奈落の死闘 ~『捨目付』~
黒髪を振り乱し、宙を舞い……旋回。
白い雷光が 李 蓮花 の体を包み込む――。
宙返りした間を巨大な棍棒の斬撃が通過。巻き起こす暴風。
遅れてやってくる風圧に漆黒のローブが翻る。
垂直の降下し……着地。再度、脚に魔力を溜め――跳躍。稲妻の如く速度で上昇、旋回を繰り返す。
目まぐるしく上下する視界に三度、世界が反転。
三半規管を揺さぶられ、狂う――並行感覚。
その戦闘の中で彼女は……。
心を掻きむしられられる――緊迫感に襲われていた。
( お嬢ー の身が危ないネ…… )
眼下、離れた戦場で……。倒れこむ お嬢ー。
更にそこから、離れた後方、防壁魔術を展開する イザベルの姿。
その彼女の周囲にも魔獣の手が伸びている。
いち早く、救援にまわらなければならない状況……だが……。
瞬間――。
巨鬼の巨大な棍棒が 蓮花 に迫る。
「 ……本当にしつこいネ……邪魔アル!…… 」
小さな身体を翻し、緊急回避。その巨体を視界に収めた。
―― 打壊 の巨人 巨鬼 ――。
その巨大な棍棒を振り回す度に――嵐が巻き起こる。
回避を繰り返す彼女は、巨鬼の身体や洞窟の壁を足場にその巨体を駆けのぼり……猛撃の合間を縫って――反撃に転ずる。
白い魔力を纏った爪、固有魔術 < 白虎纏鎧 > 。
その一撃必殺の斬撃を何度も振るう。
――しかし、強靭な鋼鉄の巨体の猛攻は一向に止まる気配がない。
咄嗟に横滑りして失速、斜め後方へと蹴り出し、空中に旋回する。
急激な減速や方向転換で巨鬼を翻弄する動き。
――結果、掴みにかかろうとする巨大な手は空を切る。
その激動の最中……。
蓮花 は必死の形相に苦悶の表情を浮かべる。
傷はもう、誤魔化しの効かないところまで、きている。
それでも、常に全速力で動き回る……。
止まれば……捕まれば――即、死……そこで終わる。
絶えず送る視線……巨鬼の全身。
―― そこに浮かび上がる無数の小傷の痕 ――。
( ……たいした損傷を……与えられてはいないネ…… )
内部から破壊する 『 練功術 』 絶技 『 発勁 』も再三、打ち込んでみたが……それでも駄目だった……。
( ……あと、出来る手といえば………… )
蓮花 は思案を巡らす。
しかし、その為にはこいつの気を逸らす、必要がある……。
それには……。
( ……高火力の砲撃……その陽動が欲しいネ…… )
蓮花 は唇を嚙みしめる。
口に広がる――鉄の味……。
瞬間――眉を顰めた。
それは先程…… イザベル にかけた激。
――それがそのまま自分へと返ってくるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
イザベル は、続々と襲い来る魔獣達の攻撃を捌き、応戦……。
その合間も両手五指の先から伸ばす魔力の糸 『 霊糸 』。
『 魔術回路 』を繋げ……展開する透明な魔術防壁 『 疑似防御壁 』。その防壁の中で お嬢様 を守護し続けていた。
「 「 ――お嬢様!!!――起きてください!!!!――お嬢様!!!!…… 」 」
声を嗄らし、必死にその名を呼びかける。
視界の先には……倒れ込み――沈黙する お嬢様。
その周囲に群がる魔獣が、その壁を壊そうと攻撃を加え続けていた。
( そう、長くは持ち堪えられない…… )と焦る イザベル は声を振り絞る。
「 ――お嬢様!!!返事をしてください!!!アウレ・マキシウス!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」
その声に微かに指先が反応する……。
そして……透明な防壁内……。
剣を支えに……奮える膝を抑え……。
「 ――――――――――!!!!? 」
その様子に―― イザベル の目頭が熱くなる。
―― 立ち上がる お嬢様。
――「無事であった……」と、その安堵が一気に漏れ出す。
「 ――お嬢様!!! 怪我は大丈夫ですか――!!! ――お嬢様…………!? 」
その呼びかけに返答がない……。
時折、地面に点々と垂れる――赤い雫。
身体中、痛々しい血痕が滲み出す――冒険者服。
頭から血を流している。
その俯いたままの表情は、金色の前髪に隠れ、覗き見ることが……出来なかった……。
