羅刹との邂逅 ~神出鬼没~
< クルードセツア迷宮 > 24階層。
( ……これほどか……!? )
ゴルドエ は再び、驚愕する。
ダンジョンの奥へと進軍する攻略隊の前に四方八方から魔獣の大群が押し寄せていた。
『 魔法士 』達は矢継ぎ早に火魔法を放つ。
各所、対応を迫られる中……。
「35秒後、九十三体の魔獣の大群が来ます。内、三十二体の 小鬼 が上部の横穴から攻撃してきますので、後援射撃は最優先でお願いします……更に奥から 狂狼 六十八体の増援、長距離射撃は『 魔術師 』の方々、中心に対応してください……あと、横の通路の 毒蛇 五十一体は私と他22名で対処します……」
戦場の空気を一変させる ゲイリー・バトラー の指揮が飛ぶ。
「 ゴルドエ 様、これは……」
若き『 魔法師 』の ルーカス は、背中合わせで魔法を放つ ゴルドエ に話しかけた。
「……魔法師の中でも使えるものは少ないから、知らんのも無理はないが……『 魔力感知 』じゃ……。まあ、……本来、分かったとしても……せいぜい魔獣がいるかどうか、のレベルのはずなんじゃが……この精密さ、把握能力は異常じゃぁな……」
それは……。
もはや、予言に近いの『 魔力感知 』と……。
ゴルドエ が指揮するまでもないほど――見事な全軍指揮。
そして……。
魔獣の群れを一瞬で細切れにさせる ―― 謎の魔術 ――。
劣勢になりそうな、戦場に疾風のような速さで介入していく。
( …… 全体の状況を見ながら、……見極めておる …… )
こんな、状況化で 対 魔獣戦闘の練兵を行っている……そんな意図すら感じる。
そんな姿に ゴルドエ は、ある違和感を覚えていた。
ここまでの敵は、『 魔法士 』 と ゲイリー が主体となって撃破してきた。
もはや、『 魔法師 』など必要ないくらいに……。
これほどの男が我々に助力を求める理由……。
それほどのものが、この先にあるのか?――と。
そう、ゴルドエは額の皺を寄せるのであった。
次第に『 魔法士 』達は、魔獣達の群れを突破する……。
このゲイリーの指揮によって、この進軍 は……。
―― 更に加速していくのであった ――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、その頃。
野営テントの火が点々と灯る < クルードセツア迷宮 > 20階層。
「飽きたぁぁぁぁぁあああああああああ」
その中継基地から周辺の仄暗い洞窟の中。金髪碧眼の少女が叫んでいた。
それは、とうに限界を迎えた アウレ・マキシウス の姿であった。
アウレ は ゲイリー 達がここ、20階層から出発してからというもの……ずっ――と退屈だった。
幾度となく魔獣の群れに強襲されたが、 イザベル と 蓮花 に難なく処理してしまった。
歯応えが、無さすぎる。
せっかく、魔獣の巣窟と化したクルードセツア迷宮にいるというのに、ここで後衛の基地周辺の防衛を行わなくてはならない、ということがこの退屈さの原因であった。
「……どうも、うちの子がお騒がせして、すいません……」
イザベル は同行している冒険者達に頭を下げ続けていた。
彼らはあからさまに不機嫌な顔を浮かべているからである。
皆、一様に気が立っているのだ。
そんな、緊張感の漂う中、……この少女のふざけた態度はさぞかし、癪に障るのだろう。
しかし、アウレは、そんなことをお構いなし、の調子で。
「もう、いっそうの事、とんでもなくデカい魔獣でも襲ってこないかな……」
そう、ポツリと呟く。
その態度に イザベル は、溜息混じりに口を開いた。
「物騒なこと、言わないでください。中継地点の確保も重要なダンジョン攻略の仕事ですよ。」
至極、真っ当な注意である。
しかし、アウレと同じくらい戦闘狂の人間がもう一人……。
「まあまあ、イザベル。ちょっと退屈なのは……わかるアルよ……。それに、久々に『だんちょー』の戦い見られないのは残念ネ!」
そう、頭の後ろに手を組み呑気に歩く 蓮花 の不用意な発言。
さすがの イザベル も「こいつらは……」と、呆れた表情を眼鏡の奥に覗かせていた。
( 全くもって同意見だ! )
アウレ が思っていたことを代弁する一声。
ん……。
「そういえば、……なんで、蓮花は じじい のこと 『 だんちょー 』 って呼ぶんだ?」
その疑問に二人は苦笑混じりで顔を見合わせた。
