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第1部 白道神話

赤い蜃気楼 青い魔女 そして新たなる4連装のアニー・・そして彼女たちを取り巻く人々・・彼ら彼女らが月宮殿のお姫様とどういう関わりなのか・・そしてどんな能力があるのか・・物語の幕開けです・・よろしくお願いします・・

 第1章 赤い蜃気楼

  第1節 紅い幽霊

 彼がそれ(・・)を見たのは高校の同級生、名取良夫(なとりよしお)と別れ近道をしようと入り込んだ、通称アンの森、どちらかというと林に近いような木々の生い茂る中、彼、山本洋(やまもとひろし)は、それ(・・)を見た。


それ(・・)は何年も前から、その森に出ると噂の紅い幽霊・・


最初は何か赤い物が動いた・・

「?」

近づく洋。

林の中に2人の少女がいた。

「まさか?」

それを洋ははっきり見た、それは春真っ只中だというのに白い縁取りの赤いコートに赤いズボンの11、2才のセミロングの髪を肩から前に流した二人の少女・・

(双子?でも、こんな森の中で、しかもこの陽気に・・)

少女たちが振り向く。二人は瓜二つ・・しかしそれよりも・・

「あの顔は・・・まさか」

近づく洋。

少女たちは一歩・・二歩・・後退ると、くるりと向きを変え走り出した。

「まっ・・待って!」

追いかける洋。

(そんな馬鹿な!どうして昔のまま・・どうして二人?)

少女たちとの距離が少しずつ縮まる。

一人が向きを変え木の陰に・・続いて洋も・・

「えっ」

一瞬視界から消えただけなのに少女の姿はなかった・・

反射的にもう一人を追いかける。

逃げる少女・・

手を伸ばし捕まえる寸前!

少女が跳んだ!

前方に続く道路へ・・その距離数十メートル・・

そんな・・


しかし落下地点に自動車が走ってきていた。

「ぶつかる」車のボンネットに飛ばされ少女の身体が宙に舞う・・

飛び散る血・・

しかし次の瞬間少女も跳び散った血も消えていた・・

車から降りた運転手も呆然としている。


 暫く後、駆けつけた警察も少女の姿も血も一滴すら発見できず・・

しかし凹んだボンネットは何かにぶつかった痕が残っている、念のため行われた鑑識のルミノール反応もなかった。


「あの子たちは確かにいた・・」呟く洋の足元にはいくつかの小さな足跡が残されていた・・


  第2節 アンの森

 翌日、洋は再びアンの森を訪れていた、幼馴染の森山(もりやま)銀河と共に。ショートヘアーの似合う銀河は、言うなれば普通の女子高校生である、変わっているし男につける名前じゃないかと、時々ブツブツ言っているが彼女の兄も太陽(たいよう)というので似たもの兄妹?・・

洋もごく普通の高校生であり、人の事はいえないが、平凡な名前であるだけ洋のほうが普通といえる・・

しかし人には何かしらはあるもので、銀河は数年前交通事故で両親と兄を無くしており、洋にも姉がいたのだが・・・


「本当にあの人だったの?・・だって、あの人は10年ぐらい前に・・」と銀河が聞く。

「僕だって信じられない・・だから確かめにいくんだ」目前のアンの森を見つめ洋が答え、更に続ける。

「特徴はね・・」

「左利きで左の耳たぶにほくろ・・」銀河が遮る様に言った。

「良く覚えてるね」

「女は細かい事を覚えてるの!」

「へぇ~そうなんだ?」

「そうよ」銀河がにっこり笑った。


  第3節 遭遇

 森の奥、小さな小屋がある、何となくアンという人の家だろうかと思う洋だった。

 その時小屋の中から二人の赤いコートを着た少女が出てきた。

出て来て、洋達に気付き一人は小屋の中へ、そしてもう一人は、一瞬全身が揺らめいたと思うと空気に溶け込むように消滅した。

「蜃気楼・・赤い・・」銀河がつぶやく・・

放心しながら小屋に近づく洋と銀河・・

ドアの取っ手に手を掛けたところで、上から木の葉が一枚舞い落ちてきた・・ふと見上げた洋の目に赤い塊が風を巻いて斜め上から急降下してくるのが見えた。

思わず叫ぶ洋。

「やめるんだ・・姉さん!」

赤い塊・・赤いコートの少女は洋の顔前5cmで急停止した、空中に浮いたまま・・髪の毛だけが慣性で前に流れ洋の顔を撫でる・・洋にはそれがスローモーションのように見えた、左の耳たぶのほくろまで・・

服に縫い目が無い・・天衣無縫・・前に辞書で見た言葉が洋の脳裏をよぎった。

洋の頬を涙が伝う・・

少女はゆっくりと地面に降りたった、まるで重力など関係ないように・・

少女が口を開いた、

「貴方は私達のオリジナルの2親等血族か?」


  第4節 月の影

 二人の少女と小屋に残されていた日誌から・・

二人の少女はアメリカの女性科学者アン・ジェファーソンが作り上げた人間の身体を端末とするANN(システム)コンピューターのA-3374(タイプ)とU-3526(タイプ)の端末機であった、

