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奈落の死闘 ~臨界突破~



( ……今なら……わかる…… )

 

 

 篠突く雨の如く投げ入れられる魔石。

 暗転する洞窟内に……連鎖するような眩い光を放つ。

 

 その役目を終えるかのように怒涛の勢いで破裂……消散していた。


 瞬間――石の銃弾が魔獣達を痛烈に打ち抜く。

 血飛沫が舞い、次々と倒れこむ中……。

 

 それでもなお、鬼気として迫る……魔獣の濁流。

 

 その猛攻に イザベル・フィッツロイ は苦戦を強いられていた。

 

 ただでさえ、魔獣の人海戦術によって死闘を迫られているのに……。

 

 壇上から悪魔王アザエルの高火力の魔術砲撃が……常に狙い定めている。


 三人へと目移りし、移行する照準。

 それに対応せざるを得ない、後手後手の戦況。

 

 攻撃の主導権は、まだ……あちら(魔獣)側にある……。


 ( ……そのための手数(霊糸)が圧倒的に足りない…… )


 唯一、その魔術に対応できるのは私だけ……だが……ここにきて、私への攻勢が強くなった。


 イザベル は首を絶えず、振り続け、周囲の状況――情報を摂取していた。

 

 蓮花 は 一人、巨鬼(ベヒモス)をひきつけ、抗戦中……。

 お嬢様 は祭壇へと向けて、魔獣の群れへと突撃。一進一退で剣を振っている……。


 その光景を俯瞰するように確認し、整理する。


( 即――上空に魔石を投擲、詠唱……砲撃を迎撃する。位置を斜め四十五度に進行しつつ、十二秒後に お嬢様 の背後へ向け、『 疑似防御壁(オボローナ) 』を展開、更に追加の魔石を仕掛ける…… )

 

 私が足りないもの……それは…… 『 魔力容量 』 と 『 出力 』。


 前者は完全に先天性の才能で、どうあがこうと、どうにもならない……。しかし、後者、『 魔力出力 』は……別だ。

 魔力制御は視えない魔力を操作する技術。感覚的にしか捉えられない。

 そのため、想像力が重要な鍵になる。

 私は、これまで常に魔力を絞り、留めるイメージをしていた……。

 その思い違いが……魔力の流れを淀ませ……結果、魔術の威力を殺していた。

 

 それは無意識におこなっていた――癖。

 

 私には『 魔力容量 』 がない……だから、魔力消費を抑えるしかないと――。

 そんな、凝り固まった考えが『 魔導 』の可能性を低減させていた……。


 ( 染み付いた脳を壊せ…… )

 

 魔獣達の猛攻を捌きながら、取り出す小瓶。

 その口でその封を切り、飲み干す――魔力水。

 

 これで……足りなくなった魔力容量は埋め合わせが――できる。


 毎日、欠かすことなく鍛錬を繰り返した『 練功術 』。

 考えなくても身体が勝手に動く――。

 

 ( ……周囲の状況を再度確認…… 蓮花 の戦闘が大丈夫そうなら、 お嬢様 へ『 疑似防御壁(オボローナ) 』を展開……その後、進行方向――祭壇の位置と導く、支援砲撃……状況確認……新たな魔術砲撃の気配があるなら、更に移動……念の為、足元にも魔石を配置。再度、蓮花確認…… )

 

 私はあの二人みたいに本能で動くことは出来ない……。

 

( ……だから、こそ……思考し続け……雑音を消す…… )


 脳裏をたくさんの情報で埋め尽くし……。


 ( ……焼き切れ……考えるな…… )


 全身に纏う魔力の鎧を解除――持ちうる全ての魔力を攻撃へとまわす。


 そして…… お嬢様(アウレ) に群がる魔獣へと投げ込む――魔石。

 

 ――瞬間、二十の岩石槍(フレースピア)が、その有象無象を打ち抜く――。


 絶えず、動き回り、魔術を繰り返す イザベル は、お嬢様(アウレ) への支援に全神経を集中させる。


 しかし……丸裸同然、捨て身になった彼女へ迫る――魔獣達……その肉弾戦。

 

 その牙が――。

 鋭い爪が――。

 紙一重で捌く、彼女の魔法師服を……。

 

