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交渉とは言えない、なにか


 夜霧に包まれたリセポーセ街の外れの一等地。

 豪華な屋敷の門前に顔を覆い隠す――白い道服の女が敷地内へと入っていく。

 肩には子供一人が入れる大きさの袋を抱え、……門を叩く――。

 すると……。中から身なりの整った使用人が出てきて、2階の、とある部屋へと通されるのであった。

 

 女が部屋に入ると、そこには……。

 煌びやか魔石の装飾品をあしらった上質な毛皮の上着。

 端正に編み込まれた布を贅沢にあしらった肌着、洋袴を身に着ける。

 傍から見れば貴族とも見紛うほどの、成金ぶりの小太り中年男。

 

 吉報を今か今かと、待ちかね様子の……。


 ――この屋敷の主 ディオレ・ロレンチ の姿であった――。


 開口一番……。

 

 「遅いぞ!……他の奴らはどうした……!?」


 その疑問に、女は首を横に振った。

 そして、テーブル上に抱えていた大袋をそっと降ろす……。


 その様子を……察した、ディオレは「そうか……」と呟き……。


 ……俯いた。


 

 ――その瞬間――。


 

 突如、大袋の口が勢いよく開き――。


 鋭い短剣の刃が――。


 ディオレの首元に――。


 突き付けられたのであった。

 

 

 「――な――――――――!!!?」


 

 その向けられた凶器に――思わず……息を呑む。

 切っ先がその動きに触れ、一筋の血が流れる。

 必死の形相のディオレは首を上げ、更に無抵抗の証として静かに両手を挙げた。

 

 (……なんだ!?……何が起きた!?)

 

 ……混乱するディオレが視線を下げると……。

 そこには……机の上に立つ――金髪碧眼の少女。

 

 その横には……殻になった大袋。

 

 白い修道服の女は素顔を見せ、眼鏡をかけなおす。


 (……この眼鏡の女は……見覚えない……が……この少女は……!?)


 そう、――見覚えがあるのだ。

 それは、まさしく――標的対象(アウレ・マキシウス)であった。

 

 額から冷たい汗が滲ませるディオレは、視線を縫い付けたまま、その金髪の少女を、じっと見つめる。

 

 (どういうことだ……。)

 

 そして、……混濁し、錯綜する。


 確か……あの日、……壇上で見た姿は……天使のような幼い子供であった。

 

 ……だが、今はどうだ。

 

 この凶悪に向ける視線は……。

 

 まるで……悪魔の子、のようではないか……。


 ――そうか!……こいつがここにいる……ということは……。


 ――わしの計画は失敗したのか――。

 

 その異様な状況に、ディオレ・ロレンチは全てを悟った。


 

 

 その悪魔は愛くるしい声で囁き――始める。

 

 「今、自分のおかれている状況は分かるか……?」

 

 「――――!?……と、言いますと……」

 

 ――負けじと……ディオレは、白を切る――。

 

 ワシは長年、商人として数々の修場を潜り抜けてきた。

 これしきのことで……狼狽えるわけには……いかない。

 

 そう、汗ばむ――ディオレの表情から……薄ら笑いが浮かぶ。


 しかし……。

 

 「襲撃者の生き残りがしっかりと吐いたぞ、お前の名を……」


 その言葉を聞き、ディオレは後ろに倒れこむように力なく、ソファに座った。

 

 そして……表情から徐々に生気が薄れていく。

 それは、まるでいつかこのような事が、起きると、覚悟をしていたかのようであった。


 その様子に。


 アウレは剣を向けたまま、冷徹な視線を送り続けた。

 

 「なるほど……それで……?……私はここで殺されるのですか?」

 

 「――いいや、だから来た――」

 

 「――――――!?」

 

 「俺に協力をしろ!」


 その言葉に……さすがのディオレも驚きの表情を隠せなかった。

 

 「これは……?また、何を……おしゃっているか、わかりませんなぁ……?」

 

 「言葉通りだよ、これは懇願ではない、命令だ!」

 

 そう、言い放ったアウレはゆっくりと……短剣を鞘に納め……。

 

 ディオレの正面に座る……。


 

 ――そして、今――。

 

 

 一つのテーブルを挟み……。

 

 両者が同じ卓、同じ目線で――相対するであった。


 

 開幕直後……。

 

