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クルードセツア迷宮


 それは、アウレがニーナ邸を訪れた、――数か月後。

 

 セルタニア魔法国の戦争準備による増税の影は極東都市リセポーセにまで影響を及ぼしていた。


 その対策としてリセポーセ含む、メルバトス領は、ダンジョン< クルードセツア迷宮 >内の < 絶対性魔石(アブソリュート)> の需要と供給を確保。そして、王都ルミナスに大規模な輸出を開始する。

 結果、領内の財政を担保し、増税を相殺させる形で独自の減税処置をおこなう。

 それはこのリセポーセの冒険者ギルドこそが、この政策の生命線であるいうことを示していた。

 

 そんな、ギリギリのバランスが保たれた極東都市リセポーセ。

 その中心、マキシウス家は……騒がしくも穏やかな、日々が続く。


 それは帰省休暇中のカトリーヌも帰ってきて……。

 

 いつもの日常が戻ってきたかのように思えていた。

 


 マキシウス家の中庭。

 晴天の中、いつものように洗濯物を干す、カトリーヌ。

 たまたま散歩中のお団子髪のメイド服 李 蓮花が通りかかり、声を掛けたのだった――。

 

 「カトリーヌ!帰省休暇は、どうだったアルか?」


 「ええ、皆様のおかげでゆっくりと過ごせました。」


 その答えに蓮花は眉を顰める。


 「――ん!?」

 

 「どうかされました?」


 「……いや、目にゴミが入っただけアル……」

 

 蓮花はそう、()()()したのであった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 

 「ヤバい、楽しい!」

 

 アウレはうねる洞窟の中を疾走していく。


 視界に入る小型の魔獣、 < 小鬼(ウルーゴブリン) > を数体、見つけると――。

 

 ――『瞬歩』――で進行方向を急転。

 一瞬で間合いを潰し、首を刎ねた。

 

 クルードセツア迷宮。

 極東都市リセレポーセの更に北へと進んだ先に広がる地下迷宮ダンジョンである。

 森の中に突如と広がる大穴。

 そ地上から降り注ぐ大量の水が滝となって下へ下へと流れていく。

 水しぶきは太陽の光に照らされ、幾重にも虹がかかっていた。

 中はその深い大穴を囲むよう、下へと伸びる階段があり、途中で迷路のように入れ組む洞窟の道となっていた。


 「お嬢様!危ないので!先行しすぎないよう!お願いします!」


 イザベルの忠告を無視して一人、先に進むアウレ。

 栗色の髪を靡かせ、眼鏡越し、心配そうに金髪少女を追った。

 いくら、 先生(ゲイリー) から承諾を得ているとはいえ、11歳の子供が来るような場所ではない。

 

 そんな心配顔を察したのか……イザベルの横で、同じように並走する団子髪の少女――李 蓮花が呟く。


 「イザベルは心配症ネ! 立士の儀(りっしのぎ) は無事終えているんだから大丈夫アルよ!」

 

 二人はアウレの戦闘の様子を追走

 錬清国(れんせいこく) 特有の教育で戦士となるための最終試験のことである。

 錬清国(れんせいこく) では、物心ついた時から気功術の修練を行い、 师傅(シーフー) と呼ばれる武の師から認められた者のみがダンジョンへ挑戦できる。その最終試験が 立士の儀(りっしのぎ) と言い、本物の戦士として認められるのだった。

 

 イザベルは先日、アウレがおこなった 立士の儀(りっしのぎ) の様子をこの蓮花から聞いていた。

 驚くことに、この蓮花に一太刀浴びせたという。

 その結果には流石の 先生(ゲイリー) も驚いていた。

 

 しかし、ここは――クルードセツア迷宮。

 何があるかわからない危険な場所(ダンジョン)である。

 

 そこで、イザベルは事前に注意事項を言い聞かせていた。


 ――「いいですか、ダンジョンは何があるかわかりません、熟練の冒険者さえ装備を整え、気を引き締めて臨むのです。くれぐれも、はぐれないようお願いいたします」

 「はいはい、分かった、分かった。」――。


 目の前を敵を斬り刻んで更に加速しいくお嬢様(アウレ)