 引き裂き…… 地肌に傷を付けていた。


 「 ――くっ――――――!!! 」


 苦悶の表情を浮かべ……栗色の髪を靡かせる。

 上体を逸し、紙一重で避け続けていた。


 ( ――止まるな、撃ち続けろ!!! )


 もっと、蓮花のように、強引に……。

 


 「 「 ―― はぁぁあ”ああぁぁあ”あああ――!!!  ―― 」 」



 お嬢様のように泥臭く……。

 


 足掻くように、一心不乱で砲撃の魔術を撃ち続ける無様な姿を……。

 

 祭壇の上から見下ろす 悪魔王子(アザエル) は一瞬、下卑た嘲笑を覗かせる。


 一瞬の沸点……。その怒りの感情を魔獣達へとぶつけ……更に苛烈な砲撃を加える彼女は……その激動の中、口角を不気味に吊り上げた。


 ( ……いいわ……高みの見物をする貴方(アザエル)に、魔術の神髄を教えてあげる…… )

 

 私が使える属性は土と風。最大火力の魔術 岩石槍(フレースピア)は土と風の複合魔術。

 

 私には先生のような全属性の魔術は出来ない……。ましてや……異なる術式を同時に扱うという離れ業も出来ない……。


 愚直なまでの凡才……。

 

 それでも……自分が出来ることを精一杯、磨き続けたと自負できる……。


 そんな、私から視て、貴方(アザエル)の魔術は、仮初めの力のように感じる。

 

 漆黒のローブ服を纏い、髑髏の杖を振るう 悪魔王アザエル

 

 それは……赤子が覚えたての強大な力を無作為に奮っているような、稚拙さ……。偽りの王冠は、まるで魔術師の王を演じているような……まがい物の魔術……。


 確かに……私には貴方(アザエル)のような高火力の魔術は使えない……。


 純粋な魔術の砲撃戦なら魔力容量の差で確実に負けるでしょう。


 ……しかし……この勝敗はそれでは決しない。


 なぜなら……魔術とは……()()()()、その上での……()()()()()


 ―― ()()()()()()()()()()()()()()()()()() ――。



 「 ―― བདག་གིས་བྱ་དངོས་ཡོད་ཚད་ལ་དོགས་པ་ཟ་བའི་རྫུ་འཕྲུལ་གྱི་གཡང་གཟར་གསལ་སྟོན་བྱས་ནས་དེ་མེ་ཡི་སྤོ་ལོ་ཞིག་ཏུ་འགྱུར་བར་བྱ་དགོས། མེ་སྒྱོགས་ཀྱི་སྤོ་ལོ། ―― 」



 ――瞬間、悪魔王(アザエル)の詠唱。しかし、……それよりも早く……。



 「 ――我、問う魔導の理を万象にて現し 疾風を纏う石の槍となり敵を穿て 岩石槍(フレースピア) 二十重(ヴィンティ)復唱(ホウフトーレデ) ―― 」



 イザベル 魔術 岩石槍(フレースピア)が祭壇に向け、放たれる。


 その攻撃に気が付いた 悪魔王(アザエル) は……咄嗟に詠唱を止め、腐敗した左手を翳し……『 魔法防御壁(ヴォーグ) 』を展開。


 ( ……やはり、魔術と魔法は同時に発動できない……のね…… )


 全弾、悪魔王(アザエル)の前透明な天蓋に阻まれ、灰燼に帰す。


 

 「 「 ད་དུང་ཁྱོད་ཀྱིས་བཤད་པ་ཡིན་ནམ། ཀུ་རེ་མ་རྩེ། 」 」

 

 

 悪魔王(アザエル)の激昂。

 攻撃を邪魔をされ……その地団駄を踏む。

 

 その様子に イザベル は再び、口角を吊り上げ……。

 

 ――間髪入れずに砲撃魔術を放つ。


 阻まれる――絶対的な防御。悪魔王(アザエル)が展開する、天蓋の透明な防壁 『 魔法防御壁(ヴォーグ) 』。

 

 ……しかし、 イザベル は休まず詠唱を繰り返し……苛烈に砲撃を加え続けていた。

 

 それは、少しずつ、悪魔王(アザエル)が後ろへと後退するほどの集中砲火……。

 

