奈落の死闘 ~驚天動地~
「 ……くそ……どうなってやがる……数が多いぞ…… 」
仄暗い巣穴に犇く、魔獣の群れ……。それが三人に向かって、押し寄せる。
―― それは、7日目の朝に、突如として始まった ――。
( ……おかしい! 急に、こんな大群で…… )
イザベル はその支援に追われ、詠唱を繰り返す。
ばら撒かれた魔石が連鎖するように光り出し、透明な『 魔力の糸 』を射出、その進撃を阻み、その隙に アウレ と 蓮花 が殲滅する。
しかし、……。
―― 止まらない魔獣の進攻 ――。
魔獣達は狭い洞窟の暗闇から湧き出る様に際限なく襲いかかる……。
「 くっ…… 」
応戦する 蓮花 の動きに、いつものキレがない……。
「 蓮花!……無理しないで…… 」
瘦せ我慢の表情を返す 蓮花 。
なんとか戦闘出来るまでには回復したが、……まだ本調子ではない、そんな様子であった。
この形は分が悪い。
二人の支援する イザベル は、眉を顰める。
( ……これは、……今までとは様子が違う……明らかに意図を持った、急襲…… )
その違和感に……現状の打開を模索していた。
狭い洞窟の通路、三人がいる後方は、行き止まりの袋小路……つまり、退路はないということ。
そうなると、この雪崩のように襲い来る魔獣の群れを掻き分け、別の巣穴へと脱出するしかない。
幸い、ここ、7日間の探索で、この階層の全容が視えてきた。
入り組む、洞窟内の通路を利用すれば、この危機からひとまずは……脱することが出来る……。
そう、決意をし……。
「 ――お嬢様! 蓮花! ここを切り抜けて、脱出します!!! 」
実行しようとした。
その時だった――。
「 ――――――――――――――!!!!!!? 」
それは、三人の背後……。
『 魔力感知 』の網にもかからずに……。
―― 突如、現れる ――。
( ……この感じ……まさか…… )
振り返る、その刹那で――。
浮かび上がる――既視感。
( ――――!?……これは、あの 仮面の男 と同じ…… )
イザベル の眼に映り込む――。
上半身は屈強な人のような肉体。
浮き立つ青灰色の血管が蠢く。
その姿……。
その腰に差す剣。
散りばめられた『 魔石 』の装飾にリセポーセ冒険ギルドの刻印。
( ……これは…… )
ヤギのように湾曲した角を二本生やす――魔獣。
( ……祭壇に……いた、…… )
―― 狂騎士 ――。
その生皮を剥がした馬の顔。その剝き出しの歯茎が動く。
「 ―― འཇིག་རྟེན་མི་འདྲ་བ་དང་འབྲེལ་བ་ཡོད་པའི་གཡང་གཟར་དང་། གྲོགས་མེད་ཁེར་རྐྱང་དུ་ལུས་པ། འབྲེལ་ སྒོ་འབྱེད་པ། ―― 」
その瞬間、三人の足元に展開する――幾何学模様。
―― 大きな『 方陣円 』 ――。
その存在に気付いた、瞬間。
三人を照らすよう――光り出す。
( ――しまっ――――!!!? 早く、この『 術式 』から……出ないと ―― )
そう、思った……。
次の瞬間――。
突如、視界が歪み……。
―― 消失する地面 ――。
まるで切り替わるように……反転。
―― 三人は空中に放り出されていた ――。
「 ――――――――――――――――――!!!!!? 」
急降下する――上昇気流が三人を襲う。
瞬間、紅く煌めく光が暗転。
その瞬間……眼下に広がる光景……。
……それに……見覚えがある。
黒く、蠢く――魔獣の大群。
( ―― この場所は……!!!? ―― )
上手く身動きのとれない、空中――。
その狭間で イザベル は、咄嗟に魔石を下へとばら撒き、その一部が光り出す。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、障壁なり我を護れ 疑似防御壁―― 四重復唱――。
三人は咄嗟に身体を翻す。幾重にも体にぶつかる衝撃。
透明な壁が硝子細工のように割れる音。何度も背や腰に痛みが奔る。
そして、地面へと叩きつけられる。
「 ……痛っ……!!! 」
アウレ は、その小さな身体をすぐに起こした。
全身に痛みがあるが……軽傷。
それは、地面へと叩きつけられた瞬間、イザベル の魔術が緩衝となり、何とか無事に着地することができたのだった。
アウレ 達が降り立つ地点……。
そこには……。
暗い視界に浮かび上がる、祭壇……巨大な魔石。
こちらへと向けられる……、千以上の魔獣の目。
断続的に繰り返す――紅光。
その光景に、三人は全身で総毛立つ。
脳裏に浮かび上がる……四肢をもがれ、生きたまま焼かれる――断末魔。
胸を締め付け、心臓を掴まれるような戦慄。
