御三家会談とその裏で
御三家会談。
古く荘厳な造りの部屋、メルバトス家の会談室に三者が集まった。
正面 メルバトス家アルトバラン・メルバトス侯爵。
右側 マキシウス家の当主ウェルター・マキシウス伯爵。
左側 リフィル家の当主スザン・リフィル子爵。
三者は円卓を囲むよう座する。
それぞれの執事長を後ろに控えて、会談は行われるのであった。
普段の会談ではお互いの領地についてや周辺の情報交換など比較的、たわいもない話が多く、和やかな雰囲気で行われるのだが――今回は違う。
「……そうですか……増税が決定されたと……」
アルトバランの説明に対し、声をあげたのはリフィル家の当主スザン・リフィルだった。
リフィル家はマキシウス家と同じ、火魔法の分家。
先代が急死したため、若くして当主になった男だったが、なかなかの切れ者で、メルバトス領内の貿易の要所である温泉観光都市<南西都市ポーラム>を上手く治めていた。
正面に座するアルトバランは神妙な面持ちで、その重い口を開く。
「問題はその増税の内容だ……」
その内容は『通行税』、『酒税』、『貴族の独身税』だった。
「……『貴族の独身税』?」
ウェルターが不思議そうな顔をする。
聞きいたことのない税策である。
その疑問にアルトバランは真剣に答える。
「なんでも……セルタニア魔法国の貴族の少子化が加速していて、それを阻止するため、未婚の者達から税を引き上げるらしい……」
そして、深い息を吐く。
この問題の最大の病巣に触れるのだった。
「しかし、一番の問題は『通行税』だな……」
アルトバランはメルバトス家の執事長に領内の正確な国民負担率上昇予想値を尋ねる。
すると、執事長が「恐れながら申し上げます。約44.6%です」と答えた。
「――44%!!!? 人流、物流が止まってしまうではないですか!!!?」
ウェルター、スザン両名は驚き、思わず立ち上がる。
庶民が生活できる水準を超えている。
そのくらい、とんでもない数字の税率である。
「……ぼ、暴動が起きるのでは?」
ウェルターは焦りの色を隠せない。
極東都市リセポーセにとってはこれは致命的なことであった。
「ありうるな……これはメルバトス領……いや、セルタニア魔法国全体に影響する深刻な問題だ。まさに、建国以来の『非常特別税』だ。」
「というと……戦争……ですか?」
「ああ、そうだ……。すぐに起きるとは言えないが……この件は……メルバトス領内の死活問題だ。」
会談全体の空気が重く、伸し掛る。
三者は自分の喉元に刃を突き付けられた気分。
王都から見るとメルバトス領内は辺境の領地である。
しかも、四方を山脈に囲まれており、幸いにも隣国からは攻めにくい場所。
戦争となれば、優先度は低い。
冒険者の戦力、人流を中央の王都に留めておく狙いもあるだろう。
だが、リセポーセはダンジョンへ挑む冒険者で、ポーラムは温泉観光地で収益を得ている。
メルバトス領としてはこの増税はかなりのダメージである。
早急に手を打たないといけない。
「これは……決定事項なのでしょうか?」
固まってしまった会議を前と進ませるためにスザンが尋ねる。
「……まず、この増税の内容においては師団長3名と我が王も賛同しておる。間違いなく動かん!」
五源魔法師団。
このセルタニア魔法国において、政治にも多大な影響を及ぼす軍である。
五つからなるその軍の師団長はそれぞれの王家や貴族達が歴任していた。
火源 魔法師団 元団長 アルトバラン・メルバトス。
……彼もまた、その権威を身を持って知る一人である。
「ん……ゲイリー殿、何か情報、策はあるか?」
アルトバランはマキシウス家の執事長に意見を求める。
何故なら彼も同じ師団長の職に就いていた者であったからだ。
風源 魔法師団 元団長 ゲイリー・バトラー。
魔法を使えない魔術師。
それもセルタニア魔法国の長い歴史の中で前例のない異例の師団長であった。
マキシウス家の執事長は少し考え、やがて……口を開く。
「恐れながら申し上げます。確認しておきたいのですがこの件、 火源 魔法師団 現団長 ヒューズ・メルバトス様はどうお考えになられてますか?」
その発言を聞いて、アルトバランのしわが一層深くなる。
「……奴か……我が愚息は……メルバトス家を完全に裏切りよった……増税案に反対どころか立案者の一人じゃ……」
奥歯を噛みしめ、静かに憤怒する。
ヒューズ・メルバトスは名実共にセルタニア魔法国の随一の魔法士だ。しかし、素行が悪く、その高すぎる野心からメルバトス家次代当主の座を剝奪された男であった。
