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奈落の死闘 ~三者三様~


 断続的に紅い閃光を放つ、巨大な魔石。

 仄暗い大洞窟に暗転する。

 騒めく魔獣の大群が三つの集結地へと押し寄せていた。

 

 その一つの輪。

 その中心で栗色の髪を靡かせ、端正な顔立ちに浮かべる、必死の形相。絶えず、俊敏な動きで翻弄する イザベル・フィッツロイ であった。

 

 瞬間、彼女の細い腕に 毒蜥蜴(コペルニクス) の舌が襲い掛かる。

 一直線に伸びた攻撃。それに呼応するかのように漆黒のローブ服(魔法師団服)を翻し、紙一重で躱す。

 さらにその身体の遠心力を利用し、『 魔力の鎧 』を纏った掌底でその魔獣の顎を骨ごと砕く。


 < 錬清国 > の魔術。 『 練功術 』


 それは近接特化の戦闘魔術。


 < 錬清国 >。 李 蓮花 の出身地でもある、その大国は、独自の社会体系を築く、閉鎖的な民族国家である。一族全員が『 練功術 』の使い手で、ある一定の歳になると、儀式の一環として各国のダンジョンへ武者修行を行う。それ故、その姿、戦いぶりは一部の冒険者内で語り草、酒席での談笑となっていた。


 敵を素手で、敵をなぎ倒す、人の皮を被った猛獣……。


 その凄まじい姿を視た者は畏怖をこめて、そう呼ぶ。

 

 そして、数百人程度で一国を滅ぼせる戦闘民族だ、とも……。


 眉唾物の話であるが……、あり得ないことではない、と思う。

 

 それは、魔術師が近接攻撃に弱いからである。

 本来、魔術を行使するには、詠唱する時間が必要となる。

 対して『 練功術 』は詠唱の必要としない特殊な魔術。近接戦闘において確実に先手を取れる。

 

 まさしく、魔術師の天敵。真っ向勝負の戦闘では、とても太刀打ちできない相手であった。


 イザベル は、その恐ろしさを、すぐ隣で見てきた。

 

 それは数多の戦場。

 無数に襲い来る魔術の砲撃。

 それに嬉々として立ち向かい、突撃する、銀色の枯木雲模様の魔法師団服――姿。

 幾重にも隊列を組む、敵兵をあっという間に蹂躙していく……桁違い破壊力の団子髪の少女。


 『 練功術 』の武人  李 蓮花(リー リェンファ)


 長年、その彼女と共に戦場、ダンジョンを駆け巡ってきた……。

 

 ( …… 蓮花 程、じゃないけど…… )

 

 イザベル は『 練功術 』を習得済み。


 両手の掌を蓮の形に前へと突き出し、構える。


 身体の内側で魔力を練り上げる『 内功 』。

 その魔力を身体の外へと放出する『 外功 』。

 

 その『 魔力の制御 』によって全身を『 魔力の鎧 』で武装する。

 

 これで……多少の被弾を軽減できる……。


 更に長年、積み上げた修練 『 推手 』。

 お互いの手のひらを合わせたまま魔力を通して『 内功 』、『 外功 』の打撃を繰り出しては、受け流す。攻防一体の練習法。

 その効果はこの乱戦化にこそ、真価を発揮する。


 続々と飛来する魔獣を捌き、避けると同時に正確無比、急所に反撃の掌底を与える。


 周囲を囲む――魔獣達。

 獰猛な息遣い……その魔力の揺れを感じる……『 魔力感知 』。


 その両手、五指先から垂らす『 魔力の糸 』。

 

 魔術回路(パス)は常に繋がっている……。

 

 

 そう、この『 練功術 』は、『 魔導 』と、相性の良い魔術であった。


 

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 




 怒り狂う咆哮。


 一撃必中の棍棒。その斬撃が突風を巻き起こす。


 揺れ動く、濡羽色の黒髪が躍動、少女は絶えず、跳躍を繰り返す。


 巨鬼(ベヒモス) が、執拗にその姿を追い……。

 

 身体を翻す 蓮花 は……。


 その猛攻を紙一重で躱し続ける。

 

