最強と最凶 ~初手必殺~
唸る魔獣達の残響。血と硝煙の火葬場。
魔法士達がその葬送の詠唱を繰り返す。
そんな大洞窟内……。
無数の魔脈が奔る、集結地……。
祭壇上、血を啜り肉を喰らって錬成されたように――。
巨大な魔石が紅く、鋭く、瞬く――。
「 ……何じゃあ!!?……あれは…… 」
歴戦の魔法師 ゴルドエ が眉を顰めた。
暫しの暗転――。
次の瞬間――そこから生まれ墜ちたように……。
この世に顕現する――人影。
逆光を受け、浮かび上がる。
襤褸の漆黒のローブ服を纏い……。
禍々しい殺気を放つ男 。
その異様な姿に場内は一瞬、静寂に包まれ……困惑する兵達……。
それらを嘲笑うかのようなに張り付けた 仮面 。
その姿に……。
アウレ・マキシウス ――。
イザベル・フィッツロイ ――。
李 蓮花 ――。
三者は……。
既視感 と 戦慄 に、顔を歪ませていた。
「 ――先生!!!!気を付けて下さい!!!! あいつが……中継地点の襲撃者です…… 」
その声に ゲイリー は静かに目を細めた。
「 ……ほう……そうですか……彼が…… 」
刹那――騒めく戦場に、交差し、ぶつかる――二つの双眸。
片眼鏡<モノクル>が光る――と同時に、相対する仮面の奥が光り出す――。
老いた体に襲う――戦慄……身体中が総毛立つ。
( ……面白い…… )
―― それは強大な敵に向けられる好奇心 ――。
その久々の感覚に……口元を歪ませ……。
瞬間――動き出す――。
――威風たる冒険者服を靡かせ……巡らす魔力。その『 魔力制御 』は更に激しく流麗に加速――。
――襤褸のローブ服の下、膨れ上がる。それが男の、身丈以上に膨れ上がり、急速に人の姿を奪っていく。
「 ――――!!!? あれは……!!!? 」
アウレ達が目を見張る中……。
「 ――――!!!? 駄目です!!!!! 広範囲の攻撃が来ます!!!! ――避けて下さい!!!! 」
イザベル の振り絞るような声に ゴルドエ は、反応……。
( ――な――――!!!?……何が何だか……分からない……が……確かに……これは不味い!!!? )
細胞分裂を繰り返し、体を覆い始める――肉塊。
長年の魔法師として勘疼く……。
( ……間に合うか……!!!? )
戦場の兵達は既に広範囲に展開……各処で戦闘中であった。
「 全員傾注!!!! 警戒しつつ、至急!陣営まで後退しろ!!!! 」
その全隊指揮官の声に呼応し、行動に移す――兵達。
そんな中を――。
――解き放つ『 瞬歩 』。瞬間――老紳士の姿が消え……影だけが魔獣の群れと魔法士達の雑踏の合間を高速で駆け抜けていく。
――肥大した肉塊の割れ目から紅い血飛沫を上げ、天へと伸びる巨大な触手。
その外皮には無数の魔獣の顔があり、その口元から不快な声を発し始める――。
( ( ( ―――― あれが来る!!!!! ―――― ) ) )
その狭間、満身創痍のイザベル達は、傍観することしかできなかった。
――漆黒の両手袋の中、十字形の装飾、薄紫色の魔石が煌めき出す。
フィッツロイ族の秘蔵の魔具 『 冠十手套 』。
――蛸の足の様に左右に不気味に蠢く。
( ……何か、が来ますね……しかし……既に射程圏内…… )
片眼鏡<モノクル>が光る――瞬間――。
―― 上空から押し潰すように振り下ろされる 巨大な触手 ――。
「 「 ――――――!!!!!!!!?――――伏せるんじゃあ”あぁぁぁぁああ――!!!? 」 」
ゴルドエ の叫ぶ声は虚しく……。
高速で通過する横一閃――斬撃。
――洞窟内に響く、骨を砕き、肉を貪り尽くす――耳障りな音。
――逃げ惑う魔法士、魔獣、もろとも――喰い散らかす。
下半身だけとなった魔法士の骸が……。
―― あちらこちらで血飛沫を上げる ――。