「……なるほど、ならば……増税はあるものとして考えなければなりませんね……」
ゲイリーは知っていた。残りの四人、現職の師団長がどういう人物かを……。
それは、この政策がどうあがいても覆ることのないということ。
その確認……と打開策。
「ならば、クルードセツア迷宮の魔石を交渉材料として見てはいかがでしょうか……?」
魔法士において< 絶対性魔石 >は強力な武器である。
しかし、何故か王都では流通量が少ないのである。
軍事増強に喉から手が出るほど欲しい。
そこで需要の高くなった魔石をリセポーセの特産品として魔法師団に流すことで、メルバトス領の税率を特別に免除してもらうという策である。
「なるほど、……な。それなら交渉の余地は……あるか……ウェルター!どうだ!魔石の献上はできそうか?」
「はい、攻略も順調ですし、採取量も比較的安定してます。」
アルトバランは「そうか!」と頷き、手で合図。
メルバトス家執事長に至急、書面を持ってくるよう命令する。
「……しかし、あともう一手……何か欲しいな……」
アルトバランは腕を組み思案した。
――その時。
「旦様、大変でございます!ギリアス様が……」
メルバトス家の執事が物凄い剣幕で入ってくる。
それはアルトバランに風雲急を告げるようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふうー、焦った!焦った!」
アウレはメルバトス家の廊下を一人歩く。
カーラと庭園を散策中。
途中でトイレに行きたくなり、城中を探し回って、何とか間に合った……。
(まさか、こんなに広くて見つからないとは……)
まさに……乙女の危機一髪。
(さて、庭園は確か……こっちの方だったかな……あれ?……違う……)
広大なメルカッツ家の城の中、アウレは帰り道がわからなくなっていた。
――その時。どこからか、女の子の悲鳴が聞こえてくる――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「嫌ぁぁぁぁあ”あ”ああ!」
メルカッツ家の庭園。
ギリアス・メルバトスは泣きわめくカーラ・リフィルの短い髪を鷲掴みにしていた。
その蛮行は城内に響き渡る。
やがて、強引に引っ張り、花壇の中へと引きずり倒す。
「この俺に手間かかせやがって!こっちこい!」
「痛ぁぁい!止めてぇぇぇ!」
「ギャアギャアと、うるせぇ!静かにしろ!!!!!」
苛立つギリアスはカーラの顔面を拳で殴った。
容赦のない生の暴行は続く。
それはカーラが経験したことのない恐怖。
彼女の整った顔は歪み、鼻からは赤い血が垂れる。
痛みと恐怖で頭が揺れ、ぼやけた視界は虚空を見つめ続けた。
「ふん!やっと静かになったか……」
そう言い放つと――カーラを地面に投げつけ。
ギリアスの靴がカーラの黒髪を踏み潰そうとした……。
――その瞬間。
――突風が吹く。
舞い上がる花びらが目を晦まし……。
目の前のカーラが消えたのだった。
ギリアスは何が起きたのかわからない様子で周囲を見渡す。
すると、視線の先、砂ぼこりの向こうに人影が見えた。
「ふう、危ない!危ない!」
それは……金色の髪の少女がカーラを抱きかかえて、ギリアスの踏みつけを回避していたのだった。
「おい!金髪のガキ!今、何をした!」
ギリアスは問う。
しかし、こちらを見向きもしない。
「おーい、大丈夫か?カーラ、鼻血でてるぞ……」
アウレはカーラの涙と鼻を自分の袖で拭いた。
カーラはやっぽど怖かったのか、手の中で小さく震えていた。
「てめえ!無視するとは……いい度胸だな、おい!」
そこで初めてアウレの碧い眼にギリアスの姿が映る。
そして、ギリアスの身体から魔力が沸き上がり……。
――汝、血の契約を伝ひて不変の楔となり魔を滅ぼす 火の球と成せ 火球――。
ギリアスの詠唱。
と共に……その魔力は手にはめた指輪と共鳴し、増幅していく。
それはアウレにとって無駄な時間だったが、あえて攻めずに観察した。
(……魔力の増幅?……なるほど……これが< 絶対性魔石 >の効果か……)
< 絶対性魔石 >は魔法師専用の魔石で魔法の効果を飛躍的に高める作用がある。
アウレはイザベルから話には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ。
魔法の熱気が伝わるたび、心が躍る。
そして、ギリアスの周りに二個の 火球が発現。
(ん!?……火球?……)
それは高速に回転し、さらに激しく燃え上がった。
(嘘だろ……。)
