繋がる点と点、その狭間で揺れる苦悩
どこまでも入り組む、仄暗い洞穴。
<小鬼> の呻き声が反響する。
それは……魔獣の巣穴から微かに聞こえていた。
ばら撒かれた魔石が連鎖するように光り出し、透明な『 魔力の糸 』を射出。入り乱れる魔獣を次々と拘束していく。
……その合間を颯爽と駆け抜ける、二人の影。
瞬間、斬撃の残像が怪しく反射する。身動き取れなくなった魔獣達を次々と切り裂き……。
そして……最後に残る <小鬼>を――。
――李 蓮花 の鋭い『魔力の爪』が、冷酷無慈悲に押し潰したのだった。
「 ふぅーーー、これで……何体目だ?……イザベル…… 」
それを確認した アウレ・マキシウス は剣を鞘に納め、汚れた冒険者服の袖で額の汗を拭う。
「 そうですね……ざっと、二百くらいは減らせたでしょうか……… 」
そう、答える イザベル の表情は……明らかに疲労の色が浮かんでいた。
三人はこの階層へと行き着いてから、ここ……5日間。
魔獣の巣穴を一つずつ制圧、拠点に利用しながら、探索を進めていた。
わかったことは3つ……。
一つは……。
この階層に巣穴が多数存在している、ということ。
魔獣達の行動を観察していると、大半は祭壇のある大洞窟におり、ある一定の時間になると、この巣穴へと帰ってくるということがわかった。
それは、最初に行きついた大洞窟。そこに集結していた、千を超える魔獣。その大群は数十ずつ割り振られ、各巣穴を寝座として利用していたということである。
そこで、 イザベル 達は各巣穴を拠点として利用しつつ、魔獣達の数を減らす――作戦へと出たのだった。
もう一つは……。
この階層に出口はない、ということ。
本来、ダンジョンの階層には 入り口 と 出口 が存在する。しかし、三人は先に進めど、行き止まりばかりで……脱出路が見つかるの気配がない。
それは、 イザベル の懸念点。それが色濃くなっていくものであった。
つまり、脱出経路は……入口のみ。
この階層が最下層であるかもしれないという、最悪の状況――。
イザベル の脳裏に浮かび上がる……。
地獄絵図の光景が繰り広げられていた、あの空間。
その祭壇の横に、ひっそりと佇む――大扉。
それが、入り口ではないかと――。
瞬間―― イザベル は眉を顰める……。
それは、もう一つの理由。
祭壇にいた、他の魔獣達とは一線を画す、異様な三体の魔獣。
ヤギのように湾曲した角を二本生やし、生皮を剥がした馬のような頭部。上半身は屈強な人のような肉体を持ち、その筋肉に浮き立つ青灰色の血管が蠢く。腰に差す、剣は戦士のようだが、臀部に大蛇の尾が生えており、人外の生き物だということが見てとれる。
―― 狂騎士 ――。
遠目からは痩せこけた老人のような姿、形。頭に王冠を被り、幾つもの目で覆う異形の顔。漆黒のローブ服を纏い、左手に髑髏の杖を持つ姿は、まるで魔術師の王。
―― 悪魔王 ――。
牛角を生やし、小鬼のような形相を覗かせる魔獣。しかし、その体は人の五倍はあろうか、というほどの巨体を持ち、全身、紫の毛皮で覆われている。大木のような尾が地面を鳴らす……右手に大型の魔獣の骨を、まるで武器のように携える魔獣。
―― 巨鬼 ――。
この魔獣達はどこか……他の魔獣とは違い、人間のような知能を備えている……。
そんな、不気味さが、確かにあった……。
「 ……っ!…… 」
( ……しかし……この異変の数々……妙な胸のざわめきは…… )
「 ……ぉい!…… 」
多くの疑問が イザベル の頭を駆け巡り……ぼやける視界の中……。
「 ……イザベル!……食べないのか……? 」
アウレ が心配の声をかける。
彼女は、数分間……焼いただけの魔獣の肉を持ったまま、固まっていた……。
「 ――いえ、頂きます! 」
そう、返事をし、魔獣の肉を頬張る イザベル 。
その味は酷く、生臭く……お世辞にも美味しいと言えるものではない、という表情を浮かべていた。