( ……容赦がないネ…… )

 

 防戦一方を展開……。

 地面を抉り、足元、周辺の魔獣を構わず、蹴散らす 巨鬼(ベヒモス)


 ( ……敵味方に関係なし……アルか…… )

 

 蓮花 の眼は、常にその巨体を捉え続けていた。


 巨鬼(ベヒモス)の全身に浮かび上がる、無数の小傷。

 再三、反撃を試みた結果であるが……その『 魔力の爪 』の斬撃は全く、効いていなかった。


( ……外が駄目なら…… )


 地上には犇く、魔獣の群れ……。


 その攻撃の合間を縫い……稲妻のような速度で駆け抜ける。


  ( …… 内側からネ…… )

 

 眼前には巨鬼(ベヒモス)の脚。その前で静止……。

 瞬間、自分の掌を当て――息を吐く。


 「 ――――――っ――――!!!!! 」



 体内で高速に巡り回る、魔力の流れ。


 ――それが、……一気に掌から放出され……。


 ――打ち込む、静かな掌底。


 『 練功術 』 絶技 『 発勁 』


 それは練り上げた (魔力)――『 内功 』を波として伝え、その内部から破壊する。

 

 しかし……。


 「 ――――――――――――!!!? 」

 

 岩石すらも浸透させる 蓮花 の魔力の波は……。


 巨鬼(ベヒモス)の、その内部で雲散する。

 

 ( ……これも……駄目……アルか…… )

 

 それは、この巨大な肉体のその隅々まで、魔力の密度が満ちているということ。

 

 『 魔力の出力 』と、それを可能にする、総量……。

 これは……何か……『 練功術 』の魔力制御に通ずるものがある……。

 

 瞬間、彼女を襲う、巨大な斬撃。

 巨鬼(ベヒモス)の猛攻は一向におさまらない。


 咄嗟に回避する 蓮花 。

 その頬に伝う、雫が零れ落ちる。

 

 鋼鉄の巨体に規格外の破壊力、それらを可能とする、桁違いの魔力量……。

 

 それはおおよそ、人知を超えた、純粋で巨大な力。

 

( これは……非常に、不味いネ…… )

 

 決定打を欠く、 蓮花 は……。

 

 魔獣の群れに捕まらないよう、再度、動き回る。


 呼吸する度、襲う――腹部の激痛。


 巻かれた包帯が血で滲んでいく。


 一度は塞がったはずの傷口が――完全に開いていたのだ。


 ( ……本当に……情けないアルよ…… )

 

 口元が緩み――思わず、漏れる弱音。


 それは、……この特攻で、自分が出来ること……。


 この 巨鬼(ベヒモス) の攻撃が お嬢ー(アウレ) と イザベル へと向かないように……立ち回る……。


 それぐらいしかできない――という、無力感からくるものであった。


 



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 

 襲い来る――魑魅魍魎の群れ。

 

 常に全力疾走を強いる、そんな緊迫感が少女の体を襲っていた。

 無造作に揺れる、金色の髪。その激しさを増していく。

 

 重苦しい空気に呼吸が乱れる。


 ( ……留まるな。これは持久戦だ…… )

 

 アウレ は深い呼吸を繰り返す。

 身体の隅々まで酸素を送り、循環させる。


 山から流れる川のように……。


 絶えず、切っ先を常に揺らす構え――鶺鴒の尾。


 身をまかせろ……。

 

 握る柄の力み……その澱みを解く。


 小さな体重を低く沈ませ、慣性を生み出す――重心移動。

 滑る動きで犇く、魔獣達との間合いを強引につくる。


 ―― 北辰一刀流 口伝奥義 『 長短の矩 』 ――。


 金色の髪が残像となって消える。

 魔獣達の攻撃を捌き、圧力を逃がしつつ、斬り込む。

 一進一退の特攻を繰り返していた。

 

 揺れる視界。

 

 ( まだ、距離がある…… )


 碧い眼に映り込む、祭壇……。


 その壇上に佇む、人影。

 

 

