連鎖する進軍歌
< クルードセツア迷宮 > 14階層。
仄暗い洞窟内が断続的に暗転する。
それは風穴と逆行するように加速していた。
白雷が発生する度、魔獣達の叫喚と血飛沫が舞い散る。
その光源――李 蓮花の固有魔術 < 白雷迅雷 > が、押し寄せる魔獣の群れを蹂躙していく――姿であった。
蓮花は、冷酷にその『 魔力の爪 』の斬撃を放つ。すると、 小鬼 達は切り裂かれ……続々と地に落ちていく。咬みつこうと鋭い牙をたてた 狂狼 は『 魔力の鎧 』に阻まれ、歯が通らず……雷属性を帯びた、白雷を浴び……辺り一面は、生臭い血と焼き焦げた異臭で充満していた。
更に、うねるような洞窟内の奥から、堰き止めていた水の如く――襲いかかる魔獣達。
その犇く、大群の中を……。
団子髪の三つ編みを靡かせ、銀色の枯木雲模様のローブ服を翻す。
稲妻のように奔る――『 瞬歩 』で、翻弄し、小さな身体の少女は強引にも勇んで――突き進む。
そして、その後を追うように……。
――大勢の冒険者が、打ち漏らした魔獣へと襲いかかる。
「 「 「 ぁぁぁあ”ああああ”ああぁぁぁぁぁぁあ”あああ――!!! 」 」 」
皆、一同に声を振り絞り、目を見開く。
自分達を奮い立たせ、必死の形相で突撃していく。
まさしく、……。
―― 士気は上々である ――。
「 ほぉー、なんじゃ……あれは……?驚いたのう!あれが噂に聞く<猛虎>か!!?……『 上級魔法士 』いや、それ以上じゃな……」
後方からその激戦を観戦する ゴルドエ・ベルトライン は感嘆の声をあげた。
セルタニア魔法国の兵士には等級がある。
それは、『初級』 『中級』 『上級』 の三つからなる一般兵 『魔法士』。
更に上の『初級』 『中級』 『上級』 の将校兵 『魔法師』である。
『魔法師』となれば、兵を統率する指揮官の役職を担う。
先陣を進む――蓮花の特攻はリセポーセの冒険者の士気を上げる将としての役目を充分に果たしていたのだった。
「 まあ、……あのように見えまして……蓮花さんは長い歴史をもつ、セルタニア魔法国の中でも史上最年少の『 初級魔法師 』ですから…… 」
そう、呟く――ゲイリー・バトラーは、ゴルドエ と並走しながら、その様子を見守っていた。
「 こりゃあー、わしらも負けてられないのう! 」
ゴルドエは鼻息を荒く、息巻く。
そう、この蓮花の全身全霊の猛攻――熱は、冒険者のみならず、魔法士達までもが、胸に灯すものがあるのだ。
「 ええ、……しかし、我々の出番はこの先、20階層以降からですよ…… 」
「 分かっておるわい! 」
その言葉にゲイリーは、口元を緩ませる。
そして、改めて、前線に目を向け、……細めた。
( ……しかし、蓮花さんは当然として……驚くべきはお嬢様です…… )
視線の先には金髪の少女……お嬢様。
冒険者が続々と走りこむ――最前線、雑踏の中を的確に剣を振り、殲滅していく。
前方のより 小鬼 の棍棒が小さな少女の脳天めがけ、振り下ろされる。が……アウレは残像だけを残し、次の瞬間にはその首を刎ねる。
―― 北辰一刀流 『 長短の矩 』 ――。
(……なるほど、あれは……動きの緩急からなる、『静』と『動』の錯覚ですね。それも、……正面からではなく、斜め前へと間合いを潰す動き……お見事です)
その手慣れた手際に、ゲイリーは、心の中で賞賛を述べていた。
お嬢様の成長は、イザベル、蓮花から聞いてはいたが、こうして、魔獣との戦闘は初見である。
蓮花から < 錬清国 > の魔術 『 練功術 』を習得し、魔獣との戦闘に順応してきた。更に、あの天賦の剣才……。
その期待は。
―― 予想以上に仕上がっている ――。
そう、嬉しそうに……そっと、口角を吊り上げていた。
蓮花 率いる冒険者達は、想定以上の速さで進軍していく……。
そして、一人の脱落者も出さず――無事、20階層まで到達するのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
