愚者達の意趣晴らし
――ディオレの眼差しはどこまでも虚ろい、黒く深く霞んでいた――。
その諦観を……。
金髪の悪魔は鼻で笑った。
「――――――――!?」
「お前の話しは……それだけか……?」
アウレの金色の前髪から碧いの双眸が燃え盛る。
「それで?……終わりか?ディオレ・ロレンチ!お前はそうやって、手を汚し、国外逃亡すらままならず、こうして……生にしがみつくことすらも諦め、ただ キャンキャン! と不満を吠えるだけの……敗け犬なのか?」
「――お、お前に、なにがわかる――!!!!!」
「――おお、聞き飽きた――常套句だ!」
悠々不敵に笑みを零し……。
「奴隷以下?人権はない?そんなの知ったこっちゃねーよ!」
なお、挑発するような飄々とした調子で語り出す。
「みっともなく足掻けよ!もっと、……怒れ! 泣け! 喚け! 叫べ!」
立ち上がり……部屋の中で。
「油断する、奴らの喉元を咬みちぎってやれ!」
身振り手振りを踏まえ、熱弁する――政治家のように……。
「―― いいか!よく聴け!人間の一番の武器、力は……この、どす黒く煮え滾る――復讐心という汚い感情だ! ――」
その腐った自論を……。
さも、妙案だと、高らかに吠える――独裁者のように……。
その光景にディオレは息を呑んだ。
「上等だ!俺らはゴミだ!……なら、ゴミはゴミなりに生きてやろうじゃねーか!」
なんだ……!?この少女は……!?
「国はゴミを判別し、捨てる?そんなの当たり前だろ!……だから、作るんだよ、ゴミの溜まり場を……ここに!」
本当に、貴族か……!?
「酒場を、賭博場を、遊郭を……」
まるで……。
「ふん!見せてやろーじゃないか!ゴミ共が泥水をすすり、着飾っているそのお貴族様にぶちまける汚物よ!」
……まるで、こっち側の人間ではないか。
「「 お前が無理なら、俺が見せてやる!だから、手を貸せ! ディオレ・ロレンチ !!! 」」
…………。
…………。
「……ふん……お前みたいな、ガキに何ができる……」
「――できる!それがこれだ――!!!!!」
――アウレは懐から小瓶を出し、勢いよく、テーブルの上に置いた――。
「…………!?なんだ!?……ただの< 魔力水 >ではないか……?」
「――違うぞ、ディオレ!これは人を惑わす――< 魔力水 >だ!」
舌を鳴らし、指を振って。
――その理由を雄弁に語り出す――。
「これを飲むと……聖人だろうが、老人だろうが、関係なく盛りついた犬のようになる――禁断の『 媚薬 』――だ!」
「――――――!?」
「……まず、これを美容薬として貴族内のご夫人達に流す……」
悪魔はなお、囁く。
「……すると、どうだ!徐々に、これの持つ色香に惑わされ、使わないと駄目な身体になる。そして……次第に求め始める。そう!これ無しでは生きられない身体にさせるんだよ!」
そして、「これでもか!」というほど口角を吊り上げ、猛毒をまき散らす。
「……たちまち、国中に常習者――貴族のゴミ共が出来上がるという代物だ!そう!お前と俺でこの国を汚物に変えてやるんだよ!どうだ!愉快だろ!」
そう、言い放ち、金髪の悪魔は……。
「あっはっははははひゃぁぁぁはははっはひゃぁはははぁぁはひゃゃぁぁぁ!」
腐った高笑いを始めた。
が……。
「………………えっ……!?」
部屋中に……変な空気が流れ始める。
後ろで控えていたイザベルは頭を抱えて、項垂れていた。
そして、……。
それを最後まで静かに聞いていたディオレは。
小さく震え始めるのであった。
「……そ、そんなことが、……できるわけなかろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
――その時、怒りを遮るようにして。
「――ふざけるのも、たいがいに――!?」
「コンコン!」と。
ドアをノック音が聞こえた――。
「なんだぁあ”あぁぁぁあああ!?こんな、大事な時にぃぃぃぃ!!!!!」
「ヒィィー!!す、すいません!ですが……その……ご客人達がお見えになられておりまして……」
「――客人!?今、取り込み中だ!!後にしろ――」
――その瞬間――。
部屋の空気が一変するような勢いで、扉が開く――。
「――――なんだ!!!?――お前達は――!!?」
上質な漆黒のローブ。
背中に金色の大炎の刺繡。
それは……武装した――魔法士達であった。
その者達は、次から次へと部屋に入ってきて……。
あっという間にディオレ達を包囲する……。
そして、……。
その奥から……。
「コツ!コツ!」と、優雅な靴音が部屋中に木霊する。
ゆっくりと歩く――人影。
黒と白の整った給仕服に……光輝く銀色の白髪と白いあご髭。
「な、な、な――――――――――――!!!?」
その顔を見て、アウレは顎が外れるほど、衝撃を受ける……。
イザベルは急いで――顔を隠していた。
「な、な、なぜ…………!?」
その片方だけ丸い眼鏡 < モノクロ > が反射する。
見覚えのある――老紳士。
「……お前がここにいる……!!!?」
その姿に……取り乱したディオレは思わず、その名を大声で叫んだ――。
「「 ―― ゲイリー・バトラー !!!!!!!!!!!!!! ―― 」」
「失礼!……おや、お嬢様……。こちらにいましたか……?」
マキシウス家の執事長 ゲイリーはお嬢様を見て――微笑む。
(……やべぇ!やべぇ!やべぇ――――!)
