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マキシウス家強襲 ~手練手管~

 

 マキシウス家の中庭に魔獣達の……。

 

 獰猛な牙が――。

 

 獲物を求める爪が――。

 

 荒い息遣いが――。

 

 今か、今かと……音を立てる。

 その殺意は生温かい風に乗り、悪臭がそこらじゅうに漂う。

 

 遥か上空、闇に浮かぶ下弦の月。

 それに重なるよう……カトリーヌは高く高く、手を掲げ……。

 


 交差した瞬間――押し潰すように振り下ろす。



 それが()()となり――。



 魔獣達の怒涛の足音が――。


 

 一斉にその一点(李 蓮花)へと襲いかかる――。



 (――――来たアル――――!!!)


 

 疾風が巻き起こり、土子埃が辺りを覆い隠す。

 二つの団子髪から編まれた三つ編みを大きく揺らし……。

 蓮花は、その雪崩のように襲い来る魔獣の群れに――正面から立ち向う。


 一 対 約百数十。


 あっという間に呑み込まれた小さな少女に……。

 無数の牙、爪が――我先にと、襲い掛かる。

 

 噛みつき――。

 引き裂く――。

 

 それらを避ける……蓮花。その死角から続々と飛びかかる。


(……この乱戦では被弾は免れないネ……。)

 

 しかし、固有魔術< 白虎纏鎧 >の白き『 魔力の鎧 』がそれを阻んだのだった。


 蓮花には< 白雷迅雷 >という奥の手がある。

 これなら、攻防一体で触れる物を一瞬で焦土にすることが出来る。

 しかし、問題は膨大な魔力の消費であった。つまり、諸刃の剣。

 そのため、ここぞ!というタイミングでしか行使するのが定石であった。

 そう、確実にカトリーヌまで届く――タイミングでしか使えないのだ。

 

 今は魔獣達の注意をこちらへと向ける必要がある。

 更に、残りの襲撃者を警戒しながら、抗戦しなければならない状況……。


 「ぁぁぁあ”ああああ”ああぁぁぁぁぁぁあ”あああ――!!!」

 

 蓮花は雄叫びと共に身体を独楽のように回転させ吹き飛ばし、無我夢中で『 魔力の爪 』を振るう。

 

 もはや、技なんていう綺麗なものはない。

 

 只々、迫りくるものを只々、薙ぎ払う――純粋な暴力。

 

 一振りする度、魔獣の肉片が空へと散らばる。

 中心円に血溜まりが広がっていく。

 

 それでもなお、死を恐れることのない魔獣達は、突撃してくる。

 

 『 瞬歩 』で動き回る蓮花は後ずさりしつつ――迎撃。

 場内の至るところに血の華が咲く。

 

 止まない魔獣達……追撃。

 それを蹴散らしては……離脱を繰り返す。

 それは囲まれないよう立ち回る……ヒット&アウェイ。

 

 ――蓮花の狙いは時間を稼ぐことであった。


 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 


 蓮花の後手、後手のジリ貧の戦いは続く――。

 

 もう、何時間たったアルか……?

 

 紅く染まった視界が歪む。

 

 魔力はどのくらい、もつ……アルか……?


 身体の感覚、痛みはもう感じられない。


 そもそも……イザベル達(助け)は来るネ……?


 さまざまな疑心暗鬼の中、蓮花はその最期の最期まで『 魔力の爪 』を振るう――。

 

 

 ――その刹那。


 

「 ――汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 氷河の障壁と成せ  樹氷河(グレイサーフロスト)―― 」


 

 詠唱が木霊する。


 

「――――――――!?」



 瞬間――蓮花の目の前を……。



 凄まじい冷気が吹き荒れ、視界を遮る。


 

 蓮花が目を開けると……。

 襲い掛かろうとした魔獣達の時が止まり、凍結死していたのだった。



 それは、中庭の中央。

 魔獣達と蓮花を分けるように、遮る――アンヌ・マキシウスの魔法であった。



 ウェルターの視界にこちらへと向かってくるアンヌ、イザベル、アウレの3人の姿が映り込む。


 その姿にたまらず叫ぶ――。


 「――アンヌ、アウレ!無事だったか――!!!」


 ウェルターはすがりつくような声を出し、愛妻(アンヌ)を抱きしめようとした。


 しかし……。


「――あなた!」

 

