30話 婚約者を見せる その2
ゼノン様への久しぶりの謁見……緊張はしたけれど、概ね、問題はなかった。なぜなら……。
「ユリアナ嬢とジクト殿か……ふむ、我が息子と娘が迷惑を掛けるかもしれないが、今後も仲良くしていただけると非常に助かる」
ゼノン様の反応が思いの外、軽かったからだ。ユリアナ嬢もジクトもこの態度には面食らっているようだった。
「い、いえ……国王陛下……! 滅相もございません! ご子息であるヴィクター様は私には勿体ないお方でして!」
「私も同じ気持ちです、国王陛下。ウィンベル嬢は私にとって掛け替えのない人物であります」
ユリアナ嬢はともかくとして、普段はもっと柔らかいジクトまで固くなっているようだった。まあ、国王陛下を前にすれば仕方ないかもしれないわね。
「ははは! まあ、気持ちは分からなくはないが、そんなに緊張する必要はないぞ? ウィンベル、ヴィクターとこれからも仲良くしてくれればそれで良い」
「は、はい……畏まりました」
「もちろんです、国王陛下」
ゼノン様は最初から、どういった人物かを見るつもりはなかったようね。表面的に仲良く暮らして行けるのかどうか……そういった部分を軽く見ただけだと思う。この時点でどんなに評価が高くても、後になって急に変わることは十分にあるし、またはその逆だってあるのだから……。
ゼノン様もそこまでは分からないのだろう。
「ヴィクターも運命の相手を連れて来たようで安心したよ。私との約束を反故にすれば、不敬罪になっていたからな」
「ぜ、ゼノン様……いえ、父上! その話はまだ続いていたのですか……?」
「当たり前だろう? ふはははははっ!」
「あ、あはははは……」
ゼノン様につられる様にして、私達にも笑みがこぼれた。国王陛下の前で笑うのは緊張するけれど、楽しい雰囲気になってきた気がする。ヴィクター兄さまもようやく不敬罪を免れたようで、何よりだったわ。
「本日は無礼講と行こうじゃないか! 使用人にどんどん食事を運ばせよう! よし、フルコースで持って来るのだ」
「畏まりました……それでは」
ゼノン様の傍らに居た執事長と思しき人物が手を叩くと、どんどん使用人が入って来た。既に外で待機していたのね……並べられる料理は、通常の貴族のそれではない。もっと高級な食材ばかりだった。
「す、すごい……!」
「わあ……こんな料理、初めて見ました!」
「ははは、そうかなユリアナ嬢。私のことはお父様と呼んでくれて構わないぞ?」
「い、いえ……ゼノン国王陛下、それは……」
「わははははは!」
もうゼノン様は酔っているのかしら? そのくらいにテンションが高いわ。不敬罪になりかねないことを平気で言うし……そもそも、国王陛下に対しての無礼講なんて存在するわけがない。
「やれやれ……ゼノン様は上機嫌だな」
「そうね、ジクト……試しに頭でも叩いてみたら? 無礼講だし許して貰えるかもしれないわよ?」
「怖いことを言わないでくれ、ウィンベル……その場で護衛に斬り捨てられかねないよ」
「ふふふ……」
いけない……お酒は飲んでいないのに場酔いをしている気分になってしまった。まあそのくらい楽しめているってことだけれど。
「ゼノン様もヴィクターとウィンベルの運命の相手を見ることが出来て、安心しているんじゃないかな? 特にウィンベルは色々あったし」
「そうかもしれないわね」
ゼノン様の陽気な振る舞いはその反動によるものなのかもしれない。ゼノン様のテンションに合わせるかのように、宴の席はどんどんと盛り上がって行くのだった。