それは――殺気交じりの笑みであった。
アウレを一瞥したゲイリーは……鋭い視線をすかさず、ディオレに向ける。
その全てを見透かすような瞳にディオレは……。
蛇に睨まれた蛙のように狼狽えていた。
「お久しぶりです。ディオレ・ロレンチ様。なかなか、こちらへ出向けず、大変、申し訳ございません。……何やら……私がいない間に、城の中に『大きな鼠』が侵入したようで、後始末に時間がかかっておりました」
そう、話す――言葉の端々に、棘がある。
――この男は全てを知っている――。
焦るディオレはその表情を必死で堪えた。
「……きょ、今日は、どのような、ご、ご用件で来られたのですか……?」
「今日はこのリセポーセでも有数の大商人でも有らせられる ディオレ・ロレンチ 様にお願いがあり、こうして伺わせて頂きました。」
そう呟く――老紳士に……。
―― 一人の老魔法師が並び立つ ――。
顔の深い皺に刻まれる無数の傷。
筋骨隆々の身体に、羽織った使い古しの漆黒のローブを纏い、下には重厚な鎧を覗かせる。
その姿は、まさしく……熟練の魔法師と云った風貌であった。
「ん……?そちらの御仁は……?」と不思議そうな顔を覗かせるディオレに。
――静かな口調で突きつけるのであった――。
「紹介させて頂きます。こちらは アルトバラン・メルバトス 様の腹心で 元 |火源≪サラマンダー≫魔法師団 副団長 ゴルドエ・ベルトライン 様と……」
ゲイリーの眼光が炯々と、睜 かれる。
「…………その私兵|五百名です」
「――な――――――――!!!!!?」
ディオレは驚きのあまり、窓の外に顔を突き出す。
すると、見下ろす眼下……。
広大なロレンチ商会の屋敷を包囲するように……。
――大勢の魔法士が立っていた――。
それは、逃げられない状況……。
いや、取り調べだ。
「今回、ディオレ・ロレンチ様には資金援助をお願いしたく存じます」
ディオレは……そのお願いを聞くしかないのである。
「……い、いったい、何をするのだ!?」
ゲイリーはその問いに不敵な笑みを溢し――答える。
「 ――勿論、――< クルードセツア迷宮 >の攻略 ――です。 」
「――な、な――――――な――――!!!!!?」
もはや、言葉を失い、呆然と立ち尽くす――ディオレ。
――その姿にゲイリーは更なる追い打ちをかける――。
「……ああ、それと貴方が雇った子供達、二十三名は、こちらで保護させていただきましたので……あしからず。」
その言葉は聞いて、ディオレはその場に膝から崩れ落ちる様に項垂れるのであった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。
いやー、
うちの娘、主人公が 某 牛丼チェーン店の取締役でなくて
本当に良かった!(笑)
これにて、3章の終了でございます。
そして・・・
4章 < クルードセツア迷宮 >の攻略編の決定です。
最後の章は全話
激戦、激動、驚愕の内容となっています。
お楽しみにしていただけると幸いです。
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