( ……意識がない?……本能だけで立っている……!? )
瞬間―― 狂騎士の大きな影が瀕死状態の少女を覆い隠す。
( ―― まずい ――!!!? )
その手に握られた怪しく光る――抜き身の宝剣。
――それを大きく、天へと振りかぶる 狂騎士。
「 「 ――お嬢様!!! しっかりしてください!!! 構えをとって!!! 」 」
イザベル は再度、指先からありったけの魔力を込め、防壁の強度を上げる……。
……しかし……硝子細工のような破砕音――。
――刹那 飛び散る破片――。
イザベル の『 疑似防御壁』……透明な壁は崩落し……。
枷を解き放たれたように一斉に襲いかかる魔獣達……。
その狭間で……。
狂騎士は再び、剣を空高く、振り上げる……。
「 「 ――お嬢様ぁぁぁああ”あ”ぁあああ!!!!! ―― 」 」
―― その叫びを無慈悲にかき消す、斬撃 ――。
刹那――。
左手首が宙を舞う。
「 ――――――――――!!!!? 」
大洞窟内に響き渡る――断末魔の咆哮。
血飛沫が噴き出し――後退り……。
「 「 ―― འཇིག་རྟེན་མི་འདྲ་བ་དང་འབྲེལ་བ་ཡོད་པའི་གཡང་གཟར་དང་། གྲོགས་མེད་ཁེར་རྐྱང་དུ་ལུས་པ། འབྲེལ་ སྒོ་འབྱེད་པ། ―― 」 」
――消失する 狂騎士。
――その瞬間、入れ替わるように、狂狼が飛びかかる。
――無防備な お嬢様 へと ――。
――その鋭い爪が柔らかな肌に突き刺す……。
その瞬間――その体を真っ二つに引き裂かれ――。
―― 血の雨が降る ――。
「 ――――――――――‼!? 」
それ攻撃というには、あまりにも自然で静かな斬撃であった。
( ……今のは……お嬢様……が、……やった……の?…… )
そう、 イザベル が錯覚するほど……。
アウレ が、ゆるりと剣を振る……。
その直後――飛来する 毒蛇が、その黒い斬撃に呑まれ……切断されていく……。
続々と、 お嬢様 に襲い掛かる魔獣……。
――次の瞬間には細切れになり……肉塊へと姿を変えていく――。
( ――――!?お嬢様の動きが――明らかに変わった!?…… )
その様子に イザベル は目を見開く。
この光景……動きに見覚えがある……。
金髪の少女に……重なる姿。
大勢の敵地の中を突き進み、蹂躙する――銀髪の老紳士。
先生 のその姿と――。
( ……身体中が……痛てぇ…… )
犇く魔獣達の濁流の中を、半歩……。
( 上手く、力が入らねぇ…… )
……また、半歩と前進……。
( ――見ろ! )
それは、時計の針が壊れたように止まる感覚……。
瞬間、大鬼 が大きな鉈を振りかぶり……静止。
( ――視ろ! )
頬を伝う、汗の雫が血と混じり……落ちていくのがわかる。
迫る魔獣達の身体を巡る、魔力。その初動がありありと感じられる。
( ――観ろ! )
洞窟内に無数に奔る魔力の流れ――『 魔脈 』を伝い……。
後方に術式が展開する……そんな気がしていた……。
そう―― 全てが観えているのだ ――。
それは、もう……目を瞑ってもいいくらいに……。
北辰一刀流 には指南や指導、目録書などの……至る所に『 捨目付 』という言葉が多様される。
しかし、その実態は許された者のみ口伝で教わる奥義であった。
北辰一刀流 『 捨目付 』
それは、文字通り……目付を捨てる行為。
人間は視覚器官からは、全体の87%もの多くの情報を得ている。
だからこそ、知らず知らずのうちに視認できる情報だけを重視してしまい……それに惑わされる。
目に目に視えない、重力や『 長短の矩 』の残像などが良い例である。
そう、全てを捉えるためには視覚だけに頼らないことが必要であった。
更にこの奥義は五感だけではなく、様々な意味合いを持つ……。
それは、状況、経験、気配、相手の心、技、体、表情、筋肉の動き、剣の起こり…………。
優に千を超える情報を瞬時に演算し……本能で導き出す――。
すると……身体は自然とその答えをなぞる。
この奥義の神髄……それは……。
―― 予知に近い予測 ――。
――瞬間、小鬼の斬撃は空を斬る。
当たり前のように、その攻撃を捌き……首を刎ねる。
―― 北辰一刀流 『 長短の矩 』 ――。
