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あたしの望み。

「お嬢! 待ってください!」


「シシノジョウ。あんたも元気でね。父さんをよろしくね」


「お嬢が出てったと知ったらおやっさん、どんなに悲しむか」


「もう嫌なの。あたしの中にある狂気が。このままここに居たらきっとあたしは真っ赤に染まっちゃう。父さんみたいには、なりたくないのよ」


 あたしにあんなにも優しい父さん。でも。何度も見ているあの惨劇。血に染まった父のあの狂気の果て。


 魔王としてはそれは正しいのかも知れない。


 襲いくる人間の群れをあっという間に屠り、そして血祭りにあげるあの凶行も、魔族を守る魔王であればそれが正しいと皆は思うだろう。


 魂の中奥深くに存在する真っ赤な魔の結晶は、その感情の昂りに比例して膨大な魔力を引き出す。


 あたしの心の奥底にもあるそれは、たぶん父から受け継いだ魔王の証なのだろう。


 でも。あたしは、嫌だ。


 心の中が憎しみや怒りに染まり、力が暴走するあの感触。


 狂気が快感に変わるあの。


 力の赴くまま周りを傷つけて、そしてそれを自分では止められなくなる、そんな瞬間が。


 たまらなく嫌なのだ。



 癇癪をおこした子供。


 結局あたしはそんな子供とどう違うのか。


 人ではなく獣。まるでそんな野生の獣のように理性をなくし暴れ回る自分が、嫌い。耐えられない。




 きっとこのままここにいればあたしの心はそんな狂気に染まってしまうだろう。


 だから。


 あたしは逃げるのだ。自分から、自分の境遇から。あたしの中の狂気から。


「ごめんねシシノジョウ。ごめんねみんな。ごめんね、父さん」


 そうしてあたしは魔王城から空間転移した。


 行き先はどこでも良かった。


 ただただ平穏に、平和に暮らしたい。それだけが望み。


 怒らない、憎まない、争わない。


 そんな感情があたしにとっては大敵だ。


 なるべくほんわかと生きていられたらな。そんな風に願って。



 ■■■■■■■■■■■



 チュン チュン


 小鳥の囀りが聞こえる気持ちのいい朝。


 あたしはぐーっと伸びをしてベッドから起きる。


 ああ、久しぶりに見たな。あの夢。



 こっそり城を出て行こうと思ったら魔王軍宰相を務めるシシノジョウに引き止められて。


 まあ結局振り切って出てきちゃったんだけど。


 シシノジョウは父、魔王を尊敬しててあたしのこともちっちゃい頃からずっと大事にしてくれてきた魔人。


 そんな彼に引き止められた時は後ろ髪引かれたけど。それでも。



 あたしは、静かに平和に過ごす方を選んだ。この人族の街で。

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