マキシウス家強襲 ~権謀術策~
それはイザベル達が襲撃される少し前……。
李 蓮花は領主ウェルターを連れて、息抜きにマキシウス家の中庭まで、夜の散歩へと繰り出していた。
(おかしいネ……静かすぎる……まるで……城内の護衛兵士までいなくなったみたいアル……)
夜露に濡れた花が月に照らされ咲き誇る――花壇。
静寂の中、奏でる小さな音楽隊が、風に揺らされ、淡く光り飛び立つ。
その幻想的な風景に佇む、一人の女性。
その彼女に――蓮花は話しかけたのであった。
「――ここで、何をしているアルか――?」
その声に微笑を浮かべる……。
そして……。
こちらへゆっくりと……。
……振り向くのであった。
「……あら!?……こんばんは……!」
「――――!?」
そこにいたのは……。
――マキシウス家のメイド服の カトリーヌ であった――。
「やあ!カトリーヌさん、こんばんは!カトリーヌさんも散歩ですか?」
そう呟き、近づこうとするウェルターを……。
蓮花は。
右手で制した――。
「…………?」
と、不思議そうな表情を浮かべるウェルター。
その瞬間、あることに気づく――。
それは、蓮花がいつになく、真剣な顔していたからだった。
「「 もう一度聴くネ……ここで何をしているアルか!? 」」
先程よりも強い口調で問う。
その返事に……。
カトリーヌは薄ら笑みを浮かべ……。
こう――答えた。
「 ――流石ですね―― 」
その言葉と……。
殺意に――。
――蓮花は警戒感を全身で表す――。
あっけにとられるウェルターは、何が何だか……よく分かっていなかった。
――その時。
「――――――!?」
続々と、マキシウス城の壁を越えて中庭へと侵入してくる影。
白いのフード服を被った者達が……。
……カトリーヌの周りに集結するのであった。
(……修道服!?……それが……ひい、ふう、みや、とう。10人……アルか……)
白い修道服の襲撃者達……。
それは、オドミナル聖教国のものと酷似している。
蓮花はカトリーヌ含める、襲撃者達全員を視界に収め……沈み込むように構えを取る。
青白い魔力が完全な白になり、蓮花の身体にいつもより分厚く巻き付く。
やがて、手足は猛獣の鋭い爪の形へと変化する。
蓮花の固有魔術 < 白虎纏鎧 > 。
その殺気は……本気も本気の戦闘態勢。
そして、状況が飲み込めず動揺するウェルターに、一言……。
「……死にたくなかったら、自分の身は自分で守るアルよ……」
そう、言い放ち、修道服の襲撃者へと襲いかかったのだった――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『白い魔力』を帯びた蓮花の『魔力の爪』が白い修道服を切り裂く。
襲撃者達は標的を絞らせないよう散開し……。
そして、攪乱するように立ち位置を入れ替わりながら――。
――魔術を放ってくる。
その……放たれた雷撃、岩の砲撃をかいくぐって、蓮花が襲撃者を追撃する――『瞬歩』。
ウェルターはその攻防についていけず、自分の身を守ることに精一杯だった。
何度も魔術の流れ弾が当たりそうになる度……。
「 ――な、汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 障壁と成せ 魔法防御壁 」。
透明な壁 ―― < 魔法防御壁 >で自分自身を守る。
「ひぃえええ――!」
「――情けないないネ!それでも元魔法師アルか?」
戦闘の片手間、蓮花が活を入れる。
「……戦闘は苦手なんだよ!」
弱腰ながらも寸でのところで回避――防御をする。
しかし、……。
――我こそが、問う魔術の深淵を万象にて現し溢れよ、灼熱の刀なりて敵を切り裂け――炎刀。
それは、一人の襲撃者が接近し、ウェルターへ向けて放つ――魔術。
――繰り出された――燃え盛る刀が膨れ上がる。
その斬撃によって、ウェルターの< 魔法防御壁 >はガラス細工のように粉々に崩れを散った――。