それぞれの略称はANNAとANNU・・

「名前は必要だな・・略称からアンナとアンヌでいいんじゃない?」

良夫の提案はあっさり受け入れられた・・

「でもアンの科学力は進みすぎてない?」

銀河の問いにA型の端末・・アンナが答えた。

「それは1969年7月20日アメリカ東部時間午後10時56分に始まりました」この時から運命の歯車は廻り始めた事にその時誰も気付かなかった。

洋の姉が行方不明になるのは、それから数十年後、しばらくして紅い幽霊が目撃されだし、赤い蜃気楼として洋たちの前に現われるのはさらにその数年後であった。


 第2章 青い魔女

  第1節 通りすがりの・・

 洋と銀河が赤い蜃気楼と出会ってから2ヶ月が過ぎた頃・・もうすぐ夏・・

銀河はアンヌと歩いていた。

アンヌは赤いコートでなく普通の服でセミロングの髪もショートにしていた、銀河が自分の小さい時の服を着せヘアーカットもしていたのだ。


「女の子はおしゃれしなっくちゃね」という銀河の持論に洋は「まるで着せ替え人形だね」と言っていた。

「あたし妹が欲しかったんだ・・」

「エッそうだったの」

「そうよ」・・何度同じ話しをしたか知れない・・


 銀河とアンヌの前方に一組の20代の男女が何かもめていた、男はがっちりとした意志の強そうな顔つき、女は細身の人形のような体つきで髪が腰まであるロングヘアー。

言い争う二人・・女が身を翻し駆け出そうとした時、悲鳴がし女は右の二の腕を左手で押さえてしゃがみこむ。

駆け寄る男、拒む女・・

「引っ掛けたな、見せてみろ」

「いや見ないで」

「何言ってる消毒しないと」女の左手をどけた男の動きが固まる。

「だから・・・」

「リカおまえ・・・」

「だから見ないでって言ったのに、健二(けんじ)さんのばかっ」

走り去る女・・リカ

呆然と立ち尽くしていた、男・・健二。

「待ってくれ、リカ・・おいっリカ」最初はゆっくりと、だが徐々に早く駆け出し、リカを追いかけて走り去る健二。


「ここに引っ掛けたのか、危ないなぁ」と言う銀河の視線の先には塀から飛び出した、ささくれた大きな棘が有った。

しかしアンヌは地面を凝視、落ちていた物を指先で触り。

「銀河さん!服をお願い!」

次の瞬間アンヌの姿が一瞬揺らめいたかと思うと、服と靴を残し消滅した。

地面に落ちた服を集めながら、銀河は呟いた、「いったいどうしたのアンヌ」


  第2節 アンの小屋

 アンヌが消えた少し前の時間、洋は良夫とアンの森にある小屋・・便宜上アンの小屋と言っていた・・に居た。

もう一人・・アンヌと瓜二つだが、服装はおとなしめで髪を括った少女・・アンナも居た。

彼らはアンナたちの話と残されていた資料から驚くべき事実をつかみ、整理していた。


 この小屋に住んでいたのはアメリカでは名のある大学の教授に若くしてなった女性コンピューターの第一人者アン・ジェファーソン、当時36歳。

彼女は講演の為、訪れたこの地で落下した隕石のようなものを発見する。それは外見こそ隕石だったが壊れた外壁の隙間から内部に見た事もない機械がつまっていた。

それをヒントに大気中の元素を合成して作り出した人間の身体を端末とするANN(システム)コンピューターA(タイプ)(記憶型)とU(タイプ)(分析型)の2台のコンピューターを作り出した。

コンピューターと繋がる電波を止めれば合成が解け身体は消滅・・別の場所で再合成すれば瞬間移動も可能だが、米粒一つも持っては瞬間移動はできなかった。


 それがANNA(アンナ)ANNU(アンヌ)・・しかしその過程で端末である身体のプログラム作成のため身体をスキャンされた、少女=洋の姉(玲子)は思わぬ副作用で身体が変化、ショックを受けたアンと共に行方不明となり2体の端末だけが残されたのだった。

「どうして記憶がAで分析がUなの?記憶はMemory・・分析はAnalysisじゃ?」と良夫・・

「直接の頭文字ではなく隠語と言うかプロジェクトイメージからきています」とアンナ。

「A=Archives・・記録保管所~記憶型

 B=Backup・・支援~応用型

 C=Conjecture・・推測~指向型

 D=Debate・・熟慮~仮説型

 E=Elicit・・導き出す~予測型

 F=Follow-up・・続行~継続型

 と言うように最初複数で対応を考えていたみたいですが膨大な数になるのでスターターキットの様に最小限でまず

 A=Archives・・記憶保管所~記憶型と

 U=Unravel・・解く~分析型

を作ったのです」

「だってさ?」肩をすくめる洋。

「分かったような分からないような」首をかしげる良夫。


 行方不明だったアンは数年後アメリカのメディアに現われる、これはコンピューターに詳しい良夫の持っていた雑誌から判明・・アンとその横にいるブロンドで肩までの癖毛、ブルーアイのアンナたちの面影のある人形のような体つきの16、7歳の少女が映っていた、その少女はアンの子供かとも噂されたがハッキリせず・・

洋はこの少女こそ、スキャンの副作用で髪と眼の色が変化した、姉、玲子ではと考えていた。

「でもお姉さんはストレートヘアーだったんだろ?」尋ねる良夫にアンナが「髪の毛の様に細い物は変異のせいで歪みを生じる事が有ります」と答えた。

「決まりだ!よし俺はアメリカへ行って姉さんを探すぞ」

洋がそう言った時!

