最強と最凶 ~実事求是~
ゲイリー の 固有魔術 『 森羅万象 』。
火災の竜巻。その熱が肉を焼き、空気中の酸素を奪い、窒息死させ……。
雷流を帯びる暴風雨は身体中を感電死させ……。
無数の土の槍が串刺しにするはず……。
……であった。
しかし……。
仮面の男 が展開する……透明の天蓋―― 『 魔法防御壁 』。
――が、その全てを阻む――。
紅の双眸が、怪しくも鮮烈な閃光を放つ――。
―― 笑い狂う 仮面 。
瞬間―― その光景に白髪の老紳士 ゲイリー・バトラー が叫ぶ。
「 ――ゴルドエ 様!! 」
「 ――分かっておる!!!! 詠唱開始!!!! 」
再編を終えた兵達がその声に呼応し、次々と詠唱を始める。
―― 掌から展開する高火力の火魔法 ――。
前衛の兵が構える大盾の隙間から……。
不気味に佇む 仮面の男 へ向け……。
「 ――放てぇぇええ”え”えええええ!!!! 」
ゴルドエ の号令と共に――。
―― 一斉に放たれる集中砲火 ――。
舞い上げる火の粉が大蛇の舌を見せ、盛んに立ち騰り……。
洞窟内に着弾の爆音が鳴り響く……。
しかし……透明な天蓋の中……その姿は――。
「 ――――――!!!?……やはり……駄目か………… 」
まったくの無傷――。
「 ――中衛! 詠唱開始!!! 後衛、撃ちかた止め!!!! 至急、補給だ!!! 急げ!!! 」
残存する兵達は中衛と後衛の二列に分れ、交互に砲撃と魔力の補給を行う。
絶え間ない連携。
仮面の男 に、容赦ない砲撃を浴びせ続ける。
しかし……一向に揺らぐ気配のない、透明の天蓋。
「 ……ただの防御壁では……ないのう…… 」
その様子に ゲイリー の眉が僅かに動く。
ゴルドエ と同じ見解であった。
これは……普通の『 魔法防御壁 』ではない。
仮面の男 の全方位、隙間のなく展開された、高耐久性の防壁の魔法。
部分的な防御壁ならば、その内側から崩せるのだが……。
仮面の男 の足元に散らばる魔石。発動しなかった『 魔術触媒 』。
先程の一瞬――その魔石へと繋げようとした『 霊糸 』、その『 魔術回路 』が、その透明の天蓋に遮断されていたという証明であった。
( ……絶対の防御……それも……『 無詠唱 』ですか…… )
仄暗い大洞窟内を煌々と照らす、火魔法があやしく明滅する。
その火に反射する 片眼鏡 < モノクル > 。
その 魔具 < 術視鏡 > が 仮面の男 の姿だけを映し出していた。
『 無詠唱 』。
本来、『 術式 』を行使する際、『 詠唱 』は、誤爆の防止……安全のための発射装置の役割を持つ。
その為、その発動の命令である『 詠唱 』が必須となる。
それは『 術式 』は一度、発動してしまうと取り消すことが出来ないからである。
しかし……この男はその『 詠唱 』行っていないのである。
それどころか……『 魔法防御壁 』を発動させる際、< 術視鏡 >に『 術式 』が映り込まなかった。
それは『 術式 』すら使用していない、ということ。
その事実に老紳士はその白い顎髭を摩る。
推測するに、これは…… 『 魔力制御 』、魔力の形状変化であろう……。
つまり、膨大な密度の魔力を、周囲に展開させ防壁としている、ということになる。
『 練功術 』の『 外功 』。身体に纏う魔力の鎧『 硬気 』……それと原理は同じである。
故に『 術式 』、『 詠唱 』の必要としないのだろう……。
しかし……。
それには……膨大な魔力量、高出力、そして……それを制御する異次元の技術が必要となる。
理論上は可能……だが、現実的には不可能……。つまり、机上の空論。
高い魔力容量を持つ、< 錬清国 > の魔術師でも不可能であった。
( こういう問題は……前提から間違っている可能性がありますね…… )
『 魔法防御壁 』。
第二代 魔法皇王 アルベス・セルタニア が創った唯一の防御魔法。
そして、フィッツロイ族の祖先達は、それを模倣して、創りあげたのが……魔術防壁 『 疑似防御壁 』 だと聞く。
現代の魔法師達が扱う『 魔法防御壁 』には、確かに『 術式 』が存在していた。
……もしも……。
本来の『 魔法防御壁 』が、『 術式 』をいらないものだとしたら……。
( おかしい……何か、が……引っかかる…… )
扇のように広がる集中砲火の炎。
辺りが一面、火の海と化し、詠唱する声と爆発音だけが鳴り響く。
仮面の男 は、その透明な天蓋の中で不気味に沈黙し続けている。
例えば……膨大な魔力を保存し、それを運用する方法があれば……。
『 魔法防御壁 』、『 疑似防御壁 』は、その『 術式 』すら……必要ないのではないか……?