< クルードセツア迷宮 > 20階層。
一行は暫し、中休憩を取る。
本来、2日間以上かかる行程を1日足らずで踏破した、リセポーセの冒険者達はこれより先、待機の予定。
―― ここからが、ダンジョン攻略の本番である ――。
この中継地点で隊を 攻略隊 と 補給隊 の二つに分け、役割分担する。
攻略隊 は、ダンジョンの奥へと進み、 補給隊 は、そのサポートを行う。
なお、ダンジョン攻略には補給基地設営が必須事項である。
それは万が一の退却時や帰路が最も危険ということにも起因する。
そのため、中継地点を設け、兵站に利用しつつ、ダンジョンの階層踏破は限られた少数精鋭で臨むのが基本であった。
冒険者達が忙しそうにテントを設営する中……。
突如、一同の視線が一点に集まる。
それは……。
金髪の少女が派手に暴れる――姿であった。
「 嫌だ――!!! 絶対に!この先へ行く――!!! 」
暴れる、アウレをイザベル、蓮花の二人係で羽交い締めにしていた。
「 ――駄目です!先生の足手まといになりますので!!!私達と一緒にお留守番です!!! 」
「 ――そうアルよー!だんちょーのおしおきは想像を絶する恐ろしさネ…… 」
そんな、騒がしい様子を遠目にして不思議そうな顔を浮かべる ゴルドエ が口を開く。
「 なんじゃ……あれは……?ほっといて、いいのかのう…… 」
「 ええ、……お気になさらず。さあ、進みましょう 」
そう、一貫して無視を続ける、ゲイリー。
こうして、ゴルドエ 率いる精鋭部隊――攻略隊は、ダンジョンの奥へと進んでいくのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「くそー! あの野郎!本気で置き去りにしていきやがったー!」
アウレは柔らかそうな頬っぺたを膨らまし――不貞腐れていた。
その様子をイザベルは「まあ、まあ……」となだめながら、手に持つ、料理皿をアウレに差し出した。
中継基地の設営も無事完了し、冒険者達は周囲の警戒と休憩を交代で行っていた。
ここまで、一番の功労者である蓮花は、『 魔力 』の消耗を回復するため、しばしの休憩中である。
そこでイザベル、蓮花、アウレの班は早めの夕食をとっていたのであった。
「……確かにちょっと、退屈ネ……」
と、蓮花は大盛のスープを飲み干し、イザベルに空になった皿を突き出す――お代わりを要求である。
「こら!蓮花!お嬢様に油を注ぐようなこと、言わないで!……あと、おかわりは、無いわよ!」
「ええ――――――――!!!!! それは、無いアルよ――!!」
と、蓮花は残念そうに項垂れる。
いつもの騒がしい戯れ……。
その中、食事を終えたアウレは退屈そうに寝転ぶ。
やることがない……。
ぼっーと、上部を見つめる。ごつごつした、岩がどこまでも続く――洞窟内。テントの光に照らし出され、冒険者の影が踊っていた。
「なぁ、イザベル……ここで、どの程度待ってばいいんだ……」
「そうですね……34階層までは……あと、2日間くらいかかりますね。そこから先、最深部はどこまでなのか……わからないので、何とも言えないです……」
「つまり、最低でも往復4日以上はかかるのか……」
金色の髪束を無意味に弄り、暇を持て余す、アウレは……。
この< クルードセツア迷宮 >へと来た、動機を思い出していた。
一つは、ゲイリー に「あっ!」と驚かせること。それは普段、ゲイリー・バトラー には一杯食わされてばかりで面白くない……という反抗心であった。
(まあ、これはある意味では……達成できたかぁ……)
もう一つは……魔獣との戦闘の見学である。
本物の魔法士達、それも熟練した魔法が生で見られるのだ。
こんな機会は滅多にない……好機だった。
そして……、もう一つ。
(どうせなら……ゲイリー が使う、魔術を視てみたかったなぁ……)
そう、アウレは残念そうに、殺伐とした天井を眺めるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