 ( 釘付けにして……何もさせない! )



 「 ―― 我、問う魔導の理を万象にて現し 障壁なり我を護れ 疑似防御壁(オボローナ)――。 ――我、問う魔導の理を万象にて現し 疾風を纏う石の槍となり敵を穿て 岩石槍(フレースピア) 二十重(ヴィンティ)復唱(ホウフトーレデ) ―― ………… 」

 


 絶えず、唱え続け……戦場の各処に魔術を行使……更に加速していく。


 ( ……まだ…… )

 

 そして、彼女の魔術回路……『 霊糸 』は()()()()()()()()()()()……。


 ( ……まだ……遠い…… )


 「 ―― 我、問う魔導の理を万象にて現し 疾風を纏う石の槍となり敵を穿て 岩石槍(フレースピア) 三十重(トレンタ)復唱(ホウフトーレデ)―――― 」

 

 次第に、増える……弾数。


 それは 悪魔王子(アザエル)への直接攻撃 と アウレ の支援砲撃――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「 すげえ…… 」

 

 ――瞬間、 アウレ の視界に浮かびあがる……。

 

 ―― ()()()()()()()() ――。

 

 ――この好機に金髪少女の身体が咄嗟に動く。

 八相の構えを取り、重心を深く沈み込ませる。――突撃態勢。

 魔力を足に溜め、祭壇へと爆発させる『 瞬歩 』。


 ( この お嬢様 の特攻は……誰にも止められない……。もはや、放たれた矢…… )


 そう、イザベルが確信する……。


 その時だった――。

 

 眼鏡(魔具)<  術視鏡(メイナスエンド) >に()()()()()……。


 ( まさか、…… )

 

 イザベルの思考が揺らぐ。

 

 それは前進しようとする お嬢様 の後方に……。


 ―― ()()()() 方円陣(術式)――。


 「 ――――!!? お嬢様――!!!――後ろです!!! 」


 振り返る アウレ の碧い眼に……映り込む――。


 ――屈強な肉体。

 

 湾曲した角を二本生やし、生皮を剥がした異形の顔。


 

 ―― 狂騎士(バティン) ――。

 

 

 虹色に輝く、宝剣は既に抜き身……。


 ――すぐにその斬撃は放たれる。


 「 ――――――!!? 」


 ――咄嗟に イザベル が手を伸ばす。


 「 ―― 我、問う魔導の理を万象にて現し 障壁なり我を護れ 疑似防御壁(オボローナ)―― 」


 アウレ の目の前に展開される……疑似防御壁(オボローナ)

 

 ――しかし……蠢き、浮き立つ青灰色の血管。その筋肉から放たれる、力まかせの横一閃が迫る――。

 

 ―― 衝突音と共に硝子細工のように飛び散る破片――。


 その防壁を意図も容易く破った――斬撃は……。


 勢いそのままに……少女の姿を一刀両断する。

 

 切断され……金色の髪が宙を舞い散る……。


 瞬間――。

 

 少女の姿が残像となり、消える。


 ―― 北辰一刀流 『 長短の矩 』 ――。


 アウレ は身体を沈みませ、間一髪で躱す――しかし、虚を突かれた強襲……その態勢が崩れ、反撃へと移ることは出来なかった。


 「 ――――――――!!? 」

 

 狂騎士(バティン)は大蛇の尾を地面へ叩きつけ、轟かせる――咆哮。

 

 その巨体から想像の付かない速度で……。

 

 態勢を立て直す アウレ へと――。

 

 ――襲いかかる。

 

 アウレ は目を見開き、咄嗟の回避をとる。

 

 洞窟内に、風切り音が木霊する。


 虹色の魔力の纏った――怒濤の猛追。

 

 飛び散る汗の雫を切り裂き、頬をかすめる剣圧がその加速していく。

 

 ( ……くっ……反撃へと転じる隙がない…… )

 

 それは イザベル の支援魔術が介入出来ないほどの至近距離での連撃であった。

 

 ( ――――これは……不味い―― )

 

 間合いを取ろうと アウレ が後方へと飛ぶ――。


 ――その刹那……。

 

 生皮を剥がした異形の顔…… 狂騎士(バティン) の、その口元が歪に動く。


 