現に『 魔石 』には魔力の補完をする役目がある。
しかし、『 魔石 』自体には魔力の形状変化させる機能はない。
故に『 術式 』を行使するのだ。
ならば、『 術式 』とは……『 魔石 』とは……。
長年の経験。その研究経過で度々、浮かび上がってくる疑問……。
そこに ゲイリー は時折、とってつけたような歪さを感じていた……。
( ……この世界の『 魔術 』はどこか……おかしい…… )
『 魔術 』とは文字通り、魔の術。
まやかしの技術である。
……誰が……何のために?……。
わざと、そのような形に構築した。
そして……それを再構築したような『 魔法 』の存在。
ゲイリー の双眸が問いかける。
( 一体……貴方は……何者なんですか…… )
対峙する盤面上、見えない相手の影が揺れ動く。
( ……その答えは…… )
ゲイリー は今一度……目の前の化物を一瞥。
その瞬間――。
「 ―― 汝、血の契約を伝ひて不変の楔と化し魔を滅ぼす 蒼炎の槍なりて敵を穿て |蒼炎槍≪ブレイルーン≫ ―― 」
重く響く――低音。
ゴルドエ・ベルトライン の最大火力の『 |蒼炎槍≪ブレイルーン≫ 』。
その魔法が激突をする……が……。
「 ――――な――――じゃと……!!!? 」
しかし、それすらも……嘲笑う。
その醜悪な姿――。
ゲイリー には……。
魔法師しか扱えないはずの『 魔法防御壁 』を行使し……。
羽織る襤褸のローブ服は、まるで異次元の魔法師のようにも見えていた。
さらに先程の巨大な触手。
それに覚えがある……。
< オドミナル聖教国 >のダンジョン フォリツ海底 32階層で遭遇した 巨烏賊。
その上……外皮には無数の魔獣の顔があった。
そして……形態変化させ、背から生まれ出た――六本の触手。この縮小した鋭い爪のような先端も……。
岩をも砕くと云われる鋭い爪、虹色の羽を持つ大型の魔獣。『 怪鳥 』。
……あまりにも酷似している。
もしも……。
かつて、セルタニア魔法国で行われたと云う、人体実験。
それが、人に魔獣の一部を移植する狂気の実験で……この男がその被験者だと、とするならば……。
―― 様々な魔獣の合成体 ――。
――いや、――違う……。
――肉塊が膨張し、身体が再生していたことを考慮すると……。
更に複雑で……歪な……。
―― 合成ではなく……生成…… ――。
そして……。
そのようなことは……。
人のおこなえる所業から大きく逸脱している……。
まさしく、神の御業――。
神が人におこなう所業だ。
兵達が競うように放つ火魔法。
空に渦巻き、勢いよく燃え上がる火柱が場内の温度を上げていく。
( ……少し、鎌を掛けてみる必要がありますね…… )
仮面の男 が沈黙を続ける……その中……。
ゲイリー は唐突に口を開いた。
「 ……その体、相当な『 禁忌 』を冒していますね……しかも……『 魔法防御壁 』…… 」
狂気に笑うような――仮面の下。
「 ……もしかしますと…………貴方…… 」
その紅の双眸が鋭い光芒を放つ。
「 …… アルベス・セルタニア ……その人ではありませんか? 」
その衝撃の事実に……。
「 ――――――――――――!!!!!!!? 」
一同が驚愕し――。
……色を失う。
「 ――――な、なんじゃと……!!!!!!!?……そんな……馬鹿な――!!!!!!!? 」
思わず、叫び声を上げる ゴルドエ 。
その声だけが、場内に木霊する。
( …………あり得るのか……?……300年前の英雄じゃぞ…… )
< セルタニア魔法国 > の 第二代 魔法皇王 アルベス・セルタニア。
建国の王にして現代のあらゆる魔法を創造主。国の基盤を創った人物で、誰もが知る英雄……だが……。
( ……この化物が……その成れの果てだというのか……? )
にわかに信じ難い……。
そう、わかりやすく狼狽を顔に漂わせる――老魔法師。その額からは滝のように、大量の汗が噴き出していた。
「 ……ゴルドエ様、落ち着いて下さい。可能性の話です……ですが…… 」
静まり返った一同の視線は、その一点に集結する。
難攻不落の天蓋。その内部で……。
ただ、沈黙する―― 仮面の男 。
……反応は……ない。
そもそも、人の言葉を理解できているのかも……怪しい……。
……だが、しかし……。
アウレ の碧い眼 < 魔成眼 > には……。
「 …………ん…………!!!? 」
一瞬、その魔力の流れが揺らいだように視えていた……。
そして……。
「 ……そうですか………… 」
それは ゲイリー には、視認できない揺らぎ……。
……のはず、だが……。
瞬間――老紳士の口角が凶悪に、残忍に吊り上げる。
「 …………中らずと雖も遠からず……ですか…… 」
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
この物語のクライマックス 『 最強と最凶 』 の開幕でございます。
テーマは 『 この作品の最期 壮絶な介錯 』です。
これまでの二人の伏線を踏まえての頂上決戦になります。
怒涛の伏線回収。様々な情報が錯綜し、ここから急転直下の物語となっていきます。
最後の最期に少女は何を観るのか?
お楽しみいただければ、幸いです。
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