愚者の旅路 ~眼光炯々~
この大陸には東西南北、六つの大国がある。
中央 宗教魔術国家 < オドミナル聖教国 >。
東 魔法至上主義国家 < セルタニア魔法国 >。
西 戦闘遊牧民族国家 < 錬清国 >。
南 魔獣共存主義国家 < べィガル祭儀国 >。
北 魔兵器軍事国家 < イドロイト皇帝国 >。
各国が勢力を張り、互いに対立して覇を競い合う、群雄割拠。
その一国。
魔法を唯一絶対を掲げ、約300年の歴史の中で急速に繁栄した、東の大国。
総人口 約 200万人。 魔法封建国家 < セルタニア魔法国 >。
まさしく栄耀栄華を極める、その王宮には……。
ありとあらゆる装飾を施され、目もくらむような豪華な空間が広がっていた。
そして……その威光と権威を象徴する部屋。
セルタニア王宮 謁見の間。
側面にはいくつもの巨大な石柱が立ち並び……その荘重な天井を支えていた。
その下にズラリと整列をする、漆黒のローブ服を纏った集団。
総勢10万の大軍勢。それらを束ねる、五つからなる――魔法師団。
『 五源魔法師団 』である。
魔法兵達にはそれぞれの等級がある。
一般兵の『 魔法士 』 と 将校兵の『 魔法師 』 そして、……その頂点。
一人で数千の魔法士に匹敵する実力を持つと云われる 『 特級 』。
各師団の 副団長 と 団長 である。
猛者達が一堂に介し、その彼らの注目は一人の若い男へと注がれていた。
( ( こいつが…… ) )
世界中のダンジョン攻略を行い、数々の階層を踏破してきた伝説のチーム。
S級 冒険者チーム < 悠久の黄昏 >。その頭脳とまで云われた男……。
「 表を上げよ! ゲイリー・バトラー 」
ところが、顔を上げた、その男は……。
伸びきった白銀の長髪、髭 。頬は痩せこけ、片眼鏡の下、酷いくまに虚ろな瞳。
憔悴しきった顔と汚れ切った冒険者服は、まるで、ダンジョンから逃げた敗残者のよう……。
王との謁見には相応しくない恰好であった。
「 ふっ、なんだ……その面は……本当に貴様が、あの ゲイリー・バトラー か? 」
壇上の上から重厚な声が響き渡る。
黄金色に輝き、大型魔獣の牙と鮮やかな魔石の装飾。
国で唯一、着座することが許される――玉座。
そこに……頬杖をつき、傲岸不遜に鎮座する壮年の男。
「 まあ、いい……余こそが < セルタニア魔法国 > 第十一代 魔法皇王 ノーマン・セルタニア である。 」
ゲイリー が拝謁を賜る、その皇王。
深く刻まれた皺に浮き上がる、威圧感。
虹彩異色の瞳。左眼が黄色、右眼が碧色の虹彩を持つ、金目銀目。
黒檀色の髪に帝王冠。真紅の魔獣の毛皮のマントを纏い。下には金襴緞子の刺繍、ビロードの上質な生地を覗かせる。
贅沢な < 絶対性魔石 > の装飾品の数々。右手には荘厳な王笏を持つ、その姿は……。
まさしく、この者こそが『 魔法 』そのものだと象徴していた。
「 ……聞くところによると、この余にお願いがあるのであろう…… 」
全てを見透かす――そう、語るような瞳。
臣下が「 恐れながら……陛下、それは…… 」と諫める。
すると、皇王はその提言を右手で制した。
「 ――よい、その権利をこの男は持っている……何なりとお申せ! 」
試すような言葉。開かれた懐に ゲイリー は 再度、敬礼し……。
「 ……僭越ながら……娘を助けて……頂けないでしょうか…… 」
そう、 ゲイリー は静かな口調で話し始めた。
「 ……なるほど、三大災悪か……それは、貴様ほどの男でも解けぬものだったのか…… 」
「 ……はい…… 」
「 そうか……で、お前は…… 」
魔法皇王 ノーマン の虹彩異色の瞳がゆっくりと瞬く。
「 ――その対価に何を支払う? 」
「 ……私の全て、です。 」
一瞬、王は目を見張る。
「 ……全て……か…… 」
即答で答えるその姿に、驚きの表情を見せていた。
交渉の駆け引きが一切無い……ただの懇願である。
しかし……。
虚ろな眼の奥に灯る火。
こいつはまだ、死んでいないと思わせるほどの凄みを放っていた。
その様子に 魔法皇王 ノーマン はその口元を綻ばせる。