それは、あの日視た、地獄絵図が……。
今まさに我が身に降りかかる、――死の感覚だった。
「 ……これは…… 」
周囲を埋め尽くす……。
小鬼が――。毒蛇が――。狂狼が――。毒蜥蜴が――。大鬼が――。
洞窟内に反響する、怒涛の足音……。
我先に、と――。
―― 大洞窟の真ん中、アウレ 達へと一斉に襲いかかってきたのだった ――。
その刹那、三人は本能で動きだす……。
イザベル は、手持ちの魔石をばら撒くように、高く放り投げる。
放射状に広がる放物線、一つ一つの魔石に『 魔力の糸 』を繋げ、詠唱……。
地面へと落ちた瞬間、輝きだす。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、大地の障壁となれ 土壁八陣―― 八重復唱――。
迫りくる――怒涛の足音。
その音に紛れ、地面を震わす余波が、各処に反響する。
ひび割れ、分解される地面。
次の瞬間――立方体の分厚い、土の壁が連なるように次々と現れる。
三人を周囲を八角形に覆う――土の陣。
それが高き防壁となり……。
魔獣の進攻、波を断ち切り、後続を阻んでいた。
なお、迫る――前方の魔獣。
その迎撃へと動く金髪の少女 アウレ・マキシウス は、姿勢を沈みこませて、息を吐く。
高速の滑るような移動『 瞬歩 』から放たれる、横一文字の一閃。
その斬撃は黒く変色し、……伸びる刀身、その間合い……。
―― 北辰一刀流 口伝奥義 『 星王剣 』 ――。
時を同じくして……。
―― 李 蓮花 の黒い髪が靡く。
青白い魔力は、視認できる程に練り上げられ……やがて、完全な白へと変質していく。
全身から溢れ出し、巻き付くように纏う――『 魔力の鎧 』、『 魔力の爪 』。
固有魔術 < 白虎纏鎧 > 。
更に、高出力で一時的に濃縮、解放する――瞬間、『 白い魔力の鎧 』は雷の属性へと性質変化する。
稲妻の軌道を描く、高速移動で、周囲を獰猛に蹂躙していく。
固有魔術 < 白雷迅雷 >。
それは……。
イザベル が作った、周囲の簡易的な防壁。その内側で……。
アウレ の剣、その黒き斬撃が――。
蓮花の『 魔力の爪 』、その雷撃が――。
場内に残る魔獣達を瞬く間に一掃するのだった。
( ……ひとまずは……安全圏を確保できた…… )
その好機に イザベル は 小さな鞄 < 異空間収納鞄 > へと手を伸ばす。
「 ――お嬢様! 蓮花!これを…… 」
そして……二人に渡す、小瓶 < 魔力水 > 。
イザベルが作った防壁 土壁八陣 は、土属性の魔術。
地形を操作を行える分……その魔力消費もかなり大きい。
三人はすぐに飲み干し、魔力の補充をする。
それは……初手の大技、その回復と――。
これから、始まる死闘への準備であった。
外側で鳴り響く――轟音。
イザベル の頬に一滴の汗が伝う。
―― ひとときの籠城 ――。
……しかし、イザベル は知っている……。
それが――永くは、もたないことを――。
徐々に激しさを増す――轟音。
( ……既に、この防壁の外側は……魔獣の大群で囲まれている…… )
最早、退路はない。強行突破の一択である。
「 ――お嬢様! 蓮花! この階層から脱出します!―― 」
「 ――わかったアルよ……でも……これは…… 」
途切れることなく――響き渡り、迫る。その緊迫感に……。
額から滝のように汗を流す 蓮花 。その口元は既に壊れていた。
「 ―― わかっているわよ!でも、考えている暇はないわ ―― 」
そして……。
分厚い土壁から砂が零れ……。
打ち砕く――衝撃音。
「 ――――――――――!!!!!? 」
突如、その土壁から――巨大な骨が飛び出る。
「 ――――な――――――!!!!!? 」
破壊された隙間から覗く、巨大な顔。
牛角の頭部に鬼の形相……。
人の五倍はあろうか、というほどの巨体に、奇怪な紫の毛皮……。
その異形の姿はまさしく……。
―― 破壊の巨人 巨鬼 ――。
その巨大な骨を容易に振り回し……。
繰り出す――破城槌の攻撃。
衝撃に大地は揺れ……。
そして……。
巨鬼は……。
その防壁をいとも簡単に決壊させるのであった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編
後半戦 『 奈落の死闘 』 開幕 でございます。
ここから急転直下の激闘の戦闘が始まります。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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