アウレの別の意味で驚いていたのだった。
(……たったの……二つ?……それだけか!?……)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それはある日。
マキシウス家の中庭で久しぶりの魔術実技を行うゲイリー・バトラー。
「それではお嬢様。受けようせず、『瞬歩』だけで避けて下さいね。」
「おぉぉぉぉぉお”い!ちょっっと待てぇ!こらぁぁぁ!どう見ても四十以上あんだろぉぉぉ!それぇぇ(火球)!!!!!」
空を覆いつく、無数の太陽がアウレの頭上降り注ぐ。
「なぁー!無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理!熱っ!無理っー!……」
「……真面目にやらないと死にますので……ご注意下さいね」
「……ね!じゃねーよ‼殺す気かぁぁぁああ”あ!!!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アウレはふと、あの時の情景を思い出し、背筋を震わした。
(……あれに比べたら、ぬるい……。ぬるすぎる……)
しかし、この状況は……少しまずいな。
今、近くにカーラがいる。
このままでは確実に被弾する。
袖を掴み心配そうに見つめるカーラ。
その表情に微笑み「大丈夫だよ!」と一言。
ゆっくりとその手をほどき……。
アウレは彼女を庇う形でギリアスに立ち向かうのであった。
「覚悟は出来てんだろうなぁぁぁ!」
(おー、よく言えるな……その言葉……)
二つの灼熱の玉が勢いよく。
――アウレに向け、砲火。
(んー……)
その熱風に臆せず、ゆっくりと前へと進む。
――灼熱の業火が迫り。
――直撃の瞬間。アウレの青白い魔力は身体を多い、高速で流れ始める。
――『練功術』の防御法。『流水』――。
辺りは硝煙に包まれ、立ったままの影が揺らぐ。
それを見てニヤリと笑うギリアスの表情……。
――が、……一瞬にして変わった。
「はぁー!?おいおいおい!……どうゆことだ!!!?」
それは――煤を面倒くさそうに手で払うアウレの姿。
(ゲイリーに比べれば、線香花火程度だな……)
そして……なお、前進。
ギリアスは慌てて再度、詠唱、火矢 を発現。
(お!今度は矢か!これはどうだ!)
アウレに向けて撃つが……。
アウレの身体に当たる直前で逸れる。
「――な、なんだ、それは!?」
(――こっちの台詞だよ!なんだ!?今のひょろい矢は?)
そこから先は……無駄の繰り返し。
ギリアスが詠唱、展開、発射を打ち込む最中。
アウレの興味は徐々に薄れていくのであった。
(透明な壁は?光る糸は?なんだ!何もないのか?……『魔法』ってこんなにも弱いのか?)
あまりの芸のなさに……ため息が漏れる。
(もう、……充分……視たし……惹き付けたから……いいや……)
「――な、くそっ!!!!」
『魔法』を展開しようと詠唱するが、時すでに遅し……。
――汝、血の……げふぁ…………。
詠唱の間を『縮地』から顎に掌底。
そのまま、ギリアスの身体は半回転。
視界は真っ逆さま、後ろへと倒れ――頭から地面に落ちて……。
「痛っっっ……!!!」
頭を抱え、悶え苦しむギリアス。
その様子を無視して、アウレは馬乗りになり……。
ただただ、純粋な拳で殴りつける。
「おまえ!……グァ……」
(……ん、なんか言ったか……?)
「誰に向かって……ゴァ……殴……!!!!」
(……まあ、いいか……!)
アウレの顔に返り血が付く。
無心の顔で殴り続け……。
辺りは殴る音だけが響き渡る。
そして……。
ギリアスの顔は……もはや原形をとどめていない。
花壇の白い花は赤く染まっていた。
「もうや”めで”くれぇぇぇ!」
しょんべんを漏らしながら、許しを請い泣く。
アウレはその叫び、懇願を聞き「んー」と眺め……。
冷たい表情で呟いたのだった。
――「少し、黙れ」……と――。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると嬉しいです。
作者の先祖でもある剣豪を題材に執筆させて頂きました。
第3章 リセポーセ騒乱編 始まりました。
ここから本編の話になります。
テーマは『愚者達の狂宴』です。
今回は前座、茶番です。
次週、化物級と対峙します。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「!?」と思った方
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