マキシウス家強襲 ~詐謀偽計~
マキシウス城。
アウレ・マキシウスが眠る――子供部屋。
月明かりが照らす部屋のテラス、その窓がゆっくりと――開く。
部屋の中はクラシカルな木目調の天蓋付きベットとアンティーク調の家具が並ぶ。
その白を基調としたその豪華な部屋に……。
――そぐわぬ来訪者達――。
それは、翻すカーテンレースの隙間から突如現れた、四人組の影だった。
漆黒のマント姿の男達は、息を殺し……部屋の中へと忍び込む。
その間の物音は一切しない。
そう、襲撃者の目的はただ、一つ。
――少女を誘拐するである――。
ただ、それだけのことに彼らは慎重を期する。
なぜなら……。
――彼らは襲撃のプロ集団であった――。
元 < イドロイト皇帝国軍 > 第三魔術大隊 所属 機甲化部隊。
彼らは< 魔鉱兵器 >と言われる魔具を武装する近接戦闘兵である。
主な任務は対人戦闘や暗殺。
汚れ仕事を淡々と行えるこの部隊にまともな兵士はいない。
故に、彼らは軍から、国から追われる身であった。
侵入に成功した襲撃者は……少女を確認すると、合図を送る。
目下には背を向けて、寝息を立てる――金髪の少女。
白い、掛け布団は確かに呼吸に合わせ、上下している。
それは、襲撃者から見えない位置……。
――アウレの碧い眼は確かに開いていた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
月明りの光が窓から射し込み、足元を照らし出す――マキシウス家の廊下。
窓の脇には手入れされた立派な花瓶、上質な絨毯がどこまでも続く。
各部屋ごとに古扉が連なっており、灯燭台の灯がそれらを淡く照らしていた。
その明かりを頼りに イザベル・フィッツロイ は書類の内容を確認しながら、歩く……。
(……おかしい、何度もロレンチ商会には手紙を送っているはずなのに返事がない……。)
それは静かな夜。
考えに更けるのに丁度良い。
光る栗色の髪を揺らし、眼鏡越しの端正な顔、眉をひそめた……。
「これは……直接、出向かないと駄目かしら……」
そう呟いた、――その時だった。
「――――!?」
マキシウス家に侵入する――十二の魔力反応。
それらは分散し、……城内へと忍び込む。
(――こんなタイミングで襲撃者――!!!?)
イザベルは急いで引き返そうとした……。
――瞬間。
闇夜を切り裂くような衝撃音と共に、ガラスの破片が月夜の光を浴びて――散らばる。
それは、廊下の窓が派手に割れ、四人組の襲撃者達がイザベルの目の前に現れた瞬間だった。
その者達はイザベルの対面に立ち塞がる。
漆黒のマント服を纏い、服の下から物々しい重装備、魔具が覗く。
(――!?あれは……< 魔鉱兵器 >?……ということは……)
素顔を仮面で覆い、素性は分からないが……状況的に、まず間違いなく――襲撃者達である。
そして、……最前に立つ襲撃者が籠った声で語りかける。
「――女、大人しくしろ――」
襲撃者の一人は漆黒の羽織から腕を伸ばし、手甲を見せ――脅す。
手甲には穴が空いており、複数の魔石が埋め込まれている。
それは、一つの魔具から複数の術式を展開させ、無数の石の弾を四方八方に打ち出す。
イドロイト皇帝国軍式、近接魔鉱兵器。
――<散弾魔手甲>――。
そう、息巻く――襲撃者達は仮面の下でほくそ笑む。
なぜなら、彼らにとって、今回の仕事は久々の美味しいものであったからだ。
狙いは、少女の誘拐と……金品の強奪。
これは、任務とは別のおまけ。
それがいつも、やり口であった。
もし、騒ぐなら、この場で始末する。
大人しくしていれば、金目のあり方を聞き出してから……。
……始末する。
襲撃者達が、とる行動はシンプルかつ、残忍なものであった。
しかし……。
「――あら、こんばんは――」
「――――!?」
しかし、目の前の女の反応は以外なものであった。
こんな状況にもかかわらず、冷静な声で返す。
「……女、状況分かっているのか……?大きな声をあげたら殺すぞ!」
そこには、不気味に佇む一人の女。
だが、その態度は妙に落ち着いている。
(……ん?……気でも狂っているのか……?)