「アンナ!」

良夫が言ったと同時にアンナが消えた、服と靴それに髪留めを残して・・赤いコートとズボンを実体化せず変わりに銀河のお古を着ていた訳だが身体を分解した時、服等は残るのである。


 第3節 青い・・

「大丈夫かい?」

「うんわたし左利きだしそれ程不自由は・・」 ここは健二のアパート・・リカの腕に包帯を巻きながら健二が聞く。

「さっきはゴメン少しビックリして」

「いいのよ誰でもびっくりするわ・・こんなの見たら、左手を右腕の包帯にかけ、力を入れる・・滲んでくる青い血液・・

「わたしね三条(さんじょう)家の本当の子供じゃないの・・」

「えっ?」

「養女なのよ・・小さい頃の記憶はないわ・・だからどうしてこんな身体なのかもわからない・・わたしっていったい何なんだろうね・・異星人・・それとも異次元人かも・・・・わたしは自分が恐い・・」

「だから今日別れようと言ったのかい?」

うなずくリカ。

抱きしめる健二。

「いいの?わたしで・・いいの?」うなずく健二・・

「バカね・・」リカの眼に涙が浮かぶ・・


 眠っている健二の横でブラウスのボタンを留めるリカ・・

小さな声で「やっぱり駄目よ・・」立ち上がりそっと部屋を出て行く・・

「さよなら」


アパートの階段を降りてくるリカ・・

下では赤いコートのアンナが・・

「?」怪訝な表情を見せるリカ。

そっとリカの手を掴むアンヌ。

「?」

「指紋一致しました」

「?」

不可解な行動の赤いコートの少女に何故かリカは逆らえないでいた。

「貴女がオリジナルですね?」リカの髪をかきあげるアンヌ、リカの左の耳たぶにほくろがみえる。

アンナも遠くから確認していた・・


「きっと身体の事があったから養父母は警察や病院に届けなかった・・逆に隠して・・だから発見されなかった」 2ヵ月後、自分の出生の謎が分かってもリカは健二を避けていた。

「やっぱりわたしは・・健二さんと一緒にはなれない・・もし赤ちゃんが出来たらどうなるの」銜え煙草を指で挟み髪をかきあげ、アンヌに問い掛けるリカ・・

「初めてのケースで分かりませんが、子供への影響を心配しているならもう手遅れかも」

「アンヌ?」


「私のデータとアンヌの分析から分かった事を報告します」

 アンの小屋では健二、洋、良夫、銀河がアンナの説明を受けていた。

「三条リカさん・・本名、山本玲子さんの血液は空気に触れると血小板の血液凝固作用に伴い、ヘモグロビンがへモシアニンに近い物質に変化して、青い血液になると思われます」

「ヘモシアニン?」と健二。

「ヘモグロビンは鉄と結びついて赤くなりますが、ヘモシアニンは銅を含み酸素と結びつく事で銅イオン本来の青色になるのです・・他にも鉄のフェロシアン酸塩やコバルトも認めます、この二つも青色と成る金属元素ですが両方共人体にとって有害です・・いえ、それ以前に良く此だけの変性ヘモグロビン・・血液成分変化に呼吸阻害を起こさなかった物です」

「アン(システム)コンピュータースキャンの副作用とは記憶の喪失と血液の変化だったのか」洋が呟く。

「そうなの?」と良夫

「そうよ」すぐ切り返しながら・・でも銀河は別の事を考えていた・・

(じゃあ、あのアンの娘はいったい・・?)


「どういう事?まさか、すでに」煙草をもみ消すリカ。

「ハイリスクベビーの可能性は避けられませんが、私とアンナも協力しますし、何より健二さんの支えが有れば」

「まさか・・」

「最初の助言ですが・・煙草は辞めた方が良いですね」

吸殻を受け取るアンヌ。

向こうから健二と洋が歩いてくる。

「大丈夫、幸せになれますよ」歩いてくる二人を見ながらアンヌは続けた「3人共ね」・・


  第4節 ボイドの時間

 ボイドの時間というものがある、西洋占星術に基づいたものであるが特に月が人間に影響を与えると考えられ、月のボイドの時間を指す事が多い

月のボイドの時間には月の効力が弱くなり普段抑えられている人間の感情や感覚が過剰に敏感・活発になりそのため良い結果を残せなかったり、この時間に決断した事や始めたことは、思わぬミスがあったり違う結末になる事が多いと言われている、リカが健二のアパートで過ごした時間はボイドの時間・・しかもリカの星座・・ふたご座が一番影響を受ける時であった・・

