最強と最凶 ~死生有命~
「 嘘だろ…… 」
その乱れた白銀の髪に――。
歴戦の魔法兵達は戸惑いをみせていた。
「 ……一体、何が……起きた…… 」
老紳士の威風な冒険者服は、無残にも襤褸切れとなる。
押さえた右肩。その傷口から止め処なく、流れる――夥しい量の血。
濁った水溜りの中で膝を折る……隻腕となった ゲイリー・バトラー 。
それは、寸秒前には想像もつかなかった――姿。
想像を絶する苦痛に、歪ませる表情。
――虚ろな瞳、必死の形相でその姿を見据えていた。
醜悪な異形。辛うじて人の形を留める肉体……。
狂うように笑う、剥き出しの人面。
その肉塊が不気味に蠢く――化物。
その光景に……誰一人として理解が追いつかなかった。
先程までの両者の壮絶な攻防。その中で…… ゲイリー は、確かに……この化物をあと一歩のところまで追い込んでいた。
しかし……たったの一撃……。
たったの一撃の反撃で……。
全てが狂い始める。
どこまでも底の見えない闇が洞窟内を覆っていく。
逃げることも出来ず、ただ呆然と立ち尽くす――魔法兵達。
瞬間――血の混じる老紳士の口元が緩む……。
慄く、周囲を……丸呑みにして、 ゲイリー は……。
―― 凶人の微笑みを見せていた ――。
「 ……そう、ですか…… 」
それは苦痛と歓喜、そして……増悪を吐き出すように。
「 ……貴方が……『 神徒 』でしたか…… 」
そう、呟くのであった――。
「 ――――――――――!!!? 」
―― 『 神徒 』 ――。
その言葉に イザベル の表情は、驚愕 と恐怖に歪む。
( ……あれが…………!!!? )
聴き覚えがある……。それは魔法師団の兵役時に、先生の口から幾度も聞いた言葉であった。
その正体は霞のように消えては現れる……現実味のないもののように イザベル は感じていた。
けれども ――。
イザベル が捉えるその姿は。
剝き出しの肉塊が細胞分裂を起こし、傷口を修復していく。
何度、致命傷を負わせても……死なない体。
まさしく――真の化物。
半信半疑であったものが……。
今こうして、形となって現れ――。
――師を追い詰め。
そして……今、その命を奪おうとしていた――。
( ――不味い……!!!? )
冷たくなった雫が全身から滲み出る。
先生の傷、それは明らかに致命傷――。
この化物と違い、失った四肢は二度と生えてはこない……。
酸素を求めて水中を彷徨うような……息苦しさに身悶える。
( しっかりしろ……イザベル・フィッツロイ!! )
――そう、自問自答する イザベル 。
両者の壮絶な死闘。その残像がまだ……脳裏の片隅にこびりついていた。
( ……私はもう……その一線を踏み越えた…… )
奥歯を噛み占め……眼に光を灯す。
過去との決別。それが 彼女の思考を一歩先へと進ませる。
ひどくゆっくり打つ心臓の中、……周囲を見渡す――状況把握。
( 魔法師達は、恐怖で足が竦んでしまっている…… )
小さな鞄 < 異空間収納鞄 > へと手を伸ばす。
( お嬢様 と 蓮花 は、満身創痍。最早……戦える体ではない…… )
つまり、動けるのは私だけ――。
片手五指に挟み、投げ入れる魔石に――。
せめて、私が――。
微かに震える声の詠唱。
「 ――我、問う魔導の理を万象にて現し、障壁なり我を護れ 疑似防御壁―― 四重復唱―― 」
『 霊糸 』を飛ばし、魔石が光り出す。
しかし……。
「 ――――なっ――――!!!? 」
その瞬間の様子を イザベル の掛ける眼鏡 < 術視鏡 > が、捉えていた。
――それは、展開される『 術式 』。
それが……。
綻ぶように解けていく……。
―― 魔術の不発 ――。
( ――なんで……!!!? )
――駆け巡らせる思案。
泳がせる視界……瞬間――足元を覆う、巨大な『 方円陣 』がその眼鏡に映り込む……。
( これは……一体……!!!? )
……先刻もそうだった。この『 方円陣 』が広がった瞬間、先生の 固有魔術 『 天罰斬糸 』の熱光線が消滅していたように視えた……。