刹那――。
「 ―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封 ―― 」
それぞれが独立して動くような複雑な動きをする――指先。大きく振り上げる様はまるで演奏を指揮するかのように大きく弧を描く。
その動きに連動して……。
――巨大な触手の斬撃、その軌道が突如、変わり――急上昇。
ゲイリー の手から放たれた無数の糸が軋む。
有り余るの威力、その反動に老体を浮かし、勢いを殺す形で後退を余儀なくされていた。
――瞬間、その斬撃は、洞窟の天井を抉り……壁面に激突し……沈黙する触手。
やがて、瓦礫と肉片が混じり、血の雨が降り注ぐ。
瞬きすら許されない一瞬の攻防……。
( ――――――――――!!!!!!!? あの攻撃を…… )
その一部始終を アウレ の碧い眼が捉えていた。
( ……初見で見破った……のか……!!!? )
巨大な触手が横一閃の斬撃を放つ、その瞬間――洞窟内の壁に張り付く無数の糸が絡みつき、他の方向へと張力を伝達。その軌道を無理矢理、捻じ曲げる。
高速で振動する糸は、肉を縛り、切り裂く――。
ゲイリー の固有魔術 『 天罰斬糸 』。
イザベル と 蓮花 の三人掛かりで束になっても太刀打ちできなかった攻撃を……いとも容易く……。
( ――これが…… )
こみ上げる――悔しさに、混じる……胸の高鳴り……。
( ……じじいの……本気…… )
『 魔導師 』 ゲイリー・バトラー の魔術。
その姿に アウレ は目を見開く。
……知りたい。
アウレ の見据える先に佇む、後ろ姿――老紳士。
抑えきれない……衝動。
まだ、この世界には……。
上には上……まだ見ぬ、怪物がいる……。
瞬間――その片眼鏡<モノクル>に映り込む 仮面の男。
その巨大な触手の根元……切断された傷口が泡のように膨張する。
細胞分裂を何度も起こし、肥大する肉塊……。
―― 自己修復 ――。
( ……なるほど……これは…… )
連鎖するように仮面の男の全身を飲み込み……骨格、肉、形を変える……瞬間、その肉塊が裂け……背から六本の新たな触手が生まれる。
―― 形態変化 ――。
( ……厄介ですね…… )
その姿に一同は驚愕した。
最早、人の原型をとどめていない……。
蜘蛛のように六本の触手。
鋭く縮小した触手の二本で、宙に浮く 仮面の男 。
―― 正真正銘の異形の化物 ――。
その瞬間―― ゴルドエ が指示を飛ばす――。
「 下がれ――!後方の陣へと退避しろ!!!!!――ルーカス!!!!!至急、生存者の確認を急げ!!!!手の空いた者は負傷者の救助、手当てだ!!!! 」
残存する兵達は、 仮面の男 から距離を取り、離れた場所に陣を敷く。
まだ息のある者、四肢を失った者。阿鼻叫喚――混乱したの陣の中。
その光景を一瞥し、ゴルドエは……驚愕していた。
( なんじゃあ……あの姿は……!!!!?それに……あの攻撃……兵の半数以上が殺られたぞ……!!!…… )
歴戦魔法師である ゴルドエ も……流石に困惑の色を隠せなかった。
( ……先程の攻撃……わしには、早すぎて何が起きたのか……わからんかった…… )
そう、想像して、背筋震わせる。
( ……もしも……あの範囲攻撃の射程内にいたら、わしも……そこら辺に転がる同胞と……同じように死体になっていたじゃろう…… )
そして……苦虫を噛み潰す。
見据える唯一の逃げ道……その脱出経路は……。
祭壇の横の入り口。
……しかし……。
ここから脱出するには、あの祭壇の上、 仮面の男 の攻撃射程圏内に入る必要がある……。
( ……不味いのう…… )
魔獣達を殲滅するため、奥に陣を張ってしまったのが……ここに来て裏目に出てしまった……。
