km以上はある巨大な孔に収束・・次いで無限とも見える孔の底からせり上がって来た、目映い光が放出!

しかし光は直ぐに亜空間に消え・・

猫の谷上空数十メートルで実体化・・

そのまま地上に突進!一瞬で猫の谷は消滅した。

既に猫の谷を抜けていたチャンドラたち。

しかし爆風に翻弄される。

『あれが主砲、ムーンサンダー・・恐らくあれで最小出力・・なんてことだ・・何とか切り抜けるんだ』


  第3節 ムーンマジック

「留奈っ」悠子の呼び掛けにセレネに変化が・・

「留奈・・違うわたしはセレネ・・」悠子を掴む手が離れる。

しかしアルテミスは容赦なく悠子を締め上げる。

「なんとか留奈を正気に戻せない?」

必死にアルテミスの手を振り払おうとする悠子。

「古い記憶迄は操作出来無いはず、其れを呼び起こせば」アンヌもアルテミスに向かう。

「何?」アンナとアンナの助けもあり何とかアルテミスを振り払い上昇する悠子。

「何か有りません?」アンナたちもジャンプする。

「小さい頃ってアメリカにいた頃でしょう?あたし知らないわ」

「何か有る筈です小さい頃から繰り返し聞いた言葉とか」言いながらジャンプの最高点まで達したアンナたちは落下していく。


下方で待ち受けるセレネ。

ジャンプしてくるアルテミス。

「止めて留奈」上空から悠子が叫び、下降する。

「止めて!」さらに下降。

上昇するアルテミスとすれ違う。

「お止めなさいっ!ダイアナ・L・ノームっ」

地表寸前で止まる悠子。

動きがぎこちなくなるセレネ。

「ダ・イ・アナ・いえ・・わたしはセレネ・・違うあたしはダイアナ・・留奈・・わたしはセレネ」もがくセレネ。

「あたしは留奈・・わたしはセレネ・・」

悠子の叫びがこだまする。


「チャンドラたちは無事です、更に逃走中」とアンヌ。


悠子の眼に(みどり)の炎が揺らめく。


 疾走するトレーラーにゲル状のものがいくつも落下するがすぐに消える・・

しかしゲル状のものは次々降り注ぎワイパーでも取りきれない。

『なんだこれは』停車したトレーラーから降り立つネビル。


 続いて白く細い糸状のものが降り注ぐがネビルに触れると消えてしまう。

『エンゼルスヘアーだ・・さっきのはデビルズジェリー・・共にUFOと共に目撃される時がある』とセス。


 悠子の眼が再び碧から翠に!

『N線キャッチ!強力です!観測メーター振り切れました!』とレナード。

ついで近くの溜め池が燃える!

『水が燃える?バカな』とネビルが言いながらトレーラーへ戻る。

続いて火が燃え移った池岸の木が熔けだす・・プラスチックのように・・

さらに火は延焼・・炎がトレーラーに迫る・・が寸前で炎自体が凍りつく

『馬鹿な』叫ぶレナード。

『分子レベルの変化か?』セスが言った時、トレーラーが傾く。

『何っ』ネビルが目を見張る。

 地面が流れた・・水のように・・・


完全に走行不能に陥るトレーラー。


さらにズシーンという重苦しい衝撃が・・

『超低周波だ・・このままでは内蔵が破壊さ・れ・る・・』

意識を失うセスたち


  第4節 決着

アルテミスが降りて来た時、悠子の身体が少しだけ反重力フィールドによって浮かび上がる。

近づこうとするアルテミスの動きが止まる。

「何っ!動け無い」

「お前の付近の重力は今10倍だ!更に増加するっ」

押し潰されるアルテミス


 間髪入れずトレーラーに降り注ぐムーンレーザー。

トレーラー撃破!

消えるアルテミス!