「――こんな夜遅くに何の御用でしょうか?」
「――――――――!?」
なお、たわいもない会話を続く。
まるで、客人を案内するかのようであつた。
「――おい、状況を理解しているのか!?」
その目は怯えるでもなく。
真っ直ぐにこちらを窺う――目だった。
「――――――――!!!?」
異変に気付く――。
と、同時に――。
「――あ”ぁぁぁああああああ!!!!!」
突如、廊下に響き渡る呻き声。
その声は後ろから聞こえた。
「――何だ――――――!!!?」
襲撃者は振り向き確認すると……それは仲間の一人が上げた――呻き声であった。
もがくように地面に倒れこみ、絨毯を血で濡らす。
「――――!!!?」
よく見ると、……右脚に、岩の槍が貫通している――。
これは……魔術か――?
……一体、何処から――?
周囲を見渡す……。
だが、痕跡は……ない!
まさか……。
この女か……!?
残された三人の視線は再び、女へと集まる。
「……で、……貴方の狙いは何ですか?」
女は何事もなかったように淡々と話を続けている。
栗色の短い髪が月夜に照らされ輝く。
静寂とうめき声が木霊する――廊下を……悠然と佇む女。
(……なんだ!この女の雰囲気は!絶対におかしい!?)
――その時。
「――あ”ぁぁぁあああああああああ!!!!!」
今度は……隣にいる仲間の左脚に岩の槍が貫通。
――再びの強襲――。
――その瞬間――。
襲撃者の目に飛び込んできたのは……。
「――――――!?」
――廊下の花瓶から射出された岩の槍であった――。
「――貴様、何をした!」
そう呟き、再度、魔具を向け――脅す。
視線は女の手や衣服を行き来する。
ありとあらゆる――可能性を模索した。
普通、魔術は魔具に触れていないと発動しない……。
そもそも……この女は詠唱すらしていない……。
(――この女の他に、魔術師が潜んでいる可能性があるが……まずはこいつを始末するべきだ――)
そう、判断した時、女の口角が綻ぶ――。
「どうやら……貴方が主犯格みたいですね……」
「――な、――なんだと――!!!?」
その瞬間、突如、下から岩の槍が現れ、襲撃者の右腕に突き刺さる。
「――ぐぅあぁぁああ”あああ!……こ、この女、何をしたぁぁぁぁあ”ああ!」
襲撃者は右腕を抑え、苦悶の表情を浮かべて叫ぶ。
そこで、ようやくあることを思い出した。
「……こ、……これは……まさか……『 遠隔魔術 』……か!?……それに……『 詠唱の改変 』まで……!?」
鼻息を荒く、必死に呼吸する襲撃者は 改めて――周囲を確認。
すると、そこには……。
小さな魔石が散りばめられた絨毯。
その装飾が……。
花瓶に……。
扉に……。
廊下の灯燭台に……、と襲撃者達を取り囲むように施されていた。
「――――!!?しまった――!?……既に……ここは!こいつの領域か!!!!?」
「やっとー、お分かり頂けましたか?」
襲撃者二人の胴体に光る網が絡まる。
身動きの取れなくなった襲撃者達は……バランスを崩して、その場にひれ伏した。
激痛で額に大量の汗が滲む。
その苦悶の表情を浮かべ、苦し紛れに問う。
「……確か、聞いたこと……がある。……オドミナル聖教国……フィッツロイ族……『魔導師』と呼ばれる……特殊な魔術を使う……先住民族がいたという……」
「……あら、博識ですね」
少し、驚いた表情をみせる女。
「ご明察です。そう、この屋敷の装飾品、全てに、我がフィッツロイ族の術式を付与された魔具が、散りばめられています」
「……ということは……俺たちは……誘いこまれた、ということか……」
女は、それ以上は語らない。
それは、……襲撃者と使用人。
襲う者と襲われる者。
その立場が逆転を意味していた。
そして……。
「さあ!洗いざらい吐いてもらいます……」
と、狂気が混じる――笑みを見せるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
剣術において、『3つの先』がある。
それは剣を交える際の初動のタイミングだ。
『先』、『後の先』、そして、『先の先』。
アウレが襲撃者に取ったのは『先の先』だった。
アウレが寝ているベッドを四方に取り囲む黒いマント姿の――襲撃者達。
その一人の襲撃者が白いシーツをはぎ取ろうとした――瞬間。
シーツが宙を舞い、襲撃者達の視界を塞ぐ――。
「――――!?」
その刹那――。
白い布を引き裂くように、鋭い光を放つ斬撃――が、仲間の一人の首を刎ねた。