 ―― 悪魔王(アザエル) ――。



 おおよそ、人ではない、人外の化物。その無数に蠢く、眼が――。


 突如、凝視……金髪の少女へと注がれる。


 

 「 「 མིག་ཟུང་དེ་བསད་ན་དཔའ་ངར་ཞུམ་མེད་ཀྱིས་གསོད་དགོས། 」 」



 その不気味な叫び声に同調して……。


 徐々に、激しさを増す―― 魔獣達の濁流 ――。


 「 ……くっ……これは……!!!? 」

 

 なんと、言ったのか、わからないが……。


 これは、明らかに――号令。


 その狙いは、   俺  (アウレ・マキシウス)か――。


 魔獣達の濁流が少女の小さな身体を完全飲み込み――浚う。


 「 ――な……糞っ……が…… 」


 溺れるよう、必死に剣を振るう、が……。

 押し戻され、二転三転する。

 

 「 ――痛っ――!!!? 」

 

 鋭利な凶器が少女を巻き込み、その肉を削る。

 生身の肉体に無数の百足が纏わりつくような、拷問に晒されていた――。


 その瞬間――。


 ――我、問う魔導の理を万象にて現し 障壁なり我を護れ 疑似防御壁(オボローナ)―― 四重(シュトリミス)復唱(ホウフトーレデ)――。

 

 再び、木霊する詠唱。


 再び、展開される、透明な防壁 『 疑似防御壁(オボローナ) 』が――。


 魔獣達の濁流を断ち切り……。


 瞬間、 アウレ が息を吹き返す。

 

( ……そうか…… )

 

 即――態勢を整え……臆することなく……。


 再び、魔獣達の群れへと立ち向う。


( ……これが―― )

 

 

 絶えず、剣を振り、祭壇への道を切り開く。

 安堵につく、暇もない……。

 

 仕切り直しの前進。


 「 ぁぁぁあ”ああああ”ああぁぁぁぁぁぁあ”あああ――!!! 」

 

 その攻勢へと転じる、金髪の少女を……壇上から見下ろす……悪魔王(アザエル)


 

 「 ―― བདག་གིས་བྱ་དངོས་ཡོད་ཚད་ལ་དོགས་པ་ཟ་བའི་རྫུ་འཕྲུལ་གྱི་གཡང་གཟར་གསལ་སྟོན་བྱས་ནས་དེ་མེ་ཡི་སྤོ་ལོ་ཞིག་ཏུ་འགྱུར་བར་བྱ་དགོས། མེ་སྒྱོགས་ཀྱི་སྤོ་ལོ། ―― 」


 

 倨傲の詠唱。その宝杖を振り回す。


 ( ……これ、こそが…… )


 祭壇の上空に展開する、三つの灼熱の炎弾をすぐさま、解き放つ。


 しかし……。


( ……魔術同士の……合戦か…… )


 再度、 イザベル の防壁魔術。その透明な防壁が アウレ を守護していた。


 その様子に アウレ は、その碧い眼を見開いた。


 ( ……すげえ…… )


 後方より支援を続ける 彼女(イザベル) は……。


 周囲の魔獣を素手で去なし、近接の戦闘を繰り返している。


( ……そんな、状態で……魔術を…… )


 それは自分自身の護身と、こちらへの支援魔術。

 その二つを同時並行で行っていた……。


 熱風が吹き荒れる場内。


 「 「 མྱུར་དུ་ཁོ་ཚོ་གསོད་དགོས། 」 」


 壇上から響き渡る怒号。


 邪知暴虐の王がその醜悪を晒す。


 その様子を イザベル は眼鏡越し、冷静に観察していた。

 

 この戦場、魔獣達の大群の合間を交差し――ぶつかる視線……殺気。


 遠い距離から対峙する 魔術師 と 魔術師 。

 

 俯瞰するように全体の戦況を見極め、操る――両者。


 それは、この戦況をも左右する……。


 魔術戦闘の駆け引きであった。

 


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ご愛読頂き誠にありがとうございます


この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。


作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。


最終章 クルードセツア迷宮攻略編


後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。


ここから急転直下の激闘の戦闘が始まります。


次回をお楽しみいただければ、幸いです。


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