「 ふっ、良かろう……その言葉……努々忘れるでないぞ…… 」
「 ………… 」
「 ――宰相! 宝物庫より危殆指定第三十二号をあるだけ持ってこい! ゲイリー! その娘の元へ案内しろ…… 」
「 ――な、陛下!……駄目でございます……王自ら、わざわざ下界に向かうなど…… 」
「 ――ええい、うるさいのう……なら、護衛をつければいいじゃろう…… 」
そう、両脇の魔法師達へと視線を移す。
「 で、あれば……私めが…… 」
――濁り声が響く。
整列する魔法師の中、幾重にも深い皺が刻まれた短躯の老人が一歩前へと出ていた。
――老人の突然の提言。
だがしかし、誰一人……それを咎めようとはしない……。
まさしく――それは……魔法師団での、この老人の権力が垣間視える瞬間であった。
ゲイリー は、その姿を見据える。
醸し出す、貫禄の中に……どこか、不気味さがある。
( そうですか……あれが……噂の…… )
漆黒のローブ服。その背に、舞い上がる砂煙、黄土色の刺繍。
100年前より 魔法師団 団長 の職を務め、先々代には宰相を歴任したという『 怪老 』。
地源 魔法師団 団長 クセルク・ベアルタ 。
しかし……。
「 ――お前は駄目じゃ…… 」
魔法皇王 ノーマン が、それを冷たくあしらう。
そして……再び移す、視線は……一人の男を捉え、そこで止まるのだった。
「 お前だ! ザイール !!! ついてこい……! 水源 の団長が護衛なら文句あるまい…… 」
「 ――な、何で……俺が!!!? 」
無駄な肉は一片もなく、ひき緊まった筋骨の上、靡かせる漆黒のローブ服。その背に、激流の飛沫をあげる大滝、藍色の刺繍。
金髪の短髪を掻きむしり、傲慢の態度を隠しもせず――表す、若き男。
水源 魔法師団 団長 ゼイール・サタリエル 。
「 ……なんか、文句でもあるのか? 」
睨み付ける皇王の威圧に……。
平然と舌打ちをする。
ざわめく場内……その中で。
ゲイリー の眼には……。
彼もまた、まだ見ぬ、怪物――のように映っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王都 ルミナス 。下町の宿屋をズラリと取り囲む――漆黒のローブ服の集団。
宿屋の主人が「 なんだ!何事ですか! 」と驚く中……大勢の魔法兵が問答無用で入っていく。
建物内にいる全ての客に強制退去を命じられ、あっという間に占拠を完了していた。
そんな、厳戒態勢が取られる中……。
魔法皇王 ノーマン と 魔法師 ザイール が、その部屋に足を踏み入れる……。
――開口一番、皇王が声を掛ける。
「 ――おい、ゲイリーよ…… 」
そこには……ベットの上、横たわる少女……。
その光景に ザイール が思わず、声を発していた。
「 なんだ――これは……!!!? 」
両名が驚愕する、その姿は。
「 ……すでに事が切れておるではないか…… 」
……黒く染まり截っていた、全身……。
「 ……はい……この宿に着く前にはもう…… 」
無言の叫喚。開いた口を閉じることも出来ず、燃え尽きたような骸であった。
「 ……それでも、なお、助けたいと申すか…… 」
その見るも無残な姿に、 ゲイリー は……。
「 ……お願いします…… 」
怨嗟の血を流す。
「 ――わかった! ザイール! この宿の人払いをしろ! お前達以外は入ることを禁ずる…… 」
三人を残して……宿の内にいる兵達が外へと出される。
それを窓の外で確認していた ザイール は 魔法皇王 ノーマン に頷き、合図を送った。
「 さて……今から余が行うことは……一切の他言無用。漏らせば貴様を斬首刑処す、よいな…… 」
そう、言うと ザイール から薄紫色の魔石を受け取り……。
ベットの上、遺体の上に翳し始める。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ 収納 ――。 」
魔石が眩い閃光を放つ。
それと同時に――ゲイリー の片眼鏡が光る。その不可解な様子に不審の眉を寄せていた。
「 ……ふっ、不思議か?なぜ、魔法を使える者が < 特異魔石 > 使えるのかと…… 」
