20話 ジクト・シャープ侯爵令息 その1
「ヴィクター・マリストル伯爵令息、ご無沙汰しております」
「これはユリアナ・アムター伯爵令嬢、お久しぶりでございますね」
「はい、この舞踏会で再会できるなんて、思ってもおりませんでした……!」
ヴィクター兄さまは舞踏会の場で結構、モテているようだった。兄さまは社交的だし、顔だって二枚目だから、その地位を無視したとしても女性は近づいて来ると思う。
私の方向に振り返るヴィクター兄さま……軽く親指を立てていた。ゼノン様にこれで真実を語れるということで、喜んでいるのかもしれない。私が冗談で不敬罪に問われるかもと言ったから、焦っていたのかな? まあ、今回ので上手くいくかは知らないけれど、ヴィクター兄さまには頑張って欲しいと思う。
「でも、ちょっとだけ羨ましいかも……」
ヴィクター兄さまは声を掛けてくれている女性に優しく対応しているようだった。ああいう紳士的な態度はモテる要因の1つになっていると思うけれど。私には都合よくそんな相手が現れるわけない。
「はあ……サンセット様の一件は解決したとはいえ、婚約破棄にカウントされて、貴族令嬢としての格が落ちてしまったのかもしれないわね」
「お嬢様、失礼ながら申し上げてよろしいでしょうか?」
「ん? どうかしたの?」
私達の付き人の一人が、声を掛けて来た。
「あちらのお方が、お嬢様を見ていらっしゃるかと思うのですが……」
「あちらのお方……?」
付き人の指差す方向に目をやると……そこには見知った人の姿があった。いえ、見知った姿と言うよりも……。
「まさか……ジクト・シャープ侯爵令息?」
「おそらく間違いないかと思われます。最後にお会いしてから、少しだけ時間は経っていますが、ジクト様でしょう」
「うわ~まさかこんなところで会うなんて……」
ジクトとは幼馴染になる。伯爵令嬢と侯爵令息で、地位で言えば彼の方が上なのだけれど、昔、私達は気兼ねなく話をしていた。国王陛下が私の実の父親だという話を聞いても、変に態度を変えなかったことも覚えている。
「シャープ侯爵家は領地での問題を抱えていたのよね?」
「そう聞いております。しばらく音信不通になっていたのは、その為でしょう」
舞踏会に出席出来ているのは、その問題が解決したからなのかしら。私のことも見ているようだし、声を掛けても大丈夫かな? よし……ヴィクター兄さまも頑張っているんだし、私も一歩を踏み出してみよう。




