奈落の死闘 ~背水の陣~
巨鬼が巨大な棍棒を振り下ろす度、突風を巻き起こる。
アウレ達 を囲う、高く聳える八角形の籠城。
その土壁が決壊し……。
その隙間から……洪水のように押し寄せる……。
―― 魔獣の大群 ――。
その光景に、三人は思わず、息を呑む。
もはや、この広い洞窟内に逃げ場など……ない。
緊迫し、危急の状況……。
その狭間で……。
「 ―― 強行突破です! ―― 」
――意を決した表情の イザベル が叫ぶ。
( ……一体、どこに…… )
泳ぐ、 アウレ の碧い瞳に、映り込む……。
彼女の指先――。
それは……。
大型の魔獣 巨鬼の方向……。
……その奥に視える……。
紅光を放つ巨大な魔石――祭壇。
そう、脱出経路は……。
―― その横の大扉であった ――。
アウレ はその祭壇を見据え、眉を顰める。
――紅い閃光に浮かび上がる――危機感。
全身が粟立つ……。
その元凶は……壇上……。
佇む――不気味な人影。
紅い逆光の中、徐々にその姿が鮮明になっていく……。
遠目からは痩せこけた老人のような姿、形。
しかし、幾つもの目が蠢く――異形の顔。
頭には王冠のような錆びついた装飾を被り。
漆黒のローブ服を纏い、髑髏の杖を持つ――魔獣。
―― 悪魔王 ――。
その得体の知れない風体、底知れない魔力に アウレ は警戒心を表す。
……しかし、今は……。
その正体が何かを、考える猶予はない。
( ……止まるな…… )
激しさを増す――魔獣の足音……。
( ……止まれば……その時点で終わる…… )
全ての不安を振り切るように……。
三人は同時に動き出すのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
迫り狂う ―― 魔獣達の濁流 ――。
三人は一瞬で飲み込まれ、四方八方から襲われていた。
犇く、魔獣の渦。その中を搔き分け、泳ぐように剣を振るい、突き進む アウレ 。
言葉にせずともわかる、いつもの連携。
自分 と 蓮花 で、突破口を切り開き、後衛の イザベル がその援護、支援する形である。
だが……。
( ……くっ……この数は流石に多すぎる…… )
一瞬で周囲を埋め尽くし、奪われる視界……。
絶えず動き、その隙間を探る。
( ……早く、この包囲網を突破しないと…… )
瞬間、碧い眼に映り込む……。
「 ――な――――――!!!? 」
―― 上空を覆い隠す、巨大な影 ――。
その規格外のデカさ、迫力は、まさしく……。
―― 巨神の鉄槌 ――。
それは周辺の小型の魔獣もろとも押し潰そうとする無差別の暴力。
巨鬼が振り上げる、巨大な棍棒だった。
―― 瞬間 ――。
放たれた一矢のような白雷。
蓮花 の一撃が、巨鬼の頬に直撃する。
蓮花 の 固有魔術 < 白雷迅雷 >。
その魔力の爪の雷撃に……。
振り下ろされた巨鬼の打撃、その照準が逸れ……。
有象無象の魔獣達を吹き飛ばす、衝撃波。
……よろめく、巨鬼。
着地し、すぐに踵すを返した 蓮花 は……。
「 ―― こいつは私がやるネ! お嬢ー と イザベル は先に行くアルよ!―― 」
そう、叫び―― アウレ達 から距離を取る。
――怒り狂う咆哮。
その黒髪の少女へと狙い定め、巨鬼が執拗にその姿を追う。
逃げ回る 蓮花 の口元から――ふいに漏れる……失笑……。
( 上手く……ひきつけられた……ネ……だけど…… )
先程の攻撃は死角からの不意打ち……しかも、渾身の魔力を込めたもの……であったが……。
―― 皮一枚程度の傷しかついていない ――。
( ……どんな身体しているアルよ…… )
解けた黒髪の下、その背筋を震わせる。
熟練の冒険者 李 蓮花 にとって……。
ここまでの強度を持つ魔獣は、初めての相手であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
( ――――!?血糊を落とす……余裕もない…… )
犇き、雪崩の如く、迫る――魔獣の大群。
その中を掻き分けながら突撃する アウレ は夢中でその剣を振る。
次第に斬り続ける、その剣は魔獣の血糊が大量に付着。斬れない、なまくらとなっていた。
追いつかない手数……その合間を縫って……。
その爪が――。
牙が――。
――小さな少女に襲いかかる。
アウレ は身体を捻り、力の方向を逸らす動き――被弾を減らすように体捌きを繰り返していた。
―― この魔力の鎧は甲冑 ――。
合戦には本来、刀は不向きである。
すぐ、血糊の油で斬れなくなるし、刃こぼれもしやすい。
横からの衝撃が加われば最悪、折れる。
故に合戦は槍や弓矢が主体となる。剣、一本予備なしで戦うなど愚行もいいところである……。
しかし、この世界では……。
魔力を纏わせる刀身、その斬撃が 毒蛇 の長い胴体を切り裂く。
魔力を通し、纏わせることで剣の強度と斬れ味を保てる。
次々と素早い動きで飛雷する、狂狼の牙を紙一重で捌く。
『 魔力制御 』を行うことで身体の向上、人の域を超えた動きを可能とする。
( 出来るかもしれない…… )
