その男は博打を打ち、女を買う
「 さあ!さあ!張った!!張った!! 」
晒を巻いた勝気な女賭博師が叫ぶ。
街はずれの長屋に強面の漢達が一堂に介し、部屋の中は異常な熱気と汗、煙管の独特な匂いが充満していた。
漢達はしかめっ面、唸り声をあげ……丁半のどちらかを答え、次々と札を出していく。
……そして、最後の札が出揃うのだった。
「 よろしゅうござんすね……よろしゅうござんすね! 」
女賭博師は周囲を見渡し、両脇の漢達と目配せをして、小さく頷く。
「 丁半揃いました! 」
「――勝負!」
「……」
薄暗い長屋の中、静寂が支配する。
部屋の熱気がさらに上がり、誰かの固唾を呑む音。
女賭博師の首筋、流れる汗の雫が大きな谷間へと伝い、畳に落ちた……。
――その瞬間、伏せた壺を開け女賭博師が叫ぶのであった。
「…………丁!」
「だぁぁ――‼」
「くそっ‼……丁かぁぁ――!」
一斉に声が漏れる。
その落胆と歓喜が飛び交う場内に……。
一人の男がひと際、大きな声で叫んでいた。
「よっしゃー!これで九連勝じゃー!!」
片手を天へと力強く突き上げる男。
歳は三十前半ぐらい、ぼさぼさの長い髪を束ねており、目元は鷹のように鋭く、無精ひげ姿。
ボロボロの着物を着崩し、堂々たるあぐらをかいていた。
次々と札が回収される中……気分良く煙管を吹かす。
「よ!みきさん!調子はどうですかい?」
突如、馴れ馴れしい態度で、隣に座る――出っ歯の男。
「また、あんたか!」
そいつはよく賭場に顔を出す常連で、何度か仕事で一緒になったことのある男であった。
「おお!また勝ったですかい?」
「……まぁな!」
と、気のいい返事をすると三度、煙管を吹かした。
細く、長い紫煙が勝利の余韻を含み、ゆっくり漏れ出す。
実に、気分良い……。
「懐が潤っていいな……その運、少しは分けてくれよ……」
「ふん、運も実力の内よ!悔しかったら……お前さんも人に頼らず、自力で何とかするんだな!」
出っ歯の男は「そんな……」と空の財布を逆さまに振り、物乞いのような表情を浮かべ、戯けてみせた。
「……と、冗談は、そこまでにして……ちょっと、小耳に挟んだけどよ……」
と、突如――真剣な口調になり、語り出す――出っ歯。
「……ん、……何を、だ……?」
その表情に、思わず眉を顰めた。
なぜなら、いつも陽気な噂話をしてくるこの出っ歯が、今日は神妙な面持ちしていたからである。
「なんやら……また、きなくさいことに、首突っ込んだって……えらく噂になってぞ……」
「……あー……そのことか……」
すぐに勘付く。
心あたりは――あった。
「まあ……大したことねえよ!それに知ってんだろ、俺の腕っぷしは!」
「……そうか、でもよ……この事が、もし親分衆の耳にでも入っ……」
そいつは……あんまり詮索して欲しくない話題。
「――そ・ん・な・こ・と・よ・り!俺はそろそろお暇させてもらうからよ!」
――強引に、話をはぐらかす。
「えっ、……あれ⁉ もう一勝負しないのかい?」
「ああ!……今日はこんな大金稼いだんだ、もういいや!」
男はそう言った後、大袋を受け取り――早々に席を立った。
その姿を見て「……ひょっとして……あそこか?」と、変な笑みを送りながら、怪しい手つきで合図を送る。
「おうよー!これからお楽しみじゃー!」
と、同じ手つき、下卑た表情で返した。
その様子に 出っ歯の男 はもう一度、釘を刺すような真剣な顔を見せ……。
「 ……まあ、あんたの剣の腕前は、よく知っているが……くれぐれも用心したほうがいいぞ…… 」
「 ――わってるよ!ご忠告どうも! 」
そう、気のいい返事をし、颯爽と場内を出る。
賭場の門番から刀を受け取り……。
そして……。
鼻唄交じり――花街の方へと向かったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
常闇の山際、一際目を引く鮮やかな紅梅色に染まった街。遊郭。
色に惑わされた雄達が、一夜の欲望と愛を求め、大通りは活気と賑わいを魅せていた。
そのとある一角の屋敷、二階のお座敷から、一際大きな笑い声が聞こえてくる。
