第六話
「なる程……それがこの書類ってわけか」
話を終わった日浦さんは私からの書類を見ながらうなる。
「で、何かわかったの?」
「ふっ、全く読めん。なんじゃこりゃ」
遠藤さんの質問に日浦さんは自慢げに答える、思わずズッコケる、遠藤さんと永山さん。それもそのはずだ。その資料は
「ほんまや、読めん。なんじゃこれ。英語と日本語が混じってるぞ」
日浦さんから資料を受け取り中身を見た永山さんも驚く。お父さんは重要な研究資料は全て自分が知っている言語を混ぜ合わせて書くからだ。
「えっと、英語、日本語、ドイツ語、フィンランド語、スペイン語を混ぜて書いてます。正直私も読めません。でも……」
「それだけじゃない、たぶん親父さん。普通に書いてないだろ。かろうじて読めるところだと『私は君にささやいた何々〇〇とそれを聞いた君は顔をどうのこうの』推察するに恋愛小説風に書いてるな?」
日浦さんの言葉にゆっくりうなずく。そう、お父さんは自分の知っている言語を混ぜたうえで恋愛小説にしているのだ。他の人が読めるとは思えない。
「なる程、だからこそ紙媒体の書類とUSBで保存していたちゅーことか。この中身なら解読はほぼされんからな」
永山さんはUSBを触りながらつぶやいた。
「よし、じゃあそれを解読する必要があるな。と、なると。うちは今、追っている事件の事でスパコン使えんから……」
「ヤツシの所に行くわ。あいつなら多少迷惑かけてもかまんやろ」
「そうだな。あいつが適任だ」
日浦さんも立ち上がりながら言う。ヤツシとは誰のことかしら……
「あのねぇ、あんたら冬華に迷惑かけないでよ?」
「安心しろ、それは問題ねぇよ。じゃ、行こうか」
永山さんは私に向かって言うと歩きだした。私もそれにつられて歩き出す。
「俺もあいつに用事あるし。今から仮眠取ると中途半端だから行くわ」
日浦さんは時計を見てつぶやくと、私たちについてくる。
「あ、そういえば俺の家、DEVILの残骸と結晶化したあいつらの一味がいるんだわ。処理宜しく」
「だってさ、遠藤頼むわ」
歩いていた永山さんは足を止め、振り返る、日浦さんもそれにつられ遠藤さんを見た。遠藤さんはため息をつく。
「分かったわよ。ちゃんと現場保存しているんでしょうね?」
「安心しろ。シャッターおろして誰も入れないようにした。ほれ、これカギ」
永山さんはポケットからキーケースを取り出すとそこからカギを一つ外し、遠藤さんに放り投げた。
遠藤さんはそれを見事にキャッチし、カギを見ながら息を吐いた。それを確認した永山さんと日浦さんは歩き出し部屋から出て行く、私もついて行こうとした。
「待って、明希ちゃん」
遠藤さんに呼び止められる。私は遠藤さんの方を振り返った。
「あいつね、ぶっきらぼうでやる気なさそーに仕事するけど、腕は確かだから、安心してね」
遠藤さんは優しい声で言うと私の肩をたたき、ウインクした。すると
「おーい、スオミ何やってんだ、行くぞ」
永山さんの声が外から響き、私は遠藤さんにお辞儀すると後を追いかけた。
「そういえば、今から行く、ヤツシさんとは?」
私は部屋の外に出ると、足を止め話している二人に近寄りながら尋ねた。
「俺等の友達さ。こいつと同じで能力者専門の探偵だ」
日浦さんは永山さんを親指で指しながら言う、この感じ今日何回も見るけど癖なのかな?
「え、能力者専門の探偵? どういうことですか?」
「え、なに。お前この子に説明してねーの?」
日浦さんは飽きれたような声を出しながら永山さんに聞いた。永山さんはそれがなにか?という表情で日浦さんを見た。
「うわぁ流石、武彦さんそこに痺れぬ、憧れぬ」
日浦さんは苦笑いをする。
「能力者に関係する事件は実は多いんだ、被害者加害者問わずにね。諸外国と違い日本は能力者事件に関して、法整備も解決するための組織も大きく遅れている。一部の警察くらいだよ、能力者専門の部署があるのは。県警本部に一つあれば十分なくらいだ。そんな状態だから実力がある能力者に俺たちや、情報屋が事件を依頼して解決してもらっているんだ」
日浦さんは足を止め私に説明してくれる。なるほど、それで日浦さんの上司であり永山さんの知り合いだと思われるあの女性が、永山さんの所を教えてくれたのか。
「じゃあ、数が多いから永山さんは一つ一つを解決しているんですね。マルチタスクなんかやってない。って、どや顔で言われた時は引きましたけど」
「本当はやれるのに。もうター君ったら照れちゃって」
誰かの物まねなのか、裏声を使いながら言う日浦さん。
「あぁぁぁぺぺぺぺぺ」
日浦さんの前に立った、永山さんは日浦さんの顔を何度もビンタするような真似をした。永山さんの手の動きに合わせて日浦さんも顔を動かす。
そのためまるで日浦さんがビンタされるという面白い図になった。もしかして……照れ隠し?
「ター君言うな! あとあいつの物まねするな、気色悪いんじゃ」
「ほめてやったんだ。今度、焼き肉ジョージおごれ」
「は? 気色の悪いもん見さされた、俺に奢れや」
永山さんと日浦さんは高校生のようなノリで話しながら階段を下りていく。なんだろう、二人って仲の良い友人なんだなというのが本当に伝わってくる。正直羨ましい……。
一階に降りると私達は外に出る。
そして、永山さんが車の鍵を開け、乗り込もうとするが、突然日浦さんが足を止めた。
永山さんは、私に先に乗るように言うと、彼は電話をしている日浦さんのそばで待っていた、そして電話を終えた日浦さんと話しだした。何を話しているのだろう。
そう思っていると、永山さんは車に乗り込んだ。
「またせたな、じゃあ行こうか」
永山さんはそう言ってエンジンをかけると車を走らせた。
「あれ?日浦さんは?」
日浦さんの方を見ると。彼は手を上げ、挨拶のようなことをするとそのまま警察署に戻って行った。
「あ~。あいつな、上司に呼ばれたらしいから俺らだけで行けってさ」
永山さんはそう言って、紙袋を私に渡した。
「おやじさんの研究書だ、君が持っていたほうがいい」
私は永山さんからそれを受け取る。それを確認した永山さんは改めて車を発進させた。