剣術とは一対一の闘いを想定するものではなく、一対複数、合戦でこそ真価を発揮する……。
( これは、単なる理想だが…… )
繋がる確信……。
それはこの世界の力によって……。
剣の術理は更なる、高みへと昇華するということ。
……そのためには、体を一つの刀へと変えろ……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
北辰一刀流。一刀流の流れを組む、流派には共通の奥義が存在する。
『 切落 』
それは、奥義と云う名の……ただの打ち下ろす太刀筋の事である。
しかし、刀を振り下ろすだけの単純な動作にこそ、剣の術理がある。
剣の上身、その根元に魔獣の柔らかな肉を当て、余すところなく滑らせ……摩擦で斬る。
それは、刃物は垂直に当ても斬れない……引くことで、斬ることが出来るということである。
必要なのは……弧を描く、円運動の太刀筋。それを生み出すための動力、身体の重心移動。
その力が澱みなく、切っ先まで伝わるからこそ、刀が、そのように動くのである。
それ故、刀は体で振るうものと云う。
原理は簡単だが、文字通り体で表すには永い年月を要する。
それこそ、何千何万と繰り返す、素振り。
その一本、一本に意識を向け、解き明かし、磨き上げる。
ただの一振り。
また、振り抜く、一振り。
その全てが、全身全霊の一閃。
―― 北辰一刀流 口伝奥義 『 星王剣 』 ――。
その奇跡のような御業は、やがて……至極当然のように自然の一撃となる。
親指を中心に弧を描くように回し、膝を自在にせり出す、足捌き――身体の重心移動。遠心力を最大に利用し……。
切先の先の先…… 地の果てまで飛ばす、想像……。
( ……全部だ…… )
魔力を余すことなく、伝えていく……瞬間、その残光は黒く変色する。
( ……今までの全部…… )
宙に舞う――血飛沫が徐々に激しくなる。
( その全てを今、ここで、出し切る…… )
伸びた刀身、その黒い斬撃が、魔獣達を斬りつけ……進軍する……特攻。
「 ぁぁぁあ”ああああ”ああぁぁぁぁぁぁあ”あああ――!!! 」
腹の底から振り絞るような叫び。
自分を奮い立たせ……鼓舞する雄叫びは……。
最終目的地……祭壇へと……響き渡る。
――その刹那。
「 ―― བདག་གིས་བྱ་དངོས་ཡོད་ཚད་ལ་དོགས་པ་ཟ་བའི་རྫུ་འཕྲུལ་གྱི་གཡང་གཟར་གསལ་སྟོན་བྱས་ནས་དེ་མེ་ཡི་སྤོ་ལོ་ཞིག་ཏུ་འགྱུར་བར་བྱ་དགོས། མེ་སྒྱོགས་ཀྱི་སྤོ་ལོ། ―― 」
壇上から響く、不気味な声。
それは下界で暴れ回る下賤な少女に……。
傲慢な裁きを下すように告げられた。
―― 邪知暴虐 悪魔王 ――。
萎れた、その手に持つ宝杖。
それを見せつけるように大きく掲げ……ぐるりと回す。
……すると、その上部の装飾、髑髏の三つの空洞……眼と口に、はめられた魔石が輝き出す。
「 ――――――――――!? 」
その姿に イザベル は、大きく目を見開く。
( まさか……!? )
悪魔王の頭上に展開される―― 三つの灼熱の炎弾 ――。
( ……魔獣が…… )
その狙いは……魔獣の群れと応戦し、身動きのとれない……。
( ……魔術を…………!? )
金髪の少女へと、無慈悲に放たれる。
アウレ の頭上、降り注ぐ高火力の三つの炎弾。
これを防ぐ手立てはない――。
( ――臆すな!飛び込め! )
限られた空間の中、魔獣の波へと入っていく アウレ 。
その姿を灼熱の炎弾が正確無比に狙っていた。
この特攻に後退はない……。
動きを止めれば、即――詰む。
――そう、この危機的状況化で…… アウレ には唯一、絶対の信頼を寄せられるものがあった。
イザベル が用意してくれた冒険者服……。
そこへと繋がる『 魔力の糸 』が視える。
「――我、問う魔導の理を万象にて現し 障壁なり我を護れ 疑似防御壁 ――」
後方から聞こえてくる……聞き馴染みのある、詠唱……。
瞬間、その服の装飾、魔石が光り出していた。
その直後、三つの灼熱の炎弾が アウレ の頭上に着弾。
爆風をまき散らし、周囲に硝煙が立ち込める。
その様子を満足そうに、眺める、壇上の 悪魔王。
しかし、次の瞬間――。
その下卑た笑みが、止まる……。
……煙の向こう……姿を現す、小さな人影……。
無傷の金髪の少女。
彼女の目の前に展開された透明な防壁 『 疑似防御壁 』。
その防壁は……。
悪魔王の会心の砲撃魔術、その衝撃を阻み、完全に相殺する。
それこそが……。
『 魔導師 』 イザベル・フィッツロイ の魔術であった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。
ここから急転直下の激闘の戦闘が始まります。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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