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Hello, Foreigner

 燃えたぎる家屋、千切れたケーブルと配線コード、根本から崩れた足場、倒れているのは人?


 周辺の音声を拾っているのか、メリメリと鉄骨が崩れる音、爆発音、そして悲鳴が聞こえてくる。雑音が混じっているせいで聞き取れなかったのが幸いだったのだろうか。だってモニターに映し出された人達はどう見ても怪我をしていないようには見えなかった。


 一体何が起きたというのか。たった数分前までは特に問題はなかったはずなのに、アニメや映画にありがちなロボットの駐機スペースといった感じだったのに、それがいつのまにか火焔と死屍累々の広場に早変わりしてしまっているではないか。


 あの衝撃だけでこれ?いや、そんなわけがあるか。もっとひどいことが起こったはずだ。たった一つの衝撃で何もかもが吹き飛ぶなんて、そんなことあっていいはずがない。それじゃあ、あまりに酷すぎる。人に命が軽すぎるじゃないか。


 感想なんて山ほど浮かんでくる。山ほどだ。なんで、どうして、ひどい。そんな陳腐な言葉の類語ばかりが脳裏で浮いては沈み、沈んでは浮き上がってくる。人の死。そんなものを見たことがない俺がまだ発狂していないのはきっとこれがまだモニター越しで、しかも相手の顔を間近で見ていないからだ。見ていたらきっと吐いている。そんな予感が、する。


 「いかがでしょうか。現在映し出されている映像は生中継している(リアルタイム)映像になります」


 また声が聞こえた。コックピットの天頂から聞こえてくるようで、左右から聞こえてくるようにも感じる。この機械的で中性的、しかし感情を排した声の正体はなんだ?


 「誰だ、あんたは」


 「私はこのフェロンノートの制御及び補助を任されている()()()量子インデクターです。名前はまだありませんので、適当に付けておいてください。変な名前はごめん被りますが」


 ことさらに「完璧な」を強調しながら自己紹介するその姿からはとても完璧性は見えてこなかったが、声の正体はわかった。量子インデクターという地球で言うところの量子コンピューターのような存在が、音声ソフトか何かを使って話しかけているということか。なるほど、理解した。


 しかし疑問が一つ解凍すると、次の疑問が湧いてくる。さっきまでは音沙汰なかったはずの量子インデクター様が一体どうして今になって堰を切ったようにべらべらと喋り出したのか。まさか寝ていましたとかは言わないだろう。


 「先ほどまでは電力供給が追いついていなかったため、睡眠状態でした。ですが今はこのフェロンノートを15分間、動かす程度の電力余剰はあります。もっとも、このブランチ内に限りますが」


 「電力が追いついてなかったんじゃなかったのか!?」


 「157秒前に膨大な電力の供給を受けました。理由は不明ですが、そのおかげで今の私はあなたと会話することができています」


 157秒前というと、衝撃を受けた直後くらいか?そもそもそんな時間になるまで、どうしてこのロボットに電力供給が来なかったのか。いや、それは後だ。今は考えるべきことじゃない。


 「モニターを見た。外のあれはどういうことだ!誰がやったんだ」


 「睡眠状態時のことですので、詳細はわかりません。ですが、なんらかの熱量兵器による攻撃を受けたものと推測します」


 モニターの一部をアップにすると、高熱で瞬間的に溶かされたと思しき、溶断跡が見える。見るとその近くに地面が焦げたような跡があった。


 まさか、ビーム兵器?そんなものが実用化されているのか、この宇宙では。でも自分の敷地でそんなものぶっ放す理由はないから、攻撃を受けている?そう推測するのが妥当だけど、一体誰が?


 「提案します。現在の電力状況を加味すると最大稼働時間は13分ほどです。自動操縦に切り替え、宇宙港への退避を推奨します」


 宇宙港。そりゃあるか。大きなシリンダーの中で自給自足ができるような環境には見えなかったしな。というか、少し稼働時間減ってない?


 だけど、それで助かるか?そもそも攻撃を受けていると仮定した場合、こんなでかい的が宇宙港まで逃げようとしたらさすがに気づくんじゃないか?


 かなりのリスクがあるが、逃げられれば結果オーライだ。しかしいまいちこの量子インデクターというのは信頼できない。そもそもたった13分で宇宙港とやらにつけるのかも怪しい。攻撃してきている「敵」の正体も掴めないまま、宇宙港にダッシュすれば逃げられる、という考えは楽観的すぎやしないだろうか。


 「成功確率は?」

 「現在の本機の位置と宇宙港までの直線距離を考えますと、40%以下になります」


 また微妙な数字だ。だいたい傘持っていない時に雨が降る時の降水確率くらいじゃないか。無駄に湿度ばかり高くて不快、そんな気分を味わう確率。


 全然美味しくない。だけどこのままここに篭っていても、いつかはビーム兵器に撃ち抜かれてしまうかもしれないし、そもそも電力の無駄だ。


 いっそ、このロボットで敵を倒す、とかはどうだろうか。たった13分を有効活用するためには、それも一案としてあると俺は思う。問題は俺がロボットの操縦なんてアームズマン以外にやったことがないことだが、ヘルルカが言っていた神経を伝う電気信号を読み取るというこのロボットの特性をうまく使えば可能性はある。