「ひぃえええ――!もう駄目だ――!」
その刹那――。
(――『我こそ』、は……ネ――)
――急降下してきた蓮花の鋭い爪が……。
――襲撃者を上から押し潰す。
鈍い音と共に、地面に放射状のひびが入る……。
血飛沫がウェルターの顔にかかり、慄く声をあげていた。
それ以上に……。
蓮花の身体は、血に染まっていたのであった。
(……あと、残り……7人……アルか。……しかし、問題はカトリーヌ本人ネ……)
それは、戦闘が始まって以来、カトリーヌだけが動いていないのである。
只々、傍観を決め込んでいるのだ。
(……おかしいネ……)
カトリーヌのことは、この城に来た時からよく知っている。
蓮花にとってはマキシウス家の使用人で普通の一般人。
しかし、今はどうネ……?……この威圧感、魔力の気配……。
それは、以前とは別の……。
蓮花の直感が疼く――。
それは……この中で、一番厄介なのはカトリーヌだと。
そして、戦闘態勢崩さず、挑発するように声をかける――。
「――お前は……一体……誰、ネ――!?」
その問いに、カトリーヌは不気味に微笑む、のであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――えっ、誰って、カトリーヌさん本人じゃないか!!!?」
「――違うネ!確かに……姿形はカトリーヌそっくりアルよ!でも、気配は別人ネ!」
――そう呟いたその時。
突如、カトリーヌが、動く――。
それは彼女が夜空へと大きく両手を広げたのだった。
「…………!?」
視線の先、彼女の掌の上……。
二つの黒く歪んだ闇、その空間の切れ目から……。
「――な、――――――――!?」
――魔獣が続々と零れ落ちてくる。
それは、……。
人間の子供の大きさで頭に二本の角を生やし、全身は灰青色。冒険者同様に剣、棍棒、弓矢を扱う、異業の化物。
小鬼が――。
全身、鱗に覆われ、うねりながら動き、とぐろ巻く。その口は人くらいなら丸吞みしてまう獰猛な魔獣。
毒蛇が――。
鋭い牙を持ち、頭に一本の角を生やす。静電気を帯びるその全身の体毛を逆立せる凶暴な獣。
狂狼が――。
ダンジョンに潜れば必ず一度は目にする低級の魔獣。
しかし、ここは人が住まう街……リセポーセの中心部でもあるマキシウス家の中庭に突如、出現したのだった。
その光景に――絶句する二人。
一匹ずつなら、大した障害ではない……しかし、驚くべきはその数だった。
カトリーヌの掌、歪んだ切れ目から生まれ続ける――その魔獣達は、美しい花壇を踏み荒らす……。
――終わらない無法侵入――。
こんな魔術は……見たことがない。
(……これは……『 召喚魔術 』?……とは違う……ネ、これは……)
額を伝う小さな汗が連なる。異様なこの場に零れた。
歪んだ苦笑いを嚙み殺す。
(……これは……早々に止めなくては……ヤバいやつネ……)
――合間、襲撃者達の魔術は、留まらない――。
止まない岩の砲撃が蓮花の思考をかき乱す。
抗戦の最中、蓮花は静かに目を瞑り、息を深く吸いこむ。
「――っ――――――!!!」
それは意識の深淵を落ちていくイメージ。
……全身の魔力制御に集中する。
(これは……あまり……やりたくなかったネ……)
練りあげた魔力を高出力で一時的に濃縮、解放する。
そして――目を開けた瞬間――。
固有魔術 < 白虎纏鎧 > の『白い魔力』は雷の属性へと性質変化する。
それは、蓮花にとっての奥の手。
蓮花の固有魔術 < 白雷迅雷 >。
沈み込む態勢から白雷を帯び、練功術『瞬歩』。
その目にも留まらぬ速さはやがて……神速の領域へと踏み入れる。
振りかざす『魔力の爪』は、雷撃となり、襲撃者は瞬く間に、黒い影となった。
「―― あと……5人ネ…… ――」
その動きに、もはや襲撃者達は手に負えない。
蓮花は形勢逆転したかのように追い回し――始めた。
しかし……。
(……邪魔が……多すぎるネ……)
蓮花は、白い修道服の影を蹴散らしながら、カトリーヌを警戒する。
