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プロローグ

 ……ああ、だっるい。

 本音が少年の口から零れた。

 彼は今、人の絶えたコンテナターミナルに立っている。

 潮の匂いに溶けるように満ちている冷ややかな冬の冷気が、鉄の林をより冷たく排他的な場所にしていた。

 少年は、夜空に浮かぶ満月を見上げる。星々の輝きを押しのけ、一層光り輝く月は美しく彼は吐息を漏らす。

 時刻は深夜一時。こんな()()()()()()()()()()()は、惰眠をむさぼるのが至高だ。

 だが、あいにくと眠るわけにはいかなかった。――なぜなら、

「フハハ、どうした下郎? 俺様を楽しませてくれ」

「ハア」

 目下のところ、雨あられと雷撃が降り注いでいるからだ。

「空気を読めってーの。まあ、前世界の残りカスどもにはわからないか」

 少年の台詞は、決して独り言ではない。

 巨大な月を背景に、男が一人浮かんでいる。ロングコートを風にはためかせ、月に同化するような白髪をかき上げるその男は、浮世離れしているほど顔が整っていた。

あまりにも非現実的な光景は、一見すると映画の撮影じみているが、その月に浮かぶ男の白髪の下から覗く鋭い双眸が、何よりも現実であると告げている。

男はコンテナの陰に隠れる少年を見下ろし、指を突き付けた。

「カス? ハ、俺様がカスならば、貴様はこの世界の膿だな」

「おお、スゲースゲー。雷帝様は、空も飛べるうえに、口喧嘩がお強いこと。けどさ、実際のところ口だけだよね。さっきから頑張って雷をピカピカ放っているけど、僕にダメージを与えられていないしさ」

「……貴様、俺を舐めていやがるな。この、神の血を引きし俺様を愚弄するか! 頭が高い小僧だ」

 声に怒りを滲ませ、雷帝と呼ばれた男は空に向かって手を向けた。

 変化は鮮烈に。天蓋を分厚い雲が覆い、化け物の腹から発せられるような轟音が、辺りへ轟いた。

「ああ、やだやだ。働きたくない。ニートしたい。ゴロゴロしていたら美少女が、肩を揉んでくれて甘やかしてくれる世界に僕は生きたい。……けど、仕方ないよな。そんな世界にするためにはさ」

 少年は、腰に下げた鞘から刀を抜き放った。それは、妙な刀だ。刃が半透明で消えたり現れたりを繰り返し、存在がおぼろげで儚い。

「忌々しい来世の刀……。後生大事に刀と一緒に死ねえい」

 男の殺意を反映したかのような、強大な雷撃が少年を襲う。衝撃波を生み出しながら、音よりも早く迫る殺戮の一撃。――それを、

「邪魔」

 少年の刃は、やすやすと切り裂いた。

 霧散し、消滅する雷は溶ける角砂糖に似ている。

 おのれ、と呪いの言葉と共に、激しい歯ぎしりが男の口から発せられ、涼やかにその言葉を少年は受け止めた。

 少年は笑う。目だけで相手を射殺すような敵愾心を瞳に宿し、静かに刀を構えた。

「お前らは不要だよ超越種。いつまでもこの世界にいるべきじゃない。恐竜だって隕石の後に、人間へ世界を譲ったんだ。だったらお前らも見習えよ、異物どもが」

「勝手な、ことを、ほざくな。この調律者気取りの馬鹿者があああああああ」

 雷撃と刀の軌跡が、宙へ走る。

 相克する二人の戦いは、空を焦がし、地を破砕し……そして、静まり返った。


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