その様子に アウレ は、一抹の不安を感じた。
ここ……5日間、魔獣を倒しては、食べられそうな魔獣の肉だけを選別して、どうにか生き抜いていた。
四六時中、魔獣達の襲撃を警戒しながら見張りと休息を交代をとる……。
そんな、生存戦略をしながら、三人はどうにか……生存し続けるという目標を達成していた。
全ては、 イザベル の冷静な判断があってこそ、である。
彼女の指示がこの生存戦略の生命線。
それ故に、心労は計り知れないだろうと。
「 ご馳走様ネ! 」
食事を終えた 蓮花 は早々に床へと着く。
ここ5日間、彼女は体の回復の為か、多くの休眠をとっていた。
そんな横で、食事を済ませた イザベル は、おもむろに討伐した魔石を並べ始め……。
「 ん……何してんだ……? 」
小さな鞄 < 異空間収納鞄 > から、小物入れと < 魔力水 > を取り出す。
思わず、覗きこむ アウレ 。その碧い眼に飛び込む、薄紫色の媚薬。
「 ――な!? その < 魔力水 > ……まさか……?ここで、か…… 」
「 ち、――違います!! 何を言っているんですか!? 」
イザベル は、頬を赤め、眼鏡をかけ直す。そして……気を取り直すよう、冷静な口調で答え始めた。
「 これから、魔術触媒の補充を行うので、その際の魔力の補助です!! 」
そう、言うと イザベル は、魔力水を飲み干し……小物入れから一つの針を取り出す。
そして、全神経を集中させ、詠唱。人差し指から『 魔力の糸 』を出し、器用に針に通した。
間近で覗き込む アウレ の碧い眼に映り込む――青白い光、魔力の流れ。
まるで裁縫しているかのように手際よく、その固い魔石に『 魔力の糸 』を編んでいく。
( 器用だなぁ……この針も何らかの『 魔具 』なのだろうか……。 )
感心する アウレ の横で、あっという間に縫われ、完成する紋様。それが一瞬だけ光り……すぐに消えてなくなっていくのであった。
「 ……ん……魔力の反応が消えたんだが、……これで……完成か? 」
「 はい、これで術式を刻み終えました。 」
目を凝らす魔石に、先程の紋様はなく アウレ の碧い眼には何の変哲もない鉱物に視える。
「 これが、術式の構築と付与か? 」
「 そうです!よく覚えてましたね! 」
イザベル は少し嬉しそうな顔を覗かせる。
その表情に アウレ は( ……なんか、覚えの悪い生徒を褒めるようだな…… )と、少々腹が立ったが、今は見逃すことにした。
「 ……魔力が視えないのにどうやって、この紋様を編んでいるんだ? 」
アウレ には、『 魔力の糸 』が縫われていく、青白い光の痕跡……その様子が視えていた。
しかし、 イザベル には、その肝心の魔力が視えないはず、である。
「 ああ、それはですね…… 」
そう言うと イザベル は自分の眼鏡を指し示す。
ずいぶん、前の講義で言っていた、 イザベル の『 魔具 』。
フィッツロイ秘伝の『 魔具 』 ―― < 術視鏡 >――。
それは術式を視認できる 『 特異魔石製の魔具 』 である。
「 魔力は視えないのですが、術式は完成後に確認できますよ。ちなみに魔力の流れは感覚で操作することができます。……そうですね、感覚的には目隠し、して絵を描く感じでしょうか…… 」
「 ふーん、…… 」
アウレ の碧眼。
< 魔成眼 >。
それは、本来、視えないはずの魔力が視える特殊な眼だが……何故か、『 術式 』が視えないのである。
( 視えないものを感覚で操るか…… )
その瞬間、ふと、脳裏に浮かぶ 仮面の男 の悍ましい姿。その戦闘中で初めて感じた無力感……。いや、壁……なのか?。
上手く……的を得ていない……が、確実に何か、が足りないと感じた。
( そういえば、 イザベル だけが奴の転移の場所を的中させていたっけ……。たぶん、あれは……『 術式 』そのものが視えていたんだろうな…… )