――もし、その可能があるとすれば……魔術を ”消去” する魔術。
――いや、発動中の『 術式 』 の ”消去” は四大不変機構。
そんな魔術など、不可能に近い……。
またしても イザベル の脳裏によぎる『 神徒 』という言葉。
人の領域を超えた、神に近いの存在……。
それが……この化物の正体だとすれば……。
( こんなの……どうすれば…… )
頼みの『 魔導 』を塞がれ、イザベル は成す術を無くしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
( ……くそっ…………くそっ……糞がぁぁぁあ”あ”ああ…… )
何度も立ち上がろうとする アウレ の小さな身体。
全身の傷は今もなお、疼き、身体の力を奪ったままであった。
( …………俺は……またそうやって何もできず…… )
その悔しさに拳を地面に叩きつける。
( ……這いつくばっているだけなのか!!!!!!!! )
そう、碧い瞳を必死に巡らす視線の先……。
膝を屈する ゲイリー・バトラー 。
その彼へと忍び寄る不気味な影。
その紅い瞳が光芒一閃、揺れ動く。
無数に切り刻まれた身体の傷が、細胞分裂を繰り返し、再生と修復を続け出していた。
その様子に アウレ は眉を顰めた――。
……おかしい……。
まだ回復が、終わっていない……。
碧い眼 < 魔成眼 > が映し出す――その化物の内部。
異常な『 魔力 』の流れ……。
―― その集結点、青白い発光体 『 魔臓 』――。
以前は……夥しいほどの数だった……。
――それが確実に減っていたのである。
それは、明らかな兆候。
――そうか、これは……。
胸からこみ上げる血の味。
動け――。
折れた肋骨が肺に刺さっている可能性がある……だが……。
動け――。
――それがどうした……そんな言い訳にならねぇ……!!!!
何度もよろめき、また膝をつく アウレ 。
瞬間――その身体を イザベル が支えた。
「 ……お嬢様!!!?……その身体では無理です…… 」
気遣い、心配する声をかける。
( ――この身体では、もう……剣すらも上手く握れねぇ……。……だが………… )
しかし、アウレはそれを振り払い――。
「 ……まだ、終わっってねぇぇええ”え”え――!!!!!! 」
振り絞る、叫び声――。
「 「 ――――――――!!!? 」 」
その咆哮に一同の視線は金髪の少女へと注がれる。
「 ――俺らは!!! 何をしに、ここにいる!!!! 」
少女の擦れた声が響き渡る――。
「 ――わかっているのか!!!! 今、動かないと……じじいはここで死ぬ!!!!! 」
灯す――火種。
「 誰でもいい――!!!!! 」
腹の底から沸き上がり、延焼していく……。
「 ――あと、九つだぁぁぁあ”あ”ああ!!!! 」
強く、激しく……連鎖する感情。
「 ……動けぇぇぇええ”え”えええええ――!!!!! 」
血の滲む口元から零れ出す――檄……。
それは……。
( ……わしらは……馬鹿か…… )
歴戦の魔法師を震わせた……。
「 ……嬢ちゃん……の言うとおりじゃ…… 」
灯す瞳に――、翻す漆黒のローブ服。
「 ――動ける者は詠唱を開始しろ!!!!! 」
重々しく声が共鳴し、その背中を燃えるような金色の大炎の刺繡が靡く。
「 ――なにも考えるな!!!!! 」
顔に刻まれた深い皺と無数の傷。
歴戦の猛者であること、と共にその覚悟を示す――。
「 ――ありったけの全魔力を注ぎ込め!!!!! 」
熱を帯び始める場内。それが伝播していく……。
「 「 「 ―― 汝、血の契約を伝ひて不変の楔と化し…… 」 」 」
呼応する兵達は、競うように詠唱を始める。
「 「 「 ……魔を滅ぼす 炎槍なりて敵を穿て |猛炎槍≪フレイルーン≫ ―― 」 」 」
瞬間―― イザベル が目を見開く。
( ――不味い……!!!!! )
……膨れ上がる肉塊。新たな触手の生成。