なお、彼女の掌からは……続々と魑魅魍魎が湧き出る。
そして……7人目の襲撃者を手にかけた……その時。
美しかったマキシウス家の中庭は……既に沢山の魔獣群れで埋めつくされていた。
その数――約百数十……。
汗を拭う――蓮花は < 白雷迅雷 > を解除する。
この魔術は魔力の消耗が激しい……。
つまりは、間に合わなかったのだ。
目の前に広がるその魔獣群れは……。
待てをされるかのように……。
待ちきれない様子で猛り立つ。
そう、ただ――人を襲うだけの獣が……。
(……統制が……取れているネ……)
それは、陣形を整え、号令を待つかのように……。
その様子に、蓮花の胸の警戒音が壊れた。
そして、苦し紛れに――質問をする。
「……これは……『魔脈』に干渉した……< 死の転移陣>……アルか……?」
その考察にカトリーヌは初めて驚いた表情を浮かべた。
(……なるほど、……これは、対応しきれないアルよ……。)
と、絶望の淵で呟くであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「また、派手にやりましたね……」
アウレの自室へとたどり着いた、イザベルは開口一番に声をあげた。
部屋の中は破壊しつくされ、……死体と血の酷い匂いがこびりつく。
「……これは、その、……ほら……あれだよ!」
と身振り手振りを交えて、慌てて弁解するアウレの様子に。
思わず、ため息をつく。
「……状況は分かりましたから、……とりあえず……私について来てください!」
「――おう!……で、この後は……どうするんだ?」
「まずは、アンヌ様のところへ向かいましょう……」
その言葉にアウレはある事を思い出す。
「そうだ!?母上!母上は今、危険ではないか?」
アンヌ・マキシウス。
アウレの母親で争い事とは無縁そうなご婦人である。
もし、襲撃者に襲われたら、と……。そう、アウレが脳裏に焦りと不安によぎった。
しかし……。
「あー、それなら…………」
「――なんだ!?これは――!?」
母アンヌの自室。扉の前でアウレは唖然する。
部屋が、丸ごと、凍っているのである。
そこにあるのは、彫刻のように凍りづけ固まる襲撃者の姿と、それを眺めている母アンヌの姿だった。
「あら、あっちゃん。心配したのよ。大丈夫だった……?」
……この状況は、……一体……なんだ……?
と、固まるアウレに、何事もなかったように、いつものウットリした顔を見せる。
「……そういえば、お嬢様は……まだ、ご存知なかったですね……」
イザベルが部屋の光景を見て呟く。
「アンヌ・マキシウス様。旧姓 アンヌ・サタリエル様。現 水源<ウンディーネ>魔法師団 団長 ゼイール・サタリエル 様の御令嬢で、中級魔術師でもあらせられます。この城の中で先生を除けば、一番の魔法師です。」
「――な、な、な、なに――――!?」
その言葉にアウレは、鯉の口のようにパクパクと動かしていた。
部屋の中は……。
凄まじい冷気とおぞましい表情を浮かべる襲撃者達の氷の像で、まさに極寒の異世界となっていた。
安心した母アンヌはアウレをギュッと抱きしめる。
その熱と胸が頬に当たる中、アウレは心の中で静かに決意するのだった。
――(この先、何があろうと……。母上だけは……絶対怒らせないようにしよう……)と――。
〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::〓:::
ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。
全4話 マキシウス家 強襲編 の ”承” でございます。
残り2話 激戦は続きます。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
上のブックマークと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです。