 怒気を含む、静かな声と微笑み。


「――はい!」

 

 アンヌは消耗しきった蓮花の姿を一瞥し……。

 穏やか目ながらもその冷たい眼差しをウェルターに向ける。

 

 その無言の説教に……ウェルターは背筋を伸ばし……。


「すいませんでした!やります!」


 謝罪の詠唱を始める。


「 ――汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 延焼する火と成せ  飛火(フォコボランテ)―― 」

 

 蓮花へと迫る――魔獣に向けられた。

 その広範囲の火魔法は、威力こそないが……攪乱するには充分な効果があった。

 

 それは蓮花に束の間、息を入れた――魔法攻撃。


 その隙をついてアウレ、イザベルが蓮花の元に合流するのであった。


 

「――なんだ!!!?あれは……!!!?」

 

 

 アウレの眼に飛び込んできたのは……。

 有象無象の妖怪の群れが、大挙、跋扈する中庭。

 美しい花壇は、踏みつけられ……無惨な荒地、戦場と化していた。


「……蓮花!大丈夫……?」


 イザベルは膝をつき、荒くなった呼吸を整える――蓮花に声をかける。


「……楽勝……ネ……誰に……向かって……言っている……アルよ……」

 

 その傷だらけの姿は。

 ここまでの戦闘の様子が目に浮かぶようだった。

 

「……状況はどう……?」

 

「……んー、……悪いネ……。最悪、アル……よ!」


 苦し紛れの調子で答える。

 しかし、疲労の色は流石に隠せていない。


 そんな蓮花にイザベルは紫色の毒々しい小瓶――< 魔力水 >を渡す。

 それはニーナ特製の媚薬で……効果は普通の< 魔力水 >以上の魔力の回復がある。

 それを受け取った蓮花は、一瞬、不快感を表したが……。

 躊躇わずに一気で飲み干し、……呼吸を整える。

 

 (……ここまで……蓮花が追い詰められるなんて……)


 イザベルは改めて周囲を見渡した。


 (――――⁉……あれは……)


 視線の先、魔獣の群れの合間、奥に悠然と佇む……女性の姿。

 

 (――カトリーヌさん!?)

 

 そのイザベル達の加勢に気付いたのか……。

 

 再び、降り注ぐ夜空に両手を広げ、空間を歪ませ始める。

 続々と零れ落ちてくる――魔獣……。


 それは第2波、増援の準備であった。


「……この魔術は……『 召喚魔術 』?……一体……!?」


「……たぶん、違うネ……これは参ったネ……イザベルも知らない魔術……アルか……!?」


「……お嬢様は、何か……分かりますか……?」


 アウレは、碧い目を細め……目の前の広がる光景を映す。

 魔獣の群れの隙間から見えるカトリーヌの姿。

 その手から、歪む空間……の下から……。

 

「……!?んん”!?何か歪んでいるところから……光る……細い線が……」


「――!?やっぱり、そうネ……『 魔脈 』に干渉している魔術、……< 死の転移陣(デスポット) > アルよ……」


「――――!?『 魔脈 』に干渉……< 死の転移陣(デスポット) >!?そんなことって……?」


 イザベルは困惑を隠せない。

 にわかに信じ難いことだからだ。

 『 魔脈 』は本来、存在は知られていても見えない、触れられないものなのである。

 ましてや、それを利用する魔術など……。


「『 魔脈 』に干渉は……昔、 师傅(シーフー) に聞いたことがあるだけネ、詳しくは知らないアルよ……」


 イザベルは更に思考を巡らす。

 そもそも、< 死の転移陣(デスポット) >という()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?――と。


 しかし、今は……。

 

「……とにかく、あの魔術を止めるには術者をどうにかしないと行けません……」

 

 その言葉を聞き、汗を拭う蓮花は、立ち上がる。

 