 

(……まるで忠告を聞いてない……)

 

 イザベルと蓮花は只々、離されないよう後を追いかけていくのであった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 

 暫くすると、3人は洞窟の先から光が漏れダンジョンの中央、大きな滝のある広場に出た。

 クルードセツア迷宮13階層、中継地点。……休憩地である。

 ここでは多くの冒険者が腰を下ろし、英気を養う。

 

 そんな中、「グー!」とお腹から大きな音が漏れた。

 

 それは……アウレと蓮花ほぼ同時であった。

 

 「ここでお昼にしましょう!」


 そう、微笑みながらイザベルは冒険者達が座っていない場所を見つけ、腰を下ろす。

 アウレ、蓮花も空腹に逆らえず、大人しく同意した。

 3人が座るとイザベルは <異空間収納鞄> からお重箱を取り出し――弁当を広げる。

 すると、そこには……。


 野菜、肉をパンで挟んだ料理がぎっしり詰まっていた。

 

 「おお!」と思わず、声が漏れる。

 

 「これは……イザベルが作ったのか?」

 

 「はい、そうですよー!」

 

 堪らない様子のアウレはその料理を一掴みすると、豪快に齧り付く。

 ふわふわのパンに葉物の新鮮な野菜の食感、からっと揚げられた肉と甘辛のタレが合わさり噛むほど肉汁が溢れる。

 アウレは頬を膨らまし、恍惚の表情を浮かべた。

 

 「なんだ!これは……!上手いな!何の肉だ!」

 

 「それは、お嬢様が仕留めた <ワアルウルフ> の肉です!だいぶ、ストックありましたから……」

 

 アウレは一瞬、口に入れようとした手が止まる。

 思い出したのである……あの斬り刻んだ犬のような魔物の姿を。

 

 しかし、……。

 

 「まあ……、いっか!」


 と気にするのを止め、食べ直し始めたのだった。

 

 その隣で蓮花は我を忘れるほど、どか喰いをしていた。

 口はリスみたいに膨れ上がっている。


 その二人の姿を見て……。

 

 「お粗末さまです!作ったかいがありました!」

 

 と嬉しそうな笑みを浮かべるイザベル。

 その顔はまるで、母の様であった。

 

 アウレはその顔を見て、「誰か嫁に貰ってやれよ!」と要らないお節介を心の中で呟くのだった。


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 

 腹ごなしも終え、「いざ出発!」というところで……。


 「ちょっと待ってください!」と、イザベルに止められた。


 「お嬢様!ここから先は危険度が増すのでダンジョンの基本知識をおさらいさせて下さい!」

 

 「えっー!ここで勉強すんのー!」


 「いいですか!まず、ダンジョンで注意すべきなのは単独行動です。何かあった時、1人では対処出来ませんから!」


 アウレは退屈そうな顔を浮かべる。

 

 「……ダンジョンで一番怖いのは()()()()の一つ、 < 魔獣大行進(サタンビート) > です。」

 

 「さたんびいと?」

 

 「そうです!これは何らかの要因で強い魔獣達が大量発生する現象です。詳しくは分かっていませんが……過去に数度、これで一つの都市が消滅した、そんな文献があります。もし、これが起きた場合はすぐにダンジョンから撤退します、いいですか?」

 

 「はいはい!」

 

 「それと……これは稀ですが、 < 死の転移陣(デスポット) > という現象が起きます。これに巻き込まれると……どこに飛ばされるかわかりません。最悪、下階層まで飛ばされ戻れなくなる可能性がありますので……むやみ、やたらに進まないこと!」

 

 「はいはい……?……それは、どう、気を付けるの?」

 

 「それは、難しいですね……普通の冒険者は『魔脈』が視えませんから……」

 

 「……!?」

 

 「お嬢様はダンジョンに入った段階で、地下を走る魔力の流れ、『魔脈』が視……ん”ん……失礼!……感じていますよね!」

 

 「……おう……?」

 

 「その流れが澱み、溜まる場所に発生すると云われています。ですが……判別するのは難しいですね……普通は巻き込まれないようにチームで動いて、発生したら、即――ギルド本部に報告するという仕組みになっています。」