――背筋を奔る戦慄。
この巨大な方円陣が展開される中では、全ての『 術式 』は無効化される――。
『 魔術 』、『 魔法 』の詠唱……その隙が最大の弱点となる――。
狙われている……。
「 待ってください!!!!! 『 術式 』は無効化され……――――――!!!? 」
その瞬間 イザベルの眼鏡 < 術視鏡 >に映り込む、光景。
それは……。
次々と魔法兵達の掌に浮かび上がる――火の魔法陣。
( ――嘘っ……!!!? なぜ……発動ができるの……!!!? )
刹那――剥き出しの肉塊がその動きを止め……。
咄嗟に展開する透明な天蓋 『 魔法防御壁 』 。
その様子に……。
( ……やはり……そういうこと……でしたか…… )
混濁する意識の中の ゲイリー は……密かに口角を吊り上げた。
『 魔法 』はその血と肉に、刻み込む『 術式 』の因子魔術。
この魔術世界の輪の中で 第二代 魔法皇王 アルベスタ・セルタニア が独自に創った独立した輪――魔の法である。
―― 故に『 魔法 』は、改竄することが出来ない ――。
展開される火魔法の閃光。
―― 恐れるな ――。
無数の灯が連なり、仄暗い洞窟内を煌々と照らす。
―― 燃やし尽くせ ――。
烈火の如く撃ち込まれる――集中攻撃。
弾着弾の音が鳴り響き、洞窟内を揺らし……。
―― 奴らの腹の中で存分に暴れてやろうぞ ―― 。
憤怒のように揺らめく焔が絶え間なく、『 魔法防御壁 』の外壁を焼き尽くす。
その轟音の中を……。
「 ―― 汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 蒼炎の槍なりて敵を穿て |蒼炎槍≪ブレイルーン≫ ―― 」
―― 重く響く、低い声色。
激しく燃え盛る――蒼炎の槍。
それは 元 |火源≪サラマンダー≫ 魔法師団 副団長。
『 特級 』 魔術師 ゴルドエ・ベルトライン だけが使える 固有魔法 であった。
筋骨隆々から放たれる、その槍は、大小様々な火魔法と重なり一つの大炎となる。
舞い上げる火の粉が流転し、地獄の様相を見せていた。
しかし……天蓋の中で、不気味に佇む――剥き出しの化物。
「 これでも……駄目か…… 」
ゴルドエは灼熱の熱波に、ぬぐい切れないほどの汗を滲ませていた。
「 ――いや!!!あと、八つだ!!!!! 」
アウレ の碧い眼が、断ち切るようにその留意性を示す。
ピシッと音を立てる天蓋――小さな亀裂。
それは……その絶対防御が、崩壊する予兆であった。
その碧い眼 < 魔成眼 > に映り込む、青白い靄――魔力。
その集結点、発光体の『 魔臓 』が消費され、消えていく。
( ……やはり、この化物の正体は魔力の塊。この防壁も身体を再生する際も魔力を使っている )
それは決して、不死身の身体ではないということの証明――。
「 ――撃て!――撃て! 叩きこめぇぇええ”え”えええ!!!!! 」
凶器と化す熱風の中 ゴルドエ が声を張り上げる。
蜷局を巻く火柱が大蛇の舌を見せ、猛烈に立ち騰っていた。
( ゲイリー 殿の見解どおり……この化物は、複数の『 術式 』を扱うことが出来ない……。それは、絶えず攻撃を浴びせる限り、『 魔法防御壁 』以外の行動はとれない、ということ…… )
つまり、ここが――正念場。
この砲撃が切れた瞬間――わしらの完全敗北となる。
『 魔力水 』は、もう全て使い切ってしまった……。
よって……魔力の補充は見込めない……。
それは……。
兵達の残りの魔力が尽きるのが先か――。
それとも、この化物の魔力が尽きるのが先か――。
最早、これは……純粋な魔力の凌ぎ合い。その火花を散らす――消耗戦。
「 ――気張れぇええ”え”えええ!!!!! 」
「 ――あと、七つ!!!!! 」
刹那――その透明な天蓋は破れる。
……被弾する――化物……。
だが……その姿が突然――消失する。
「 ――――――――――!!!? 」
―― 転移の魔術 ――。