 まだ、やることがある。

 

 「……これだけ加勢がいれば……もう安心ネ……心よく、やれるアル……」


 再び、瞳に光を灯す。

 そして……身体中に魔力を練り上げる――『 魔力制御 』。

 それはいつもより強烈に、循環していく。

 

 < 白虎纏鎧 >。

 

 やがて……その全身、魔力は白雷を帯び始める。

 

 < 白雷迅雷 >。

 

「……先陣は私がやるネ、……お嬢ー(アウレ)、は助攻、イザベルは後方支援するお願いするネ……」


 その気迫と……。

 作戦に、イザベルが静かに頷く。

 

「……では、奥様と旦那様は……私と一緒に蓮花達の後方支援をお願いします!」


「――分かったわ!」


 その時、真剣な顔をするウェルターが両手を広げ、立ちはだかる。


「――いや、駄目だ!これ以上……アウレちゃんを危ない目に合わせるわけにはいかない……」


 と、へっぴり腰で魔獣の群れに挑もうとする。


 その首元をアンヌは抑え……。


 そして、微笑みを浮かべたまま呟くのだった。


 ――「あなたは足手まといなので大人しくして頂戴!」――。


 


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 

 「な、くそっ……!!」


 魔獣の群れの中を……アウレが強引に剣を振る。


 足元の襲いかかる 狂狼(ワアルウルフ) を斬り伏せ、飛んでくる 毒蛇(レイサーペント)毒蛇(レイサーペント) を捌き、その間から狡猾に攻撃する 小鬼(ウールゴブリン) に対処する。

 

 しかし、……手数が追い付かず。


 ……上手く前に進めない。


 アウレは合戦の経験はない。

 加えて、この異業種の化物の変則的な攻撃だ。

 多少、冒険者として魔獣の戦闘を積んでいるが、この雪崩の如く――襲い来る、乱戦は初体験であった。

 

 先行する蓮花との距離が開いていく。

 

(……何が違うんだ……)

 

 アウレは蓮花の闘い方を冷静に分析した。

 

 蓮花は襲い来る魔獣の群れを『 魔力の爪 』で切り裂き、確実に前進していく。

 それは魔獣の細かい攻撃を『 魔力の鎧 』で受け止め、触れる全てを白雷で焼き焦がしていく。


 アウレはここで……初めて気が付く。


 この、『 練功術 』という魔術はまさに、この状況に強い魔術だと。

 

 合戦は被弾を避ける事は出来ない戦いだ。

 その為、多少の攻撃を防ぐ事の出来る防御力――『 魔力の鎧 』と、それを突破する破壊力が必要となる。


 (そうか!なるほどな……)

 

 アウレの剣、北辰一刀流は、()()()()

 しかし、その想定は人、剣客同士のもので、人外である、魔獣の攻撃に対する型はない。


(つまり……、一度、全てを忘れて、この世界に対応しなければならないということか……)


 アウレは『 魔力の鎧 』――『 外功 』を意識し、高める。

 そして、身体の周りに循環させ、攻撃の衝撃を捌く――『 流水 』。

 

 絶えず動き回る――と同時に剣を振るう。

 無駄な『 力み 』はいらない。

 剣先を常に揺らし、『 静 』の状態を作らない――北辰一刀流の独特の構え 『 鶺鴒の尾 』。

 

 時に『 魔力の鎧 』で受け止め――捌き、体重移動の勢いを剣速に乗せていく。

 

 『 肉を切らせず、骨を断つ 』

 

 まさに、師の言葉通りの『 剣は身体で振る 』と云うものとなっていた。

 

 (……この戦いは参考になる……)

 

 アウレは鼻息を荒げて――感心する。


 理由は三つ。


 一つは魔獣の群れに対応していく――自分自身の成長。


 もう一つは……その模範となる蓮花の闘い方。

 

 そして、もう一つ……。


 イザベルの支援である。

 

 押し寄せる無数の魔獣を、武のみで圧倒していく――蓮花の猛攻。

 その突破口から漏れる、魔獣の攻撃を絶妙な間で防ぐ、イザベルの透明な壁――魔術の『疑似障壁』。

 

 その効果は死角からの攻撃を防ぎ、更に後方の支援攻撃の射線を通す。

 

 「――奥様!旦那様!お願いします!」

 

 アンヌの氷水魔法とウェルターの火炎魔法が魔獣の大群の片翼に蹴散らす。


 その強大な支援と恩恵は助攻の役目を担う――アウレにも施されていた。


 (……魔術の支援があると……こうも……戦いやすいのか?)