「んー、何処から話せばいいものやら……。そうですね。簡単に言えば、先生は元 上司だったといいますか……。あっ、今もそうですが……元々、私と 蓮花 は セルタニア魔法師団 風源 の 『 魔法師 』だったので、 蓮花 は 『だんちょー』と……」
「へえー、そうなのか……『 魔法師団 』ね……」
アウレは、その言葉に聞き覚えがあった。
セルタニア魔法国の最大にして最高戦力。
五つからなるその軍は国の中でも優れた『 魔法士 』、『 魔法師 』が集う――軍団。
そう、ゲイリーの講義で教わっていた。
( その一角、『 師団長 』 を努めていたのか……あのじじいは……。)
納得が、いった……。
アウレにとって ゲイリー・バトラー という男は……。
転生した時から今日まで、何をするにも、勝てない、化物じみた存在である。
最初は「こんな奴がこの世界には、うようよと、いるのか……」と慄いていたが < セルタニア魔法国 > でも異才の男であった。
アウレは、自分の腰に差す、剣を見つめた。
前世の剣の腕は、大分……戻ってきた。
更にこの世界の『魔力の制御』と合わさり、違う次元の高みまで昇華しつつある。
今の自分がどこまで出来るか……試してみたい――と。
そう、背筋を震わせていた……その時……。
――突如、洞窟内の風向きが変わる。
「――――――――――!!!!!!!!!!!?」
―― それは黒い靄となって、背後から迫る『 魔力の津波 』 ――。
―― 意識を吹き飛す、戦慄が奔る ――。
荒れくる――濁流は、無慈悲に三人を飲み込んでいく。
それは、誰一人、気づかなかった……。
――否、気づけなかった、……。
アウレ・マキシウス も……。
イザベル・フィッツロイ も……。
李 蓮花 ですら……。
反射的に振り返る。
ゆっくり過ぎる時の流れの中を……。
纏わりつく瘴気に……上手く、息ができない。
( ……なんで、気づけなかった…… )
体中の汗腺から滝のように流れ出す。
( ……こんなにも…… )
思わず、声を飲み込んで……凝視する。
( ―― 禍々しい魔力を放っているのに ―― )
―― それは死を連想させる仮面 ――。
元はローブ服だったのだろうか……。
長い年月の経て劣化した漆黒の上着が靡く。
背丈は成人の男と同じくらい……。
だが、醸し出す、その雰囲気は常軌を逸した――凶悪さ。
それを笑みを張り付けたような――仮面で素顔を隠す。
「ん……なんだ……こいつは……」
その不自然な様子に冒険者達も流石に気付く。
三人の背後。突然、現れたその男は、何時間前からずっとここにいた、という――違和感を放っていた。
それは。
暗闇と同化。そこから生れ出たかのような姿。
微動だにせず。生物としての生命力が皆無。
濁った魔力の川が膝下まで浸水するよう。
その視線一挙手一投足に目が離せない。
まるで冷静な思考を狂わせ――浸食。
突如、脳内に流れだす、――映像。
繰り返し、強制的に観せられる。
自分の死に際、凄惨な最期を。
この震えるような威圧感は。
あの ゲイリー と同格。
いや、――それ以上の。
禍々しさがある。
かくして……。
仮面の下。
双眸。
燿。
――瞬間。
襤褸のローブ服の下から。
ゆっくりとこちらへ伸ばす――右腕が……。
―― 突如、肥大した ――。
内側から風船のように膨れ上がり、破裂する勢いで細胞分裂を繰り返し――肥大していく、肉塊。
それが男の、身丈以上に膨れ上がり、急速に人の姿を奪っていく。
――その刹那。
アウレ は……。
―― 『 長短の矩 』 を発動していたのであった ――。
肉眼で辛うじて視えたのは、……その肉塊が肥大化し続け、そこから何かが伸びた、ということ。
――その時には身体が勝手に動いていた。
アウレは残像を残し……地面スレスレまで身体を沈ませる。
斜め前の死角へと滑り込むように移動――その瞬間、頭上を、何か『悍ましい、なにか』が通過する。
それは横薙ぎに一閃。洞窟の壁面を抉り、周囲を喰い散らかしていったのであった。
( ……何が、起きた……!? )
屈んだ状態のアウレは周りを見渡す。
そこには……。
蓮花 は イザベル の頭を抑えて――回避。
その横には。
下半身だけとなった冒険者達の骸が転がっていた。
「――な、――――――!!!?」
アウレは再度、そいつを――視る。
そこには、佇む――仮面の男の姿……。
( ……なんだ、……あれは……!?)