標的を失う魔法兵達は、視線を泳がせる……。
「 ――左側、四二度!!!!! 壁面です!!!!! 」
眼鏡越し イザベル の正確な指示が飛ぶ――。
姿を現し……壁に張り付く――凶暴な肉塊。
伸ばす触手の表面。無数の魔獣の口から奇怪な声を発し……。
魔法兵達の『 火炎防御陣形 』へと襲い掛かる。
放たれる目にも留まらぬ触手の斬撃――。
前衛の構える大盾を喰らい――貫通。
―― 阿鼻叫喚の嵐 ――。
兵達の上半身もろとも吹き飛ばしていく。
「 ――……構わな、撃ち込めぇええ”え”え!!!! 」
仲間の血飛沫と肉片が烈しく飛び散る中を。
無我夢中で撃ち込む――火魔法。
洞窟内の壁から壁へと高速の立体機動の回避を見せる――化物。
無数の砲撃が飛び交い、その照準を捉え……気迫と物量で撃ち落とす。
堪らず展開した『 魔法防御壁 』。
その上から更に叩き込む、集中砲火が――。
化物を釘付けさせ……再び、天蓋の中へと封じ込めることに成功していた。
しかし……。
全隊を指揮する ゴルドエ の額に伝う雫――。
このままでは――。
――まだ、届かない……。
「 危ういのう…… 」
――そう、が呟いた……。
瞬間――老紳士の震える左手が挙がる。
指で弾き、放物線を描く――薄紫色の魔石……。
―― ”截取” の < 特異魔石 > ――。
『 ……正直に言って半信半疑だ…… ゲイリー 殿 …… 』
それは……在りし日の 元 火源 魔法師団 団長 アルトバラン・メルバトス の言葉。
『 この『 禁咒 』の魔法 『 黒陽臨界 』は、確かに強力な魔法……だが、使用するには膨大な魔力が必要となる。全盛期のわしでも一日一発が限界だった……。それを四発も……本当に、それ程の事になるのか……? 』
眩い、閃光――が、醜悪な姿、事象を照らし出す……。
( どうやら……この『 輪廻呪印 』も……改竄できなかったようですね…… )
――老体の首筋の黒い痣が急速的に拡がり、顔を半分を覆っていく。
その瞬間、ゲイリー は、凶悪に口角を吊り上げた。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封――。 」
天蓋の上空にゆっくりと回転する、紅き球体。赤く滾る――疑似太陽。
その表面が湧き立つ度に熱波が押し寄せ、『 魔法防御壁 』を包み込む……。
―― 天上の業火 ――。
唸るような轟音が衝突する瞬間――。
―― 静止 ―― 圧縮 ―― 爆縮 ――。
ほとばしらせる火口は、輪郭を闇の中に溶かし、黒き珠を顕現させる。
その余波が全ての感覚を奪い、姿、形ある者を……無へと帰す――。
最上級の危殆指定『 禁咒 』の火炎魔法。
―― 『 黒陽臨界 』 ――。
その衝撃は……透明な天蓋をも喰らい、大気に吸収され逆行――嵐が吹き荒れる。
だが……。
この世とあの世の地獄の門ような火の壁をくぐって、亡霊のような人影がよろめき出る。
「 ――くっ――これでも…… 」
――驚愕するも……決して、その砲撃の手を緩めない。
「 ――あと、四つ!!!!! 」
爆音の後の爆音。
連鎖するように絶え間なく、隙間なく……続く――絨毯爆撃。
広い洞窟内に白煙が立ち込め、着弾の突風が晴らす。……そして、また白煙の中へと包まれる。
上昇を続ける灼熱の温度、消費する酸素を喰らい尽くす。
一兵たりとも振り絞ぶる――全魔力。
汗の雫が滝のように流れ……息苦しさと消耗が、兵達を同時に襲う。
しかし、細部も緩ませず、必死の形相で詠唱を続け、魔法を展開し続ける。
轟々と音を立てて、燃え盛る炎が際限なく広がっていく。
その髪の毛一本すら残さず、焼き焦がす――魔法。
その燎原之火に――天蓋の外殻は赤く熱されていた。
その狭間……。
血を失い過ぎた ゲイリー は……。
最早、その限界を超えていた。
突然の吐血――。
「 ――じじい!!!!!? 」
混濁する老紳士の意識……。
そこに走馬燈のように浮かび上がる 魔法皇王 ノーマン・セルタニア の言葉。
