23話 ジクトと踊る
「はい、ワンツー、ワンツー」
「ワンツー、ワンツー……て、茶化さないでよ……」
「悪い悪い。ウィンベルが緊張している様子だったからな。こうして、軽い気持ちで踊った方が楽しいだろう?」
「ま、まあ……それは確かにそうだけれど……」
私はジクトと踊ることを了承したけれど、近くで踊っている人々にも見られることになるし、とても緊張してしまっていた。特に、ヴィクター兄さまのカップルに見られると思うと、恥ずかしくてしょうがない。
なんだろうこの感覚は……身内には見られたくない秘密とでも言えば良いのだろうか。
「ヴィクター兄さまはこちらを見ている?」
私は兄さまに視線を合わせていない。代わりにジクトに聞いてみた。
「ああ、こちらに視線を向けているな。ちょっと、驚いているような雰囲気だが……まあ、俺と踊っていることが意外なのかもしれないな」
「驚いている……?」
「ああ、何か心当たりがあるのか?」
「いえ、特には……」
ジクトには詳しくは言っていないけれど、ヴィクター兄さまとは、どちらが早く運命の人を見つけるかの勝負をしている。実際には勝負をすると決めたわけではないけれど、ヴィクター兄さまには負けたくない。向こうも同じ気持ちなのだとしたら、私達の踊りを見て焦っていることだろう。
「……」
私は恥ずかしさを押し殺して、ヴィクター兄さまに視線を合わせた。どうやら、ユリアナ・アムター伯爵令嬢と踊っているようだけれど……明らかにあの表情は焦っているわね。こんなこと、勝負にするべきではないけれど、私は冗談も交えて、強気に笑って見せた。
「……!!」
あ、ヴィクター兄さまの表情がさらにおかしなことになっている。焦っているというよりは、何かに火を点けてしまったような……。ユリアナ嬢を激しくリードし始めた。彼女は急に踊りが激しくなったので、驚いているようだ。
「ウィンベルお前……性格悪いな……」
「ま、まさか、あんなことになるなんて思わなかったわ。後でユリアナ嬢に謝っておかないと……」
「ふふ、ヴィクター殿も相変わらずというかなんというか……傍から見ている分には面白いのだがな。少しユリアナ嬢が可哀想だ」
いつもは比較的、冷静な兄さまだけれど、最近は本気で焦っていたのかもしれない。ゼノン様に運命の相手を紹介出来なかった場合、本当に不敬罪に問われると思っているのかしら?
ゼノン様は冗談で言っているだけだと思うけれど……まあ、婚約相手を見つける為に頑張る姿勢は重要だけどね。
とりあえず後で、ヴィクター兄さまには念押ししておく必要がありそうだわ。