魔石へと刻まれていく『 術式 』……。
「 それは……余が魔法師ではないからだ 」
「 ――――――――!!!? 」
それは、娘の命を奪い去った『 術式 』であった。
「 ……これは、術式を切り取り、封印する事できる ”截取” の魔石である……これは、どんな『 術式 』でも、一度限り……触媒に映すことが出来る< 特異魔石 >じゃ。それは『 禁咒 』の魔法ですら例外ではない、危殆指定の代物である。 」
そう――見せる、魔石に…… ゲイリー は不審感を募らせていた。。
魔法皇王 ノーマン は、新たな< 特異魔石 >を取り出すと――再びの詠唱。
次々とその魔石に ”截取” していく姿に――。
ゲイリー が、しどろもどろの口を開く。
「 恐れながら……そんなものは存在しないです。……それに……その右眼……? 」
その言葉に――。
一瞬、緊張が走る――部屋中。
「 ――な、……お前! 」と、構える ザイール 。
――それを宥めるように 魔法皇王 ノーマン の左手が制していた。
「 ふっ……流石だな……。 お前が言う通りじゃ……。そんな < 特異魔石 >は存在しない……。これは、人工物だ。そして……それを創り出したのがものこそが、この右眼の…… < 魔成眼 > だ。 」
「 ――――――!!!? 」
ゲイリー は。それを聞き、言葉を失う。
そして……直感で気付く……。
ここから先の話は……決して聞いてはいけない、禁断の領域だと――。
「 < 魔成眼 > とは、この世界の ”管理者” としての権限を有する。それは……この世のありとあらゆる『 術式 』を創り変えることができる禁忌である 」
「 つまり……四大不変機構……を可能とするということですか…… 」
静かに頷く――魔法皇王。
四大不変機構。それは現代の魔術師に到達できない四つの『 術式 』の機能。
”生成” ”解読” ”更編” ”消去”。
まさしく、魔術の深淵。
そして……それを覗くことのできる唯一無二の代物。
( その正体が< 魔成眼 >だと云うのですか…… )
神の眼と呼べるものであった。
ゲイリー の頬、伝う一筋の汗。
視えてくる因子魔術のからくり……『 魔法 』の最大の謎が……。
「 < セルタニア魔法国 >は代々、ある使命と共に、この眼を継承することをその証としてきた。それは、この娘の命を奪った者と深く関係しておる…… 」
そう言うと、今度は王笏を翳し……詠唱。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ 消去 ―― 」
王笏の先、< 特異魔石 > が輝きだす。
ベットの上、浮かび上がる『 術式 』が少女の身体を覆っていく。
その光景を ゲイリー の片眼鏡 が映し出していた。
「 ――――――――――――――!!!? 」
娘の全身を蝕む、無数の黒い痣。その『 術式 』が――。
一本ずつ……解けるように剝がれていく。
刹那――黒く変色した 娘 の表情が、安らかな光に包まれていく。
浄化されるように――。
霧散するように――。
黒い痣『 術式 』が徐々に消滅していく。
そして、詠唱を終え……王笏を降ろす――魔法皇王。
全ての呪いから解き放たれた少女の姿に……覚束ない足取りで ゲイリー が近づく……。
その冷たくなった肌に……触れ、撫でる。
熱くなった目頭を押さえ……静寂の悲嘆――刻。
ゆっくりと流れ出す……。
その様子を壁に持たれ、腕を組む ザイール は、静かに見守っていた。
ゲイリーは、その掌で上瞼を下に降ろす。
……訪れる無言の別れ……。
…………。
…………。
その中、折を見て。
魔法皇王 ノーマン は、重くなった口を静かに開かせた。
「 ……これで全てが終わったが……『 娘の命を助ける 』という、お主の願いは、余には叶えられなかった……よって、契約も不履行じゃ…… 」
「 ……どういう……意味ですか……? 」
< 特異魔石 > を指先し、ゆっくりと……こう話しを続けた……。
「 お前の娘を殺した『 魔術 』の正体を知りたくはないか……? 」