しかし、その肥大した右腕――肉塊の割れ目から、蛸の足の様に蠢く――巨大な触手が伸びる。
無数の魔獣の口のようなものが、いくつも視えており、耳障りな音――声を発する。
まるで醜悪を吐き出しているかのように……。
その姿は……最早、人ではない……正真正銘の化物。
身を裂くような殺気に。
―― 一斉に警戒態勢をとる ――。
3人は同時に男から距離を取るように後方へと跳ぶ。
蓮花 は、すでに 白い魔力の武装 ―― 固有魔術 < 白虎纏鎧 > ―― を発動していた。
仮面の男の足元に散らばる――『魔石』。それは イザベル の罠。
アウレは剣の柄に手をかけ、刀圏の先を捉える――抜刀術。
ドクン。
これは……ヤバい。
ドクン。
心の中の警戒音は収まらない。
ドクン。
ヤバすぎる……。
そう、感じていたのは、アウレだけではなかった。
うるさい……ネ……。
その均衡を破るように……。
『 先の先 』を取ったのは 蓮花 だった。
「 らあ”ぁああぁああ”ぁあああああ !!!! 」
振り絞るような気迫と、獰猛な叫び声。
『 瞬歩 』で、仮面との距離を一瞬で潰す。
そして『魔力の爪』を振りかざし、放つ一閃は。
―― すでに白雷を帯びていた ――。
李 蓮花 の 固有魔術 < 白雷迅雷 >。
しかし、その高速の攻撃は……。
「 ――――――――!!!? 」
仮面の男の直前で止まる。
それは……周囲に展開された……透明の天蓋であった。
その魔力の爪は火花を散らし、拮抗する。
迸る……白雷は、全てはじかれていたのであった。
「 ――くっ――――――!!? 」
たまらず、蓮花は距離を置く。
高密度の魔力で作った爪は削れ――消失していたからだ。
その様子にイザベルは驚愕した。
蓮花の固有魔術 < 白雷迅雷 >を防ぐほどの防御力。
それは、魔術の『 疑似防御壁 』ではない……それよりも耐久性のある『 魔法防御壁 』である。
『 魔法防御壁 』を使えるのは、『 魔法師 』のみ……。
つまり、この化物は、『 魔法師 』ということになる。
さらにそれだけではない。
この仮面の男は『 魔法防御壁 』を展開する際、『 詠唱 』を行っていないのである。
( ……またしても……『 無詠唱 』…… )
脳裏にこびりつく、マキシウス家襲撃事件の時の カトリーヌ の姿。
彼女も『 無詠唱 』であった。
一部の < 特異魔石 >を使用した『 魔具 』なら『 無詠唱 』での行使は可能。イザベルが着用する眼鏡 『 特異魔石製の魔具』 < 術視鏡 > もその一つである。
しかし、魔法を扱える者には―― < 相対性魔石 > と < 特異魔石 >は扱えないのだ。
なぜなら、魔法は『 因子魔術 』。
術式の二重発動は基本、出来ないのである。
術式発動際の命令は?
そもそも、人?……魔法師?……なぜ、あのような……醜悪な姿に?
かつて、セルタニア魔法国で行われた人体実験。……その禁忌が頭の上をよぎる……が。
( 考えている……暇はないわね……!!! )
すかさず、イザベルは手を翳す。五指の先から『 魔術回路 』を飛ばし……。
混乱する頭を振り切るかのように――詠唱。
――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、霊糸なり縛れ 綾織―― 四重復唱 ――。
地面に散らばった魔石達が煌めきだす。
そこから『 魔力の糸 』が射出され、仮面の男へと収束する。
―― イザベル の拘束の魔術 ――。
しかし、仮面の男は、またしても……透明な天蓋を展開する。
「――な、――――――!!!?」
そして、その『 魔力の糸 』は『 魔法防御壁 』の前に阻まれてしまうのだった。
―― まさしく、絶対防御 ――。
打つ手がない……。
――その時だった。
「 ―― なんの騒ぎだ――!!!? 」
洞窟内に声が反響する。
それは周辺の警戒を行っていた冒険者チームが合流してきたのであった。
状況を理解したのか、臨戦態勢で、仮面の男の周囲を取り囲もうとするが……。
「 ――待つネ!そいつは、お前達の手には負え―― 」
その瞬間、横薙ぎ一閃が蓮花の声を遮る。
顔に生温かい血飛沫が付き。
足元に……その冒険者の頭部が転がった。
( ……な…… 速すぎるネ …… )
なお、左右に蠢く――巨大な触手。
蓮花 は、この高速に動く、攻撃に目がついていけていない。
一人なら、なんとか躱すことが出来るかもしれない……が。
( お嬢ー と イザベル はどうネ……。 )
本能で悟る。
―― ふたりを庇いながらの戦闘は不可能である――と。
そして、蓮花 は笑った……。
それは自分の死期を悟る――苦し紛れの笑みである。
その考えをしていたのは 蓮花 だけではない…… イザベル も同様であった。
彼女は既に、「この場からどうやって お嬢様 を脱出させるか?」ということに思考を巡らせている。
―― つまり、この相手には勝ち目が……ない、と ――。
そう、歴戦の『 魔術師 』である二人が判断する……中。
アウレは……ただ、視ていた。
恐怖に慄くでもなく、只々、静観していたのである。
それは、魔力を視認できる特殊な眼。
―― < 魔成眼 > が映し出す――。
「 ……おい、お前…… 」
仮面の男を真っ直ぐ見つめる――碧い眼。
「 ……どうなってやがる…… 」
その反応に 二人 は、驚いた。
いったい、何が視えているのかと……。
そして……その疑問を口にする。
「 ……いったい……その身体に何体、いるんだ……」
その瞬間、仮面の奥――紅の双眸が獲物を狙う鷹のように鋭い光芒を放つのだった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
今後、より一層ダークな内容となっていきます。
あらすじの最後の一文 『 少女は何を視る 』というのが、何重にも伏線となります。
このダンジョンで何を視るのか?を、お楽しみ頂けていれば幸いです。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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