双聖のエミル。
きゃー!
と、悲鳴が上がる。
ざわざわと人の声が上がる中、当の美少女は人混みをぬってこちらに出てこようとしていた。
ああ。このこ、普通の人間じゃ、無い。
でも、魔族とも違う?
まさか、天神族?
天に住む龍神の系譜に連なる天神族。あたしもその名前くらいしか知らないけど、大昔に魔族の長とやりあって空に逃げた、って聞いてる。
今更そんなのが地上に降りてきたっていうの?
人垣をぬけ、ひょこっと顔を出したその子。
キョロキョロっと辺りを見渡し、ふうとため息をついた。
そのまま走り去ろうとしたところを思わずその腕を掴んでしまったあたし。
「ねえ、あんた、ダントさんに何をしたの?」
そう、ちょっとだけ早口に尋ねる。
「何? あなたあのおじさんの知り合い? 大丈夫よちょっと一瞬意識を断ち切っただけ。すぐに気がつくわ」
「本当? 殺しちゃったりしてないよね?」
「疑り深いなぁ。あのおじさんがあんまりしつこいからいけないのよ。大丈夫よ。軽い電撃を喰らわせただけだから」
「そっか。なら良いけど」
「って言うか、わかったらこの手を離してくれる? わたし、あんまり騒ぎになるのは嫌なのよ。それに、モタモタしてたらおじさん目を覚ましちゃう」
「んー。ならさ、ちょっとあたしたちに付き合ってくれない? 聞きたいことがあるのよ」
「何? あ、ふーん。あなた、ううん、あなたたち、普通の人間じゃないわね?」
え?
「まあいいわ。面白そうだし。あのおじさんにナンパされるのはちょっと嫌だったけど、あなただったらついていっても良いわよ?」
「じゃぁ、ついてきて」
「あ、シズカ。ホーンラビットは僕が換金しとく。君はその人連れてさきに宿に戻って」
「あ、ごめんタケル。お願い」
タケルは二人分の荷物をよっこらと担ぎそろそろまばらになった人ごみをぬっていく。
あたしは天神族かもしれない美少女の腕を掴んだまま、宿に向け歩き出した。
「もう、逃げないからさ、もう少し手のチカラ緩めてくれていい? ちょっと痛いわ」
「あ、ごめん」
くすくすと笑みをこぼすその美少女。
「あたしはシズカ、あんたは?」
「わたしはエミル。双聖のエミル、よ」
その白銀のふわふわな髪が風に靡く。
魔族とは違う聖なる気配、マナの匂いがする。
どちらかといったら爽やかな、それでも芯のあるそんな、不思議な色合いの彼女のオーラ。
あたしたちの事を普通の人間じゃないって言い切ったその目には、こちらはどんなふうに映っているんだろう。
それがすごく気になった。