奈落の死闘 ~知略縦横~
広大な洞窟内に響く――二つの声。
「 ―― བདག་གིས་བྱ་དངོས་ཡོད་ཚད་ལ་དོགས་པ་ཟ་བའི་རྫུ་འཕྲུལ་གྱི་གཡང་གཟར་གསལ་སྟོན་བྱས་ནས་དེ་མེ་ཡི་སྤོ་ལོ་ཞིག་ཏུ་འགྱུར་བར་བྱ་དགོས། མེ་སྒྱོགས་ཀྱི་སྤོ་ལོ། ―― 」
「 ――我、問う魔導の理を万象にて現し 障壁なり我を護れ 疑似防御壁 ―― 」
それは 祭壇へと前進する アウレ を介し、繰り返される――魔術の攻防。
祭壇から 悪魔王が、灼熱の炎弾を放つ。しかし、後方から イザベル が行使する防壁魔術。その透明な壁が お嬢様 を強固に守っていた。
術式を編む者 『 魔導師 』 イザベル・フィッツロイ。
彼女は両手の掌を蓮の形に前へと突き出し、迎撃態勢で構える。
―― 視界に埋めつく、魔獣達の濁流 ――。
四方八方、包囲される輪の中心で……その漆黒のローブ服を翻す。
休みなく、続々と襲いかかる、その攻撃を紙一重で躱し――反撃の掌底を放つ。
近接特化の戦闘魔術『 練功術 』。その指先から垂れる『 魔力の糸 』。犇く、魔獣の合間を縫って、お嬢様 の冒険者服へと 魔術回路 を繋げ続けていた。
フィッツロイ族 魔術 『 魔導 』
――その特性。『 遠隔操作 』であった。
一般的に魔術は、『 魔術の触媒 』に直に触れた状態で、魔力を通さないと発動しない、と云われている。
魔力は本来、視えることができない力。
それを流す道筋……『 魔術回路 』が、どのように身体中を流れ、放出しているのか、分からないからである。
原因は……『 魔力制御 』への理解、認識不足……。
しかし、ある特殊な民族はその視えない魔力を制御し、その形状と性質を変化させることが出来る……。
< 錬清国 > ……その民。
フィッツロイ族の祖先は、そんな彼らの『 練功術 』、その特性、魔力の変容に着目……。
長い年月をかけて独自に研究し、……遂に『 魔術回路 』を自在に操ることに成功する。
『 霊糸 』
それは『 魔力制御 』によって、創り出された魔力の糸である。
その糸を『 魔術回路 』とすることで、遠隔からでも術式を発動することが出来る――それこそが『 魔導 』の秘技であった。
瞬間―― イザベル は、小さな鞄 < 異空間収納鞄 > から無数の魔石を取り出す。
そして、 お嬢様 のいる前方へと高く、放り投げる。
その指先から射出する、魔力の糸。それが、一つから二つへと、枝分かれしていき……。
空中に、ばら撒かれた魔石……その全てに繋げる『 霊糸 』。
『 並列魔力操作 』。
術式は本来、複数の発動は不可能である。それは一つの魔術回路に対して複数の術式が使えないということに起因する。
しかし、それは重ねる、という点においては、である。
つまりは、直列ではなく、並列で繋げれば、術式は、複数の発動は可能。
それを、可能にするには術式の数だけ 魔術回路を用意すれば良い。
―― 宙を覆う、十二の術式 ――。
品やかに動く イザベル の指先は、まるで演奏を指揮するかのように弧を描く。
艶やかな口元から発せられる、その曲名……。
「 ―― 我、問う魔導の理を万象にて現し 疾風を纏う石の槍となり敵を穿て 岩石槍 十二重復唱 ―― 」
その魔石から生成、顕現される、石の槍。
――更に回転を加え、その威力を増す――螺旋の弾丸。
十二の石の槍が……魔獣達を打ち抜く。
それは前進する お嬢様 を援護する――砲撃だった。
『 練功術 』と『 魔導 』。
同時並行で行われる処理と……遠隔から展開される、複数の術式……。
その狭間で……イザベル は、常に思案を巡らせていた。
それは……。
場内の千を超す、魔獣の大軍勢 と……。
その魔獣達の将 悪魔王 。
壇上から強力な魔術砲撃を放ち、その度に対応を迫られる……。
( ……かなり、厄介ね…… )
常に主導権は向こうにある。
この戦いは三対千……。
数の暴力で十二分に事足りるはずのに……その上……本来、意思を持たないはずの魔獣を指揮し、人海戦術を仕掛けてくる。
そして、その戦術は確実に私達の体力と魔力を削ぎ……。
対応を迫られる、こちらの気力まで奪い取っている……。
イザベル は今一度、周囲を横目で一瞥する。
( ……この包囲網を抜け、祭壇の横にある大扉まで行くには、前衛の お嬢様 と 蓮花 の突破力が必要不可欠…… )
だが……。
蓮花 は 巨鬼 と抗戦で、手一杯。攻めあぐねている状況……。
お嬢様 は、 悪魔王 の砲撃と、その人海戦術に阻まれ……上手く、前に進めていない……。
悪魔王 が 魔術師 と同じならば……狙うべきは近接戦。
祭壇から一番近い位置の お嬢様 が、祭壇にいる 悪魔王 の懐に入ることが出来れば、確実に討ち取ることが出来る。
そう、この特攻を成功させるには……。
―― 一番厄介な 悪魔王 を討ち取るしかない ――。
そして……イザベルは、壇上の 悪魔王 を眼鏡越しに見据える。
先程の魔術。その触媒は、……右手に持つ杖。
上部の装飾、髑髏の|眼と口、三つの空洞。
あれが、魔具となり、魔術を行使していると推察できる……。
発動時に視えた――三つの方円陣。その展開した術式の紋様に見覚えがある……。
< イドロイト皇帝国 > の 魔鉱兵器。
それは、一つの魔具から複数の術式を展開させる魔具。
なぜ、悪魔王が魔鉱兵器を所持しているのか……?
