第14話 異常者の初授業
受験勉強マジ怠い。
「先生、席替えって?」
誰かが一華さんに聞く。
皆入学数日での席替え宣言に、驚いている。
「特にないけど。気分?」
一華さんは平気でそう言った。
「先生、どうやって決めるんです?やっぱり籤とか?」
「ううん。私が決める。もう決めてるから前の電子黒板に写すわ」
そういって一華さんはスマホで電子黒板を操作して、新しい席順の画像を映し出す。
皆それに従って、席を移動する。
俺は一番奥の窓際席。
あたりと言われている席だ。
そして、俺の横は勿論玲奈だ。
前後だと話しにくかったし、ちょうどいい。
ちなみに、俺の前は最初の席で俺の後ろの席だった女子。
話したことないが、基本的に静かみたいだし気にする必要はないだろう。
その横は静かそうな男。
こちらに関しては完全に記憶に残っていない。
影が薄くて地味な奴だ。
ただ、俺達の噂を知っているのか俺達の方を一切見ずに息を殺している。
害はなさそうだし、こちらも気にしなくていいだろう。
「さてと、これで席替えは完了。それじゃあ早速授業に入ろっか。最初の授業は……」
そうして、授業が始まった。
各々机や鞄の中から教科とノートを出していく。
正直、俺も玲奈も高校レベルの授業なら受けなくても問題ないが、一応教科書くらい出しておくべきだろう。
一華さんは何をするか分からんし、さすがに現代文とかの文章は知らん。
そう思って、俺と玲奈は机から教科書を取り出した。
「あれ、零君と玲奈何してるの?」
「何って教科書出してるのよ」
一華さんの意味の分からない問いかけに玲奈が返答する。
「え?二人とも普通に授業受けるつもりなの?」
「「はい?」」
思わず一華さんの言葉をオウム返ししてしまう。
「だって、二人に授業とかいらないでしょ」
「そりゃそうだけど」
「二人は自由にしてていいよ。私は二人が高校生活を満喫してくれればそれでいいし」
「それは嬉しいけど……」
「まぁ、だから。無理に授業受けなくてもいいよ。一応毎日学校に顔だけ出してくれればそれでいい」
一華さんにそう言われてしまった。
さすがにこれは予想外だ。
本当に、一華さんの行動は予測できない。
「なら遠慮なく。零、行きましょ」
「行くってどこに?」
「とにかく、着いてきて」
玲奈に手をひかれて、俺は立ち上がる。
「いってらっしゃーい。楽しんでねー」
一華さんに手を振られながら、俺と玲奈は教室を出るのだった。
一華視点
そうして私は玲奈と零君を教室から送り出した。
これで、二人は自由に過ごすでしょう。
「さてと、それじゃあ。気を取り直して、授業を始めよっか」
私は他の生徒達の方を向く。
全て、予定通りだ。
私は授業を進めながら、思考する。
たかだか高一のガキの相手くらい、思考を割く必要なんてない。
授業の準備は梨花ちゃんがしてくれた。
授業で話す内容を資料にまとめてくれて、授業で使うパワーポイントも用意してくれた。
黒板に板書するの面倒だしね。
せっかく電子黒板があるんだから有効活用しないと。
実質的に私は動かず、ただ前で席に座ってパソコンに表示されている文字を読みながらパソコンのエンターキーを押すだけでいい。
別に私ははなから真面目に教師をする気なんてない。
ただただ可愛い娘と顔を見たかったのと、玲奈の担任という立場を他の人間に任せたくなかっただけ。
本当はこの学校に中等部も創って、二人にはそっちに入ってもらう予定だったんだけど。
仕事の方が忙しくて、中等部を創るのが間に合わなかった。
しょうがないから、二人には公立の学校に行ってもらった。
私立っていうのは、その学校の理事長の権力が強くて干渉が面倒。
それに比べて、公立の中学校はちょっと権力を使うだけでどうにでもなるから干渉が楽。
だから、二人には公立に行ってもらった。
勿論教師は私の息がかかった子にしたけどね。
そこで色々やったみたいだけど。
まぁ、終わったことはどうでもいい。
今、私は玲奈の担任だ。
それだけが、今重要なことだ。
それに、担任教師になれば、今までよりもずっと長い時間玲奈を見ることが出来る。
私は子離れなんてするつもりは一切ない。
なら何で玲奈たちを自由にさせているのかと言えば、私は玲奈に幸せに過ごして欲しい。
そして、残念ながら玲奈の幸せは私と一緒にいることじゃない。
別に私が玲奈に嫌われているわけではない。
年齢的なものもあって、多少私に冷たいが反抗期と言われれば、少し弱い気もするくらいだ。
きっと玲奈が私に向ける感情は一般的に娘が母親に向ける感情よりも少し強いくらいだろう。