 

 「とりあえず……澱み溜まる場所に近づかなければいいだな!」

 

 「そうですね、この『魔脈』は何か、というと……!?あれ?……蓮花は?」

 

 話の途中で、イザベルはさっきまでいたはずの蓮花がいないことに気が付いた。


 辺りを見渡すと……。

 他の冒険者からおやつを貰っている蓮花の姿がそこにはあった。


 「もうー!あの子何やっているの!」


 イザベルがその冒険者達に近づくと……。

 

 「よ!嬢ちゃん達、ダンジョンアタックかい?」

 

 冒険者チームのひとり、がたいのいいベテラン風のおじさんが声をかけてきた。

 蓮花はチーム全員から両手一杯のお菓子を貰い、物凄いスピードで消化していた。

 

 アウレは思う。

 

 こいつ、さっきお昼食べたのに、まだ食うのか……。

 小柄な身体のどこに入るのか不思議だ――と。

 

 「今日はどこまでだい?」

 

 「今日は15階層まで、です。」

 

 「そうか、下まで行くんだったら、気を付けな!今は魔獣の活性期だから普段よりも数が多い。魔石が高騰しているから稼ぎ時ちゃ、そうだけど、あんまり欲かきすぎると、コロっと死んじまうからな!」


 「ご丁寧にありがとうございます。ほら、蓮花もお礼いって!」

 

 「おっひゃんもぅきいお”つけぇてァル」

 

 口いっぱいにお菓子を頬張った蓮花はイザベルに首根っこを引っ張られ、引きずられていく……。


 そうして、ベテランの冒険者チームに手を振り、別れを告げ、アウレ達は早々に出発したのだった。


 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 


 向かう先はクルードセツア迷宮15階層。

 それは、初級冒険者立ち入り禁止の場所である。

 

 上から降り注ぐ、大滝の終着点。

 ここからは、更にうねる大蛇の腹の中のような洞穴が無数に入り組む迷宮の入り口。

 

 しかし、……。


 アウレの眼には……視界を埋め尽くされるほどの霧状の魔力が覆う。

 ……先へと進むことが困難だった。

 

「どうか、……されましたか?……お嬢様?」

 

「いや、ダンジョンって、……下に行くほど……こんなに魔力が満ちているものなのか?」

 

「ええ、下層になれば、なるほど強くなりますが……確かに、ちょっと変ですね……?」

 

 その反応は蓮花が一番感じ取っていた。

 いつもはアウレ同様、勇んでダンジョンを進んでいくはずの蓮花が――慎重になる。


 そして、ポツリと呟くのだった――。

 

 「この先は、……()()()()()()()()()()……」


 その真剣な表情に……。

 

 「この感じは異常ネ、……引き返したほうがいいアル……」

 

 二人は歩みを止め、息を呑む。

 

 「もしかして、……|魔獣大行進≪サタンビート≫ですか……?」

 

 とイザベルが聞くと……。


 ――蓮花は静かに頷くのであった――。



 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 

 ――クルードセツア迷宮32階層。

 

 漆黒の闇に光る無数の目。それが幾万にも連なり、揺れ動く。

 地響きを揺す――大行進。その波が、逃げる一人の冒険者を飲み込み、蹂躙する。

 

 大柄の男は抵抗虚しく……。

 重装備の身ぐるみを。

 皮膚を。

 引き裂かれていく。


 ――阿鼻叫喚――。


 その悲痛な叫びは、誰にも届かない。


 それは、介錯人、不在の生殺し――。


 そして……。


 臓物を食い荒らされ、虚空を見つめる――意識。


 きっと、これは罰だ……。


 すまない、リーナ、フェルナ……。


 霞む視界、男の最期の贖罪は……。


 ―― 巨鬼(ベヒモス) の踵が――頭蓋骨もろとも、踏み潰した――。


 

 

 

 


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ご愛読頂き誠にありがとうございます。


この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。


作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。


3章 リセポーセ騒乱編 のテーマは 『愚者達の狂宴』です。


ここから

ファンタジー終了のお知らせです。

以降、ダークファンタジーへと突入していきます。


この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方

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