 アウレは真ん中のテーブルに脚を乗せ、威圧的な態度を見せる。

 

 その態度にディオレ・ロレンチは今までの温和な態度を崩し、豹変させた。

 

 「はっ……ガキが!てめえに何がわかる!」


 懐の葉巻を取り出す――ディオレは……。

 

 「いいか!てめえみたいなガキにはまだ、わからねぇだろうが……この際だから教えておいてやる……」


 火をつけ、白い煙を口の中で燻らせ……。

 

 「――この国は、もはや、糞の塊だ!――」

 

 アウレへと白い息を吐きかける。

 そして……罵詈雑言をのせるかのように語り出すのであった。

 

 「……この国はすべてが貴族、王族中心の社会だ!魔法を使えない平民達に人権などはない!」


 これは……この国に対する――ディオレ個人の思い。

 

 「民達は安月給で働き、貴族どもはその甘い汁をすすりながら私腹を肥やす。それが、生まれて死ぬまで続く。そして、一生こき使われ、捨てられるだけの……奴隷、いや――それ以下だ!」

 

 それは……この国に生まれ、商人として、見てきた――汚い部分。

 

 「……残念ながら、貴族というもんを知らん者達はその処遇に気づきもせず、暮らしておる。それが……至極当然で当たり前かのように!そんなものが、幸せか?」

 

 正義感……。疾うに忘れた感情である。

 

 「一部の上流階級の庶民は意を唱えることもせず、傍観を決め込み……頭を下げ、我が身かわいさに火の粉がかからんように立ち回っておる……」


 次第に……その憐れみと哀れみは、強い怒りへと変貌する。

 

 ダン!

 

「そんな生活に嫌気がさしたときにこの所業だ!」

 

 ディオレは強く机を叩き、なお、語尾を増す。

 

 ダン!

 

「何が、戦争だ!」

 

 ダン!

 

「何が、大義だ!」

 

 ダン!

 

「ただ、領土と強さを固辞したいだけだろうがぁぁ”ぁぁああ!まったく、< 1セル >にもならん事をしおって、糞どもっがぁ”ぁぁああ!!!!!」

 

 ディオレは鼻息を荒げる。

 振り下ろした拳から真紅の血が滴り落ちていた。


 

 戦時において、愛国心とは国が国であるために、民に強いる……聞き馴染みの良い――綺麗事だ。

 

 つまりは……国のために死んでくれ……ということ。

 

 国とは社会とは、枠組み、集団……。

 では、その形を、輪郭を、保つための犠牲は……誰が……なればいい?

 そう――それは、その輪から外れた奴が、なればいいのである。


 そのための理由などは……なんだっていい。


 大事なのはそれが――自分でないことだ。


 他人が、どうなろうと自分さえ、平穏無事なら、なんだっていい。


 あらゆる詭弁で正当化し、目を、耳を、口を塞ぐ。


 なぜなら、その事、自体に……関わりたくないし、考えたくもないからだ。

 

 若い頃はその問題に、腹を立て、立ち向かっていた時期があった。

 それを若気の至り……とでも云うのだろうか。

 しかし、……。

 抗いきれない権力が――。

 社会が――。

 それを許しはしなかった。


 その多くが見せしめに処刑された。

 ある者は……生きたまま、その身を焼かれ……。

 また、ある者は、岩の槍で串刺しされた。

 

 身に沁みるほど――恐怖と絶望を味わった。

 

 敗北、挫折、落胆、大腐、失望、絶念、悲観、自棄、自傷、失態、蹉跌、頓挫、屈辱……。

 

 それは……どれだけ、言葉にしても表しきれない――無力感。

 

 そして気が付けば、腰から下まで……どっぷりと染まっていく。

 

 そう、奴らと同じ……。

 

 罪悪という沼に。

 

 それがゆっくりと奪っていくのだ。

 

 この身から――抵抗する思考を、――生きる活力を。

 

 そして、飲み込まれ……沈んでいく。

 

 ――ディオレの眼差しはどこまでも虚ろい、黒く深く霞んでいた――。

 

 

 その諦観を……。

 

 

 金髪の悪魔(アウレ・マキシウス)は鼻で笑った。

 

 

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ご愛読頂き誠にありがとうございます。


この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。


作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。


3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。


このクライマックスの為の3章でございます。

ラスト1話。

種明かし と ちゃぶ台返し させて頂きます。


この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方

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