それぞれの生存戦略
三人は狂気が混じる空間を抜け、安息できる道、出口を探す。
うなるように入り組む、洞窟内。その道は無数に広がっていて、奥へと進むアウレ達は、程なくして……行き止まりの空間へと出ていた。
「 ここも……駄目ですね…… 」
溜息交じりの イザベル が呟く。
行き止まりは、これで四つ目であった。
アウレ の小さな肩に、もたれるながらも 李 蓮花。
( …… 蓮花 の傷が思ったより、深い……早く休ませないと…… )
二人三脚で歩く、彼女の顔色は見るからに青白くなっている。
「 ……ひとまず……休憩しましょう…… 」
そう、 イザベル が声を掛けるとその辺に腰を下ろす。
アウレ も 蓮花 を地面に降ろし、暫しの休息をとることしたのであった。
洞窟の壁に寄りかかり座る 蓮花 。その腹部、気休め程度の包帯は赤く滲み、出血していた。
「 蓮花……大丈夫? 」
いつもの団子髪は乱れ、深い呼吸を繰り返す。
イザベル が、包帯を変え、応急処置を施すと―― 蓮花 は震える手で「問題ない」と合図を作る。
やせ我慢をしているのは、明らかだった。
三人が腰を下ろし、休む、行き止まりの洞窟内。
辺りは人が数十人くらい入れる広さの空間で、仄暗く、そこら一帯に死臭が漂っていた。
「 ……しかし、さっきの魔獣の大群といい、この部屋のような空間といい……何なんだ、ここは……!!!?」
そう、 アウレ が愚痴をこぼす……。
ここに来る道中、三人は 仮面の男 に襲撃され、命からがら脱出。
< 死の転移陣 > に飲み込まれ……気が付くと、この階層に行き着いていた。
そして、あの広い洞窟内で行われていた、惨劇……。
「 ……そうですね……もしかしたら、……魔獣達の巣窟、この < クルードセツア迷宮 >の 最下層なのかもしれません。……先程の光景は食事……いえ、何かの儀式のようにも視えました…… 」
流石の イザベル もこの状況を上手く吞み込めていない様子である。
( さっきの悪夢が儀式だと……冗談じゃねえ……あれは、ただの地獄絵図だ…… )
アウレ は心の中で吐き捨てるように悪態をつく。
まるで人を家畜のように弄ぶ――あの場面が脳裏にこびりついて、とれなかった。
「 しかし、この場所は臭いな……鼻が曲がりそうだ…… 」
周囲の悪臭に思わず、鼻をつまむんだ。
「 ええ、たぶん、この空間は……巣穴だと思います。もしかしたら、奴らがこの場所へと戻ってくる可能性がありますね…… 」
「 ――な、それは……マズイじゃないか?早く、逃げないと…… 」
「 ……そうですね……しかし、これ以上、逃げながら出口を探索するのは困難です……。ここで向い討つ態勢を整えましょう…… 」
「 ……⁉……おう、……どうするんだ? 」
「 まずは、罠ですが……これはもう、洞窟の入り口に仕掛けて起きました。何らかの魔力の反応があれば、ある程度の足止めは出来ると思います 」
その言葉に アウレ は素直に感心する。
全然、気づかなかったが……そんなことをしていたのか……。
「 ……なるほど、その隙を襲撃すればいいというわけだな! 」
その言葉に小さく頷く、イザベル。
この状況化でも冷静で的確な対応できる彼女の存在は、とても心強い。
「……私は……なに……を……すれば……いい……アル……」
何の対抗心か、満身創痍の 蓮花 が、虫の息で呟く。
その擦れた声に イザベル は 「 大人しく休んでなさい! 」 と、とどめを刺した。
倒れるように寝込む 蓮花 。当分は戦力にはならないそうであった。
「 ……ここからは、持久戦です。そのためには、まずは安息地の確保。それから食料の調達です。幸い、今夜のおかずは向こうからやって来ますし……」
その発言に アウレ は、これでもか!というほどの嫌悪感を表す。
……だが、背に腹は代えられない、とは、よく言ったものである。
この先は生き抜くために、できることは全てやる。
「 そして、この階層の探索ですが……それは 蓮花 が動けるようになったらですね…… 」
「 ――そうだな…… 」
こうして、三人の生存戦略が始まったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
< クルードセツア迷宮 >の最終到達地点、34階層。
攻略隊一行は ここまで幾度となく、魔獣の襲撃があったが、行軍は順調であった。
ダンジョンの奥へと目指す、五百名の『 魔法士 』は、ここで暫しの休憩を取っていた。
―― 深き淵 隔絶し異なる界へと繋げ、開封――。