思わぬ妊娠に戸惑うリカだが、結果がどうなるのか、まだ答えは出ていない。


 第3章 4連装(クワドラプル)のアニー

  第1節 波乱へのプレリュード

 アンヌが彼女に出会ったのは、 リカが見つかってから1年以上が経った初秋の頃

「戻っておいで、アンヌ・・私達の処へ」

「貴女は!」

アンヌはその癖毛のブロンドヘアーの女性に問い掛けた。

「私はアニー・・アニー・ジェファーソン」

「ジェファーソン!」

「母は・・アンは死んだわ・・ねえアンヌ、アンナと共に私達の所へ・・大丈夫、本体のコンピューターだって私なら動かせる」

「・・・」

「嫌だと言っても力づくで」

いつの間にか彼女の左手には銃口が4つあるレーザーガンのようなものが・・

しかし威嚇だけなのか彼女はゆっくり後退り姿を消した。

アンヌには彼女のブルーアイを見ていると、思い出される赤ちゃんがいた。


「よっ!悠坊!久しぶり」リカから赤ちゃんを受け取る洋。

「悠坊、叔父ちゃんですよ~」

無邪気に笑う碧い眼の少し青みがかった黒髪の赤ん坊を抱く洋。

「でも良かったね、姉さん、悠坊が赤い血で・・」

「ちょっと、女の子なんだから悠坊はやめて」

「ハハ・・でもどうして眼が碧いんだろ?」

「色素の関係で何万人かに一人は日本人でもこんな眼になるってアンナが言ってたけど・・」


 アンナの解説が思い返された。

「色素不足は髪をはじめ異常ありません・・眼だけアルビノという事も有りますが・・

近しい血族の婚姻は違うので除外・・

後、日本人はもともと混血民族だから、ロシア系の血が強く出たとか・・

東北に青い目の人が多いという説もあリます」が、結局ははっきりした事は分からなかった・・

「知ってた・・悠子の誕生日4月16日の誕生花は、斑入りのチューリップ・・花言葉は美しい瞳・・」これがリカには一番納得がいった・・

洋から離れ煙草に火を点けるリカ。

「あれ姉さんたばこやめたんじゃ?」

「大丈夫よ、悠子の前じゃ吸わないから・・」

「でもまた赤ちゃんが出来た時」

「もう産まないんだ赤ちゃんなんて」

「えっ?」

「めんどくさいしさ、一人で十分よ」

空を見上げ煙を吐き出すリカ・・そんな彼女に今だ拭えぬ己の肉体の恐怖と戦う姉の姿を見る洋だった。


 その頃アニーは草原でクローバーの葉を摘んでいた。

男が近づいてくる。

「見て・・四つ葉のクローバー」

「そんな事より作戦はどうした?」

「・・如何しても必要?」

「もちろんだ・・直ぐに始めろ」

「・・分かりました」

アニーが去った後、男は呟いた「四つ葉のクローバーは奇形なんだよ・・」


 ほどなく、アンの小屋の地下コンピュータールームに人形のような身体つきの腰まであるロングヘアーの女性の姿があった・・あっさり指紋照合のロックを外し入り込んでいく。


「止めなさい」アンヌが実体化してくる、飛び出す女性。

「爆弾」

A型とU型の両コンピューターに爆弾が取り付けられていた。

迷わずA型コンピューターの爆弾に取り付き解体を始めるアンヌ・・

「アンヌ」アンナも実体化してU型の爆弾の解体を始める。

「止まった」アンヌが呟いた途端、後ろで爆発が起こりアンナが爆風と共に吹っ飛んできた・・

「あっ」振り向いたアンヌの目には破壊された自身の本体・・U型コンピューターが映っていた、「アンナ・・後は御願い」虚ろな眼でそう言うとアンヌはゆっくり、横たわるアンナの上に倒れこんでいく・・

そしてアンナに覆い被さる直前アンヌの身体は消えてしまった、同時にU型コンピューターは完全に停止した。


「アンナ、アンヌさっき出て行った人!え?」銀河が飛び込んできて見たものは破壊されたU型コンピューターと倒れている一つの端末機・・見ただけではアンナかアンヌかは分からなかったが異常事態だけは分かった。

「どうして・・だってさっきの人は・・」

A型コンピューターの爆弾(57秒前で止まっている)を取り外す銀河。

「うそ!」外した途端カウントダウンが再開した。

反射的に爆弾を抱えて飛び出す銀河、1階へ出て出口へ、そこから数メートル走り爆弾を森の奥に放り投げ、同時にきびすを返し小屋の方に走り、戻ろうとした途端、爆発!

・・まず小指が吹っ飛んだ・・続いて薬指・・そして中指・・左腕に焼き付くような痛みを感じ銀河の意識は遠のいていった。


  第2節 幻肢痛(ファンタムペイン)

「じゃあやっぱりリカさんじゃなかったのね」

「ああ、その時間、僕は姉さんといたんだ」

 ここは病院、ベッドの銀河に洋が答えた。

「じゃあ彼女は一体・・」呟く銀河。

「モニターチェックでもサングラスをしたリカさんそっくりですが髪は鬘の様子、しかし右二の腕に傷が有りません」

「傷?」

「初めて会った時に引っ掛けたあの傷です」

「ああ・・」

「しかし指紋照合のセキュリティーもあっさり突破していますし、アンヌが残っていたらもう少し分かったかも知れませんが」とアンナ。

「うん・・でも・・痛っ」言いかけて銀河。

「どうした」ベッドに近づく洋。

「腕が・左腕の先が痛い」顔を歪める銀河。

「左腕の先って、でも左腕は・・」困ったように洋が言う。

「分かってる・・左手の先が痛くなるはずないって・・でも痛いの・・焼け付くように痛いの・・」

幻肢痛(ファンタムペイン)ですね、四肢切断者にはみられる事が有ります」

「アンナ」声を荒げる洋。

「アッすみません銀河さん、あの・・」

(やはり機械なのか・・)洋は考えた・・まだ話し相手の感じ方までは考えて対応していない。

「・・いいの、今さらどう言ったって・・」

銀河は命こそ別状なかったが、左腕は手の施しようもなかった。


「銀河っ!銀河っ!」良夫が病室に駆け込んで来て・・転んだ・・

少し雰囲気が和んだ・・


 病院から戻ったアンナ、洋、良夫は・・

アンの小屋で健二、リカと悠子、と合流・・

「悠子さんにカイザーフライシャー(リング)は診られません、べーチェット症が心配でしたが、これは銅の代謝異常によって起こりやがて四肢の麻痺へと・・」アンナは(正確にはアンヌもだったが)やはり人の感じ方までは考えて対応していない。

