火源魔法師団の魔法
ダンジョンの38階層、広い洞窟内に木霊する……。
―― 大型の魔獣の咆哮 ――。
「 来るぞぉぉおおおお!!気張れぇぇえええ!! 」
全隊を指揮する老魔法師 ゴルドエ が、声を荒げる。その激に、前線の『 魔法士 』達が一様に大盾を構え、防御姿勢をとっていた。
「 ……何じゃあ、こいつは…… 」
後方に控える ゴルドエ は驚愕した。
ダンジョンの先へと進む、攻略隊の目の前に――四足歩行の魔獣、その巨体が迫る。
大きさは人の数十倍。全身は藍色の鱗に覆われ、うねるように這いつくばって動く。
その姿はまさしく、双頭竜である。
鋭い爪を持つ、手が、足が土煙をあげ、洞窟中を揺らす。
―― 地竜 ――。
魔獣の中でも大物の魔獣。本来は A級 冒険者の複数人で討伐に挑む魔獣である。ダンジョンで遭遇することは、滅多にない……が、その姿、形は多くの文献に絵描かれ、冒険者の間で危険な存在として広く周知されていた。
ダンジョンの最下層を目指す以上、当然、 ゴルドエ も遭遇する可能性を想定していた……だが……。
( ……何か、がおかしい……なんだ、この魔獣は…… )
―― そう、この双頭の 地竜 は、聞いたことがない ――。
その違和感は隣に佇む ゲイリー も同様の見解であった。
ダンジョンには時折、亜種のような魔獣に出くわすことがある。
正体不明の魔獣 < ノーネーム > 。
それも、その一つである。
ゲイリー の片眼鏡< モノクル >に映りこむ大型魔獣。その背には、白く発光する人の形をした腫瘤。
その姿は、大きな白い翼を持つ、少年のようにも見える……。
―― 双頭竜使い ――。
( かなり……悪趣味ですね…… )
向かい討つ攻略隊は幾重もの横隊の陣を敷き、衝撃に備える。
―― それは、まるで……造られた魔獣のようであった ――。
――瞬間、巨体が激突する。
衝撃に宙を舞う、『 魔法士 』。
……しかし、残る兵達の大盾がその猛攻、勢いを殺すことに成功していた……。
刹那――『 魔法士 』達の集団詠唱が木霊する。
大盾に埋め込まれた魔石が光り、燃え盛る。
更に前衛の陣が自在に変化させ……。
その熱が大型魔獣を四方八方に包囲し、延焼させる。
分厚い藍色の鱗が赤く、熱され……。
抵抗する 双頭竜使い は、上空から、その『 魔法士 』達を喰らいつくそうと、その獰猛な口を開く――瞬間、後衛の兵達が詠唱。高火力の砲撃、火魔法を集中砲火を浴びせていた。
被弾し、悲鳴のような咆哮を上げる ――双頭竜使い――。
戦況は確実に魔獣の攻勢を削ぎ、押し戻している……。
「 ほう、これはなかなか…… 」
その様子を見て ゲイリー は感嘆の声をあげた。
火炎防御陣形。
兵士達が幾重もの横隊の陣を敷く。前衛には大きな盾を持った魔法士達が 敵の前進を阻み、中衛がその補填、魔法防御壁や砲撃魔法で、支援する。その間に後衛が最大火力の魔法で致命傷の砲撃を与え出血を負わせる、縦深、遅滞防御の戦術であった。
一見すると至極、単純な戦術だが、……各指揮官の『 魔術師 』の的確な指示の元、高度で効果的な戦術へと昇華する。
特に前衛……その最前線で大盾を構える熟練の老兵士達。……その活躍が際立つ。
「 どうじゃ、わしらの兵は!ここにいる大半の『 魔法士 』が 長年、『 |火源≪サラマンダー≫魔法師団 』で共に戦場を駆け抜けてきた戦友じゃ。それは第一戦を退いた。今なお、 アルトバラン 様の元で練兵を重ね、練度を磨き上げておる……。はっきり言って、集団戦闘なら『 現 |火源≪サラマンダー≫魔法師団 』にも引けを取らないじゃろう…… 」
「 なるほど……この戦術の強さは……練度もそうですが、兵の一人一人の特性を、適材適所に運用している点でしょうか? 」
「 ――ほう、そこに気づかれるか……。そうじゃ!我が兵は、体力に自信がある者、状況把握に秀でている者、強い魔法砲撃がおこなえる者とそれぞれの特性をあった配置をおこなっている。だから、強大な魔獣相手でもそう簡単には崩れないのだ! 」