 

 アウレの眼にイザベルの魔術が移りこむ。

 それはイザベルの手から伸びる無数の『 魔力の糸 』。

 その糸の先は蓮花と、アウレの『 宝飾品の魔具 』へと繋がっていた。

 

 フィッツロイ族秘伝魔術。『 魔導 』の特性は、『 術式の改変 』である。

 

 その一つ、『 遠隔魔術 』。

 

 本来、魔術は、『 魔術の触媒(術式を付与した魔石) 』に触れていないと発動しない。故に、『 魔具(魔石の加工品) 』を身に着け、武器としている。

 そして、魔導師は、『 魔術回路(パス) 』という『 魔力の糸 』を通して、遠隔でも発動することが出来るのであった。


 驚くべきはその二人(蓮花と、アウレ)の状況を的確把握し、同時並行で行うイザベルの技術だった。


 それこそ、術式を編む者 ――魔導師――。


 


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 それはある日の魔術授業にて……。

 

 「お嬢様、これを……」

 

 イザベルは一つの首飾りをアウレに渡す。

 

 「ん?……これは、『 魔具 』か……?」

 

 「その通りです!これは、私が作った『 魔具 』です。もうすぐ、11歳の誕生日なのでプレゼントします!」

 

 「おお!あんがとうー!」


 「これは消耗品ですが、私の特別製の『 術式 』が組んであるので、耐久性ありますよ」

 

 「これは使えるのか?」

 

 「んー、残念ながらお嬢様の『 魔力の出力 』は桁違いなので、使えないよう制限がかけてあります……」

 

 「ええー!」と、だだをこねるアウレに一言。

 

 「その時が来たら、別の『 魔具 』を用意しますので、それまで我慢してくださいね!」

 

 そう、悪戯っぽく答えるイザベルに。

 

 アウレは「絶対!絶対!絶対!絶対!だかんなぁー!」と叫ぶのだった。


 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 「な、――――!?」

 

 突如、魔獣の群れの合間を縫って、白い修道服の衝撃者が姿を現す。

 そして……『 雷撃の魔術 』がアウレへと襲いかかる――。


(――ヤバっ――!!!)

 

 それは、束の間、油断か……。

 はたまた、この規模の魔獣の群れとの戦闘の不足か……。

 

 ――回避不可能の不意討ちだった。

 

 「――――お嬢様!」

 

 その刹那で――イザベルは手を翳す――。

 その手の先から伸びる糸、その上を魔力が稲妻のように奔り……。


 アウレの首飾りが光り出す。

 

 「 ――我、問う魔導の理を万象にて現し溢れよ、障壁なりて敵を護れ 疑似防御壁(オボローナ)―― 」


 目前に透明な壁が出現し、襲撃者の『 雷撃の魔術 』はアウレの直前で雲散する。

 それは間一髪のところで、イザベルの『 魔術障壁 』が防いだのであった。


 「……さすがだな……」


 アウレは冷や汗と、共に感嘆の声を漏らす。

 それと同時に滑るような雲足――『 瞬歩 』で襲撃者との間合いを潰し……。

 

 振り置くような、アウレの一閃は……襲撃者の首を容赦なく、刎ねたのだった。

 


 その様子、援護を背で受けて……。


 蓮花は抗戦しながらも口角を上げる。

 

 これで憂いはなくなった……。


 ――「……あと、一人ネ……」――。


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ご愛読頂き誠にありがとうございます。


この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。


作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。


3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。


全4話 マキシウス家 強襲編 の ”転” でございます。


残り1話 激戦は続きます。


この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方

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