倒れるセレネ・・いや留奈・・


「アンヌっ留奈を病院へ!」

「悠子さんは?」

「あたしは・・あの人たちの元へ!」

「私も行きます」とアンナ。


 気がついたセスの目に悠子のエメラルドグリーンの瞳が映る。

 アンナが押す車椅子の悠子がいた。

(玉座のプリンセス・・)チャンドラ支部長の言葉が思い返される。


「よくも留奈を・・あたしの親友ってだけで」

「そうじゃない・・確かに心理的な面も無視できないが・・彼女を選んだ最大の理由はハイブリッド理論によるものだ」とセス。

「ハイブリッド?何」と悠子。

「ハイブリッド理論・・異なる種族間に生まれた子供は優秀な可能性が高い」アンナが解説。

「そう・・それだ・・どうせなら端末の身体は優秀な方がいい」

「そんな事の・・そんな事のために・・留奈の人生を何だと思ってるのよ!」

「まて、もう既に各国の諜報機関は動き出している・・アメリカのCIAはもちろんロシアのSVR・・イギリスのMI6・・そして日本のSHAKA・・他にも続々と・・我々と手を組んだ方が・・」

碧味をおびかけた悠子の瞳が再び鮮やかな翠に!

「死へのカウントダウンを数えろ」

 セスの傷口から血が流れだす、小さな擦り傷なのに血が止まらない。

気絶してる他のMIS員みんなも出血していく。

「その血は止まらない、体中の血を流し尽くして死ぬがいいっ!」

「死にたくない・・助けて」

「助けて?留奈だってそう言いたかったんだっ」叫ぶ悠子。

「満月の時は陽イオンが増加、血が止まりにくくなります・・今日は下弦の月だけど陽イオンを局地的に増やす位悠子さんには簡単です」事も無げにアンナが言う。


悠子の車椅子を押して去って行くアンナ。

ぼんやりした月明かりの暗闇にセスの悲鳴だけが響き渡る・・


 月から放射された催眠波で人々の月への関心は急速に衰え、月面基地「シン」は破棄され、目の前の広大な土地や鉱物資源それに軍事的拠点に関しても誰も反対や疑問が出るでも無く、人々の記憶の片隅に追いやられ、やがて忘れ去られた・・

 しかし留奈の身体は、駆けつけたアニー(みんなと別れた22歳で成長を止めていた)や院長、本多医師の努力で戦闘用、コントロール用機械は取り除かれたものの、青く変色した血とサイボーグ化された体は完全に元には戻らなかった・・


「もっと早くこうしていれば・・催眠波で人の記憶、考えを操作すると言う暴力に対して躊躇したせいで・・」

「悠子さんのせいでは有りませんよ」

「・・・」

アンナの言葉は悠子に届かなかった・・

黙って悠子の側を離れるアンナ・・

健二に「結局悠子さんは彼らを殺しませんでしたね・・一時間後に陽イオンを減らして・・」と言う。

「悠子さんは・・どんなに憎い敵でも・・そこが悠子さんですよ」とアンヌも語る。

「本当にこれで終わるのか?世界中の人々に許されない記憶操作までして」

「・・・」しかし、それはアンナにもアンヌにもアニーでさえも答えられなかった。


 秋の人気の無い海岸に座る悠子・・

波打ち際をゆっくり歩く留奈・・


(海に来たのは・・・そう・・あれから3ヶ月ぶり・・)しかし気分はあの時と比べようもなく落ち込んでいた・・・

(海・・海の日・・制定当初は7月20日だった海の日・・そして人類が初めて月に降り立った日・・

あの日が無ければ・・母さんや留奈の悲劇は無かったかも知れない・・)


「遠くに行きたい」留奈が呟いた。

「・・・」

返す言葉もない悠子だった・・


彼女が(クラッチ)で歩けるまでに回復するのは2年後・・

しかし視力は低下・・眼鏡をかけることになるのは3年後の事である。

 そして留奈の身体の中では徐々に埋め込まれた機械に対する拒絶反応が進行していた・・・

どうでしたでしょうか?

次回第3部 ブラックベレーでは悠子が世界を駆け巡ります・・物語の期間としても第1部が1年すこし・・本作(2部)が約3ヶ月ですが、次作(3部)は2年すこし・・悠子の19歳~21歳を描きます・・よろしくお願い致します

尚、小説中の詩は竹中郁氏が某病院に贈られたものを引用させていただきました・・・

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