「――ぅぁぁぁぁあ”あああ――!!!!!」
――悲鳴が漏れる――。
純白のシーツを盛大に濡らす、鮮やかな血飛沫。
それは、間違えなく――仲間のものであった。
そう、状況を理解した――残り三人の襲撃者は……。
即――ベッドから距離を取る。
しかし、その金髪少女はすぐに追撃。
「――な、――――!!!?」
窓際方面の襲撃者に対し、一瞬で間合いを詰めより、……再び――鋭い斬撃を放つ。
襲撃者は手甲でその剣を受け止めようとするが、……。
腕ごと袈裟に斬られ、その場で絶命した。
「……なんなんだ!?これは……?」
ガスマスクの下、襲撃者は戦慄を覚える。
視線の先にはフリルの可愛い寝間着姿の女の子。
だが、血糊がべったりとついた剣を肩に担ぎ、顔にかかった返り血を拭く。
さも、当然のように……。
一瞬で、二人をやられた襲撃者達の顔からは、もはや、油断という二文字はない。
そして、右手の手甲< 魔鉱兵器 >を見せ、詠唱を始めた。
「――んん!?あれは……!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それは……イザベルの退屈な魔術講義の内容。
「お嬢様には、各国の魔術を知って頂く必要があります!ですので……今日の授業は< イドロイト皇帝国 >の魔術<魔鉱兵器>について学んでもらいます!」
「へいへい!」
退屈そうに机に頬杖をつくアウレ。
「いいですか……< イドロイト皇帝国 >は、現在、このセルタニア魔法国と冷戦状態にあります。お嬢様がもし、魔法士になられた際、戦闘になる可能性がありますので、しっかりと聞いてください!」
「……わかったよー……」
段々と、まぶたが落ちてきて……。
「寝ないで下さーい!!!!いいですか!魔術は<魔鉱兵器>と呼ばれる魔具で、射撃してきます。基本は他の魔術、魔法同様に射線にはいらないこと。照準を絞らせない事です。……」
「……なるほど……動き回れば……いい……zZZ……」
「起きてくださ――い!お嬢様――――!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ヤバっ――!!!?)
室内に発砲音と共に――岩の弾丸が炸裂する。
アウレは狭い部屋内を縦横無尽に『瞬歩』の素早い動きで避け、続く――連撃を……。
「――――!!?くっ、早っ――!!?」
照準を合わせないように立ち回り――間合いを潰す。
襲撃者は離れようと後退し、再び、手甲<魔鉱兵器>をこちらへと向けるが……。
それよりも早く、アウレの剣が襲撃者の腕を斬り、続け様に首を斬った。
そして、……。
残り一人になった襲撃者は……。
「な、なんだぁぁ――お前はぁぁぁあ”あああ!」
再度、魔術を放つため構えるが……。
――次の瞬間、アウレはそこにはいない。
「グサッ!」と鈍い音と共に腹部から激痛が襲う。
気が付くと眼下に金色の靡く髪が見える。
その髪を掴もうとした――襲撃者の手に握力はもうない。
そのまま、ズルズルと壁にもたれ、倒れ込む。
結果、壁には縦に伸びる血の痕だけが残った。
「ふぅぅーー!!!」
アウレは息を整える。
それはまるで、軽い準備運動した後くらいの感覚。
襲撃者の腹に刺さった剣を抜き、無造作に一振り……。
剣に付着した血糊は……斬撃の形で壁に飛び散る。
「――――はっ!……やべぇ……!」
我に返ったアウレは周囲の状況を見渡して青ざめた。
アウレの自室は戦闘の影響で無惨にも、ぐちゃぐちゃになっていたのだ。
粉々に壊れた家具。
ビリビリに破かれたベット。
壁には弾痕と血飛沫の汚い絵が完成していた。
『 くれぐれも……くれぐれも自重を忘れずに、お願い致します。 』
これは出発前の執事長――ゲイリーの言葉。
「……いやいや、……これは不可抗力だって!」
と、アウレはそこにいるはずのないの ゲイリー に向かって、独り言を呟くのだった。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。
3章クライマックス マキシウス家強襲編 始まりました。
ここからは急転直下の”転”でございます。
4章(一部の最後)までノンストップです!
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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