( ……あっという間に……狩る側から狩られる側になっておる…… )
そう、後悔しても……後の祭り……。
深く息を吸う――。
周囲は、一掃され、人と魔獣の死体が点在し、地面に広がる血の海……。
まずは兵達を立て直す――。
( ……すまぬ…… ゲイリー 殿……暫し……持ち堪えてくれ…… )
その意図を知ってか知らずか――。
―― ゲイリー の足元に大きな波紋が広がる。
――赤い水飛沫を跳ね上げ、『 瞬歩 』――再び、祭壇へと急接近――。
その狭間――祭壇の上空へと魔石をばら撒き、……その全てに繋げる『 霊糸 』――。
投げ入れられた無数の魔石が――。
篠突く雨の如く、眩い光を放つ――。
「 ―― 我、問う魔導の理を万象にて現し溢れ 火よ、水よ、雷よ、土よ、風よ ……全てを呑込め…… 森羅万象 ―― 五十重復唱 ――。 」
その瞬間――アウレの碧い眼 『 魔成眼 』 が、その光景を映し出す。
( ――――な――!!!?――こいつ……!!!!!!!? )
仮面の男 の上空を覆い……連鎖し光り出す、『 方陣円 』。
( ……一体……いくつの『 術式 』を扱えるんだ…… )
金髪の少女の顔が驚きと興奮に染まる。
――展開する……様々な紋様。その数……。
―― 五十の『 術式 』 ――。
複数の魔術を同時に行使するフィッツロイ族魔術 『 魔導 』。
その特性、『 遠隔魔術 』『 並列魔力操作 』……そして……『 術式の改変 』。
五十の『 霊糸 』を操り、『 魔術回路 』を伸ばす――『 遠隔魔術 』。
その『 魔石 』すべてを同時に発動させる――『 並列魔力操作 』。
一つの詠唱の元に展開するよう、その引金を書き換える――『 術式の改変 』。
『 森羅万象 』。これは……複合の術式ではない……。
それぞれが異なる属性の『 術式 』の元、作用し合う――統合の魔術。
属性の種類は 火、水、雷、土、風 の『 五源 』から――なる。
本来、魔術の属性は、魔法と同様に、その術者の適性に依存する。
一般的には複数の適性持ちは、二つの適性で秀才、三つで天才と云われる……。
……しかし、この…… ゲイリー・バトラー はその適性の壁すらも超越する。
ゲイリー が、独自に考案し、彼だけが行使できる固有魔術。
それは全属性の『 術式 』を行使する統合の魔術であった。
瞬間――仮面の男は右手を伸ばし、掌を見せる。
展開する炎弾は旋風に乗り、火災の竜巻となる。空気中の酸素を消費、上昇気流を巻き起こし、更に盛大に燃え盛る。その後……地表の加熱で空気が膨張、発生する水蒸気は急激に冷やされ、厚い雲となり、瞬間――轟く雷鳴。雷流を帯びる暴風雨を降らす。その下で水分を含み動く地面……渦巻く土砂流と地形が変化、その川から無数の土の槍が突出し、一帯を突き刺す――針の山を顕現する。
―― 災害の魔術が、次々と 仮面の男 を襲う――。
しかし……その地獄の淵で……。
―― 笑い狂う 仮面 ――。
その紅の双眸が怪しくも鮮烈な閃光を放つ。
透明の天蓋―― 『 魔法防御壁 』。
それは……その全てを無に帰す――絶対防御の魔法であった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
この物語のクライマックス 『 最強と最凶 』 の開幕でございます。
テーマは 『 この作品の最期 壮絶な介錯 』です。
これまでの二人の伏線を踏まえての頂上決戦になります。
最後の最期に少女は何を観るのか?
お楽しみいただければ、幸いです。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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