アンナの言葉をさえぎるように良夫がしゃべった。

「それよりアンナが会ったのがアンの娘だったとしたら、入り込む手段はいくらでも有るだろう、それより問題は」

コンピューター雑誌を取り出し続ける。

「後ろの方で分かりにくかったが、この人物」

アニーの写っている本の写真を指す良夫。

アンとアニーの後ろに一人の男性が写っていた。

「骨格的に見てよく似た人物がいます」とアンナ。

写真を凝視する健二。

「兄さん・・優一(ゆういち)兄さん」


「兄さんは僕なんかより、よっぽど頭が良いし、アメリカの大学で研究していたが・・」つぶやく健二。

「対策を」

「対策を」

誰ともなく言い始めた。


「どうだ」とU型コンピューターを覗き込み健二が言う。

「何とか直りそうですよ」と洋。

「アンナの指示通りだけど・・この機会に武器をつけようかと」作業しながら良夫。

「武器?」健二が聞く。

「ショックガンをプログラムしました、これで身体と同じように実体化出来るはずです」

とアンナ。

「それと此方の機械が大きな戦力に成るかも知れません・・此の機械にアクセスして試ようと」

「何の機械だ?」健二が聞く。

「武器が使えそうです」とアンナ。

「武器?」

「はい」

複雑な顔で健二が考えこむ。


 今日は銀河の退院の日・・

 良夫が荷物を持っている、まだ暑い日が続いていたが、長袖の銀河のゆらゆら揺れる左袖が痛々しい・・

「あっ」上を見て顔に手をかざす銀河。

「どうしたの?」尋ねる良夫。

「ううん・・ちょっと・・」

右手を顔にやる銀河。

「太陽が眩しっくって」銀河の眼に光る涙に良夫は気付かなかった・・


「ゴメンね心配かけて」すっかりミーティング場になっているアンの小屋のドアを勢いよく開けて、銀河。

「もうすっかり元気だから」続けて勢いよく入ってくる。

「あの銀河さん私」とアンナ

「いいからいいから」

右手でアンナの(アンテナ)をくしゃくしゃし続ける銀河。

「またヘアメイクしたげるっ」

ウインクしながら言った。


 リカと悠子と以外・・(当然アンヌもいないが・・)のみんなが集まった別室の大型機械の前でアンナが説明。

「こっちの機械で、遠隔射程の武器が使えるみたいで、此の通信機(ペンダント)で此方の機械にアクセスして使おうと」とペンダント型通信機を左手メインマニピュレーターに話す。

