魔の海。
気持ちのいい潮風を体に受けて、ワンピースはたはたとはためいてる。
ここから見ると地上の人は砂つぶくらいにしか見えないから、きっとあたしもそんなに目立ってないよね?
そのまま海を目指してふわふわと飛ぶ。
そんなに急いで飛んでいるわけではないけれど、陽が昇り切る前には海につきたいな。そう思って。
あたしはこのまま魔王なんて役職についてていいんだろうか?
十二魔将の誰かに魔王になってもらった方がいいのでは?
それとも、シシノジョウに魔王として立ってもらえたらいいかも?
そんなことをうだうだ考えながら飛ぶと、海に到着していた。
眼下に見える波飛沫。
碧いその海の水面に飛び込む。
ひゃぁ。冷たくって気持ちがいい。
麻のワンピースはずぶ濡れだけど、そんなこと構うもんか。
少し頭を冷やした方がいいのかな。そう水に潜って考える。
きっと、今のあたしには少し時間が必要なのかもしれない。
イルカのようにふわりとジャンプして、また水面に飛び込む。
そんなことを数回繰り返したあと、あたしは砂浜に上がった。
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あれは、天使か?
それとも人魚?
タケルがいつものように海に着くと、そこには朝日を浴びキラキラと輝いた少女がいた。
海は、危険だ。
魔の溶け込んだ水が最終的にたどり着く場所、海。
碧いその水には濃度の高いマナや魔が飽和するまで溶け込んでいるためか、生き物はそこでは生活することが出来ない。
地上の森にも大気中のマナが濃くなった場所もあるにはあるが、それでもそれはこの海とは比較にはならないのだ。
そんな海に住む魔魚は淡水に住む魚とが比べ物にならないほどの魔をその体に取り込んでいるせいか、そのままその身を食べることはできない。
マナぬきをしないととてもじゃないけれど食用には適さなかった。
しかし。
マナや魔に満たされた状態の肉は上質な味に育っているのも事実。
マナぬきの手間はかかるけれど、その手間をかけてでもたとえ高価になったとしてもそれを買いたいというものは後を絶たなかった。
だからこそ、タケルのような特異体質な冒険者は重宝された。
通常の冒険者のレベルでは海で魔魚を獲ろうとするには危険すぎる。
過剰なマナは人の身には余る。
濃度の高いマナの中では人は生きられないのだから。
マナと魔は表裏一体。
元々同じ神の氣エーテルだ。
この空間を構成するのも人々の魂を構成するのも同じマナ。
ではあるけれど。
人であるその器では過ぎたマナは毒にもなる。
しかし。
タケルはそんな濃すぎるマナに触れても問題なく活動できた。
人からは特異体質だと言われたが、それでもそのせいで海での漁が楽にできるのだ。
他のものたちが大勢で重装備で臨まなければならない海に、単独で潜ることができる。
それが特異体質だと言うなら、それはタケルにとっては幸いなことで。
親から受け継いだそんな体質が、彼にとってはとてもありがたいものでもあったのだ。