< クルードセツア迷宮 > 22階層。
「 なるほど…… 」
ダンジョンの奥へと進む、攻略隊の目の前に、三つの洞窟が拡がる。
ゴルドエ 率いる魔法士達は、その分岐路の前で行軍の脚を止めていた。
奥からは夥しいほどの獰猛な息づかいが……聴こえる。
それも、三つの洞窟、共、同様の状況であった。
「 ふむ、全て……同じ路に繋がっては、いるが……見るからに待ち伏せじゃなぁ……ここは……隊を三つに分けるかのう? 」
ダンジョン内の地図を再度、確認する ゴルドエ は ゲイリー へと問う。
―― この三つの分岐路は明らかな罠である ――。
どちらか一方を進むと、残るの洞窟に待機していた魔獣が迂回し、背後から襲いかかる。
通常なら、なんてない罠――しかし、問題は、その魔獣の数だ。
定石どおりならば、隊を分け、各個撃破するのが最善手……だが……。
「 ――いえ、時間が惜しいです。ここは強引に、抉じ開けましょう。私が先鋒を務めます。ゴルドエ様は後方から支援と全体の指揮をお願いします 」
「 ――な、ゲイリー 殿……それは、まだ早いじゃろうて…… 」
「 準備運動ですよ。私も暫く、前線のダンジョンから離れていましたので、勘を取り戻すには丁度いいでしょう 」
そう、不敵に笑う――ゲイリー。
前線に突撃の態勢をとらせ、自ら、最前線に立つ。
その様子に……。
不安を覚えた一人の若い魔法士がゴルドエに話しかけるのであった。
「 …… ゴルドエ 様。ここは普通、……各個撃破では……本当に大丈夫なんですか? 」
ルーカス・トルイ。
若くして『 初級魔法師 』になった男で、年齢層の高い アルトバラン私兵団 の中でも将来有望な青年。
その実力は ゴルドエ・ベルトライン も太鼓判を押す。この攻略隊の主力の一人である。
「ルーカスよ。お前はまだ、魔法師団 団長の戦い方を直接、視たことがなかったな……。よく見て、おけ……。あれが、 アルトバラン 様ですら、傑物と言わしめた ゲイリー・バトラー という男じゃ……」
驚いた、 ルーカス は、前進する老紳士――その後ろ姿を注視する。
ゲイリー は、単身で仄暗い洞穴の内へと入っていく。
待機を命じられた多くの魔法士が見守る中……。
暫くして……。
洞穴の中から騒ぎ立てる魔獣の声が聞こえてきた。
そして……一声。
「 突撃! 」
と、小さな号令をかけられる。
その飄飄とした声を聞き、……魔法士達は、不安を振り切るように、一斉に洞窟内へとなだれ込む。
後続の ルーカス 、 ゴルドエ も洞窟内へと脚を踏み入れていった。
( ……どうゆうことじゃ……? )
予想していた……魔獣の群れの襲撃は……なかった。
それどころか……薄明りの下……あちらこちらに肉塊が転がっている。
「これは……一体……」
ルーカス はその状況に思わず、声を漏らす。
暗がりの奥……に ゲイリー の姿が確認できる。
彼は、散歩でもするかのように、前方の魔獣の群れに立ち向かい……その中を……ただ、通り過ぎていく。
襲いかかる魔獣達は、ゲイリーに触れる直前で、突如、小間切れになり……肉片と姿を変えていた。
ゴルドエの額から薄っすらと汗が浮かぶ……。
速すぎて……何をしているのか、分からない……。
洞窟内は闇を切り裂くような――風切り音だけが反響する。
ゲイリーは飛び掛かる魔獣を手で払うような動作を行う……すると、次の瞬間には、バラバラと音を立て、魔獣の肉が地面に落ちていく。
只々……その繰り返し、である。
「……あれは、……『 魔術 』なのでしょうか?」
我が目を疑う――表情の ルーカス は尋ねる。
しかし……。
「……さぁ、のう……わしも詳しくは知らんのだが……ゲイリー殿の両手袋……おそらく、あれが『 魔術触媒 』であろう……」
と、ゴルドエ も同様の反応を見せ、歯切れの悪い返事をした。
ゲイリーが着用する、漆黒革の両手袋。