「どこにそんな武器が聞く?」健二の問いにアンナが。

「月です」と答えた。

「訳分からなくなって来たぞ」と洋。

アンナが続けて

「実験します」

だが機械は反応せず

「駄目か」と健二・・

 そこへ。

「何これ?」遅れて来たリカが近づく。

機械に反応が・・

「あれっ」とリカ。

「もう一度」とアンナが言う。

「えっ?・・ええ・・」

やはりリカがさわると反応あり。


その後も誰がやっても動かずリカだけに計器が反応した。


「つまり元々、月の科学によって変化したリカさんの身体に月のコンピューターが反応すると・・」アンナが確信したように言う。

「さっきから言ってる月って?」洋の疑問に

「『1969年7月20日アメリカ東部時間午後10時56分に始まった』・・以前アンナが言ったのはこの事だったんだね」と良夫。


 その時人類は歴史的瞬間を迎えた、アポロ11号のアームストロング船長が人類として初めて月面に降り立ったのだ・・この時から運命の歯車は廻り始めた。


  第3節 優一

 アンの森の近くの林を銀河は歩いていた・・

「良夫どこよ・・いよいよアンナが直るって時に、何なのよ」

呼び掛けるも返事はない・・

しばらく歩いて又声を掛けるも返事はない。

もうしばらく進むと前に人影が・・しかし良夫より明らかに背が高い・・

「良夫はいない、なぜなら呼び出したのは俺だからだ」

「優一さん?」

「そうだ」

身を翻し駆け出す銀河、しかしまだ左腕を失ったバランスの悪さ慣れていない・・木の根につまずき転ぶ。

座り込み右手で涙をぬぐう。

「助けて良夫・・ねえ助けてよ良夫」その時物音がした・・

「良夫!」

「残念だったね」優一が静かに呟いた。


 ベッドの上・・銀河の左手に腕が付いてる・・優しく撫でるアンの娘、アニー。

「感覚はないけど動きと、外観は問題ない、これで許してもらえるとは思わないが」と優一。

「一つ聞いていい」

銀河がゆっくり口を開く。

「何だ」

「どうしてアンナ達を壊そうと?」

「壊しはしない、壊れたように見せかけ、回収するつもりだった」

「えっ?」

「お前たちはアンの科学力の元になった本当の力を知らない、触れてはいけない禁断のものだ・・しかし君の負傷は計算外だった、申し訳ない」

「もし・・」

「うん?」

「あたしがこの腕の事は忘れるから、みんなに手を出さないでって言ったら?」

「・・・ごめんよ」出て行く優一とアニー

鍵の掛かる音を聞きながら、一人泣き叫ぶ銀河。


 外に出ると優一が言った。

「今度こそ計画通りにするんだ、お前がぐずったお陰でこのありさまだ」

「・・・はい」青い眼を伏せるアニー・・静かに歩を進める・・

アニーが遠ざかった時、誰に言うでもなく優一が呟く。

「アン教授・・やっぱりあなたは偉大だった・・でも・・完璧すぎる・・あれじゃあまるでそのもの(・・・・)だ」

 言いつつ何気なく空を見上げ目を見張る。

「あれは!」

月に暈がかかっている

月暈(ハロ)いや違う、月の都に灯・・いや月の要塞に火が入った、健二たちなんてことをしてくれたんだ!」

今日は満月・・まずいぞ!月の威力はエネルギー源=太陽 発信源=月 標的=地球が一直線になった時最大になる・・満月か新月の時だ!


  第4節 月の魔力

 その日、月面上に数々の異変が観測された・・

危機の海西端で長さ20Kmのアーチ橋が確認され1953年ジョン・J・オニールが発見し後直ぐに消えたオニール橋の再出現と騒ぎが広まったのもつかの間・・さらに同じ危機の海で1500近い光点が観測された・・それを皮切りに・・

アリスタルコス プラトー アルホンスス ティコ等のクレーターやシュレーター谷で白 赤 紫 オレンジ等の光の点滅・・あるいは閃光が観測され・・内、幾つかのクレーターからは霧か、もやの様なものも発生・・そのもやの様なものはアガルム岬やアルプス流域 アルタイ断崖 シルサリス峡谷からも噴出・・

タウルス・リトロー地域では地域の両端で閃光が確認された後、完全に雲に覆われた・・

そしてコペルニクスクレーターから幅15Km長さ3000Kmに及ぶ白色の輝く筋・・

ケプラークレーターからも幅20Km長さ3500Kmの同様の筋が伸び・・

静かの海には数々のピラミッド・・

晴れの海の奇妙な建造物や・・

ユラ山脈から虹の入江を動き回る見たことも無い機械・・

フレネル岬より何かを腐敗の沼に運ぶ機械・・

神酒の海やティコクレーター周囲の百個以上の直径200mに及ぶ円形ドーム・・複数のトンネル・・

月の南極でも機械的に光るものが・・

嵐の大洋では振動を確認・・


これまでもこのような現象は観測されたこともあったが、この日の観測数は異常で、また初めての場所で起こったり初めての現象も見とめられた。


また後の集計でこの日は暴走行為や信号無視による交通事故が多発し

殺人事件、暴行、自殺、放火事件が続発した事が判明・・

(月の引力が潮の満ち引きのみならず人体の60~70%を占める水分にも影響を与え精神の高揚に繋がったのかもと後日アンヌが分析するのだが)

 ・・・そう、この日地球は狂気(ルナティック)に包まれた。


 第4章 白道神話

  第1節 白道

 白道という言葉がある・・これは天球上の月の軌道を表わす大円だが、知らず知らず月に関わった人々が月の軌道の如く決まった事のように争いへと進んで行った。


  第2節 蜃気楼再び

 銀河を探しまわる良夫。


 その頃アンの森ではアンヌ修理が完了・・

「何だあれは?」アンの小屋を出た健二たちにロボットが迫る。それは箱のような頭部に二つの目のようなライト・・

胴体は二本のダンパーその左右には各3本のコード・・腕は頭部より出て板を組み合わせたような感じ・・足はダンパーの六角形の土台から大腿が板、下肢が厚い塊である・・


「リカっぶっつけ本番だができるか?」

「は!はい」

健二の声に緊張するリカ

「コードネームはムーンレーザーです」とアンヌ。


「う・うん・・目標前方約30mのロボット・・ムーンレーザー」

地上数十メートルで実体化した亜空間レーザーがロボットに命中

「アンヌ!操っている奴を探せ」と健二。

「はい」

「居た・・此の先500m」

「私が行く」言うが早いかアンナが消える!


「エリムYS-IIが簡単に・・そんな・・月の兵器迄使えるなんて・・」アニーが呟きながら頭部に前だけで、鼻迄覆うバイザーのセミヘルメットを被り・・

水色のワンピースに胸には剣道の胴のようなアーマー右には肩当て(ショルダーアーマー)、前腕には短刀装備の(シールド)・・

左には背部から続く赤い三本の電子コード端のプラグを左肩から上腕の3本のナイフの上を通る様に回し左胸にあるプラグ受けに一本ずつ差し込む・・

左腰に銃、右腰に一つのリングに三つのリング(各々にはさらに小さな円盤が付いている)チャイナリングボム

左ブーツのホルスターに拳銃・・右ブーツに4連装マイクロレッグキャノンを装着・・


気配を感じ振り向く・・

「貴女がアニー」アンナが立っていた。


「銀河!」

良夫が優一たちがいた建物に入り込む。

「良夫、どうして分かったの」

「お前の声ならどんなに小さくても聞き逃さない」


アンナが対峙するアニーに言った。

「如何してこんな事を?」

「母はアン式に全てを駆けていた・・其の結果身体を壊し・・貴女達は母の一生を駆けた作品だった・・だから中心部分だけを持ち帰る為」

「破壊したと」

アンナの左手メインマニュピレーターにショックガンが実体化・・


 その頃、みんなのところに良夫と銀河が合流した。

「やっと脱出できた」

「その腕は?」聞く健二。

「優一さんとアニーが付けてくれたの」銀河の返答に・・

「・・・」微妙な表情の健二。

「危ないぞ」と洋が言うのを

「勝利の女神のあたしがいないとだめでしょうよ」返す銀河。

「えっ!そうなの?」と良夫。

「そうよ」銀河Vサイン。


 リカは何度かのレーザーでエリムYS-IIを破壊、残るは5体!

