ナキゴト。
結局アキラカン公爵を王城に呼び出して話を聞くなんてこともできなかった。
御前会議の場ではっきりしたのはメンバーの中には明らかにアキラカン公爵に味方する者がいる、ということだろうか。
あたしが父ゼノンのマトリクスで彼らの前に立った時、一瞬その場が凍りつき。
そして。
あたしに父を見出した皆の見る目が変わったのは、わかった。
でも、そこまでだった。
結局あたしは父ではないのだと、そう落胆する表情も垣間見え。
歯痒かった。
あたしは別に魔王になりたいわけじゃない。
この国が平和でありさえすればそれで満足だしもしアキラカン公爵が魔王位につくことで良くなるのであればそれでもいい。
そんな風に感じていた。
だから、かな。
そんな気持ちが見透かされたのかもしれない。そうも思う。
父さんだったら、どう思ったのかな。
非情に徹し敵を排除してきた父、ゼノン・マックロード。
その狂気を、非道な行状を、あたしは嫌悪した。
でも。
力、だけではない何か、を。
十二魔将の皆や魔族の人々は父に感じていたのだろうか。あの父を見る瞳の奥にある憧憬を、あたしは子供の頃にも見た覚えがある。
ああ。
そんなの。そんなもの。あたしにどうしろというのだろう。
あたしは父の代わりにはなれない。たとえ見かけが同じだとしても、それでもそんなものなんの担保にもならない。
だとしたら?
だめ、だ。
こんな中途半端な気持ちじゃ。
こんな中途半端な覚悟じゃ、だめなんだよ。ねえシシノジョウ。あたしはどうすればいいの?
うつらうつらと夢から覚めるとそこは人族の街、リバーケイプ。
あたしが契約してる宿の寝床だった。
ああ。帰ってきてたんだったっけ。
ゴワゴワとした寝具、硬いベッド。
木枠の窓の外には朝日が昇りかけている。
部屋には特にこれといった荷物も無く、ベッドの他には作り付けのクローゼットがあるだけの質素な部屋。
ふふ。
そっか。そうだよね。今はここがあたしの部屋。あたしの生きている場所。
そんな風に妙に納得して、身を起こす。
ああ、もう。
夢に中までうじうじしちゃってあたしらしくない!
シシノジョウに泣きつく夢なんて、思い出すのも恥ずかしくって。
あたしは頭を振ってそのまま窓から外に飛び出した。
浮遊魔術でふんわりと浮き上がる。格好はねまきにしているずるっとした麻のワンピースのままだけど、まあいいよね?
こんな早朝、そこまで目立たないだろうし。
そのまま上空高く浮き上がると、朝日の方角に向かって飛ぶ。
ちょっと海でも見て頭を冷やそう。そう思って。