最強と最凶 ~狂気乱舞~
洞窟内に、再び、烈風が巻き起こる。
老体から溢れ出でる――魔力の泉。制御不能の激流葬が身体の内部を循環する。
威風堂々たる冒険者服の下から発露、漏れ出し……周囲を歪めるほどの殺気と化す。
死を纏う――漆黒の両手袋。
その五指の先から、堰き止めた物を枷を外すように……。
解き放つ ――『 天罰斬糸 』。
暴れ狂うように戦場を駆け巡る、無数の糸。
その一糸、一束に濃縮される魔力が高速の振動。
大気を震わす――鋭利な斬撃となる。
そして……。
分厚く閉ざされた天蓋に籠る 仮面の男 へと……。
――撓らせ、弛み、唸る……無限の熱光線。
―― 響く、閃光の火花放電 ――。
鬼の形相の老紳士は力任せに、その暴力を振るい……烈々たる攻撃を『 魔法防御壁 』に叩き込む。
速疾、羅刹、可畏の猛攻に……。
――闇の天蓋、その……分厚い殻にひびが入り、天罰の光が漏れ出す。
その刹那、醜悪な姿が歪み、その足元が光り出す――『 方陣円 』。
――その仮面の姿が再び、消失……。
刹那――片眼鏡<モノクル>が光芒一閃、揺れ動く――。
( ……それを待ってました…… )
それは ゲイリー が仕掛けた誘いであった。
洞窟の隅に方陣が光り出す……。
それは、アウレ の魔成眼が――。
イザベルの眼鏡 が――。
そして…… ゲイリー の片眼鏡<モノクル>が――。
――その存在に同時に気付く。
「 ――そこ、ですね 」
浮かび上がる『 方陣円 』に現れる……人影。
その瞬間――変幻自在の『 天罰斬糸 』の刃が襲い掛かる。
切り刻まれる……漆黒のローブ服。
血飛沫が激しく、宙を舞う。
瞬間――その身体、傷口が泡のように膨張する。細胞分裂を何度も起こし、肥大する肉塊から突出する触手……。
その音速の斬撃を見切るように躱す ゲイリー。
冷酷非情にその刃を返していた――。
壊れ出す――均衡。
……血に染まる 仮面の男 は……。
―― 獣の咆哮 を放つ――。
「 「 ――――――――――――――――――!!!!? 」 」
耳を劈く、慟哭――。
それは……初めて表に出す、感情――。
人間らしい激昂であった。
その様子に無情に見つめる 老紳士 は……。
「 蓋を開けてみれば……なんてことはない……貴方、複数の術式を同時に展開することができないのですね…… 」
挑発するような口調……その口角を不気味に吊り上げた。
「 ――――な、どうゆうことじゃあ……!!? 」
その光景に歴戦の魔法師 ゴルドエ が驚きの声を発する。
そして……その疑問に イザベル が、同じ魔術師としての知見を述べる……。
「 ……確かに あの仮面の男 は、転移をした直後、ほんのわずか……無防備になる瞬間がありました。一般的に、魔術師の弱点は『 術式 』の発動、展開、詠唱する、その際に生じる間です。それは、強大な魔術であればあるほど長くなる傾向があります…… 」
「 つまり……は、何らかの『 術式 』を発動する隙を狙った、ということかのう…… 」
「 ええ、おっしゃる通りです……だから……先生の攻撃が通ったんだと思います…… 」
そのような見解を聞いた ゴルドエ は、失笑した。
本来、『 術式 』は視認出来ないもの……。
まして……常人であれば、あの、目にも留まらない攻撃を避けることすら不可能である。
そんな攻防の中で……その僅かな隙を見つけ出したということか――。
( ……ん……待てよ…… )
――それと同時に……そこに気付く……。
我々も加勢、援護を出来るのではないかと……。
――そう、凝視する先……。
超音速で動き回る二人の攻防――。
それは、残像だけが残り、消えて現れ、また消えては現れる……。
仮面の男 は、その猛攻の合間に転移を繰り返し…… ゲイリー もそれに対応し続ける。
両者の攻防は最早――神速領域に達していた。
( これの……どこを……狙えば……いいんじゃあ…… )
老魔法師の頬に汗が帯のように広がる。
ここからより先、その一歩踏み出せば……首が飛ぶ。
そう、容易にその想像ができてしまうほど……。
まざまざと見せつけられる実力の差。
それは、歴戦の魔法師 でも踏み込めない死闘であった。
そして……次の瞬間――。
……地面に跪き、頭を垂れる 仮面の男。
身に刻まれる回復が追いつかないほどの傷……。
それは……。
仮面の男 の六本の触手、その千変万化の猛撃に対し……。
ゲイリー の固有魔術 『 天罰斬糸 』の速度と手数が完全に上回った瞬間であった……。
「 ……それで……もう、終わりですか……? 」
老紳士の双眸が光芒一閃、揺れ動く。
身を引き裂かれるような――殺気。
味方でもある ゴルドエ まで震え上がらすほどの――戦慄を放っていた。
( ……なんという……異次元の……強さ…… )
咄嗟に天蓋の殻に籠る 仮面の男。