「行きます」とアンヌ。

「ロボットにショックガンは効かないぜ」洋の忠告もそこそこに・・「大丈夫」と瞬間移動。

同時にアンヌの左手メインマニピュレーターにショックガンが実体化!

逆手に持ち台尻でエリムの頭部を破壊。


 一方銀河にもエリムが一体迫る・・

「いやーっ!」

左手が当り頭部を破損・・しかし

「やる~」良夫の声も耳に入らない

指が開かない・・愕然とする銀河・・


 新たに8体のエリムが実体化最後に一瞬光る・・

(テレポート?それとも転送?)

確認しきれないアンヌ・・


 アニーに詰め寄るアンナ。いつの間にかアニーのブレストアーマーの左背部にライト&下にもカバー付きライトの縦2連のライトが装着されている。

ライトオン。

突っ込むアンナ。

上のライトを銃の台尻で壊し、続いてアニーのセミヘルメットを殴打「くっ」

飛びのきながら(シールド)から短剣を逆手で引き抜き切りつけるアニー・・

続いて右手で左上腕の3本のナイフを抜き、投げる!さらに4連装レッグキャノン一斉発射、チャイナリングボムの一つを外し投げる!なんとかかわしアニーに迫るアンナだがアニー背部の下の予備ライトのカバーが外れライトオン(サイトセンサー)がくらむアンナ。

飛び上がるアニー・・その高さ10数メートル。

ライト固定の支柱排除。

暗闇の中、予備ライトの灯りが落下していくのが見える。

「あれか」駆けつけるアンナだが・・

灯りの落下地点には転がっているライトのみ。

アニーの姿は無かった

「しまった」

少し離れたところにアニーが立っている。

彼女の手に4連装マイクロバズーカが実体化し最後に光り実体化完成。

物品引き寄せ(アポーツ)・・いえあれは」

砲弾を避けバランスを崩しながらもショックガンを連射。

そのまま池に倒れこむアンナ。

直ぐ水面から上半身を出すもアニーはいない。

目を閉じ消えるアンナ・・

水中に細かい気泡が広がりぽっかり水面に空いた空間に周りの水がなだれ込む、留まるところを失ったアンナに付いていた水は少し広がりながら水滴となり落下、水面にいくつもの波紋を描き出す・・やがてそれもおさまり静寂が訪れた・・・


 アンヌの近くに実体化したアニー・・それはアンナ達と違い最後に一瞬光に包まれるものだった・・先ほどのバズーカのように。

両腕に4連装ミサイルランチャーが実体化やはり最後に光る。アンヌに照準、8発のマイクロミサイルが発射され反動でさがるアニーの身体・・

避けるアンヌ!

アンナも実体化!

左右からアニーに迫る!

ランチャーを捨て去り両手から光を放つアニー!

アンナに命中、消えるアンナ!

少し遠かった為、間一髪避けるアンヌ!

しかし髪の毛の一塊は光がかすめ消滅・・

そのまま後ろの木に当りその木が消える!

「物質分解光」とアンヌ・・

続いてアニー自身も光に包まれ消える・・

アンナが実体化するも少しよろめく・・

「大丈夫?」とアンヌ。

「身体が強制的に分解したショックがCPUに逆流して・・」

「物質分解光ね・・しかし分解光で自身を消すアニーは・・」


 リカのレーザー連射も、しかしエリムの包囲網は次第に縮まり遂にペンダントを引き千切られ壊される。

追い詰められる健二たち。

 一方銀河は別のエリムに追いかけられ足を滑らせ崖から落ち木の枝に捕まる・・が指からスパークが

指が開かない!

このままでは枝が折れる、一緒に落ちる歪む銀河の顔!

叫ぶ良夫・・

 対岸にアニーが実体化、次いで先端が2つ・・更に2つに分岐した電極の4極ディスチャージライフルが実体化!

電子スコープが起き上がる。

「アニー」良夫が叫ぶ!

「このままだと義手に繋がる神経が駄目に成ります」

トリガーを引く!

4つの電極でスパークしたエネルギーが銀河の義手を手首から破壊!

落ちる銀河。

アニー光に包まれ消え・・

銀河の下に実体化して光る・・

銀河を受け止めゆっくり下向する、まるで重力など関係ないように・・


みんなを一ヶ所に集め優一が話す。

「アンの研究所の機械は単なる中継機器に過ぎない、そこから亜空間波が月まで届き、そして月から亜空間兵器が地球に降り注ぐ」

「やはり月」洋が呟く。

「アンのアンナ達作成の科学力の元になった、隕石は月から発射された探査機だった、それだけでこれ程の科学力だ、本体の月はどれほどのものか想像もできない、あれは手を出してはいけないものなんだ」

「でもアンはアニーを月に造った」とアンヌ。

「えっ」驚く洋。

「アニーも私達と同じアン(システム)コンピューターだったんです、違いは端末機の身体が成長する事と、合成が完全で私達の様に電波が切れれば身体が分解するのでは無く、現存する物と変わらない物を合成する事・・それを分解するのがあの物質分解光」アンナが言う。