「 ――――――――――!!!!!!!? 」
その言葉に血液が沸騰する。
「 この『 術式 』は、対象者の魔力を吸収して、増殖する機能と、それとは別に……『 魔脈 』へと強制的に魔力を供給させる機能がある…… 」
「 『 魔脈 』と干渉……そんなことなど…… 」
「 ああ、この魔術は最早……人が創り出す域から大きく逸脱しておる…… 」
虹彩異色の瞳が静かに瞬く。
「 つまり…… 」
天命を告げる預言者のように、零れだす――真実。
「 神々が創ったものだ……そして、残念なことにこの世界の魔術は全て、その神が創り出した幻想……まやかしだ 」
喉元に突き付けられる、その事象の刃先。
『 魔導師 』 ゲイリー としての研鑽は泡と消えていた。
「 ……そして、その輪から干渉されないように…… アルベス・セルタニア は独自の輪、法を創った……それが『 魔法 』である。 」
止めどなく流れる雫が落ちる。
何ということだ……。
それは、この世界の魔術が間違っていたということになる――。
「 ……何のため……に……こんなことを……? 」
「 さあ、のう……そこまでは分からん。何の意味があるのかも謎だが……。一つ、確実に言えるのは……この吸収した魔力の行き着く先は……恐らくダンジョンじゃろうな…… 」
――ゲイリー はその言葉を聞き、唖然とした。
これは、既に世界規模の陰謀。
すべてはその掌で踊らされ……騙されている。
そう気付いた時、ゲイリー の脳内に、去来する天変地異。
それは抗えようのない恐怖であった。
酩酊するような動揺の中……。
「 ……何かの儀式……ダンジョン内の活性化か……あるいは……新たな ”生成”…… 」
そう呟く ゲイリー 。
その見解を聞き、皇王の口元が再び、綻ぶ。
「 その神には何人かの手下がおる。――事実、今もなお、各国の裏で暗躍しておる。お前の村を襲ったのも、その一人であろう……。その者達を先代の魔法皇王達は『 神徒 』と呼んでおる。そして……その者達を倒すことが……セルタニア王家の悲願である。 」
ゆっくりと……引きずり込まれていく。
最早、引き返す事の出来ない……茨の道へと――。
「 つまり……利害の一致ということじゃ……。そこで……どうじゃあ、ゲイリー! 貴様、余の手足となって、働いてみないか……? 」
『 魔導師 』 ゲイリー・バトラー 。
――と。
< セルタニア魔法国 > 第十一代 魔法皇王 ノーマン・セルタニア 。
凶悪な二つの双眸が、映し鏡のように……重なり合う。
「 その対価は……? 」
「 そうじゃな……お前の娘の命を奪った、この『 術式 』と……更に、 ”模倣” の< 特異魔石 >も、つけよう…… 」
その復讐心を煽る悪魔の契約に――。
ゲイリー は……その口角を残忍に吊り上げた。
「 いえ――それでは足りません…… 」
「 ――――――!!!? 」
刹那―― ゲイリー の瞳の奥が激しく燃え上がる。
「 貴女の右眼もつけて下さい。全てが……私の研究対象です 」
その怨望隠伏は……。
「 ふっ……面白い、良かろう。交渉成立じゃ…… 」
魔法皇王 ノーマン の背筋を総毛立たせる程の戦慄を放っていた。
〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::
ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
この物語のクライマックス 『 最強と最凶 』 の開幕でございます。
テーマは 『 この作品の最期 壮絶な介錯 』です。
これまでの二人の伏線を踏まえての頂上決戦になります。
ゲイリーの回想編 『 愚者の旅路 』
伏線の多くを回収した話となりました。
残りは、あと3話。
最後の最期に少女は何を観るのか?
お楽しみいただければ、幸いです。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
上のブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。