 「 ―― འཇིག་རྟེན་མི་འདྲ་བ་དང་འབྲེལ་བ་ཡོད་པའི་གཡང་གཟར་དང་། གྲོགས་མེད་ཁེར་རྐྱང་དུ་ལུས་པ། འབྲེལ་ སྒོ་འབྱེད་པ། ―― 」


 

 ( ……ん……なんだ?…… )


 少女の死角から現れる――『 ()()() 』。


 ()()() ()()……()()()()()()()()()――。

 


 「 ――――ぁあああああ””あああ”ああ――!!!!?」

 


 ―― 突如、襲う――激痛 ――。

 


 肩口に 狂狼(ワアルウルフ)の牙が深く突き刺さる。


 

 口元から漏れる――吐血。

 


 あばら骨の何本かを……持ってかれた……。



「 ――ぁぁ野郎ぁぁぁぁあ”ああぁぁ!!!! ――」


 

 振りほどこうと、足掻く――瞬間。



( ……な、…………!!!? )



 その眼に映り込む、剛剣……怪しくも命を刈り取る、斬撃が迫る――。


 

( ―― し……まった――!!!!!!!!!! ―― )


 

 ―― 瞬間、脳裏に火花が散る ――。

 


 挽き千切られるような衝撃に……意識が飛ぶ――。

 


 少女の小さな身体は、無重力で吹っ飛ばされ――。

 

 

 転がる地面……二転三転と鈍い音を立て……。

 


 次の瞬間――壁に激突……。

 


 そのまま……力なく倒れこみ……。

 


 ―― そこで……動くかなくなった ――。

 

 


 「 「 ――お嬢様ぁぁぁああ”あ”ぁあああ!!!!! ―― 」 」


 


 一瞬の静寂……。


 

 揺れ動く ――イザベル の視線。

 

 

 壇上の悪魔王子(アザエル)だけが不快な声を上げていた。

 


 「 ……嘘……………… 」

 


 その先には、倒れ込む……少女の無惨な姿。


 

 その身体からゆっくりと赤い血が流れていく。


 

 ( ……終わった……私は……もはや…… )


 

 その場で膝から崩れ落ちる…… イザベル 。

 


 「 「 ―― イザベル!!!!!! しっかりするネ!!! お前しか、いないアル――!! 立つネ!!!! イザベル――!!!!!! ―― 」 」


 

 巨鬼(ベヒモス)を猛攻を躱しながら…… 蓮花 が激を飛ばす。

 

 必死の形相に覗かせるその双眸に……。

 

 

 ―― その表情に イザベル は我を取り戻す――。

 

 

 再び、お嬢様の姿を眼鏡越しに見据える……。


 うつ伏せに倒れたままの お嬢様(アウレ)の指先。

 それが、微かにまだ、動いている……。


 ( ……お嬢様はまだ、生きて……いる?……だけど…………いえ……私が、しっかりしなければ…… お嬢様 は確実にここで死ぬ…… )


 「 ―― 我、……問う……魔導の理を……万象にて現し 障壁なり……我を護れ…… 疑似防御壁(オボローナ) ―― 」


 混乱の淵で イザベル は詠唱をする。

 ……倒れ込んだままの お嬢様(アウレ) の周りに――『 疑似防御壁(オボローナ) 』を展開し、守護することに成功していた。


 魔獣達が、その透明な壁を突き破ろうと……群がり始める。


 イザベル はその指先からありったけの魔力を込め、防壁の強度を上げるように努めていた。


 …… ゆっくりと近づく足音 ……。


 狂騎士(バティン)のその手には――()()()()()()()

 その赤い雫が刃を伝い、したたり落ち……怪しくも美しい光を放つ……。


 確実にとどめを刺される……その狭間で……。


 「 「 ――お嬢様!!!――起きてください!!!!――お嬢様!!!!…… 」 」


 イザベル は声を嗄らし、必死でその名を叫び続けた。


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ご愛読頂き誠にありがとうございます



この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。



作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。



最終章 クルードセツア迷宮攻略編



後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。



ここから急転直下の激闘の戦闘が始まります。



難解な話が多くありますが、全ての伏線が繋がっております。



最期までお楽しみいただければ、幸いです。



この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方



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