「それだけのコンピューターならCPUだけでも超巨大になるけれど、月になら・・場所は月面南部にある直線の壁南南西約40Kmの地点、その地下80Kmですよね」とアンヌ。

「どうして分かたの」顔を覆うアニー。

「骨格がリカさんと同じです、指紋もね」とアンナ。

「どうして黙ってた」きつい口調の健二。

「聞かれなかったから」あっさりアンヌが言う。

「そうだアニーはアンがアメリカで完成させた、普通の人間でも使えるブースター付きの亜空間中継機で月の機械を操作し作り上げたY型コンピューター・・つまりANNY(アニー)と言う訳だ」と優一。

「Y型・・Yield・・産出する・・創造型ね」アンナの言葉に優一が「そう成長する端末もそうだが、武器なども自己プログラムする事によって様々な物を作り出せる・・能力が違い過ぎるのだ、お前たちに勝ち目はない」


  第3節 月の謎

 悠子が目覚めぐずりだす・・リカが必死にあやすが泣き止まない。


 悠子の泣き声が号泣に変わった時!突然アニーが倒れた。

「何っ」髪の毛(アンテナ)に計器を接続・・メーターを見る優一・・

「A系統第1コンピューター・・シャットダウン、A第2コンピューター、シャットダウン、A第3コンピューター、シャットダウン・・そんな・・B系統第1コンピューターも・・シャットダウン・・B第2・・B第3まで・・アニーのマルチデュアルシステムのトリプルコンピューターが・・6つのコンピューターが1秒以内に全て停止だと!」

「悠子さんよ」アンヌが言う。

「リカさんの血の月のコンピューターを使える要素だけを純粋に受け継いだのよ、不純な・・言い替えれば病的な要素が無いだけ完璧に使える」

「それで月に直結のアニーも」とアンナ。

「通信機は?」洋の問いにアンヌが

「地下コンピュータールームの亜空間通信機に直接・・しかも言葉で無く自己防衛の感情だけで・・」

 泣き続ける悠子。

ムーンレーザー一閃

エリムが一瞬で全滅!

いや1体だけレーザーがかすったエリムがリカに迫る。

後ずさるリカ。

「リカ!」

「退けっ」

駆け寄る健二を押しのけ優一がリカへ・・その時。

エリムが爆発

破片がリカとエリムの間の優一に突き刺さる。

倒れる優一!

「兄さん」

優一を抱き起こす健二。

「俺も甘いな」

「兄さんっ!」

叫ぶ健二、優一から多量に流れ出る血液・・

気が付くアニー

「優一さん」

駆け寄り抱きしめる。

「ア・ニ・・ー」微笑み気絶する優一。

「優一さん」

「アニー君・・は兄さんを」

「可笑しいわね私・・機械なのに例え人間の身体を持っていても機械なのに・・」アニーの目から涙が・・


 アポロ11号以来人類は月に6回着陸し12名が月面に降り立ったしかし、月の謎は深まるばかりだったこの地球の衛星にしては不釣合いに大きい天体の起動は楕円ではなくほぼ真円を描き地球からの見かけ上の大きさが太陽とほぼ一致、また月は自転と公転周期が一致しているため常に表面だけを見せている。

 さらに地球や太陽より古い月の石や不自然なクレーターの浅さアポロの人工地震実験で3時間以上の継続地震動、等々の謎・・

 それらを解決する仮説がある・・月は岩盤層の下に金属殻のある推進装置をもった人工建造物であると言うのだ・・


  第4節 彼方へ・・・

「皆さん御免なさい・・許しては貰え無いでしょうが・・でも私達は・・特に銀河さんには申し訳無いと・・」

手を伸ばすアニーの手から光の粒子が銀河の壊れた義手に降り注ぐ。

 銀河の腕が元通り・・一瞬光って完全合成完了。

「私に出来るのは此位」

「兄さんは助かるかい?」

「判りません・・いえ助けます・・どんな事をしても・・優一さんは私の全てです」

優一を抱くアニーの姿が薄い光のシールドに包まれていく。

「反重力シールド・・」

誰に言うでもなくアンヌが呟く。

やがて光に包まれた優一を抱いたアニーの身体がゆっくり上昇・・

「皆さん・・特に銀河さん許してください」後の言葉は飲み込んだ・・

(悠子さん貴女が成長して自分の意思でその力を使う日が来たら一体・・)


 上昇するアニーと優一・・


 朝日が昇ってくる・・

 その光の中へ消えて行くアニー達・・

 やがて見えなくなる・・

 みんなにも光が降り注いでいく・・


「全ては7月20日から始まった・・か・・」銀河に寄り添う良夫

アンナとアンヌの肩をたたく洋・・振り向いた彼・・山本洋の眼には姉と義兄・・そして碧い瞳の姪が写っていた・・

リカを優しく抱き寄せる健二・・

そして悠子は・・・後に月宮殿のお姫様・・魔宮の皇女・・人形使い・・等々・・脅威と畏怖をもって称される悠子は・・・リカの腕の中で眠っていた・・そう・・今は眠っていたのである・・・

第1部とは言っても実態は前史みたいなものでした・・

次回から本格的に月宮殿のお姫様・・西村悠子の物語がスタートです・・見ていただけるとうれしいです・・

次回・・第2部 黄金の魔城です・・

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