「 ガハハハッ! 飲めー! 飲めー! 」
両脇に綺麗どころの遊女を抱え、煙管を吹かしながら声高らかに叫ぶ。
お座敷は壁一面、赤を基調として、艶やかな睡蓮花や菊の紋様が漂う。
お香の甘い匂いが脳の奥に染み付き、まるで一夜の夢を魅せているようだった。
「さあ!さあ!みきさん、もう一杯いかがでありんすか!」
左脇の遊女がお酒を差し出す。
見た目は目元が切れ長の美人顔、妖艶な雰囲気。
着物を付けていても分かるくらい、立派な胸と尻を持ち、印象はなんとなく気位の高そうな女だ。
「おお!そうか!それじゃあ、遠慮なく!」
酒を注ぐ際、着物の隙間から白く、ふくよかな曲線の谷間が見え……思わず鼻の下が伸びる。
注がれた酒を一気に飲み干すと、この後の展開を妄想していた。
すると、もう右脇、もう片方の遊女がおっとりした声色で話しかけてきた。
「……たしか?明日は親分衆との大事な用があるとおっしゃってませんでした?」
いつも指名するお気に入り子。
見た目は可愛いらしい顔立ちに、おしとやか雰囲気、桜色の着物が良く映えており、こちらも負けず劣らずの胸元をしていた。
「親分衆との用?……そんなことはどーでもいいの!それよりも……」
おっとりした遊女の腰元に手を置き、強引に引き寄せ、胸元を覗く。
ほんのり桜色、艶のある唇。
漏れる息に合わせて、揺れる豊満な胸に――心が躍る。
そして、……その白い谷間めがけて、わざと盃の酒を垂らした。
「――きゃっっ!……冷たい!」
「おっと!手元が狂った!これはいけねぇ!」
すかさず、遊女の胸元に顔を近づける。
溜まった雫を舐めようとした。
「もう!みきさん!」
可愛く怒って制する遊女。
その仕草や表情を、存分に堪能していた。
すると――。
「――こちらもこぼしたでありんす……」
色気のある遊女が自らの胸元にお酒をこぼして魅せてきた。
更に舌なめずり顔、前屈みで誘惑する。
着物は肩口からはだけ、綺麗な曲線が胸下まで、露わになっている。
その光景に息を吞んだ。
「おお、そいつはいけねぇ!もったいない!」
すぐさま近寄ると、遊女の股下、着物の中へと潜っていき……。
少しずつ……色々なところをまさぐる。
進む度に妖艶な息が漏れ、喘ぐ声が聞こえる。
そして、ようやく着物の隙間から顔を出す。
光に照らされた白い肌。
下腹部の雫を舐めて、下乳の隙間から遊女の顔を覗き込んだ。
「んーん!やや?甘い!甘いぞ!」
「……そんなこと……恥ずかしいでありんす!」
頬を赤らめる遊女。
冷ややかな表情を溶かす、最高の答えが返ってきた。
「おっと!こっちの酒は苦いのかな?」
すっかり、気分よくなった男は……。
すかさず、おっとりとした遊女の胸にも狙いを定める。
そして、……。
「もう……みきさん!……ダメ……あっ!……」
夜の遊びを十二分に満喫する。
男は、空になった酒瓶を振って、声高らか叫ぶ。
「酒足りないぞ――!もっともってこーい!」
――陽気にどんちゃん騒ぎを楽しむ男。彼はまだ知らなかった。それが罠であることを……。
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ご愛読頂き誠にありがとうございます。
この作品は処女作です。至らぬ点や修正箇所ございましたらコメント頂けると幸いです。
物語のプロローグは時代風となっており、作者の先祖でもある、剣豪を題材に執筆させて頂きました。
子供の頃、祖父から聞いた話
酒を飲むわ 女遊びはするわ 博打は打つわ 人は斬るわ
の最低な人間だったそうで当時7歳の子供になんていうことを教えているんだ!と思ったのを今でも鮮明に覚えています。
この内容を元にこのファンキーなご先祖様をいっそ異世界転生させてみたら面白いのでは、と思い作った作品です。
この小説を読んで「面白そう」「楽しみ」「倫理上、大丈夫か?」と思った方
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誰よりも海水を飲む人
@dekisidesho