その十字の装飾、手の甲に埋め込まれた薄紫色の『 魔石 』が、仄暗い洞窟内に右へ左へと弧を描くように煌めいていた。
「……それは < イドロイト皇帝国 > の 『 魔術兵器 』 みたいなものなのでしょうか?」
「――いや、あれは……魔術師の『 魔具 』……それも < 相対性魔石 > ではなく、特別製。 < 特異魔石 > の類か……いや、わしにも正直、何がなんだか……分からん……」
「――――――!?」
魔法を使える者は扱えない『 魔石 』―― < 相対性魔石 > と < 特異魔石 >。
その知識は、魔術師に比べ、馴染みのない――代物である。
特に < 特異魔石 > については、セルタニア魔法国内では秘匿扱い。
それは『 上級魔法師 』でもある ゴルドエ でさえ、特別な術式を持つ魔石――程度の認識であった。
ゲイリー は、なお、魔獣の波を正面から真っ二つに分けるよう――歩き、殲滅していく。
その後ろを追う、魔法士達は魔獣の残党を、火魔法で容易に掃討していく――敗戦処理。
(なんと……、楽なんじゃ……)
ゴルドエ 含む、『 魔法師 』はここまで一つも魔法を使っていないのである。
そして、……一行はこの洞窟の終わり、開けた――出口まで到着する。
それはこの包囲網の外、魔獣達の罠を突破したということであった。
「 後続は全員、無事ですか? 」
ゲイリーが全員の安否を確認する。
「 ……ああ、大丈夫じゃあ…… 」
と、ゴルドエは汗を滲ませながら答えた。
ほとんどの戦闘はこの老紳士がほぼ一人で片付けてしまった。
この戦果は彼も想定外の事である。
「 そうですか、……そろそろ、頃合いでしょう…… 」
「 …………? 」
そう、ゲイリー が呟くと――。
周囲を空間を歪めるほどの魔力を練る。
「――――――――――!!!!!!!!!!?」
老紳士の目が、深い眼窩の奥で、引き絞られるようにして力を帯びる。
( 一体……何を!?…… )
―― 我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、火よ風よ 荒れ狂う嵐となり全てを呑込め 業炎旋風―― 四十重復唱 ――。
ゲイリーの詠唱を皮切りに……。
来た道、洞穴の奥から断続する、地響き。
―― 爆発音が洞窟内に反響する ――。
それが次第に大きくなり……。
そして……。
―― 強烈な熱風が、轟音と共になだれ込む ――。
「――――――――――!!!!!!!!!!!!!?」
魔法士達の重厚なローブ服を揺らすほどの突風。地肌を炙る――熱に皆、一様に屈み耐える。
その衝撃の中から魔獣達の悲鳴にも似た叫び声が木霊していた。
( なんじゃぁ!!!!!!!!!!……何が起きた……!!!?)
ゴルドエ は顔を両腕で隠し、その衝撃に耐えていた。
次第に、その熱風は収まり、……辺りは。
……鼓膜を狂わす――静寂に包まれる……。
視界を覆い隠すほどの白い焼煙、焼き焦げた匂いが洞窟中に充満していた。
魔法士達は何が起きたのか……、誰一人、理解できない、そんな様子である。
―― ただ、この老人が何かをして ――。
―― 結果、魔獣の群れが全滅した ――。
ということだけが、……そこに残ったのだ……。
あっけにとられ、立ち尽くす――魔法士達。
そんな困惑の渦中……。
「 さあ、先を急ぎましょう 」
ただ、平然と ゲイリー は行軍を促すのであった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
最終章 クルードセツア迷宮攻略編の開幕 でございます。
この章は作品内の最強のキャラ ゲイリー・バトラー が活躍します。
そんな彼に相応しい、チート級の敵をご用意しました。
次回をお楽しみいただければ、幸いです。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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