羅刹との邂逅 ~彼岸石積~
「 蓮花ぁぁぁああ”あ”あああ――――――!!!! 」
洞窟内に イザベル の絶叫が反響する。
蓮花 が攻撃を仕掛ける、その一瞬。
―― 無防備になる隙を待ち構えていたような反撃 ――。
瞬間、宙に鮮血が舞い……。
六本の鋭い触手が全身の各部位を貫く……。
蓮花 は着地と同時によろめき、倒れこむ……。
( ――まずい――!!? )
アウレ は 咄嗟に『 瞬歩 』で 蓮花 を抱え、その場を離脱。仮面の男から距離を取る。
「 ――おい、蓮花!大丈夫か!返事しろ!!!!!! 」
意識が混濁する 蓮花 に呼びかける。
地面に点々と垂れる血、額からも出血を伴っていた。
( ―― あの 蓮花 がやられた……!!!? ―― )
それは瞬きする間もない一瞬の出来事。
蓮花 の高速の攻撃を遥かに上回る、速度の逆襲。
―― なおも……蠢く、六本の新たな触手 ――。
( ……あれが、もし、もう一度でも来たら、……果たして避けられるのか……?)
答えは否である。
その時、地面に散らばる魔石が連鎖し、煌めき出す。
イザベル は、五指から魔術回路、『 魔力の糸 』を全方位に飛ばす。
―― 我、問う魔導の理を万象にて現し溢れし 石の槍を穿て 岩石槍 十二重復唱――――。
その魔石から石の槍が顕現。
更に回転を加えて威力を増し、射出する。
―― 螺旋の弾丸と化した無数の石の槍 ――。
肥大化したままの仮面の男へと全方位からの集中砲火。
――火花を散る衝突が、鳴り響く。
しかし、全弾、仮面の男の前で灰燼に帰っていた。
―― 透明の天蓋 『 魔法防御壁 』 ――。
( ……やはり、……固い…… )
イザベル は、更に語気を強め、絶えず――詠唱を続ける。
栗色の髪を靡かせ、腰の小さな鞄に手を伸ばす。
< 異空間収納鞄 >から新たな魔石を取り出し、前線に追加の魔石を投入し……。
出し惜しみ無し、の攻防を続ける。
( ―― とにかく、足止めを ―― )
銀色の枯木雲模様のローブ服を翻す。光る無数の魔石は硝子細工のように砕破していく。
魔石を入れ替わりに、高速で魔術回路を繋げ、休みなく集中砲火を浴びせ続けた。
それは今、行使できる最大火力の魔術。
逼迫する力技の砲撃。
決定打には遠く届かない……。
―― 焼け石に水 ――。
( ……私の魔術では破れない……。 )
そんなことは イザベル 自身が一番よくわかっていた。
しかし、蓮花 が戦闘不能に追い込まれた以上、これぐらいしか、……自分が出来ることはない、のである。
その合間に アウレ は イザベル の後方へと避難。
安全圏で抱えている 蓮花 を降ろす。
横たわる 蓮花 の身体から血の海が広がる。
漆黒のローブ服から滲む、出血痕は三か所。
どうやら、あの一瞬。 蓮花 の固有魔術 < 白虎纏鎧 >――その白い魔力の鎧で受け止め、< 流水 > で受け流し、結果、致命傷を避けられたようだったが……。
( 腹部の出血が止まらない…… )
自分の服を切り、出血箇所を強く縛る。
「 はぁ……はぁ……はぁ……ぇるネ…… 」
うわ言のように呟く。
「 ――傷口に障る……黙ってろ…… 」
蓮花 は息を荒げながらも呼吸を整える。
そして……。
その応急処置を施す、アウレの腕を、強く握り――まっすぐ、アウレの碧眼を見つめた。
「 ……置いて……いくネ…………早く、逃げ……アル…… 」
「 ――――!!? そんな身体で……なに……言ってんだっ!? 冗談じゃ―― 」
「 ――分かったわ…… 」
「 ――――――!!? 」
アウレの言葉を遮る、強い意志の同意。
それは砲撃の片手間、二人のいる後方へと下がり、合流する イザベル の声であった。
栗色の前髪から覗く、……横顔。
ずっと考えていたであろう、最悪の想定。
蓮花 を置き去りにして、この場を退避するという判断である。
この洞窟内に出口は二つ。イザベル 達が、今いる前方と後方……。
前方の出口が冒険者達のいる中継基地への最短ルートに繋がっているのだが……仮面の男が立ちはだかっており、脱出は困難。
