天神族。
竜の血を引く竜人族は体に鱗があるのが特徴だ。
そんな竜の上位存在でもある龍、そしてその神でもある龍神は、この世界の創世に関わっているのだという。
この世界、地上の空間とはまた違った位相に住むというそんな龍神の系譜であり、人族と同じような容姿を持つ天神族もまた、普段は天の上、空の向こうにある世界で暮らしていると言われている。
大昔の話。
この地上をも支配しようとした天神族とあたしたちの祖先の魔族とが争った。
結果は痛み分けに近かったみたいだけど、その時に結局天神族は空に帰ったのだと、そう言い伝えられている。
うちの国のご老体さんたちに言わせれば、彼らは空に逃げ帰ったのだ、と。
そんなふうに。
あたしもほんと詳しくは知らない。
だけど、心の奥底の父ゼノンの魔王石が、油断ならないと憤ってる。
見た目は可愛らしい女の子、なんだけどね?
人が見かけじゃわからない、なんてこと、自分が一番わかってるはずなのに。
「ここよ。ここがあたしのねぐら」
「ふーん、随分とボロいところに住んでるのね? あんたならもっと良いとこ住めそうなのに」
「しょうがないのよ。こっちにも色々事情があるの」
「そっか。まあでも、わたしも住むところどうしようかなぁって思ってたところだから、ちょうどいいわ」
「え?」
「何? ここまで連れてきておいて追い返そうっていうの? そんなの許さないから」
ふむむ。
ちょっと話が聞きたかっただけなのに。
「さあ行きましょ? お茶くらいは出してくれるんでしょ?」
そう、コケティッシュに微笑むエミル。
なんだか調子が崩れるなぁとかそんなふうには思うけど、なんとなく憎めない彼女。
心の奥底の魔王石はもうずっと警報を鳴らしてるけど、まずは話を聞いてからだ。
そんなふうに頭を切り替えたあたし。
エミルを部屋まで案内してから飲み物を取りに一階の食堂にまで戻った。
「おかみさん、なんか冷たい飲み物欲しいんだけど、なんかある?」
「ああ、シズカちゃん、冷たいのったらエールがあるけど?」
「うーん、お酒はやめとく。他にはない?」
「じゃぁカリン水くらいかね。カリンの実を浮かせてあるだけの水だけど」
「ああ、うん、それでいいや。ボトルでもらえる? お部屋に客人がきててさ」
「了解。じゃぁこれね。グラスは2個で良い?」
「うん、ありがとう。あ、そーだ。今日はホーンラビットをいっぱい狩ったんだ。タケルが持って帰ってくるからそうしたら夕食の材料にでもしてもらえないかなぁ? 全部換金するのは勿体無くて」
「ああいいよ。ホーンラビットならシチューがいいかねぇ?」
「うん。お願い。他のお客さんに出してもいいからさ」
「それはありがたいねえ。じゃぁちょっと腕によりをかけるかね」
「ありがとう。楽しみにしてるね」