少女の小さな身体はその残像だけ残して……漫然と魔獣達の海を渡る。
実体がない姿に戸惑い、混乱する魔獣達……そこに漆黒の連撃が迫る――。
―― 北辰一刀流 『 星王剣 』 ――。
そして、全ての戦場を見透かし、支配する。
―― 北辰一刀流 『 捨目付 』 ――。
徐々に鮮明となっていく意識中……。
( ……奴はどこにいった…… )
虚ろな瞳でその姿を探す――。
それは……魔獣の群れに紛れ、隠れ潜んでいる 狂騎士。
奴は負傷した状態で転移し、今もなお、逃げ果せている。
( ……まあ……いいか……どうせ…… )
アウレ は、祭壇へとゆっくりと着実にその歩みを進ませる。
―― もはや、奴の魔術は見切っている ――。
それは、仮面の男 に襲撃されていた時からずっと引っかかっていた――違和感。
心の中に、ぽっかりと空いていた――空白。
なぜ? 蓮花 だけが、 仮面の男 の高速の攻撃に対応出来たのか――ということ。
……その最後の欠片が埋まる。
その答えは『 魔力感知 』だった。
魔力を感覚的に掴む、技術……。それは、戦闘、その初動の気配においても、感じることが出来る。
幸か不幸か……俺には魔力の流れが視えている……。
だから……そのことに気づけなかった……。
微かに騒めく、魔力の乱れ……。
感情や動きにも直結している、ということに……。
瞬間――後方、死角から展開する『 方円陣 』。
( ――違う、お前じゃない…… )
刹那―― アウレ は独楽のように回転し……。
―― 漆黒の斬撃を見舞う ――。
それは、そこに展開されることが解っていたように……。
――突如、何もない地面から噴き出す血。
その様子に イザベル は、目を見張った。
「 ――――!?視えている?術式を……!? 」
それは、イザベルの眼鏡 < 術視鏡 > 。特殊な魔具でしか、見えないはずの――術式。
「 ――これが……『 魔成眼 』 ――!? 」
そう、 北辰一刀流 『 捨目付 』は……。
アウレ の特異な眼 『 魔成眼 』と混じり合い、昇華――。
その結果、開眼する。
―― それは、この世界の術式さえも……視認できるようになっていたのであった ――。
覚醒した『 魔成眼 』。――その碧く深い双眸が――。
鋭い閃光を放つ――。
舞い散る血飛沫を巻き上げ、剣がその魔獣達の血を啜る。
少しずつ確実に……目的地……その祭壇へと進軍していく。
誰にも……この 金髪の少女 を止められない。
そう、思えるほどの凄まじき進撃――。
追い込んでいく……その状況へと――。
そして――。
祭壇の上、無数の蠢く目がその一点に注がれる。
「 「 མིག་གིས་བུད་མེད་དེ་སྔོན་ལ་གསོད་དགོས། 」 」
――激昂の一喝。
不届き者、乱暴狼藉を働く 金髪の少女 を粛清せよ、と告げるように……。
邪知暴虐 悪魔王 が指差す――。
瞬間――。
――アウレ の目の前で光り出す地面――『 方円陣 』。
( ……当然、そう来るよな…… )
碧い眼が、その瞬間を捉えていた。
生皮を剥がした馬のような醜悪な顔……その口から白い蒸気を漏らす。
その手には――怪しくも美しい光を放つ、抜き身の宝剣。
屈強な肉体を流れる、高濃度の魔力。
そこから……その覚悟ほどが覗き観える……。
それは、 アウレ の行く手に立ち塞がるように……。
―― 姿を現す 狂騎士 ――。
「 ……ふっ、面白れぇ、……来いよ……まとめて――膾斬りにしてやる! 」
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ご愛読頂き誠にありがとうございます
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。
あらすじの伏線「少女はいったい何を視るのか?」ですが
この『 捨目付 』に掛かっております。
その真実を眼にする最期までお楽しみ頂けたら幸いです。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
上のブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。