『 ゲイリーよ……本当にやるのか。これは、お主の娘の命を奪った『 術式 』じゃぞ…… 』
ゲイリー の身体を蝕む黒い痣。三大厄災の一つ 『 黒紋病 』。
この『 術式 』の機能は三つ。魔力の”吸収”、『 術式 』の”増殖”、そして……”供給”である。
それらの機能を 魔法皇王 ノーマンの右眼 < 魔成眼 >で ”解析”、”再編”。
更に、それぞれの機能を自分の身体と < 特異魔石 >に埋め込み、統合。魔力回路で繋げた。
< 特異魔石 > には、魔力を保存する効果がある。
そして……その < 特異魔石 > に、あらかじめ魔力を"吸収"させ……魔力回路を通し……自分の身体へと"供給"させる。
人口の『 魔臓 』。膨大な魔力の堰堤 。
しかし……これには、副作用が存在する。
”増殖”の機能。それは、魔法皇王の< 魔成眼 >をもってしても、抑制する程度でしか抑え込めなかった、強力な『 術式 』であった。
一定の魔力制限を超えると『 術式 』が暴走、勝手に”増殖”し、魔術回路を介して過剰な”供給”を繰り返す。
結果――人の身体にあまり余る程の魔力出力が循環する。
それは。魔力回路を焼き切り、魔臓をも破壊するほどの魔力が雪崩れ込む――劇薬であった。
禁忌の呪法 『 輪廻呪印 』
( ……私が魔力を溜め続けた……この四十年間…… )
刹那―― お嬢様 へと送る双眸……。
( ……その全てを……ここに賭ける…… )
瞬きもせず、交わされる碧い眼 < 魔成眼 >。
……が、その姿を映し出す――。
無数の黒い痣から発露する青白い閃光。稲妻のように身体の内部を駆け巡り――制御不能の激流葬となって、血管と魔力回路を焼き尽くす。
「 ――な――じじい……待て…… 」
そして……老体の『 魔臓 』の器を満たし、蝕んでいく、瞬間――。
再度、その化物へと向けられた左手。震える指で弾く――薄紫色の魔石。
「 ……それ以上は……駄目だ…… 」
……吊り上げる口角。
――『 輪廻呪印 』が急速的にゲイリーの全身を黒く染め上げていく――。
その最期の命を燃やしきるように……。
「 ――やめろぉぉおおお”お”おおぉぉおお”お”おお!!!!! 」
――無言の怨嗟。
……その詠唱。
刹那――紅い瞳が光芒一閃の光を放つ。
その瞬間を待っていたかのように、老紳士へと向けられる殺気……。
『 魔法防御壁 』を解き……急速的に膨れ上がる肉腫――。
それは相打ち覚悟の反撃――。
「 ――させぬわぁぁぁあ”あ”ああ!!!!! 」
瞬間――ゴルドエ の魔法 |蒼炎槍≪ブレイルーン≫がその肉塊を焼き潰す――。
そして……。
―― 再びの 『 黒陽臨界 』 ――。
上空にゆっくりと回転する、紅き球体。不規則な回転のズレに黒く染まり滾る。
――その疑似太陽が醜悪な化物の姿、形を飲み込み……。
再び、衝激音 ――。
―― 爆縮 ――。
劈く閃光に、身を引き裂く衝撃が伝播する。
塵が大きく揺れ動き……流転する次の瞬間――。
一瞬の静寂……そして、訪れる暗黒世界――。
死の灰が舞い散る場内に――。
……兵達の荒い息だけが木霊していた。
火魔法の弾幕……その打ち止め……。
全魔力を出し切った魔法兵達は……。
――次々とその場に膝をつく。
――それは勝敗の執着地であった……。
しかし……。
暗闇と白煙に包まれた洞窟内……。
ゆっくりと気流が対流する。
「 ……おいおい…… 」
煤と汗に、まみれた魔法師達がその光景に愕然とする。
「 ……噓だろ…… 」
黒い人影がゆらゆらと揺れ……。
肉は焼き焦げ、蒸気の音を上げる――二足歩行。
黒く炭化した肉片が崩れ落ちていく。
剥き出しの肉が泡のように蠢く。
その姿に……。
「 ……不死身……の化物…… 」
魔法兵達の誰かが、そう呟き……。
抗いようのない、その絶望に平伏す――。
その瞬間……。
――黒く変わり果てた老紳士の上体。
それが左右に大きく揺れ始める……。
「 ゲイリー 殿……!!!? 」
