交差する思惑
ロレンチ商会屋敷の一室。
この部屋の豪華絢爛な装飾品が、この館の富を表す。
極東都市リセポーセ中で、絶大な権力を握る大商人。
ロレンチ商会代表ディオレ・ロレンチ。
傍から見れば、ただの……小太りの裕福な商人。
だが、……。
彼のその影響力は、セルタニア魔法国の王都のみならず、世界各国まで及んでいた。
そんな彼の元に、ただならぬ客人達が訪れる。
部屋の隅に並ぶ、素性を隠す、白いフード服の異様な集団。
中でも……そのリーダーらしき女が……。
ディオレに対面で座っていた。
「……お主達の言うとおりになったな……」
ディオレが、意を決するように口を開く。
「それで……本当に……亡命の件、渡りはつけてくれるんだろうな……」
この先は後戻りのできない……一本道を行く。そんな様子であった。
「……ええ、もちろんですとも、ですが……その前に条件の確認です……」
そう、怪しく微笑む女。
ディオレは下唇を噛む。
こいつは、油断ならない……。
そう、商人の感が疼くのだ。
「――生贄はどの程度集まりましたか?」
「……それが……途中で、邪魔が入ってな、二十三人しか集まらなかった……」
それは、痛恨のミス。
しかし、――打開策は既に用意してある。
「……そうですか、それでは足りないですね……」
「――ま、待て!代用に一人、心当たりがある!……」
そう、息巻く――ディオレの額から汗が滲む。
そして……続け様に、一枚の少女の絵を、女に見せた。
「なるほど……」
その絵を見て、女は笑みを浮かべる。
「この少女の名は――アウレ・マキシウス。マキシウス家の令嬢だ。貴族の子供なら望む対価としては、事足りるのだろう?」
「ええ、申し分ないです……しかし、あの……マキシウス家ですよ……そう簡単にいくと、お思いですか?」
「――それなら心配無用だ!」
汗が伝う頬を無理矢理、引き上げる口角。
そして、ディオレは扉に向かって叫んだ――。
「――おい、入って来い。」
その声を合図に、部屋の扉が開く。
物々しい武装した兵士達が続々と入ってくる。
その殺気は、……暗殺者のそれであった。
「こいつらは、わしがもつ、最大戦力だ!」
女はその兵士達の武装を見て――呟く。
「その……手甲は……<魔鉱兵器>。彼らは……< イドロイト皇帝国 >の魔術機甲化部隊ですね」
「……ほう、知っているのか!?そうだ!……そして、今、運のいいことにあの ゲイリー・バトラー は不在。先の騒動で城内も混乱しておる。これは二度とないチャンスだ!」
その自信と不安が入り混じる――ディオレの表情。
女はそれを察したのか……。
ある不安要素を投げ掛ける。
「……しかし、ゲイリーの手のもの実力者がいますし、……少し、心許ないですね……」
口元に人差し指を数回当て……思案する。
その度に、ディオレの顔色はみるみる悪くなっていた。
そして、……。
女は再び、怪しくも軽快に――微笑む。
「いいでしょう、私が手を貸しましょう。報酬は私、自ら取りにいきましょう。」
そう呟き、即――退室していったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いいですか、お嬢様。私がいない間くれぐれも気をつけて下さい。」
ゲイリー・バトラーがメルバトス領へと出発の当日。
頭二本の角の生えた奇妙な馬に、跨り、見送る――アウレに声を掛けた。
「……何だよ、急に?大丈夫だって!安心していってこいよ!」
「くれぐれも……くれぐれも自重を忘れずに、お願い致します。」
深い皺に、疑心暗鬼の表情が浮かび上がる。
「分かった!分かったから……はよ、行けよ!」
その忠告を軽くあしらうような手振りで見送る。
その様子に一抹不安を感じつつ、ゲイリーは< 城塞都市コルコソヌ >へと出発したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
……その数日後。
下弦の月が照らし、影が濃く伸びた――マキシウス城内。静かな政務室の中から……。
「もー――無理だー――――!」
領主ウェルターの叫ぶ声が木霊する。
それは積み上がった書類の隙間、机の上に突っ伏し、心の叫びが漏れ出した瞬間であった。
その隣……ウェルターの訴えを完全に無視をするイザベルは、仕分けした書類を容赦なく次々と机の上に置いていった。
「ああ……その書類は目を通しておいてください!それから、その報告書はこちらに!」
忙しそうに指示を出すイザベルの眼鏡はいつもより、容赦のない光りを放っていた。
ダンジョンへの封鎖、立ち入り禁止令を出してからというもの課題は山済みだ。
ゲイリーが出発してからというもの、ウェルターはこの執務室に缶詰め状態であった。
「助けてくれ……」と、ウェルターが弱音を吐いた――その時、部屋の扉が開く。
「イザベルー!書類持ってきたアルよ!」
山積みの書類を抱え、蓮花が執務室に入ってきた。
「ありがとう!それはこちらに置いといて!」と忙しそうにすぐ新しい書類を仕分ける――イザベル。
そんな最中、彼女はふと、あることに気づくのだった。
「あれ?……ロディック商会の返答は……まだ、来てなかった?」
「んー……わからないネ、送られてきた書類はこれで全部アルよ!」
それを聞いたイザベルは眉間に皺を寄せた。
「もーう!再三、手紙を送ったのに!……まったく!」
そうめんどくさそうに呟くと、イザベルは執務室を飛び出していったのだった。
取り残された二人……。
蓮花は静かに窓の外、下弦の月が見ていた。
部屋の中は、書類に埋もれるウェルターの「う――ん!」という唸り声だけが響く。
その様子に見かねて蓮花は唐突に尋ねることにした。
「……終わりそうーアルかー?」
すると……。
「――ううん!全然!」
ウェルターは何かを諦め聖人君子の微笑みで即答する。
「そう、アルかー……」
興味なさげに適当な返答。……ふと、窓の下に視線が移る。
「――ええっ、助けてくれないの……」と、ウェルターは縋る目を蓮花に送っていた。
――その時、蓮花は目にした……。
窓の下、中庭に歩く物陰を……。
そして……。
「なー、ウェルター!少し気分転換しに行こうネ!」
――そう笑う、蓮花に。
ウェルターは「……?」と、不思議そうに返答するのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
煌めく、リセポーセ街の夜空の下。
下弦の月の闇に紛れて動く――怪しい十二の人影が。
家から家へと――。
リセポーセの屋根の上を縦横無尽に、駆け抜けていく。
そして……漆黒のマントを纏う男達の一人が呟いた――。
――「もうすぐ、約束の時間だ。手をはず通り行くぞ!」――。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。
次回、リセポーセ騒乱編のクライマックス マキシウス家 強襲 シリーズに突入していきます。
全ては奴の掌の上で踊ります!
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