< 異空間収納鞄 > から魔石を取り出し、詠唱する ゲイリー・バトラー 。
すると、周囲に五匹の 灰狼 が出現した。
「 ――なんと、 ゲイリー 様は 『 召喚魔術 』 まで使えるのですか!!? 」
それを、遠目で視ていた 若き『 魔法師 』 ルーカス・トルイ が驚きの声をあげた。
『 召喚魔術 』 は < べィガル祭儀国 > の国有の魔術。
数ある魔術の中で唯一、魔獣を使役できる特性を持つ。その原理は一切、知られていない門外不出の秘術であった。
( ゲイリ― 様は もしかして…… < べィガル祭儀国 > の出身……なのでしょうか? )
< べィガル祭儀国 > は、ここ < セルタニア魔法国 > の隣国で、同盟を結ぶ、良好な関係を築いていた。それは、お互いの経済支援が主な内容で、魔獣を操るのに長けた 『 召喚魔術 』 には、交通や農業の労働などの多くの支援、協力を貰っている。そのため、 < セルタニア魔法国 > の王都や各地域の要所に < べィガル祭儀国 > の特派員が在住しており、上流階級の 『 魔法師 』 にとって、そう珍しいものではなかった。
五匹の 灰狼 は 仄暗い洞窟の奥へと先行していく――。
その様子を不思議そうに見つめる ルーカス 。
そんな彼に 老魔法師の ゴルドエ が声をかける。
「 ……どうやら、この先の偵察するらしい……。用心のため、ここからは『 魔力感知 』以外にも探索をする、と、そう聞いておる…… 」
「 なるほど……納得しました。……しかし、この『 召喚魔術 』といい、『 魔術師 』 ゲイリー・バトラー 様とは……一体、何者なんですか? 」
「 ふむ、『 魔術師 』としての ゲイリー 殿か?そうじゃなぁ……ワシも噂程度に知らんのだが、……『 魔法師 団長 』を務める前は、『 S級 冒険者 』として世界各国の修行、ダンジョン攻略をしていたと聞く。その功績が 先代の魔法皇王 ゾエル・セルタニア 様の目に留まり、直々に登用された、らしいのう…… 」
「 ……そんな御方だったんですね……どおりで、ダンジョンの戦闘に手馴れているわけだ…… 」
「 まあ、そうじゃな…… 」
そう、呟きながら ゴルドエ は、自分の顎を触る。
視線の先には。
ゲイリー が用意した特製の 『 魔力水 』 が兵達に配給されていた。
そして、それを飲み干した直後、皆が口をそろえ、叫ぶ――。
「 ――なんだ!!? この『 魔力水 』は!!?凄く効くぞぉぉぉ!!? 」
『 魔力水 』 には 『 魔力 』 を回復する効果がある。
膨大な魔力容量を保有する『 魔法士 』にとっては微々たる回復で、気休め程度の効果でしかない。
しかし、その『 魔力水 』は、飲んだ直後から実感できる程の回復量……。
その様子に ゴルドエ は眉間に皺を寄せる。
( …… < リセポーセ > では、こんなに上質な『 魔力水 』が製造されているのか……!!? )
この『 魔力水 』は、色んな意味であらゆる危険性を秘めている。
それは、もし、戦場で使用すれば……戦況を変えてしまう程に強力なものであった。
( ……何という……代物を持ってくるんじゃあ……今の < セルタニア魔法国 > からしたら、喉から手が出るほど欲しがる物だろう……が…… )
難しい顔をする ゴルドエ 。……その表情を察した ゲイリー は、すかさず、話しかける。
「 ゴルドエ 様。この『 魔力水 』は……ごく最近、たまたま、手に入った貴重な代物です。どうか、ここで使用したことは内密をお願い致します。 」
「 わかっておる!皆にも強く、口止めしておるから安心せい! 」
「 ありがとうございます。よろしくお願いします…… 」
そう、銀髪の老紳士が感謝を述べた――その時。
「 「 伝令! 伝令! 」 」
そう、叫びながら駆け寄り、合流する冒険者の部隊。
その内容は急を要するようで、全隊の指揮官でもある ゴルドエ に耳打ちをする……。
―― それは 20階層 中継基地からの緊急の伝令であった ――。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
この章は作品内の最強のキャラ ゲイリー・バトラー が活躍します。
そんな彼に相応しい、チート級の敵をご用意しました。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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