ふと、 イザベル の脳裏にその疑問が浮ぶ――瞬間。
( ……今は、それを考えるべきではない……)
頭を振り、思考を本筋に戻す。
( ……問題は……あの杖が……魔鉱兵器と同様の物であるか……ね…… )
―― 魔鉱兵器には重大な欠点がある ――。
そのことを思い出した――瞬間。
イザベル の眼に飛び込む……。
―― その好機 ――。
それは壇上の 悪魔王 が漆黒のローブ服の懐から魔石を取り出す様子。
そして……宝杖の上部の装飾、髑髏の眼と口に埋め組む――装填……。
――そのほんのわずかな隙を イザベル は逃さなかった。
すぐさま、上空へと無数の魔石を高く放り投げる。
五指から『 霊糸 』を飛ばし、繋げる。
―― 我、問う魔導の理を万象にて現し 疾風を纏う石の槍となり敵を穿て 岩石槍 二十重復唱――――。
――瞬間、輝き出す魔石。
螺旋の弾丸と化した、無数の石の槍。
祭壇の 悪魔王 へと向け……。
全方位からの集中砲火を浴びせる。
――直接攻撃。
それは…… イザベル が今、使用できる最大火力の魔術。
( ……討ち取った…… )と――。
そう、確信できる程の……絶妙な間での不意討ち――。
――だった。
刹那、悪魔王は、腐敗した左手、その掌を前へと突き出す。
――火花を散る衝突が、鳴り響く。
――瞬間に甦る――既視感。
( そんな……まさか…… )
その光景に 我が目を疑う。
その不可避の砲撃は……。
―― 全弾……悪魔王 の目の前で灰燼へと帰す ――。
すぐさま確認する 悪魔王 の右手……。
その手に持つ、杖。上部の装飾、三つの空洞……。
―― 魔石は、まだ、装填されていない ――。
( ――な、――魔術触媒を使わず、しかも、私の最大火力の魔術を全弾、防いだ……間違いない……あれは…… )
熟練の魔法師だけが使える……。
―― 絶対防御の魔法 『 魔法防御壁 』――。
( ……魔獣が魔法を……しかも……あの、 仮面の男 と同じ……魔法防御壁を…… )
―― 悪魔王 への直接攻撃は無意味 ――。
イザベル の額からとめどなく溢れ出す――雫。
( ただでさえ、少ない……手持ちの攻撃手段を……また、一つ潰された…… )
もはや、専守防衛するしかないという……絶望。
その沼に嵌る前に イザベル は行動に移す――その瞬間。
壇上から耳を劈くような声が木霊する。
「 「 མིག་གིས་བུད་མེད་དེ་སྔོན་ལ་གསོད་དགོས། 」 」
イザベル へと向けられた、指先。
それはこの戦場からの追放を告げる王命であった。
突如、周囲の魔獣の攻勢が激しさを増し……。
「 ――――くっ――――!!!!!!? 」
襲い来る――捨て身の攻撃に、そのローブ服が切り刻まれていく。
「 ――イザベル――!!!? 」
激戦の合間、思わず―― 蓮花 が心配する声をあげた。
「 ――いいから!!! あんたは……目の前に集中して!!! 」
その気遣いは……致命的な隙になる……と、イザベル は活を入れた。
( ……優先順位が切り替わった…… )
息遣いを荒げ、絶えず、詠唱を続ける イザベル 。
その攻勢の圧力を上手く、防壁魔術で逸らす――が、完全には抑えきれず、じわりじわりと後退を余儀なくされる。
その間、 お嬢様 に 悪魔王の砲撃が集中……苦戦を強いられていた。
( ……まずい、これは…… )
各所で緊迫し、加速する戦場……。
( ……対応が追い付かない…… )
イザベル は、小さな鞄 < 異空間収納鞄 >に手を伸ばし、取り出す小瓶――魔力水。
魔獣の猛攻を捌きながら、口でその封を切る。
( ……幸い、魔力を補充できる魔力水。まだ、残っている…… )
飲み干し、すぐさま――詠唱を繰り返し、応戦する。
地面へと転がる、空き瓶。それを、魔獣の雑踏が、粉々に粉砕し、進軍する。
( ……この七日間で収集、補充した魔石もまだ、ある…… )
手持ちの魔石を惜しまず、ばら撒き……。
詠唱を続ける イザベル は――その時を待つ。
やがて……加速する、彼女の思考は……限界の領域へと踏み入れるのだった。
……色濃くなる、警戒心……。
それは……ずっと、胸の奥に刺さり続けていた――ある懸念。
それは、私達をここへと呼び寄せた――存在。
その 狂騎士 が、まだ……姿を現していない事であった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。
ここから急転直下の激闘の戦闘が始まります。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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