――力なく崩れ落ちていく。
虚ろな瞳……。
刹那―― お嬢様 へと……。
交わす視線――。
微かに動く、口元――。
綻ぶ――。
その言葉に……。
「 ――な、――――ふっざけんなぁぁあ”あ”ああぁぁぁあ”あ”ああ――!!!!!!!! 」
金髪の少女が激昂した――。
――刹那……。
背後から……響く重厚な声。
「 ――相分かった…… 」
翻す――漆黒のローブ服。それを受け止める背に、燃えるような金色の大炎の刺繡を靡かせる。
筋骨隆々の全身から溢れる――『 魔力 』が、空間を支配していく。
( ……ここに来る道中の ゲイリー 殿は……確かに言っておった…… )
――「 ええ……期待しておりますとも…… 」――。
ようやく……今、その意味が分かった……。
この言葉は……この状況を見通した言葉。
……思えば、最初からそうだった。
進軍の時も……。
大型の魔獣との戦闘の時も……。
魔法師達の魔力を温存させるかのように立ち回っていた。
全ては……この時……。
この一発のため――。
この状況は ゲイリー・バトラー という漢が思い描く、最悪の想定の一つだった。
――ならば……今、動かずして、いつ動く……!!!!!
高密度な『 魔力制御 』。そこに忍ばせる――覚悟の火。
それが……。
厳烈 に――。
峻烈 に――。
燃え上がる―― 熱烈峻厳 。
瞬間――その眼・鼻・口元から噴き出す血。
( ここに示せ、魔法師としての教示を―― )
体中の血液が逆流するほどの憤怒に身を焦がし……無理矢理、こじ開ける臨界点。
( もう、二度と魔法を使えなくなっても良い―― )
激しく駆け巡る魔力が――その回路を焼き切り、その血に刻まれた『 術式 』が、紅く煮え滾る。
( ……最後の最期まで闘い抜いた漢達への―― )
手向け唄を――。
「 ―― 汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 蒼炎の槍なりて敵を穿て |蒼炎槍≪ブレイルーン≫ ―― 」
老魔法師の掌から灼熱の火柱が上がる。
激しく燃え盛る紅の色が、更に蒼へと変色。細く、長く圧縮――変形していき……。
ゴルドエ の掌で一本の槍の形となる。
握り込む柄 を高く掲げ……浮き立つ青筋の剛腕に溜めた腰のひねりを加え、一気に開放。
振り下ろす――高速の投擲。
大気を切り裂く、螺旋状の回転――突風。燃焼の推進力を得て……更に加速していく。
音をも置き去りにする――|蒼炎槍≪ブレイルーン≫は――。
神をも殺す――必中の槍となる。
硝子細工のように飛び散る破片。
一直線に天蓋へと突き破り――。
醜悪な顔、眉間を貫通――串刺しのまま吹き飛ばし……。
壁に激突――深々と突き刺さる。
生きたまま吊るされ……磔となった――化物。
その肉塊を焼き尽す――完全燃焼の炎。
しかし……。
その焦熱地獄の中で笑い狂う――醜怪の表情を浮かべていた。
その不気味さに一同は――戦慄を覚える。
鮮やかな蒼の炎がいつまでも……揺らめく。
最後の『 魔臓 』が消滅し、その活動停止する、その最後の最期まで……。
アウレ・マキシウス は、その姿を……碧い眼に焼き付けるのであった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
この物語のクライマックス 『 最強と最凶 』 の最後でございます。
テーマは 『 この作品の最期 壮絶な介錯 』でした。
また、この回は 最後の最期に少女は何を観るのか?というあらすじの伏線を回収させて頂きました。
正直に申しますと、これが今の限界。
全て出し、書ききった話でした。
力不足は否めませんが残りあと一話。
最後まで妥協ないラストを迎えたいと思います。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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