その男に、容赦なく、『 天罰斬糸 』の猛攻を加える光景は……。
最早、誰が見ても……一方的な展開……虐殺であった。
『 魔導師 』 ゲイリー・バトラー 。
その全てを正面から看破する様は……。
……まさしく……。
―― 化物以上の化物 ――。
「 それでは……さようなら…… 」
そう、言い放つ ゲイリー は――。
指で弾く――薄紫色の魔石。
宙を舞い、放物線を描き……眩い、閃光を放つ。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封――。 」
艶やかな擦れ声が響き渡る。
その光景に ゴルドエ が目を見開く――。
「 ……あれは……まさか!!!?…… 」
天蓋の上空にゆっくりと回転する、紅き球体。
赤く滾る――疑似太陽。
「 ……アルトバラン 様の……固有魔法…… 」
その表面が湧き立つ度に熱波が押し寄せ、『 魔法防御壁 』を包み込む……。
―― 天上の業火 ――。
――唸るような轟音が衝突する瞬間――。
―― 静止 ―― 圧縮 ――。
そして、この世に顕現する――黒き珠。
その余波が全ての感覚を奪い、姿、形ある者を……無へと帰す――。
―― 『 黒陽臨界 』 ――。
一同はその熱風に顔を覆う。
訪れる一瞬の静寂……世界は暗黒と変わっていた――。
靡く栗色の長い髪を抑える イザベル は、その様子を眼鏡越しに見据えていた……。
「 ……一体……今のは…… 」
「 火属性魔法の宗家< メルバトス家 >の固有魔法……『 黒陽臨界 』じゃ…… 」
「 魔法⁉なぜ……先生が魔法を?……それに、この威力……まさか……!!!? 」
「 そうじゃ……その最上級の危殆指定『 禁咒 』の魔法じゃよ……。……なぜ、それを ゲイリー 殿が扱えるのかは……わしにも分からんが…… 」
『 禁咒 』魔法。
各属性の宗家で受け継がれる一子相伝の魔法。
一度使用すれば、たちまち戦況を一変させるほどの戦略級の威力を持つ。
それは……< セルタニア魔法国 >の魔法師が最強と云われる所以でもあった。
( 副団長のわしですら……実際には数度しか、視たことがない……魔法。確か……あれには、宗家相伝の『 血の術式 』と、膨大な魔力容量が必要と聞く……。故に……五源魔法師団の各歴代の団長でも修得者はごくわずかだとも…… )
なぜ、 ゲイリー 殿に、それが扱えるのだ……?
―― それは…… 双頭竜使い との闘い ――。
……あの時も思ったが……。
魔術触媒を使った魔法……。
さらに彼は……。
アルトバラン・メルバトス 様、自らご助力を頂いた――と語っていた……。
それはどういう意味なのであろうか……。
思案を続ける……老魔法師 ゴルドエ 。
瞬間――その視界に映る……光景に――我が目を疑った。
「 ――な――――!!!? そんな馬鹿な…………!!!? 」
降り積る――灰の雪の中……。
黒く焼け焦げた――人影が蠢く。
「 ――今のをまともに受けて…… 」
皮膚が炭化し、内臓組織に至るまで……高熱で水分が蒸発――。
半壊した体の一部がボロボロと崩れ落ちていく。
「 ……生きているだと…… 」
―― それでもなお、細胞が修復を始めていた……。
「 ―― 奴は本物の不死身か!!!? ―― 」
吃驚仰天する一同。
そんな中……静観を決め込んでいた ゲイリー の口が盛大に開く――。
「 ――お嬢様! 」
「 ――――――!!!? 」
「 ……あと、幾つですか…… 」
横目で送る、その双眸に――戸惑う お嬢様 は素直に答えた。
「 ……あと、十二だ…… 」
( ……なるほど…… )
疲労の色が浮かび上がる……老紳士の顔。
( ……超限……ですか…… )
その首筋の黒い紋様は、既に顔の頬まで広がっていた……。
瞬間――焼き焦げた肉塊が膨張……輪廻転生の再生。
しかし……その回復が以前よりも遅く感じる……。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封 ―― 」
それぞれが独立して動くような複雑な動きをする――指先。
大きく振り上げる様はまるで演奏を指揮するかのように大きく弧を描き……。
――容赦のなく、振り下ろす――。
瀕死の 仮面の男 を襲う――『 天罰斬糸 』の斬撃。
その僅かな反撃すらも許さない鬼神の猛撃に――。
最早、勝負を喫するのは……時間の問題……。
だと……、誰もが思っていた……。
―― 疾風怒濤の斬撃がその身体を切り刻む……その刹那――。
「 ……ああ”……あ”あぁ……あ…… 」
時が静止する……。
仮面の下から漏れ出す……呻き。
( ――――!!? 声が……!!!? )
ひび割れ……崩れ落ちていく仮面が……。
その素顔を表す――。
―― 生皮を剝がされた醜悪な人間の顔 ――。
