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もったいない。

 真っ赤に染まった海が一面に広がっている。

 夕陽は沈み、東の空にはそろそろと月が顔を出す頃合いだ。

 結局あたしは1日タケルに付き合って、漁をするところを見学させてもらった。

 こんな浅瀬じゃそんなにたいして採れるわけじゃないけど、それでも十数匹の魔魚をろくなしかけもなく素手で捕まえていく彼。

 まあ凶暴な魔魚はそこらの網は噛み切るし釣り糸なんか簡単にちぎる。

 一匹一匹確実に仕留めるには素手の方がいい?

 銛を手にして海に潜ってはいるけれど、それで突き刺したりもほとんどしない。

 あれは、魔法?

 手から発する衝撃波のようなもので気絶させ、回収している? そんな感じで。

 決して手際がいいわけでもない。ある程度魔魚に近づかなくてはその技も使えないようすで、おまけに一度に沢山の獲物も狙えない感じ。

 効率はいいわけじゃない、けれど。

 その分傷もない新鮮な魔魚が獲れる。

 頑丈な魚篭には生きた魔魚が十数匹。ビチビチと跳ねている。


「タケル、あたしとパーティーを組まない?」


 衝動的にそう声に出していた。同情? じゃない。この子が気に入ったから。

 それに。


「パーティーって」


「タケル。あなたはこのままじゃもったいないわ」


「え?」


「ちゃんとした装備と仲間がいたら、もっと遠洋でも活躍できるだけの技量もある。あなたが漁を続けたいのであればこうして嫌味を言われながら個人で漁をしているより、お金を稼いで漁労ギルドに加入したほうが良いと思うのよ」


 一日中働いてこの量。売値も聞いたけれどなんとか暮らしていける程度の稼ぎだ。

 これじゃたしかにギルドの負担金も貯まらない。


「でも、そんなお金」


「だからさ。あたしとパーティーを組んで地上で冒険者をしてみない? って話」


「やったこと、ないよ?」


「大丈夫大丈夫。あたしこれでもいろんなパーティーのポーター経験だけは豊富だから沢山の冒険者さんを見てきてるけど、あなたの技量なら充分冒険者としてやっていけるわ。多分今より実入は良いと思うのよ?」

(あたしもこっそり手を貸すしね)


 それに、ちょっと見てみたい。

 人にしてはタケルの体内の魔の含有量は飛び抜けている。

 きっと。

 ちょっと鍛えればそこらの魔人よりも強くなるかも?



 あああ、違うよ?

 強さを求めたいとかそんな物騒な事を考えてるわけじゃないよ?

 魔族の血が騒ぐ? ううん、そんなんじゃないもの。

 でも、彼はこのままじゃもったいない。

 そう思ったのは事実。

 もっとちゃんと強くなったタケルを見てみたい。

 そんな欲求に負け、ついついこんな提案をしてしまったあたし。


「うん。君と一緒なら、なんでもできる気がするよ」


 そう笑ったタケルの顔が、眩しくて、ちょっとかわいかった。

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