だけど、玲奈にはそれ以上の存在がいる。
零君だ。
玲奈は零君に心酔している。
零君とそれ以外のどちらかを選ぶなら、玲奈はまず間違いなく零君を選ぶだろう。
そしてそれはきっと零君の方も同じだ。
二人は家族なんて比じゃないくらい強い想いで結ばれている。
玲奈の幸せは零君と一緒にいること。
零君の幸せは玲奈と一緒にいること。
だからこそ、私は二人で人生を楽しんで欲しいのだ。
周囲の能力の低いゴミを気にせず、自分達の想いのままに過ごして幸福を歩んで欲しい。
二人にはそれを実行できる才能と能力があるし、私にはそれをサポートできる力がある。
財力も権力も私に勝る者はいない。
私は娘の笑顔が見たいだけ。
そのためには、零君と自由が必要だ。
だから、私は玲奈を自由にする。
それが玲奈の幸せだと確信しているから。
私は今二人が何をしているのかを予想しながら、授業を続けるのだった。
???視点
俺の名は佐藤宗助。
突然だが、俺が住んでいる街にはある噂がある。
この街には異常者が二人いる。
若い男女で常に一緒にいる。
異常者に絶対に近づいてはならない。
近づいて、目に留まれば最後。
その者は物理的にも社会的にも破滅に追い込まれる。
そんな、一見馬鹿げた噂だ。
だが俺はこの噂が真実であることを知っている。
なぜなら、その異常者は俺と同じ中学だったからだ。
噂の通り、その二人は常に一緒にいた。
どちらも顔が良くて、金持ちらしく、テストの結果もよかった。
最初の方はその二人にすり寄ろうとする奴もいた。
しかし、二人はそいつらを一切相手にしなかった。
だが、そういった奴等はすぐに消えた。
理由は簡単だ。
その二人に少しでもすり寄ろうとした奴が片っ端から転校することになったからだ。
理由は分からないが、とにかく転校していった。
噂だが、そのほぼ全員が病院送りにされたらしい。
更には、そいつらの親が務めていた会社が次々と倒産していった。
なんて噂もある。
最初は皆、ただの噂だと思っていた。
だが、ある日クラスの生徒数人が無理やり二人に触れようとしたときそれは起きた。
一瞬でそいつらがボコボコにされたのだ。
あまりに手つきが鮮やかで何をされたのか分からなかった。
あきらかな暴力事件。
本来なら教師から厳しい罰が下されるはずだ。
普通に考えれば警察沙汰だ。
だが、結局学校側はその二人に罰を与えることもなくクラスメイトが呼んだ警察は終始その二人に頭を下げるだけで何もせず帰っていった。
そこで俺を含め周りの連中は察した。
異常者の噂は本当だったのだと。
そこからは噂は更に広まっていき、最終的にその二人に近づく者はいなくなった。
あの二人は基本的に互いにしか興味がないらしく、関わらなければ比較的安全だった。
校内で二人に絡んでいった奴らがボコボコにされるのはよくあることで、校舎内にボロボロの人間が転がっていた。
最初こそなれなかったが、三年生の頃には見慣れたもので特に気にならなくなった。
話は変わるが、俺の親は菓子会社の社長だ。
将来のためと、親に勧められて所謂金持ちの私立高校である共日高校に入学した。
入学が決まった俺の心はとても晴れやかだった。
もう異常者と関わることは絶対にないだろうと安心していたのだ。
そして入学式、俺は絶望した。
新入生総代が異常者二人だったのだ。
俺は馬鹿だったのだろう。
金持ちで頭が良い異常者ならば、金持ちが集まる共日高校に来るのは自然なことだった。
周りに共日にくるやつがいなかったから完全に油断した。
そして入学式後、更に俺は絶望した。
異常者と同じクラスだったのだ。
更に絶望したのが、この学校の理事長が異常者の片割れの母親だったということだ。
まさか異常者がかの神宮慈一華様の愛娘だなんて誰が予想できたのだろうか。
そこから俺は絶望の連続だった。
政界にすら多大な影響を及ぼすあの神宮慈一華様が担任になったり、神宮慈一華様の娘への溺愛度を知ったり。
俺は様々なことで絶望した。
そして俺は今日もまた絶望した。
何と、俺は異常者の前の席になってしまったのだ。
異常者は授業を適当に出ていくことと神宮慈様の授業がとても分かりやすかったことは不幸中の幸いだった。
俺はこの先の高校生活に絶望しながら、神宮慈様の授業に耳を傾けるのだった。
一華さんは基本玲奈と零には甘々ですが、割と人を見下しているところがあったりします。
決して表に出しませんが。
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