瞬間――『 天罰斬糸 』の斬撃がその顔を吹き飛ばす――。
「 ……ああ”……ゲぁあ”あぁ……あ…… 」
残る……その口元だけが不気味に蠢き……。
「 …………ああ”…………イあ……リ…… 」
まるで――代弁する人形のような声代弁する人形のような声に……。
( ……あなたは……一体…… )
戦慄を覚える――。
( ……誰ですか……!!!? )
「 …………あ”あぁ……あ………… ツカマエタ …… 」
―― 突如、洞窟内に広がる巨大な『 方円陣 』が ――。
「 「 ――――――――――――――――――!!!!? 」 」
―― その場にいる全員の影を飲み込んでいく ――。
( ……これは………… )
映り込む イザベル の眼鏡、 ゲイリー の片眼鏡 < モノクル >。
それは術式を視認できる『 特異魔石製の魔具 』
< 術視鏡 >が――。
そして……アウレの碧い眼 < 魔成眼 > が――。
――その瞬間の『 術式 』を目撃する。
( ……また、転移……ですか!!!?…………いや―― )
見たこともない……幾何学模様。
( ――違う……これは…… )
……『 天罰斬糸 』の熱光線……。
( ……そんな…… )
その斬撃が……綻び――解けて……。
( ……ことが…… )
―― 消滅するのであった ――。
片眼鏡< モノクル >の奥。
( ……まさか…………この戦闘の中で…… )
ゲイリー の瞳が――揺れ動く。
( ……フィッツロイ族の秘匿の『 術式 』ですら…… )
発動した『 術式 』の解除は、本来……不可能――。
( ……改竄されるとは…… )
その、一瞬の動揺が……。
――命とりになる。
「 ―― 避けろぉぉぉぉおおお”おおおお――!!!!!!! じじいぃぃい”い”いいい――!!!? ―― 」
その刹那――。
高速の触手が――。
ゲイリー へと――牙を立て襲いかかる――。
激しく噴き出す――血霧。
振り上げた右腕が空中に舞い上がる――。
「 ―――― くっ…… ――――!!!!!!!!!!!!!! 」
想像を絶する痛みに……老紳士の顔が、歪む――。
その初めて見る表情に……。
――静まり返る、周囲……。
……誰一人、状況が上手く呑み込めない。
損失した右腕……肩口から夥しい量の血が流れる……。
その傷口を抑え、膝をつく……。
―― 隻腕の ゲイリー・バトラー ――。
それは……誰がどう見ても……致命傷。
「 しっかりしろぉぉおおお”お”!!!!!!! 返事をしろ!!!!! じじいぃぃい”い”いいいー!!!!!!! 」
一同が絶叫し……唖然とする。
「 ……そんな、先生……噓でしょ…… 」
乱れた白髪に苦悶の表情を浮かべ……吐血。
「 ……こ、これは……悪夢か……なにか……アルか…… 」
それは、予想すらできなかった姿。……絶望に染まっていく。
( ……なんということじゃ…… ゲイリー 殿でも……敵わないとは…… )
この老紳士の敗北は……。
―― 即――全員の死を意味する ――。
頭を垂れる ゲイリー に忍び寄る影。
その紅の双眸が鋭い光芒を放ち……。
醜悪な顔が――笑い狂うように歪む。
―― 自己再生を終えた、その怪物……訪れる絶体絶命の刻 ――。
しかし……。
乱れた白銀の髪。
前屈みで俯く 老紳士 の表情は……。
―― 狂人の微笑み ――
そして……血の混じる口元を無理矢理、こじ開け……。
語り出す、その辞世の句……。
「 ……最期に……一つ、問う……四十年前……< シュラヌ村 >に……現れた……顔に……痣がある……男を……ご存知……ですか…… 」
その問いに 怪物 の魔力が再び、揺らぐ――。
無言の返答……だが……。
瞬間――老紳士は、その口角を……。
「 ……そうです……か…… 」
――凶悪に吊り上げた。
「 ……知っている……のですね………… 」
それは…… 増悪 と 歓喜 。
「 ……やっと……解りました…………貴方が…… 」
その全てを吐き出すように。
「 ……『 神徒 』……でしたか…… 」
――そう呟くのであった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
この物語のクライマックス 『 最強と最凶 』 の開幕でございます。
テーマは 『 この作品の最期 壮絶な介錯 』です。
これまでの二人の伏線を踏まえての頂上決戦になります。
物語は佳境。この場面のための全58話でした。
そろそろ終わりが見えてきて、作者としましては、感慨深いものがあります。
しかし、壮絶な死闘はまだまだ続きます。
最後の最期に少女は何を観るのか?
お楽しみいただければ、幸いでございます。
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