本来、魔法を扱える者は、防具や武器、 < 絶対性魔石 > の行使までもを忌み嫌う傾向がある。
それは、魔法を行使するならば、己の力のみで敵を倒すものという美徳。魔法こそが唯一、絶対のものであり、純粋な魔法の才能が人の優劣を決めるのだ、という凝り固まった誇示からきていた。
その考えは< セルタニア魔法国 >全体の社会的体系においても深く思想・教育として根づいている。
いわゆる、イデオロギー……だが、この 火炎防御陣形はそれとは異なる観念をもっていた。
―― 使えるものは何でも使い、全員で勝利する ――。
アルトバラン の私兵団には幅広い世代の『 魔法士 』がいる。その中の古参兵……その多くは、比較的、魔法の砲撃に秀でいない者ばかりであった。
それは魔法師団が代替わりした時、お払い箱にされた者……退役兵。
そんな魔法の才が無い者でも戦える戦術を考案し、運用する……この戦術はまさに。
―― アルトバラン・メルカッツ の人物を表すかのようであった ――。
燃え盛る大盾と、後衛の高火力の火魔法が、確実に双頭竜使いを追い詰めていく。
今までは狭い洞窟内の戦いで、発揮できなかった戦術……しかし、今は……この広い空間でこの隊の強みを存分に奮っていた。
そして、……高火力の火魔法の砲撃が飛び交い、暗転する洞窟内……。
その狭間で……。
「 ゴルドエ 様、お願いします!!! 」
『 魔術師 』の一人、 ルーカス が合図をする。
呼応するように翻す――漆黒のローブ。その背中を燃えるような金色の大炎の刺繡が靡く。
その重厚な装備の下、筋骨隆々の全身から溢れる――『魔力』が空間を支配する。
それは目に視えないはずの『 魔力 』。それが高密度に練り上げられているのが分かる……。
―― 汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 蒼炎の槍なりて敵を穿て |蒼炎槍≪ブレイルーン≫ ――。
重く響く――低音。
老魔法師の握り込んだ拳を開くと掌から火柱が上がった。
激しく燃え盛る――炎。
細く、長く圧縮していく――。
そして、……紅の色が蒼く、変色。
( これが……。 )
隣に佇む、老紳士の肌を焼くような、熱。
( ……元 |火源≪サラマンダー≫ 魔法師団 副団長…… )
その蒼炎は変形し、ゴルドエの掌で一矢の槍の形となる。
( ゴルドエ・ベルトライン 様の『 魔法 』ですか…… )
大型魔獣へ向け、振りかぶり……放つ。
轟音を立て、燃え盛り加速する――その|蒼炎槍≪ブレイルーン≫は……。
――双頭竜使いの頭部を撃ち抜き、吹き飛ばしたのだった。
―― 瞬間、響く断末魔の咆哮 ――。
首だけになった双頭竜使いは、もがき苦しむようにうねり暴れる。
―― 慈悲なき追撃 ――。
――立て続けに ゴルドエ は、再び、詠唱する。
それは、もう片方の頭に……。
更なる一撃を加える、追撃の魔法だった。
頭を吹き飛ばされ……。
―― 沈黙する 双頭竜使い ――。
巨体が地響きを立て――崩れる落ちる、倒れこむ。
辺りには焼き焦げた匂いが充満していた。
「 ……?……やったのか…… 」
瞬間、兵達が一斉に……。
―― 歓喜の声をあげる ――。
その冷めやらぬ熱気の中……。
魔法の砲撃を終えた ゴルドエ。その言葉通りの威光を見せつけた老魔法師が高らかに告げる。
「 安心されよ、ゲイリー殿!貴殿には この アルトバラン 様の英傑と、その助力がついとる!ここから先はワシらが切り開く……ゆえ、ゲイリー 殿は最深部までその力を温存されよ…… 」
その重厚な装備の下、筋骨隆々の胸を張り示す。
その自負に――。
「 ありがとうございます…………ですが、……」
老紳士は……。
「 ……そうもいかないみたいです…… 」
まだ、早いと言い切る。
「 ――――――――――!!!? 」
―― 天使の笛が鳴り響く ――。
音の発生源――それは人の形をした腫瘤からであった……。
