リバーケイプの街。
この村ビーサイドからリバーケイプの街まで歩くとけっこうな距離がある。
あたしは空を飛んできたからそんなに時間がかからなかったけど、タケルにきてもらおうと思ったらちょっと遠いかな。
だから、ここはちょっとだけズルをする。
「おねがいタケル。ちょっとだけ目を瞑っててほしいの」
「え?」
「今からちょっとだけ秘密の魔法具を使うから、見られたくないのよ」
「そか。君がそういうのなら」
そう言って目をそっと閉じるタケル。
うん、かわいい。
よく見るとけっこう美形だよね。なんて変なことを考えながら彼の肩に手を置いて。
そのままレイスの奥底に潜る。
心の中にあるマナの手を、ぎゅっと伸ばしてリバーケイプの宿に残してあったあたしの残照を探って掴む。
そのままギュルンと空間をひっくり返すと。
ふふ。
あたしは自分の宿の部屋の一角に、タケルと共に立っていた。
これくらいならね? 造作もないんだけどさ。
でも流石にタケルに正直には話せない。
こんなことができるだなんて知られたくない。まだ、ね。
あたしが魔族だって知られて怖がられるのは、嫌。
ううん。
もしかしたら、タケルはそんな事を気にしないかもしれない。
そんな可能性だってないではない。
でも、怖いのだ。あたしは。
せっかくこうして仲良くなれたタケルに、化け物のような目で見られるのが、怖い。
臆病だよね。
「え、ここ、どこ?」
もう目を開けてもいいよとあたしが言った後の、タケルの第一声がこれだった。
「ここはリバーケイプの街よ。あたしが拠点にしてる宿」
驚き、キョロキョロと周囲を見渡して、笑顔になるタケル。
「すごいねー。一瞬でこんなところに来れるなんて。都会にはすごい魔法具があるんだねー」
「秘密よ? 昔潜ったダンジョンで偶然見つけたの。普段は逃げる時にしか使わないけど、いわばあたしの生き残るための切り札? みたいなものだから」
「うん、内緒にする。他の人に知られて取られちゃったら困るもんね?」
嘘、だけど。素直に信じてくれたからまあヨシかな?
でも、こんな切り札があるってことにしておいた方が後々便利かなとも思ったから。
実力的に、どうしてもダメって思える危機の際、この力で逃げちゃったことにすればいいものね。
実際にはタケルだけ眠らせてあたしが実力でなんとかしたとしても、さ。
時間がもう遅いから冒険者ギルドに出向くのはまた明日にすることにして、あたしは宿の奥さんに、仲間が一人増えた事を伝えに行った。
借りてるのは一部屋でも、二人で泊まるなら二人分の料金がかかる。
それはまあしょうがない。黙って泊めるのは仁義に反するからね。
それでも、ふた部屋借りようと思ったらお値段ももっと高くなる。
一部屋にもう一個ベッドを入れて貰った方がまだお得なのだけど。
「ダメだよ。女の子と同じ部屋だなんて」
ってタケル。
そこのところは頑として承知してくれなかった。
あたしはそんな気にしないのに、な。
お金に余裕があるわけじゃないから一部屋で済まそうと思ったけれど、結局ふた部屋借りることになった。
それでもタケルの所持金だとせいぜい二日くらいしか泊まれない。
漁で獲った魔魚が魚籠に入ったままだったから、明日はそれをギルドで買い取ってもらおうねと、そう言って今夜は休むことにした。
ああ、夕ご飯はあたしの奢り。
食べなきゃ明日困るよ! って無理やり席につかせたあたし。
お料理をいくつか頼んで二人で分けていただいた。この宿は食事が安くて美味しいから好きなんだよね。
美味しそうに食べるタケルもかわいかったのはいうまでもないけど、ね。