ひとまず、背を向ける形になるが、後方から逃げるしかない。
( な……ふざけんな!…… )
アウレ はその考えに、激怒をする。
それは……どうにも受け入れがたい……。
( ……何か、打開策はないのか……? )
アウレ が、必死に思案を巡らす――その合間、 イザベル はその時を伺う。
仮面の男 は相変わらず、『 魔法防御壁 』を展開。その天蓋、絶対防御の殻に籠る。
魔術の砲撃に、上手く釘づけになってくれている……。
それは、イザベル が、魔術を放つ限り、動きを制限出来ている、ということ。
まさに好都合。
『 魔導 』と呼ばれる魔術の特性 『 遠隔魔術 』。
魔術を行使しながら複数の行動を可能にする、という利点を有する。
イザベル は魔術回路を繋げ……静かに決意する。
( お嬢様だけでもここから逃がす……それが…… )
少しずつ、じりじりと、後退していく。
( ―― 私がここにいる意味、使命 ―― )
覚悟の眼差しに映り込む……沈黙の仮面。
……動く気配はない。
そう、再確認し、 イザベル は意を決する。
アウレ の手を掴み――。
後方の出口へと――。
離脱しようとした――その転瞬。
「 ―― 待っ!!!? ―― 」
その直前で アウレ が イザベル を引き留め……身体の中心線を崩す。
――そして、一緒に地面へと伏せた。
――瞬間、高速で目の前を横切る、疾風。
「 ――――――――――!!!? 」
それが イザベル の頬に、一筋の傷をつけ、血の雫が流れる。
( ……いったい、なにが――――!!!? )
這いつくばる二人は顔上げ、その状況を瞳に映し出す。
そこには。
―― うねり暴れる六本の奇怪な触手 ――。
方向が定まっていないのか、手当たり次第に四方八方へと伸び……。
洞窟内の壁面や、天井を破壊し尽くしていく。
崩れ落ちる怒号が洞窟に響き渡り……土子埃が三人を吞みこむ。
「 ゲホ……ゲホ……、いったいどうなって…… 」
次第に、晴れた先、飛び込んでくる光景……。
それは……。
「 ――な、――――――」
崩落した瓦礫の山……。
その山で、前後の出口の通路が完全に塞がれていたのだった。
まるで、ここから逃がさない、という意思を持つような――攻撃に。
( ―― まさか退路を断った!!? ―― )
戦慄が奔る。
その瓦礫の山の中から、脈動する――肉の塊が姿を現す。
人の形を無くした醜悪な化物。
唯一、人であったと認識できるのは。
笑う様に造られた……仮面。
それ、のみである。
ゆっくりと不気味に揺れ動き……。
そして、収縮……。
擦り切れた漆黒のローブ服の下へと収まっていく……。
「 ……そんな……噓でしょ……!!? 」
―― 元の人の形へと戻っていく、仮面の男 ――。
( な、……こいつは……不死身なのか……。)
それは……。
―― 斬られたはずの左腕まで、元どおりに治っていたのである ――。
アウレは、唇を噛み殺す。
( ……俺たちの手に負える……相手じゃ……ねぇ…… )
確かに 北辰一刀流 『 星王剣 』は、奴に一太刀浴びせることができた。
しかし、それだけでは……駄目だ。この男には絶対に勝てない。
そう、思わせる、確かなものが……ある。
額から流れる一筋の汗。
足りないのだ。圧倒的に……何か、が……。
アウレ は初めて思い知る。
この世界の抗えない存在と恐怖。
それが今、目の前で一歩、一歩とゆっくりと前進していく。
その度……本能が「逃げられない」と囁く。
―― もう、相撃ちの覚悟で挑むしか、ないのか…… ――。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
この章は作品内の最強のキャラ ゲイリー・バトラー が活躍します。
そんな彼に相応しい、チート級の敵をご用意しました。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
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