大きな白い翼を持つ、少年が……突如、歌い出したのだ。
―― 黙示録の喇叭 ――。
その耳を引き裂くような不快音に、一同は耳を塞ぐ。
その瞬間に……。
吹き飛ばされた双頭竜の頭部、その傷口が泡のように、膨れ上がり……。
巨大な身体がゆっくりと立ち上がった。
「 ――な、――――馬鹿な――!!!? 」
再び、洞窟内に響き渡る――魔獣の咆哮。
その光景に一同は慄く。
なぜなら……。
ゴルドエ が吹き飛ばされたはずの……。
双頭竜使いの……二つの頭部。
それが、再生……復活していたのであった。
「 ――いかん!前線の隊列が乱れたままじゃ……退避じゃぁぁぁあああ――!!!!!! 」
困惑し、乱れる隊列。その号令に兵達は脱兎のごとく、後退する。
その刹那――。
すぐ後ろから、双頭竜使いの突進が――襲い掛かる。
「 蹂躙される‼ 」―― そう、思われた……その狭間に ――。
―― 宙を舞い、放物線を描く…………眩い、閃光。
投げ込まれた薄紫色の魔石に繋げる一糸。
―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封――。
その詠唱は、艶やかな擦れ声であった。
脱兎のごとく逃げ惑う――兵士達。
その狭間で ゴルドエ は、目撃していた。
双頭竜使いの頭上に赤く燃える――小さな疑似太陽。
「 ――な――これは……!!!? 」
ゆっくりと回転する、紅き球体。その灼熱が膨張……。
( そんな……馬鹿な…… )
その表面が湧き立つ度に熱波が発していた。
( ……あり得える、のか…… )
唸るような轟音が増大し……。
( ……『 魔術師 』が…… )
その魔法は魔獣の巨大な身体を包み込み……。
―― 一煮え滾る、紅炎が臨界点を超える。 ――。
「 ―― な――! お前達、すぐに息を止めろ!! その『 魔法 』から離れるんじゃぁあああああ!!!! ―― 」
凄まじき……光、音、熱、爆風の放出……。
―― 天上の業火 ――。
巻き込まれないよう、全速力で逃げ惑う――兵士達……。
――その前で ―― 静止 ―― 圧縮 ――。
そして、この世に顕現する――黒き珠。
その余波が全ての感覚を奪い、……無へと還す。
―― 黒陽臨界 ――。
―― 辺りは一瞬で暗黒の世界となる ――。
…………。
沈黙する場内……。
目の前にいた巨大な魔獣 双頭竜使い は消失……。
降り積る――灰の雪……。
その中を呆然と立ち尽くす……兵達。
その一部始終を視た、老魔法師は……。
身体を大きく震わせ ―― 激昂 ――。
「 ……なぜ……じゃあぁぁああああ!!!? 」
たまらず、隣の佇む老紳士の胸ぐらを掴んでいた。
「 ……失礼!急すぎましたかな…… 」
ぶつかる双方の視線は密かに殺気を帯びる。
額に汗を滲ませる ゴルドエ 。
「 そうではない!!!!…… 」
その様子を ゲイリー は、ただ静かに見守っていた……。
「 なぜ……貴殿が…… 」
掴んだ手に力が入り、震え出す……。
「 アルトバラン 様の固有魔法を使えるんじゃぁぁぁああああ!!!? 」
そう、息を荒げ叫ぶ、彼に……。
「 あなたの言葉通りですよ、ゴルドエ 様…… 」
ゲイリー は不敵に口角を吊り上げ……。
「 ――――――――――!!!? 」
静かに告げる。
「 私は、既に…… アルトバラン 様に、ご助力を頂いております 」と――。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
この話で最終章の前半戦 終了となります。
作中のゲイリー・バトラーのスペック。そのおさらいです。
魔獣を一瞬で、細切れにする 謎の魔術。
各国の魔術を習得している?
なぜか、アルトバランの固有魔法が使える。
更に……。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思われた方
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