 「なぁ、このろぼ、フェロンノートで外の敵と戦うことはできるのか?」

 「可能です。しかし稼働時間が短くなります。いかに完璧な私と言えど、電力消費はどうしようもありません」


 「不必要な部分への電力をカットすればいいじゃないか」

 「……なるほど。了解しました。()()()()()()()我慢してください。同時進行で両腰部フラグメント、臀部流機装置への電力供給をカットします」


 量子インデクターがそう宣言したとほぼ同時にそれまでは全く感じていなかった揺れがコックピット内に伝わってきた。量子インデクターが言っていたことは詰まるところ、さっきまではなんらかの衝撃緩和機構でコックピットに伝わる振動や衝撃を緩和していたということか。俺はともかくヘルルカは大丈夫かな?


 「最後に確認しますが、本当に戦うのですか?」


 ヘルルカを下ろすことも考えたが、やっぱり今はこのロボットの中が一番安全な気がする。シートベルトで固定しているから多少の揺れや衝撃じゃぁ傷つかない、はずだ。


 「ああ、もちろん」

 「了解しました」


 頷く俺の解答が琴線に触れたのか、量子インデクターの声が上ずったように聞こえた。機械音声に上ずったも下ずったもないだろうが、確かにそう聞こえた。


 「ではより円滑な受信確率のために生体データを取得します。受信機に両手の前腕部、下腿部をセットしてください」


 はいはい、と元の席に戻り、円筒状の機械に手足を突っ込んだ。何かを読み取っているように機械に付いたスリットが発光する。


 「生体データの取得に成功しました。操縦桿を握ってください。下部のペダルに両足を置いてください」

 「握ったし、足置いたぞ」


 「ゆっくりと右側のペダルを押してください。周囲に生命体がいないことは確認していますので、ご安心を」


 それってつまり。いや、今は余計なことを考える暇ははない。量子インデクターの指示通りに右側のペダルをゆっくりと踏んでいく。するとほぼ同時にメインモニターの映像がわずかに下側へ移動した。振動も感じる。


 「次は左足です」


 言われた通り、左側のペダルを踏む。なんだか自転車でも漕いでいるような感覚だ。ただ自転車と違うのはペダルが回転しないことくらいだろうか。


 左側のペダルを踏むと、今度は左足が大きく踏み出されたのか、さらにもう一回だけモニターの景色が揺れた。それを交互に繰り返し、壁が解けた跡から覗き込むようにロボットを操作する。驚くべきことに俺がしたい動きを完璧に追従するようにモニターの景色が変わっていく。まるで手足のような気軽さだ。


 それでも時折、バランスを崩して倒れそうになるのはヘルルカが言っていた、量子インデクターが電気信号の読み取りに失敗したからだろう。適合率が高い、と彼女は言っていたが、そもそもがズブの素人だ。転ばなかっただけ、マシと思うべきか。


 「重心を安定させてください。基本動作は普段、道を歩く時と同じ所作を意識してください」


 そんなことを言われてもなぁ!


 そもそもがこの操縦システムの成り立ちというのは、正規の訓練を受けたパイロット(ハーネット)がいることが前提である気がする。操縦技術が一応あって、実践とかを経験していないパイロットがちゃんと適切な動作をすることができるように補助をする、というだけのシステム。ならばあくまでこのシステムが目指すところは補助であり、電気信号を完璧に読み取って、ロボットを動かすというのは少しズレた発想のように思える。


 あーだこーだと色々と操縦桿を動かしていれば、ある程度はどうすれば前進するのか、方向転換ができるのかはわかってくるが、それでも十数メートル移動するだけで3分は使った。あと残り10分で「敵」を倒せるのか?


 「顔を上げてください。最大望遠映像をメインモニターに写します」


 息をつく暇もない。俺を休ませない量子インデクターは有無を言わさず、メインモニターに視線を向けさせる。


 メインモニターに映し出されたのは黒煙を上げる工業都市、火災も起きている。外部音声をカットしているから、音は聞こえないが、きっとあちらこちらで車の警告音や救急車のサイレン音、そして逃げ回っている人の悲鳴が聞こえるんだろうなあ。


 赤化した建物が水をかけられた粘土細工のように崩れ、そして直後に爆散する。モニターの端から鉛色の一閃が飛んできてその瞬間、左側にあったビルから火炎が巻き起こり、それを倒壊させた。なんだ、とロボットの視線を移動させ、閃光が飛んできた方向を見る。


 そして映し出されたのは緑色の巨大なロボット。宙空から無慈悲に工場を狙い撃ちにするそのロボットは縦横無尽に虐殺を続ける。まるで何かを燻り出すかのような無差別な攻撃、それはまるで地球にいたかつての独裁者共みたいに感じられた。


 「シルエットから機体を照合、当該機はGFn-106。オゴタ・インダストリー製フェロンノート、通称バズであると断定しま……え?」


 思い立ったが吉日。言うが早いか。そんな話だ。べらべらと何か量子インデクターが言っていたけど、それは無視しよう。今はとりあえず、目の前のこいつを殴り飛ばす!

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