『 術式 』……視えないもの。その何か……。
……あと少し……で繋がる……。そんな、感じがする……。
「 ん……これは、術式さえ分かってしまえば、なんでも付与できるのか? 」
「 いい質問ですね。答えは否です。付与が出来るものと出来ないがあります。魔法に代表される特殊な術式、『 魔法防御壁 』なんかは、いい例ですね…… 」
「 ふーん、そうなのか……なんで出来ないんだ? 」
「 それは、……まだ、はっきりと解明されていません……しかし、一般的には 『 適正 』 が関係しているといわれています…… 」
「 『 適正 』……? 」
「 魔法にも属性にも 『 適正 』 があるように、魔術にも多少なりとも 『 適正 』 がありますから…… 」
そう、言った後、魔石の付与の続きを行う イザベル 。
……ん……なんだろ……?
その彼女の表情が、一瞬、曇った。そんな気がする……。
栗色の長い髪をかき上げ、眼鏡越しに作業する姿。
アウレ はその様子を静かに見守った。
この イザベル・フィッツロイ という『 魔導師 』は凄い。
戦闘中は、『 魔導 』という魔術を駆使して、俊敏な 蓮花 の攻撃に、ここぞ、という間で支援をする。
また、迎撃から強襲まで多彩な攻撃を繰り出す、汎用さがある。
正直に言って……一対一の戦闘なら、ごり押しで攻撃してくる 蓮花 より厄介だ。
しかし、そんな彼女にも欠点はあるのだろうか?
( もし、あるとするなら…… )
何かが、あと少しで繋がる。
その違和感が徐々に、強くなっていく。
( それは、人が人である以上……誰しもが持っている、得手不得手の類だと思うが…… )
そう考えた アウレ は……。
おもむろに イザベル の肩に手を置き……。
言い放つ……。
「 『 適正 』なんて、気にするな! お前にしか出来ない事があるだろ……な…… 」
「 ……お嬢様……? 」
そう諭す、穏やかな碧い瞳……その奥に映る、『 酒 』の一文字。
「 ………… < 魔力水 > は、残り少ないので渡しませんよ…… 」
心の内を見透かされ……「チッ!」と舌打ちをする、 アウレ 。
「 元々は、俺の物だろ! 」と心の中で悪態をつく、そんな表情を浮かべていた。
そんな、隠しきれていない態度を見て、イザベル は、唇を緩ませ、表情を崩す。
( ……そう言えば……この子には随分助けられてきましたね…… )
頬っぺたを膨らまし、ブーブーと文句を垂れる、少女の姿に緊張の糸が解けていく。
( ……本来、私達が守らなければならないはずなのに…… )
その様子を眺める イザベルは……ローブ服の裾を握りしめた。
ふと、視線を逸らす先……すぐ隣で寝返りを打つ 蓮花 。
腹部に巻かれた、包帯。その患部から、血が滲んでいる。
あの日、 仮面の男 に付けられた傷は、まだ完全には塞がっていない。
もし、魔獣の大群を相手しないといけない状況になったら、 蓮花 の力が必要不可欠。
( 蓮花 の回復、もしくは、救助が来るまでは……下手に動けないわね…… )
―― お嬢様だけでもここから無事に逃がす ――。
それは、揺るがない――方針。
そのためには……。
最悪の想定……強行突破も視野に入れなければ、ならない。
たとえ、私達がどうなろうと……。
イザベル は、この状況で、なんとか生き抜く術を模索し続けるのだった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
この章は作品内の最強のキャラ ゲイリー・バトラー が活躍します。
そんな彼に相応しい、チート級の敵をご用意しました。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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